アクチュアリー試験 合格へのストラテジー 年金数理
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監修者のことば
本書は、アクチュアリー受験研究会がシリーズで取り組まれてきた「アクチュアリー試験合格へのストラテジー」の第4冊目になります。これで基礎科目のうち数学系4科目の書籍が揃ったことになります。
小生がアクチュアリー試験を受験し始めた昭和63年当時は、日本アクチュアリー会が実施する講座および教科書が受験のためのほぼ唯一の教材であり、あとは所属法人の先輩からの指導に頼っていました。その意味では、実質的には保険会社や信託銀行に就職して初めて受験が開始できる状況であったと思います。
30年を経過した今、参考書籍の増加、過去問の公開、大学でのアクチュアリー関連講義の普及など、以前に比べてアクチュアリー試験受験の門戸は相当程度開かれ、専門職としての認知度の向上に見合ったものとなってきたと思います。これはアクチュアリー講座や大学での講義などでアクチュアリー教育に長く携わった者として大変感慨深いものがあります。
本書および本シリーズは、このように整いつつあるアクチュアリー教育コンテンツの中でも独特のポジションを持った書籍だと思います。それは、一つには「実際の受験者の経験に基づいて作られていること」であり、もう一つは「多数の問題や学習プランなどを収録した実践的な本であること」です。これは他のコンテンツにはあまりないもので、まさに「(既存の)教科書とアクチュアリー試験のギャップを埋める書籍」というコンセプトに沿って構成・執筆を行っています。
また、「年金数理」という科目に関しては、生保数理と似ている部分が多く、理論的な面ではさほど難しいわけではありませんが、企業年金の実務経験がない受験生からすると、企業年金制度への理解不足や生保数理との微妙な相違などがあるために、学習に苦労された面があるのではないかと思います。執筆者の一人である北村さんは企業年金の実務経験がなく、こうしたご経験を踏まえて執筆されていますので、同じような境遇の方には参考になるところが多いと思います。特に、「生保数理と年金数理の違い」や「試験問 題文の読み方」といった部分は、小生自身も教鞭をとる際に強く意識しており、本書においてもこれらの部分の充実には配慮したつもりです。
本書が、アクチュアリー試験受験を志す多くの方々にとって力強い「道しるべ」となること、そして多くの優秀な方々がアクチュアリーの仲間に加わっていただけることを期待しております。
2020年5月 枇杷高志
推薦のことば
年金実務に携わっていないと年金数理は合格しにくい科目なのか。本書はそんな定説を覆すことを目的に執筆された一冊です。
本書のメインの執筆者である北村さんは年金実務に携わったことがありません。本書は、年金実務に関与したことがない人の視点で執筆された数少ない年金数理の本です。実務を知らない人が感じる素朴な疑問について、本書では随所に解説がなされています。試験問題を作成する年金数理の専門家と、年金実務を知らない受験生のギャップを埋める本とも言えます。年金数理に関する本はいくつか出版されていますが、実務経験のない北村さんが執筆している点が、他の書籍と大きく異なる点です。
では、内容が不十分なのか、ご安心ください。本書は、年金実務を担当する若手、中堅、シニアな方の十分なチェックと助言を反映しています。北村さんの素朴な疑問を年金実務の専門家が丁寧に解説することで、初学者にもわかりやすい内容となっています。例えば、第4章の理論編の人員分布と定常人口の説明は、教科書でも十分に説明できていない理論的な説明がコンパクトにまとめられています。年金数理の教科書および過去問では埋めることができていない行間を、受験生の目線で補完することを目的に生まれたのが本書です。これは、非実務家と実務家の対話を通じて生まれたものです。
アクチュアリー試験の1次試験は全部で5科目あり、年金数理はその一つです。保険業務を行っている人も、リスク管理を行っている人もデータ解析を行っている人も、年金数理に合格しなければ、準会員そして正会員になることはできません。年金数理に用いられている数理的な理論は他の科目よりもシンプルなものが多いにもかかわらず、実務的な知識がないと問題文の解釈に苦労することから、5科目の中でも難関科目の一つとされています。業務と関係ない年金数理をなぜ勉強しないといけないのか、と思ったことのある受験生もいると思います。
でも、考えてみてください。受験生も、受験生の家族も、いずれ年を取り、引退します。そして、年金受給者として、年金のお世話になる時期が来ます。自分自身の老後を考えるとき、そして家族の老後を考えるとき、年金に関する知識はきっと役に立つはずです。年金数理は、人々の老後を支える重要なインフラである年金の理論的な根拠を与える重要な学問でもあります。
しかしながら、世の中にある年金に関する情報は、不安を煽るものが多く、必ずしも正しいものばかりではありません。年金数理を勉強することで、正しい情報の見極めに必要な数理的な知識を身に付けることができます。年金数理の勉強は、正会員になるための要件というだけではなく、万人がかかわることになる年金という社会を支えるシステムについて、専門的な教養を学べる貴重な機会でもあります。
本書を通じて年金数理を勉強することで、効率的な年金数理の学習につながると確信しています。将来、本書および本書のシリーズを勉強して合格した正会員の方と、アクチュアリー関連の対外的なボランティア活動をご一緒できることを楽しみにしています。
2020年5月 藤澤陽介
はじめに
おかげさまで、「アクチュアリー試験合格へのストラテジー」シリーズも第4作となりました。「数学」出版以来、多くの皆様にご評価・応援いただき大変ありがたいと思っております。
