知的財産管理技能検定 3級公式テキスト[改訂10版]




はじめに

本書は、厚生労働大臣指定試験機関である一般財団法人知的財産研究教育財団の一部門である知的財産教育協会が編集した『知的財産管理技能検定3級公式テキスト』です。

知的財産管理技能検定3級は、学生・社会人を問わず誰もが必ず身につけておきたい知的財産管理の初歩的な知識と技能が問われる試験です。3級を取得することで、知的財産に関する日常生活に役立つ知識を身につけられるだけでなく、業務において直面する知的財産に関する出来事に対応できる基礎的な知識も身につけることができます。

そこで、当協会では、これから知的財産の学習を始めようという方や、3級の受検のために勉強を始めた方を対象とした本書を制作しました。WIPO(世界知的所有権機構)が提供する“Worldwide Academy/Distance LearningのDL-001 Primer on Intellectual Property” (https://welc.wipo.int/acc/index.jsf?page=courseCatalog.xhtml)にも準拠しているので、知的財産に関する基礎知識が身につけられるとともに、グローバルに必要とされている知識が身につけられる内容となっています。

2008年5月に初版を発行して以来、本書は3級を受検する方を中心に多くの方にご活用いただきましたが、このたび2019年1月までの法改正に対応した第10版を出版する運びとなりました。

グローバルな視点で今後の我が国の発展に貢献する人材が、本書や知的財産管理技能検定を利用してより多く育つことを祈念しています。

2019年2月 知的財産教育協会

※知的財産管理技能検定の試験問題は、「試験科目及びその範囲」に基づいて、検定職種について専門的な技能、技術または学識経験を有する者のうちから選任された技能検定委員から構成される技能検定委員会によって作成されています。試験の公正を図るために、その内容は検定実施当日まで当該委員以外のいかなる第三者に対しても開示されることはありません。本書は、技能検定委員会とは完全に分離独立している教育担当部門が、「試験科目及びその範囲の細目」(P.013参照)と実施済みの過去問題を分析し、編集したものです。

知的財産教育協会 (編集)
アップロード、出典:出版社HP

目次

はじめに
本書の活用方法
知的財産管理技能検定とは
知的財産管理技能検定3級とは

Introduction
知的財産とは

特許法・実用新案法

1 特許法の目的と保護対象
①特許法の目的
②保護対象

2 特許要件
①特許要件とは
②産業上利用できる発明であること
③新しい発明であること(新規性)
④容易に思いつく発明ではないこと(進歩性)
⑤先に出願されていないこと(先願主義)

3 特許出願の手続き
①特許を受けることができる者
②特許出願
③国内優先権

4 特許出願後の手続き
①出願公開
②出願審査請求
③実体審査
④拒絶理由通知
⑤特許査定と拒絶査定

5 特許権の管理と活用
①特許権の発生
②特許権の存続期間
③特許権の活用

6 特許権の侵害と救済
①特許権の効力
②特許権侵害を発見した場合の対応(特許権者側)
③特許権侵害であると警告された場合の対応(実施者側)

7 実用新案法
①実用新案法
②実用新案法と特許法の違い

Column1 特許、意匠、商標の相違点

意匠法

8 意匠法の保護対象と登録要件
①意匠とは
②保護対象
③意匠登録の要件

9 意匠登録を受けるための手続き
①意匠登録出願
②審査の流れ
③特殊な意匠登録出願

10 意匠権の管理と活用
①意匠権の発生と存続期間
②意匠権の活用

11 意匠権の侵害と救済
①意匠権の効力
②意匠権侵害を発見した場合の対応(意匠権者側)
③意匠権侵害であると警告された場合の対応(実施者側)

Column 2 デザインを保護する法律

商標法

12 商標法の保護対象と登録要件
①商標とは
②保護対象
③商標登録の要件

Column 3 団体商標登録制度、地域団体商標登録制度と地理的表示保護制度

13 商標登録を受けるための手続き
①商標登録出願
②審査の流れ

14 商標権の管理と活用
①商標権の発生と存続期間
②商標権の活用
③商標権の管理

15 商標権の侵害と救済
①商標権の効力
②商標権侵害を発見した場合の対応(商標権者側)
③商標権侵害であると警告された場合の対応(実施者側)

