改正入管法対応 外国人材受入れガイドブック




はしがき

1日1日より「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が施行され、新しい出入国管理及び難民認定法(入管法)での外国人材の受け入れが開始された。今後、日本では少子高齢化を背景に、産業を担う働き手が不足することが予想されている。今回の入管法改正も、この深刻な働き手不足が背景にある。この「働き手不足」の一つの対応策が「外国人材の受け入れ」なのだと思う。

「働き手不足」という問題は、一朝一夕では解決できる問題ではない。そのため今後、日本では「外国人材の受け入れ」は増加することが容易に予想できる。

本書は、「外国人材の受け入れ」に関係する企業や団体の担当者、専門家等に、制度の骨子を簡潔にお伝えすることを目的に執筆したものである。しかし、このような大役が浅学非才の私に務まるものではなく、本書の中でも至らぬ点が多くあるものと思う。

そのような身でありながら本書を執筆したのは、私自身が2015年6月から2017 年8月までベトナム・ハノイで「外国人材」として勤務したことがきっかけで ある。私はこの2年2ヶ月の間、ベトナムの国立大学で大学教員として勤務した。赴任当初はベトナム語を全く話すことができずに、非常に心細い思いをした。そのとき、家を借りるための内覧、携帯電話の契約、銀行口座の開設等に同行してくれた同僚や教え子には今でも感謝しているし、とても心強かった。

このような同僚や教え子が私にしてくれた支援は、改正入管法の特定技能制 度の中でも重なる部分がある。本書を通じて、自分が「外国人材」のときに受けた恩を、日本で「外国人材」として働く人に返すことができれば、望外の喜びである。

本書の執筆にあたり、株式会社ぎょうせいの担当者のみなさんに大変お世話になった。あらためて感謝申し上げる。

最後に、休日を一緒に過ごすことができないことに文句を言わずに本書の執筆に専念させてくれた妻、長男(5歳)そして長女(3歳)にもお礼を言いたい。自分の子供たちが働く世代となったときに、日本の社会が本当に多様な人材を受け入れることができる社会になっていることを期待する。

2019年4月
弁護士 杉田昌平

杉田 昌平 (著)
出版社: ぎょうせい (2019/5/10)、出典:出版社HP

凡例

本文中に用いた法令等は、次の略語を用いた。

入管法 出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)
改正入管法 「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」(平成30年法律第102号)
入管法施行規則 出入国管理及び難民認定法施行規則(昭和56年法務省令第54号)
技能実習法 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(平成28年法律第89号)
技能実習法施行規則 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律施行規則(平成28年法務省・厚生労働省令第3号)
上陸許可基準 出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の基準を定める省令(平成2年法務省令第16号)
変更基準省令 出入国管理及び難民認定法第二十条の二第二項の基準を定める省令(平成21年法務省令第51号)
高度専門職省令 出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の高度専門職の項の下欄の基準を定める省令(平成26年法務省令第37号)
特定技能基準省令 特定技能雇用契約及び1号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令(平成31年法務省令第5号)
分野省令 出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の特定技能の項の下欄に規定する産業上の分野等を定める省令(平成31年法務省令第6号)
特定活動告示 出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の規定に基づき同法別表第一の五の表の下欄に掲げる活動を定める件(平成2年法務省告示第131号)
高度人材告示 出入国管理及び難民認定法第七条第一項第二号の規定に基づき高度人材外国人等に係る同法別表第一の五の表の下欄に掲げる活動を定める件(平成24年法務省告示第126号)
基本方針 特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針(平成30年12月25日閣議決定)
分野別運用方針 特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針(平成30年12月25日閣議決定)
分野別運用要領 特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針に係る運用要領(平成30年12月25日)
総合的対応策 外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(平成30年12月25日)
技能実習運用要領 技能実習制度運用要領(平成30年6月版)
特定技能運用要領 特定技能外国人受入れに関する連用要領(平成31年3月版)
審査要領 入国·在留審査要領 (法務省入国管理局)

杉田 昌平 (著)
出版社: ぎょうせい (2019/5/10)、出典:出版社HP

目次

第1 はじめに
1 入管法の改正
2 外国人の状況
3 外国人材の状況
4 外国人材の受け入れにあたって

第2 外国人材受入れ制度の変更と背景
1 少子高齢化と人材不足
2 政府での検討
3 改正入管法のスタート

第3 外国人材受入れに関する法令
1 はじめに
2 出入国に関連する重要法令
3 労働関係・社会保険関係法令
4 法の執行や摘発の状況
(1) 現状
(2) 刑事罰
(3) 行政処分
ア 改正入管法での権限の強化 /イ 技能実習法に基づく処分
(4) 今後の対応

