外国人雇用管理士 公式テキスト (2020年1月スタートの新資格試験)
日本の労働力の現状と 外国人雇用に対する 原則的な考え方
労働力人口とは、満15歳以上で労働する意思と能力を持った人の数を指します。日本の労働力人口は、2000年頃に6700万人程でしたが今後、徐々に減少していき2030年頃には6300万人程になるといわれています。
そうしたなかで政府は、日本国内の労働力人口の不足を補うために外国人労働者の受け入れを拡大してきました。厚生労働省が公表した「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(平成30年10月末現在)」によると外国人労働者数は約146万人で、2007(平成19)年に届出が義務化されて以降、過去最高を更新しています。この数値からもわかるように外国人労働者が日本の労働力を補っている一方で問題も生じています。
①外国人労働者をめぐる労働問題
2017年に厚生労働省が実施した「技能実習生の実習実施者に対して行った監督指導や送検等の状況」に関する調査では、都道府県労働局や労働基準監督署等が監督指導を実施した5,966事業場のうち、約7割にあたる4,226事業場でなんらかの労働関係法令違反が認められました。
主な違反事項は
労働経済の基礎的資料
労働力人口の推移
参照:厚生労働省「外国人雇用管理指針の主な改正内容」
(1) 労働時間(26.2%)
(2)使用する機械に対して講ずべき措置などの安全基準 (19.7%)
(3)割増賃金の支払い(15.8%)
参照:厚生労働省「外国人技能実習生の実習実施者に対する平成29年の監督指導、送検等の状況」
このように違法な時間外労働や割増賃金の未払い、安全衛生関係 の対応の未実施など労働関係法令の違反が後を絶ちません。
②外国人労働者への労働関係法令の適用
日本国内で就業する場合には、その国籍にかかわらず労働関係法令や労働保険、社会保険法令は当然に適用されます。とくに労働時間や賃金については、日本人労働者と差別することなく職務に応じた適切な労働条件の確保が求められており、最低賃金についても当然のことながら順守する必要があります。
一方で入管法による就労時間の制限や社会保険関係法令などでの一部において、日本人労働者と異なる取り扱いが生じる場合があります。たとえば、外国人労働者を雇い入れたときに労働施策総合推進法に基づきハローワークへ届け出る「外国人雇用状況の届出」や短期の就労期間で帰国する外国人労働者に対して年金保険料の一部を払い戻す「脱退一時金制度」等があります。企業の人事労務担当者等は、このような日本人労働者と外国人労働者の相違点を把握しておく必要があるでしょう。
③外国人雇用管理指針
厚生労働省は、事業主が外国人労働者に対して適切な人事・労務管理を実施し、安心して働くことができる職場環境を整備するために「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年厚生労働省告示第276号)を公表しています。
さらに2020年4月には、「外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議」の第3回会議(2018[平成30]年12月25日開催)において了承された「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」において、外国人との共生社会の実現に向けた環境整備が必要との方針が示されたこと等を踏まえて、外国人雇用管理指針の改正が行われました。
今後、企業が外国人労働者を雇用していく際には、この「改正外国人雇用管理指針」の内容を踏まえて適切な人事・労務管理を実施していくことが重要です。
外国人雇用管理指針の主な改正内容
募集・採用
違約金、保証金の徴収等を行う職業紹介事業者等からあっせんを受けないこと
労働条件の変更明示等を母国語や平易な日本語等により外国人労働者が理解できるように行うこと
労働条件・安全衛生等
●労働条件の明示
モデル様式の活用、母国語や平易な日本語等での説明
●適正な賃金の支払い
最低賃金額以上の賃金を支払うこと
基本給、割増賃金等の賃金について適正に支払うこと
労使協定に基づき食費、居住費等の控除を行う場合、不当な控除額にならないようにすること強制貯金の禁止
●適正な労働時間等の管理