Column 4 商標と商号の関係

条約

16 パリ条約
①パリ条約とは
②パリ条約の三大原則

17 特許協力条約(PCT)
①特許協力条約(PCT) とは
②PCT 出願の流れ
③PCT 出願のメリット

18その他の条約
①TRIPS 協定
②マドリッド協定議定書
③ハーグ協定
④特許法条約(PLT)
⑤ベルヌ条約
⑥商標法に関するシンガポール条約(STLT)

Column 5 知的財産に関わる条約

著作権法

19著作権法の目的と著作物
①著作権法の目的
②著作物とは
③著作物の例示
④その他の著作物
⑤保護対象とならない著作物

20 著作者
①著作者とは
②共同著作
③職務著作(法人著作)
④映画の著作物

21 著作者人格権
①著作者の権利
②著作者人格権とは

22 著作(財産)権
①著作(財産)権とは
②著作権の発生と存続期間
③著作権の移転と譲渡
④出版権

23 著作権の制限
①著作権の制限規定

24 著作隣接権
①著作隣接権とは
②著作隣接権の発生と消滅

25 著作権の侵害と救済
①著作権侵害とは
②登録制度
③著作権侵害に対する救済

Column6 肖像権とパブリシティ権

その他の知的財産に関する法律

26 不正競争防止法
①不正競争とは
②なぜ不正競争行為は禁止されるのか
③不正競争行為の類型
④不正競争行為への対応

27民法
①民法と契約
②契約の有効要件
③契約内容が実行されない場合の措置

28 独占禁止法
①独占禁止法とは
②禁止される行為
③知的財産権法と独占禁止法の関係
④独占禁止法の運用

29 種苗法
①種苗法の目的と保護対象
②保護方法
③品種登録要件
④出願手続
⑤育成者権の効力とその制限

30 弁理士法
①弁理士法の使命
②弁理士の業務

知的財産教育協会 (編集)
アップロード、出典:出版社HP

本書の活用方法

知的財産を初めて学ぶ方へ
本書を利用するにあたって、身の回りにある知的財産に関連する物事を思い浮かべながら、まず一度通読することをおすすめします。最初はよくわからない箇所もあるかと思われますが、細かい点にとらわれず、とにかく最後まで読んでみましょう。知的財産法という分野には複数の法律が含まれていますが、どれも人の頭から産み出された成果物を保護している点においては共通しています。はじめに知的財産制度全体を概観し、それぞれの法律が、どのような目的で、どのような知的成果物を保護しようとしているのかを把握することが大切です。各法律を大まかに知ることができれば、それぞれの違いもわかります。

本書の構成
本書の特徴と、効率的な学習方法を紹介します。

(1)「事例とQuestion」「Lesson」「正解と解説」の3部構成
本書は、日々の業務や生活で接する機会の多い身近にある出来事をベースとした知的財産関連の事例を扱っている「事例とQuestion」、「事例」で取り上げた内容についての法律知識を解説する「Lesson」、学習成果とQuestionの正解を確認できる「正解と解説」の3部構成になっており、法律ごとに全6章・30項目から構成されています。「事例とQuestion」→「Lesson」→「正解と解説」と進めることによって、知識をより深く理解し、着実に習得できるようになっています。本書で学習を進めることで、身近にある出来事に対処するための知識や技能を身につけることができます。

(2)身近にある出来事をベースとした「事例とQuestion」
「事例とQuestion」では、日々の業務や生活で接する機会の多い身近にある出来事を題材とした知的財産関連の事例をベースとしています。場面を想像しやすい事例から入ることで、後の「Lesson」で解説されている知的財産に関する法律や知識をより理解しやすくしています。

 

