図解入門現場で役立つ溶接の知識と技術 (How‐nual Visual Text Book)




はじめに

「溶接」は、工業材料(多くは金属)をつなぐための優れた方法として、私たちの身の周りにある構造物や乗り物、製品の多くに適用されています。船や橋あるいは高層ビルなどの超大型構造物から家電や情報機器の電子部品など微細な製品まで、言い換えると“重厚長大”産業から“軽薄短小”産業の製品に至るまで、数えきれないくらい多くの製品に適用されています。溶接は、現代の製造分野では欠かせない重要な“ものづくりの基盤技術”とも言えます。

こうした溶接技術において、その品質は人(オペレータや施工管理技術者)に大きく左右されます。つまり、溶接技術は、すべての面において完全ではなく、一部には弱点(欠点)と言える部分もあり、溶接を施工する側(人)が、その優れた点を十分に活かし、欠点となる部分については上手にコントロールすることで溶接した後に、問題が発生しないように対応することが重要なのです。このことは、溶接の品質面に限られることではなく、溶接の効率性を求める場合についても言えることです。そのためには、正しい溶接の知識と、確実な溶接を実現するための技術と技能の習得が必要になります。

本書では、実際に溶接を行う際に考慮しなくてはならないポイントについて、ぜひとも知っていただきたい事柄を中心にまとめてみました。溶接は知れば知るほど、実際にやればやるほど「奥が深い」と感じられることと思います。本書によって、溶接に対する興味がいっそう増し、さらに広く、深く学ぶためのきっかけとなることを願っています。

最後に、執筆の機会を下さいました、ものつくり大学教授の日向輝彦先生、撮影に協力していただきました職業能力開発総合大学校著者研究室所属の学生・有村昌樹君、本田貴士君、南義明君、新谷孝政君、そして貴重な写真や資料を提供して下さいました関係各社の方々に心からお礼を申し上げます。

2012年3月著者

目次

はじめに

Chapter 1 溶接って何だろう?
1-1 金属をつなぐ方法の仲間たち
1-2溶接の基本的メカニズム
1-3 溶接法の仲間とその特徴
コラム “From 機械的接合to溶接”の成功事例
1-4 利用価値の高いアーク溶接
コラム えっ! アークで切断? プラズマ切断はすごい!

Chapter2 溶接ができる人になるためには
2-1 安全衛生の特別教育を受ける
コラム 特別教育は、必ず受講しなければならないの?
コラム 違反した場合の罰則規定は?
2-2 溶接の弱点を知ろう
コラム 「ひずみ取り」という仕事
コラム 「溶接欠陥」と「溶接不具合」
コラム 溶接部の非破壊検査
2-3 要求品質の把握と溶接法の選択
2-4 材料を知ろう
コラム 溶接工学は、境界領域の学問
2-5読図から段取り作業へ。
コラム これから溶接記号を学ばれる方へ
2-6 溶接技能の習得
コラム 熟練工いわく『センサは、いらん!』
コラムOffJTに公共職業訓練施設を活用しよう!

chapter 3 いろいろなアーク溶接法
3-1 被覆アーク溶接法
コラム お勧め! ティグ溶接電源を活用しよう!
3-2 マグ溶接法
3-3 ティグ溶接法
コラム 様々な呼び方がある「ティグ溶接」
コラム 既存設備を活かした高付加価値ティグ溶接法の一例
3-4 ミグ溶接法
コラム アルミニウムのミグ溶接の技能訓練にこんな裏技が

Chapter 4 知っておきたい溶接施工の予備知識
4-1 知っておきたい溶接継手
4-2 知っておきたい溶接材料
コラム 無断で自動電撃防止装置の機能を失わせてはいけません!
4-3 知っておきたい溶接機器
コラム 長さだけではない! ケーブルによる電圧降下の話
4-4 溶接に失敗した時は
コラム 熱的はつり法によるスカーフィング加工について
コラム 作動ガスに圧縮エアを使用すれば

Chapter 5 溶接作業の勘どころ
5-1 被覆アーク溶接作業
コラム 定電流特性電源の存在も忘れずに
コラム 被覆アーク溶接棒の溶接電流範囲
コラム ユニークな訓練課題
5-2 炭酸ガスアーク溶接作業
コラム マグ溶接用ワイヤの溶接電流範囲
5-3 ティグ溶接作業
コラム 純タングステン電極に溶融突起物が
コラム 拘束ジグの初期温度にも気を配ろう!

Chapter 6 各種金属の溶接施工のワンポイント
6-1 鉄(鋼)の溶接 コラム 鋼材表面の黒皮は不純物
6-2 ステンレス鋼の溶接
コラム 炭素鋼とステンレス鋼の異材溶接
6-3 アルミニウム(合金)の溶接
コラム 他にもあるアルミニウムのティグ溶接機能
コラム 実験計画法のススメ

巻末資料
溶接資格のご案内
索引
参考文献

本書では、JIS溶接技能者評価試験の基本級種目である下記の種目に相当する課題に関し、作業などの要領について解説しています。
突合せ溶接(N-2F相当) /突合せ溶接(SN-2F相当) /ステンレス鋼の突合せ溶接(TN-F相当) /アルミニウムの突合せ溶接 (TN-1F相当)