時間外・休日労働の上限規制の順守
労働時間の状況の客観的方法での把握
年次有給休暇の付与
●関係法令等の周知
就業規則、労使協定の周知
●事業の附属寄宿舎の適正化
●雇用形態又は就業形態に関わらない公正な待遇の確保
正社員と非正規社員との間の不合理な待遇差や差別的取り扱いの禁止
待遇差の内容・理由等の説明義務
●安全衛生の確保
長時間労働者に対する面接指導
ストレスチェック
母性保護に関する措置の実施
●解雇・雇い止め
解雇・雇い止めが認められない場合があることに留意すること
解雇制限期間があることに留意すること
妊娠・出産等を理由とした解雇等の禁止
労働保険・社会保険
●労働保険
労災保険手続について、本人や家族等からの相談に応じること
暫定任意適用事業所における、労働者の希望に応じた加入の申請
●社会保険
離職時の健保の被保険者証の回収と国保・国年の加入手続の周知
健保・厚年の適用事業所以外の事業所での、国保・国年への加入支援
脱退一時金についての留意事項
傷病手当金や障害年金についての周知
人事管理・生活支援等
●人事管理
社内規定等の多言語化
評価・賃金決定、配置等の人事管理に関する運用の透明性・公正性の確保
●生活支援
地域社会での行事や活動に参加する機会を設けるよう務めること
行政機関、医療機関、金融機関等に関する情報提供等。安心して日常生活を営むための支援
●苦情・相談体制の整備
●帰国等の援助
帰国費用を支弁できない場合の援助
一時帰国を希望する場合の休暇取得への配慮
●多様性への配慮
請負を行う事業主に関する事項
業務を行う事業所内における適切な管理 安定的な雇用関係の確保
在留資格に応じた措置
●特定技能について
雇用契約の基準、支援・届出等の義務に留意すること
●留学生について
新卒採用等にあたり、在留資格変更が必要であることに留意すること
インターシップの適正な運用
アルバイト等については資格外活動の許可の範囲内で就労させること
参照:厚生労働省「外国人雇用管理指針の主な改正内容」
外国人雇用の現状と今後の見通し
内閣府の統計によると、わが国における外国人労働者の数は年々増加傾向にあります。2008年当時の約48万人から2016年のわずか8年で100万人を超え、以降毎年およそ20万人ずつ増加しています。
さらに、2019年4月より新たな在留資格「特定技能」が創設され、これまで認めていなかった業務にも広く外国人労働者の就労が認められることとなりました。このように、わが国での外国人労働者への門戸はますます開かれています。
表1 外国人労働者数の推移
図表1.外国人労働者数の推移
年 | 外国人労働者数(人) | 増減(人) | 対前年(%) |
2008 | 486,398 | ||
2009 | 562,818 | 76,420 | 115.7 |
2010 | 649,879 | 87,061 | 115.5 |
2011 | 686,177 | 36,298 | 105.6 |
2012 | 682,431 | -3,746 | 99.5 |
2013 | 717.472 | 35,041 | 105.1 |
2014 | 787,588 | 70,116 | 109.8 |
2015 | 907,860 | 120,272 | 115.3 |
2016 | 1,083,720 | 175,860 | 119.4 |
2017 | 1,278,614 | 194,894 | 118 |
2018 | 1,460,463 | 181,849 | 114.2 |
外国人就労者数の推移
出典:厚生労働省「外国人雇用状況の届出状況(平成30年10月末現在)」
わが国に3カ月を超えて滞在する外国人には、活動内容に応じて「在留資格」が与えられます。外国人は、この在留資格の範囲内で滞在が許可されます。
外国人就労者は、大きく「身分に基づく在留資格」「資格外活動」「技能実習 「特定活動」「専門的・技術的分野の在留資格」に分かれます。
割合で最も多い「身分に基づく在留資格」は、「永住者」「定住者」などがあり、就労の制限がほとんどないのが特徴です。
「資格外活動」は、留学生や、すでに日本に在留する外国人の家族が行う活動で、就労の制限はほとんどありませんが、週28時間(留学生が休暇期間中に従事する場合は週40時間)という制限があります。
「技能実習」は、ある特定の業種に従事するための在留資格で、それ以外の業種に就くことは認められません。