(3) 法律ごとの6章に分け、知識を解説した「Lesson」
本書は、法律ごとに全6章・30項目に分けた構成にし、それぞれの項目について「Lesson」で知的財産に関する法律や知識を細かく解説しています。重要な用語は赤字にしており、また、わかりやすさを追求し、図表も多数掲載していますので、学習を進めやすい仕様となっています。

 

(4)「Lesson」での学習成果と「Question」の正解確認のための「正解と解説」
「Lesson」で学習した成果と「Question」の正解確認のための「正解と解説」を掲載しています。一つひとつの選択肢について詳細に解説していますので、「Lesson」で学習した成果を確認でき、知識を定着することができます。

【各法律の表記について】
本文中に出てくる各法律の略称については、下記のとおり表記しています。
特許法 → 特 パリ条約 → パリ 不正競争防止法 → 不競
実用新案法 → 実 特許協力条約 → PCT  民法 → 民
意匠法 → 意 TRIPS協定 → TRIPS 独占禁止法 → 独
商標法 → 商 特許法条約 → PLT 種苗法 → 種
著作権法 → 著 商標法に関するシンガポール条約 → STLT
(例)特許法第29条第1項第1号 → 特29条1項1号

*本書の法令基準日は2019年1月1日現在施行されているものとします。

知的財産教育協会 (編集)
アップロード、出典:出版社HP

知的財産管理技能検定とは

(1)知的財産管理技能検定とは
「知的財産管理技能検定」は、技能検定制度の下で実施されている、「知的財産管理」職種にかかる国家試験です。知的財産教育協会が2004年より実施してきた「知的財産検定」が全面的に移行したもので、2008年7月に第1回検定が実施されました。

「知的財産管理」職種とは、知的財産(著作物、発明、意匠、商標、営業秘密等)の創造、保護または活用を目的として、自己または所属する企業・団体等のために業務を行う職種であり、具体的には、リスクマネジメントに加え、創造段階における開発戦略、マーケティング等、また保護段階における戦略、手続管理等、また活用段階におけるライセンス契約、侵害品排除等のマネジメントを行う職種です。

本検定は、これらの技能およびこれに関する知識の程度を測る試験です。

試驗名称:知的財産管理技能検定
試験形態:国家試験(名称独占資格)・技能検定
試験等級:一級知的財産管理技能士(特許専門業務)
一級知的財産管理技能士(コンテンツ専門業務)
一級知的財産管理技能士(ブランド専門業務)
二級知的財産管理技能士(管理業務)
三級知的財産管理技能士(管理業務)
試験形式:学科試験・実技試験
指定試験機関:一般財団法人知的財産研究教育財団 知的財産教育協会
知的財産管理技能検定HP:www.kentei-info-ip-edu.org/

技能検定とは
技能検定とは、働くうえで身につける、または必要とされる技能の習得レベルを評価する国家検定制度で、「知的財産管理技能検定」は、「知的財産管理」職種にかかる検定試験です。試験に合格すると合格証書が交付され、「技能士」と名乗ることができます。

厚生労働省:技能検定制度について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/nouryoku/ginoukentei/index.html

(2)各級のレベル
1級:知的財産管理の職種における上級の技能者が通常有すべき技能及びこれに関する知識の程度(知的財産管理に関する業務上の課題の発見と解決を主導することができる技能及びこれに関する専門的な知識の程度)を基準とする。
2級:知的財産管理の職種における中級の技能者が通常有すべき技能及びこれに関する知識の程度(知的財産管理に関する業務上の課題を発見し、大企業においては知的財産管理の技能及び知識を有する上司の指導の下で又、中小・ベンチャー企業においては外部専門家等と連携して、その課題を解決でき、一部は自律的に解決できる技能及びこれに関する基本的な知識の程度)を基準とする。
3級:知的財産管理の職種における初級の技能者が通常有すべき技能及びこれに関する知識の程度(知的財産管理に関する業務上の課題を発見し、大企業においては知的財産管理の技能及び知識を有する上司の指導の下で、又、中小・ベンチャー企業においては外部専門家等と連携して、その課題を解決することができる技能及びこれに関する初歩的な知識の程度)を基準とする。