アクチュアリー試験の1次試験5科目のうち、最難関かもと思われる科目の一つが「年金数理」です。その証拠と言えるのが合格基準点の切り下げです。合格基準点が60点のままでは合格者が少なすぎるということでそれを切り下げる、ということですが、「年金数理」においては、ここ10年のうちに、2度も起こっています。教科書の知識だけでどうすれば問題が解けるのか、これまで受験生は過去問を中心に手探りで模索していくのみでした。
この悩みを解決すべく、アクチュアリー受験研究会で開催する勉強会に集まったメンバーで、学習を進めつつ参考書を作ってしまおう、というプロジェクトがありました。その過程で生まれたのが『例題で学ぶ年金数理(仮)』という資料です。メインの作者はRGA再保険の北村慶一さんです。
本書は、『例題で学ぶ年金数理(仮)』をベースとして大幅に加筆したものです。北村さんの熱い情熱なくしては『合格へのストラテジー年金数理』のプロジェクト自体スタートすらしなかったと思います。北村さんには、過去のシリーズすべてにおいて重要なサポートをしていただき、特に今回、長い時間と労力と情熱をかけ、本書制作に大いに貢献いただきました。
また、企業年金制度の実務家の視点と受験生をつなぐ共著者として、りそな銀行の年金アクチュアリーである車谷優樹さんにも参加いただきました。彼自身、後輩などに年金数理を教えており、有効な解法や公式、理解の仕方を世に出したい、と思っていたこともあり、本書が世に出るにあたり素晴しいアイディア・記述を加えていただき、車谷さんなくしては本書の完成はありえなかったと思います。ありがとうございました。
また、本シリーズの企画に携わっていただいた岩沢宏和さんには、本書の内容にもさまざまな助言をいただきました。その知見は深く鋭く、たとえば、ほとんどの学習者が見落としている重大な事柄を指摘していただくなど、何度も目から鱗が落ちました。深く感謝いたします。監修は、年金数理人の枇杷高志さんにお願いし、快く引き受けてくださいました。企業年金に長く携わり、自らも講師として年金数理を教えられている経験をもとに、チェックを含め、様々なアドバイスをいただくなど、大いに助けていただきました。お忙しい中、誠にありがとうございました。
また、早稲田大学で年金数理の講師をされているスイス再保険の藤澤陽介さん、明治安田生命の荒井昭さんからは講師目線での貴重な助言、アドバイスをいただきました。そして、三菱UFJ信託銀行の田中野乃さん、みずほ信託銀行の有田勇貴さん、京都大学大学院の山本周平さんには、全体的な数値・記述チェックなどを含めて大いに協力いただきました。本書のベースとなった『例題で学ぶ年金数理(仮)』で問題抽出に貢献いただいた第一生命の仲田至さんにも感謝しています。
本書制作チームとしては、企業年金になじみのない受験生、初学者でもスムーズに理解を進められるよう、勉強のパートナーとして最適な受験ガイダンス兼参考書を目指して、取り組んできました。本書、教科書の理解とともに過去問演習を重ねることで合格を目指せるような過去に類がない一冊が出来上がったと思います。
最後に東京図書の清水さんには、本書の編集・出版に今回も大変助けていただきました。4作ものシリーズを世に出していただいた情熱と多大なるご努力に感謝申し上げます。
2020年5月
アクチュアリー受験研究会代表 MAH
目次
監修者のことば
推薦のことば
はじめに
第I部 アクチュアリー試験「年金数理」受験ガイダンス
第1章 アクチュアリー試験「年金数理」概要
1.1 年金数理以前~年金数理は何をやるのか~
1.2 試験範囲について
1.3 [教科書]について
1.4 試験の形式と試験時間からの考察
1.5 アクチュアリー試験「年金数理」の沿革
1.6 過去問分析
第2章 アクチュアリー試験「年金数理」攻略法
2.1 まずは生保数理から
2.2 初学者にとってどんな試験か
2.3 1年間のスケジュール
2.4 基礎固め
2.5 過去問への取り組み
2.6 正誤問題対策
2.7 教科書問題対策
2.8 問題文の読み方
第Ⅱ部 アクチュアリー試験「年金数理」必須公式集
第3章 基礎編
3.1 利息の計算
3.2 生命表および生命関数
3.3 年金現価
3.4連生年金と多重脱退
Tea Time a\x <a_exiを直感的に解釈すると
第4章 理論編
4.1 昇給率
4.2 人員分布と定常人口
4.3 定常状態と極限方程式
4.4 Trowbridgeモデル
4.5 財政方式の定常状態における財政方式の分類
4.6 財政計画の違いによる財政方式の分類
4.7 年金財政の検証
4.8 ファクラーの公式とティーレの公式
第5章 実務編
5.1 企業年金における給付設計
5.2 企業年金に係る年金数理
5.3 年金制度の財政運営の流れ
5.4 財政計算
5.5 財政決算
第Ⅲ部 アクチュアリー試験「年金数理」必須問題集
第6章 基礎編
6.1 年金現価
6.2 連生年金と多重脱退
第7章 理論編
7.1 昇給率
7.2 人員分布と定常人口
7.3 定常状態と極限方程式
7.4 財政方式の定常状態における財政方式
7.5 財政計画の違いによる財政方式の分類
7.6 年金財政の検証
7.7 正誤問題
第8章 実務編
8.1 企業年金における給付設計
8.2 企業年金に係る年金数理
8.3 年金制度の合併・分割
8.4 財政計算と財政決算
付録A 年金数理のための数学基礎公式集
A.1 2次方程式の解
A.2 数列
A.3重要関数
A.4 微分積分
A.5 テーラー展開
A.6 確率の基本公式
A.7 不等式
付録B 特論・v^n-l_x平面を使いこなす
B.1 導入
B.2 07-1 平面上の操作
B.3 図を用いた種々の公式の解釈
付録C 財政方式の比較
C.1 個人ごとに「収支相等」が図られる財政方式
C.2 到達年齢方式(個人型・総合型)の違い
参考文献
索引