第4 外国人材受入れのポイント
1 在留資格制度概説
2 在留資格に関する手続
(1) 海外にいる外国人材を受け入れる方法
(2) 日本にいる外国人材を受け入れる方法
3 外国人材の受け入れと在留資格
(1) 高度専門職(1号・2号)
ア 在留資格の活動内容 /イ 在留資格の該当基準 /ウ 在留期間と更新 /エ 在留資格の特徴 /オ立証資料
(2) 技術・人文知識・国際業務
ア 在留資格の活動内容 /イ 在留資格の該当基準 /ウ 在留期間と更新 /エ 在留資格の特徴 /オ立証資料
(3) 特定活動
ア在留資格の活動内容について /イ 在留資格の該当基準 /ウ 在留期間と更新 /在留資格の特徴
(4) 技能実習
ア 技能実習制度 /イ 在留資格の活動内容 /ウ 在留資格の該当基準 /エ 在留期間と更新 /オ 在留資格の特徴 /カ 提出書類
(5) 特定技能
ア 特定技能制度 /イ 在留資格の活動内容 /ウ 在留資格の該当基準 /エ 在留期間と更新 /オ 在留資格の特徴 /カ 立証資料

第5 外国人材と労働法令・労働慣行
1 外国人材と労働関係・社会保険関係法令
(1) 労働関係・社会保険関係法令の適用
(2) 外国人特有の論点
ア 適用法について /イ 社会保障について条約が締結された国であるか/ウ 法令以外のガイドラインについて
(3) 外国人材と労働関係・社会保険関係法令
ア 雇入時 /イ 在職中 /ウ 退職時
2 外国人材と届出
3 外国人材と労働慣行
4 外国人材の受入れ体制の整備

第6 外国人材とコンプライアンス
1 点検としてのデューデリジェンス
2 確認すべき資料
3 リスクのレビューとヒアリング
4 調査報告書を活用した受入れ体制の整備

第7 共生社会に向けて
1 労働力としてではなく人としての受け入れ
2 総合的対応策
(1) 総合的対応策関連予算
(2) 行政に期待される役割
(3) 企業に期待される役割
3 多様性と活力ある社会へ

〇移行対象表一覧
〇関係資料一覧
〇参考資料

杉田 昌平 (著)
出版社: ぎょうせい (2019/5/10)、出典:出版社HP

第1 はじめに

[ポイント] ・来日する外国人は増加し、過去最高となっている。
・日本で働く外国人材も増加し、過去最高となっている。

1 入管法の改正
2019年4月1日より、「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が施行され(同法附則1条)、新しい出入国管理及び難民認定法の適用が開始された。

改正入管法では、「特定技能1号」及び「特定技能2号」という在留資格が新たに設けられ、2019年4月から5年間で、約34万人の外国人(1)の労働者(以下「外国人材」という。)が「特定技能1号」の在留資格で、日本で活動する予定である。「特定技能1号」は、専門的・技術的分野として分類される在留資格とは異なり、産業の現場を支えてくれる外国人材のための在留資格である。この点で、改正入管法は、これまで、外国人材について専門的・技術的分野について受け入れてきた点を変更するもので、大きな制度変更であったと言える。

2 外国人の状況
2019年現在の日本では、日常生活において街中で外国人を見かけることが多くなっていると感じる方が多いのではないかと思う。その感覚は統計からも正しいと裏付けられている。次の表(図表1)は、日本に在留している外国人の人数の推移をまとめた表である(2)。

東日本大震災が発生した2011年及び翌年の2012年は減少したが、その後は増加の傾向が顕著である。そして、2018年6月末時点では、263万7,251人の外国人が在留しており、過去最高の数値となっている。

3 外国人材の状況
では、日本で就労している外国人材の人数はどうか。多くの方は、同様に日常生活の様々な場面で外国人材が活躍している場面を多く見るのではないかと思う。次の表は、日本で働く外国人材の人数の推移を示した表である(図表2)。


(1) 入管法2条2号にいう「日本国籍を有しない者」に同じ。
(2) 法務省入国管理局「平成30年6月末現在における在留外国人数について(速報値)」より作成。

杉田 昌平 (著)
出版社: ぎょうせい (2019/5/10)、出典:出版社HP