(3)試験形式
*一部に3肢択一も含む

等級・試験種 試験形式 問題数 制限時間 受検手数料
1級学科試験 筆記試験(マークシート方式4肢択一式*) 45問 100分 8,900円
1級実技試験 筆記試験と口頭試問 5問 約30分 23,000円
2級学科試験 筆記試験(マークシート方式4肢択一式*) 40問 60分 7,500円
2級実技試験 筆記試験(記述方式) 40問 60分 7,500円
3級学科試験 筆記試験(マークシート方式3肢択一式) 30問 45分 5,500円
3級実技試験 筆記試験(記述方式) 30問 45分 5,500円

(4)法令基準日
知的財産管理技能検定の解答にあたっては、問題文に特に断りがない場合、試験日の6カ月前の月の1日現在で施行されている法令等に基づくものとされています。

知的財産教育協会 (編集)
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知的財産管理技能検定3級とは

「知的財産管理技能検定3級」(以下、3級)は、知的財産管理技能検定のうち、知的財産に関する業務に従事している者または従事しようとしている者を対象とした入門的な検定試験です。

なお、3級合格に必要な技能およびこれに関する知識の程度は、以下のように定められています。

3級:知的財産管理の職種における初級の技能者が通常有すべき技能及びこれに関する知識の程度(知的財産管理に関する業務上の課題を発見し、大企業においては知的財産管理の技能及び知識を有する上司の指導の下で、又、中小・ベンチャー企業においては外部専門家等と連携して、その課題を解決することができる技能及びこれに関する初歩的な知識の程度)を基準とする。

知的財産管理技能検定3級 試験概要

学科試験 実技試験
試験形式 筆記試験
(マークシート方式)3肢択一式
筆記試験
(記述方式)
問題数 30問 30問
制限時間 45分 45分
受検手数料 5,500円 5,500円

知的財產管理技能検定3級 試験範囲

学科試験 実技試験
試験科目及びその範囲の細目 試験科目及びその範囲の細目
1保護(競争力のデザイン)
1-1 ブランド保護
ブランド保護に関し、初歩的な知識を有すること。1-2 技術保護
I 国内特許権利化に関し、初歩的な知識を有する
こと。
II 外国特許権利化に関し、次に掲げる事項につい
て初歩的な知識を有すること。
(1) パリ条約を利用した外国出願手続
(2) 国際出願手続
III 品種登録申請に関して初歩的な知識を有すること。1-3 コンテンツ保護
コンテンツ保護に関し、初歩的な知識を有すること。1-4 デザイン保護
デザイン保護に関し、初歩的な知識を有すること。
1 保護(競争力のデザイン)
1-1 ブランド保護
ブランド保護に関し、業務上の課題を発見し、上司の
指導の下で又は外部専門家等と連携して、その課題を
解決することができること。1-2 技術保護
I 国内特許権利化に関し、業務上の課題を発見し、
上司の指導の下で又は外部専門家等と連携して、
その課題を解決することができること。
II 外国特許権利化に関し、次に掲げる事項につい
て業務上の課題を発見し、上司の指導の下で又
は外部専門家等と連携して、その課題を解決する
ことができること。
(1) パリ条約を利用した外国出願手続
(2) 国際出願手続
品種登録申請に関し、業務上の課題を発見し、
上司の指導の下で又は外部専門家等と連携して、
その課題を解決することができること。1-3 コンテンツ保護
コンテンツ保護に関し、業務上の課題を発見し、上
司の指導の下で又は外部専門家等と連携して、その課
題を解決することができること。1-4 デザイン保護
デザイン保護に関し、業務上の課題を発見し、上司
の指導の下で又は外部専門家等と連携して、その課題
を解決することができること。
2 活用
2-1 契約
契約に関し、次に掲げる事項について初歩的な知識
を有すること。
(1) 知的財産関連契約
(2) 著作権の権利処理2-2 エンフォースメント
エンフォースメントに関し、次に掲げる事項につい
て初歩的な知識を有すること。
(1) 知的財産権侵害の判定
(2) 国内知的財産関連訴訟
2 活用
2-1 契約
契約に関し、次に掲げる事項について業務上の課題
を発見し、上司の指導の下で又は外部専門家等と連携
して、その課題を解決することができること。
(1) 知的財産関連契約
(2) 著作権の権利処理
2-2 エンフォースメント
エンフォースメントに関し、次に掲げる事項につい
て業務上の課題を発見し、上司の指導の下で又は外
部専門家等と連携して、その課題を解決することがで
きること。
(1) 知的財産権侵害の判定
(2) 国内知的財産関連訴訟(当事者系審決等取消訴
訟を含む)
3 関係法規
次に掲げる関係法規に関し、知的財産に関連する事
項について初歩的な知識を有すること。
(1) 特許法
(2) 実用新案法
(3) 意匠法
(4) 商標法
(5) 不正競争防止法
(6) 独占禁止法
(7) 著作権法
(8) 種苗法
(9) 特定農林水産物等の名称の保護に関する法律
(10) パリ条約
(11) 特許協力条約
(12) TRIPS 協定
(13) マドリッド協定議定書
(14) ハーグ協定
(15) ベルヌ条約
(16) 商標法に関するシンガポール条約
(17) 特許法条約
(18) 弁理士法