「専門的・技術的分野の在留資格」は、あらかじめ法令によって定められた基準に合致する業務のみが認められるもので、一般的に高度な知識や技能を要求する在留資格です。また、外国人就労者本人の学歴や職歴にも要件を設けており、審査が厳しい在留資格といえます(在留資格については、第6章でのより詳細な内容を学習します)。
2008年時点では「身分に基づく在留資格」が全就労者数のおよそ半数を占めていましたが、留学生や技能実習生が増加したこと、日本企業が積極的に海外の高度な人材を採用するようになったことなどを背景に、今日ではさまざまな在留資格を持つ外国人がわが国で働いています。
少子高齢社会を迎えた今、日本社会における外国人労働力はますます重要となります。外国人労働者は「出入国管理および難民認定法」に基づき、さまざまな法令の制限を受けます。そのため、雇用主が正しい知識のもと適切な在留環境を整えることが非常に重要です。
外国人雇用管理士 試験概要
図表2.試験概要
試驗形式 | 択一試験 (50問4肢択一) マークシート方式 2時間 |
試験日時/受験会場 | 年2回実施予定 |
申込受付期間 | 最新の予定はこちらをご覧ください https://togairou.or.jp/shiken/ |
受験会場 | 札幌・東京・大阪・福岡(全4試験地予定) |
合格発表 | 詳細が決まり次第お知らせいたします。 |
受験料 | 9,900円(予定) |
合格証明書の発送 | 合格者には合格証明書を交付致します。 |
登録及び 登録証の交付 |
試験合格後、東京都外国人就労認定機構へ外国人雇用管理士として登録し、講習会を受講していただきます。登録講習受講後、登録証の交付を受けることができます。 |
試験の合格効力 | 試験の合格の効力は2年間とします。合格後2年以内に登録しない場合は失効します。 |
登録の欠格事項 | 次のいずれか一つに該当する方は、登録することはできません。 ・成年被後見人または、被保佐人。 ・禁固以上の刑に処され、刑の執行が完了または刑の執行を受けることがなくなった日から5年を経過していない方。 ・破産者で復権を得ていない方。 |
登録料 | 39,800円(予定) ※登録講習受講料、登録証交付手数料を含みます。 |
登録申請書類 | 登録申請に必要な書類は機構指定の登録申請書と次の書類です。 ・自動車運転免許証 ・運転経歴証明書(交付年月日が平成24 年4月1日以降のものに限る。) ・健康保険、国民健康保険または船員保険等の被保険者証 ・登録申請日より3ケ月以内に発行された住民票(コピー不可・本人のみの記載可。) (*いずれか1点。氏名の記載があり、か つ、郵便物・荷物を受け取る際に有効なものに限る。) 写真 縦4.5cm×横3.5cm(パスポートサイズ) 1枚 |
「外国人雇用管理士」 登録証の有効期限 |
有効期限は交付日より2年間です。 更新は更新期限半年前より指定の更新講習を受講後、新たな登録証を交付します。 |
当社団や試験についてご不明点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
info@togairou.or.jp
『外国人雇用管理士 公式テキスト』 目次
はじめに
日本の労働力の現状と外国人雇用に対する原則的な考え方
外国人雇用の現状と今後の見通し
外国人雇用管理士 試験概要
1 募集および採用
外国人労働者の求人募集時の注意点
採用時の手続き(労働保険)
採用時の手続き(社会保険)
採用時の在留資格の確認
採用後の届出
2 労働条件の決定と通知
労働条件通知書の作成
労働時間と時間外労働
休憩
休日・休暇
賃金
在留資格に応じた労働条件の確保
3 外国人労働者の安全衛生と健康確保
4 社会保障
社会保障協定とは
年金制度の脱退一時金
5 適切な人事・労務管理と福利厚生
日本国における生活指導
帰国時の支援
6 在留資格の種類と取得手続き
在留資格の種類
在留資格取得の手続き
在留資格の更新・変更
7 労働契約の終了
退職
解雇
再就職の支援
退職時の手続き
8 不法就労
不法就労助長罪
9 異文化理解
外国人スタッフとの コミュニケーションの取り方
日本人スタッフと外国人スタッフの指導法の違い
国籍別の特徴
参考資料
一般社団法人東京都外国人就労認定機構の活動目的