※本書の検定情報は、2019年2月現在の知的財産管理技能検定のウェブサイト情報に基づいて執筆したものです。最新の情報は下記ウェブサイトをご確認ください。

知的財産管理技能検定ウェブサイト
http://www.kentei-info-ip-edu.org/

知的財産教育協会 (編集)
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Introduction 知的財産とは

1.知的財産とは

「知的財産って何だろう?」一。
新聞やニュースで取り上げられる機会が多いので、この答えを知っている、と思うかもしれません。研究者の発明や作家の書いた小説、アーティストが作曲した音楽などを思い起こす人も少なくないでしょう。

苦労して新しいものを生み出した場合、多くの人が何らかの形でその成果に対して利益を得たいと考えます。また、創作者の権利を無視して、創造されたものを真似してはいけないということも、大半の人が知っています。

人間が頭の中で考え、創作したものを具現化した商品などを買うときには、たいていその対価の一部は、創造や思考に費やされた労力や努力への報酬として使われています。音楽やゲーム、新薬など、創出を促進する仕組みは、長年にわたって人類の発展に大きく貢献してきているのです。

では、もう少し「知的財産」について掘り下げてみましょう。

このテキストでは、さまざまな種類の知的財産や、知的財産に関係する法律や条約の基礎的な部分について説明していきますが、その前にまずは「知的財産」という言葉について少し考えてみます。

財産とは、簡単にいえば、「経済的な価値のある対象」といえます。したがって、「知的財産」という言葉は、人が頭で考えた創造の成果のうち、経済的な価値のある対象ということを表しています。

また、財産権とは、このような「経済的な利益などを対象とする権利」といえます。財産権が有する主な特徴として、権利者は自分の財産を希望通りに用いることができ、第三者の使用を排除できる、という点が挙げられます。

したがって、知的財産権とは、「人が頭で考えた創造の成果のうち、経済的な利益などを対象とする権利」ということができるでしょう。

2.知的財産に関する法律

知的財産に関する法律は多数あり、それをいくつかに分類して、総称することができます。

知的財産に関する法律

※本テキストにおいては解説しません。

知的財産法とは、一般的に「最も広い範囲の知的財産に関係する法律の総称」といえます。

知的財産権法とは、「知的財産の保護にあたり、特許権や著作権など一定の権利を付与する法律の総称」です。

産業財産権法とは、特に産業に関係の深い「特許法、実用新案法、意匠法、商標法の4法の総称」です。「工業所有権法」と呼ばれることもります。

それぞれの法律の保護対象を、表にまとめました。

知的財産と保護対象

法律 保護対象
特許法 技術に関する「アイデア」(発明)
実用新案法 物品の形状、構造等の「考案」
意匠法 工業的な物品の「デザイン」(意匠)
商標法 商品やサービスに使用する「マーク」(商標)
著作権法 文芸、美術、音楽等の創作的な「表現」(著作物)
種苗法 植物の「新品種」
不正競争防止法 商品等表示、商品形態、営業秘密等
独占禁止法 私的独占、不当な取引制限、不公正な取引方法 ※ この項のみ保護対象ではなく禁止事項

知的財産権のうち、産業財産権が、私たちの身の回りの製品においてどのように関係しているのかがよくわかるイラストが、特許庁のホームペー ジに掲載されています。

出典:特許庁ホームページ「産業財産権について」
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/seido/s_gaiyou/chizai01.htm

3.なぜ、知的財産が注目されているのか

人を傷つける行為をすれば刑法上の問題となることは、なかば常識といえます。とはいえ、大学の法学部にでも入学しない限り、改めて刑法の講義を聴く機会はあまりないでしょう。

ところが、ここ数年、知的財産に関する書籍やレクチャーをよく見かはるようになりました。改めて刑法を学ぶ人はまれであるのに、なぜ“今”、知的財産法は勉強されているのでしょうか。

その答えは、知的財産の重要性が最近クローズアップされているけれど、まだ知らない人が多いからだと推測できます。

これまで、知的財産制度は、メーカーや一部の専門家などとしか関わりがないと考えられてきました。しかし、日本が今後も経済発展を維持しようとするには知的財産が不可欠であるため、にわかに脚光を浴びるようになったのです。資源の乏しい日本は、原料を輸入し、安く優秀な製品にし(価値を付加し)たうえで輸出して外貨を稼ぎ、これまで経済発展を続けてきました。原料を製品へ加工する過程で生まれる工夫こそが、“知的財産”だといえます。

ところが近年、例えばアジア諸国のように、日本以外の国々も技術力を向上させています。今までは技術的・資金的な問題などから、その工夫の中身がわかったとしても真似できなかったものが、工夫さえ知られれば容易に真似されてしまう可能性が出てきたのです。

工夫こそが日本の発展の基盤であったはずなのに、これが無断で利用されてしまったのでは、日本は今後、経済をどうやって展開させればよいのか、となってしまいます。

「なぜ“今”、知的財産が問題となるのか」といえば、このような理由よります。

次に、「なぜ知的財産が問題となり、なぜ保護されなければならないのか」という点について考えてみましょう。

まず第1は、人が頭を使って創造することに要した労力や努力に対して、その努力は報われるべきである、という理由です。

第2の理由としては、知的創造が保護されて金銭的・名誉的に報われることを人々が知れば、もっと知的な創造がさかんになり、これらの新たな創造によりその国に利益がもたらされるからです。

製薬産業を例にとって考えてみましょう。新薬が市場に出るまでには、長年にわたる投資と研究開発費が必要とされます。作り出した薬が知的財産権により保護されずに、競合他社を排除できないとしたら、誰がこのような時間、お金、労力を費やして薬を改良しようと思うでしょうか。特許法による保護を受けられないのであれば、その製品は競合他社に真似され、開発に要した多大な投資を回収できないおそれがあります。そうなれば、製薬会社は新薬を開発しなくなるかもしれません。

このように、知的財産法による保護は重要だといえます。

特許は、技術分野における飛躍的な進歩を保護対象にすると考えられがちですが、小さな技術的進歩であっても、特許法の要件を満たせば、保護対象となることに変わりはありません。確かに、ペニシリンの発明のように、その技術分野における偉大な発明は特許を受けることができるでしょう。他方で、ある産業機械の動作性能を向上させるような、機械の小さなレバーに関する発明であっても、特許の可能性はあるのです。

知的財産教育協会 (編集)
アップロード、出典:出版社HP