ステンレス鋼溶接技能者検定試験のおすすめ参考書・テキスト(独学勉強法/対策)




ステンレス鋼溶接技能者検定の概要

ステンレス鋼溶接技能者検定は「被覆アーク溶接」、「ティグ溶接」、「ガスシールドアーク溶接」の3区分があり、各区分が詳細に分類されて計24種類の技能者資格があります。基本給と専門級がありますが、基本級を合格することを条件に同時受験もすることができます。試験は学科と実技の両方があり、作業者のスキルはJIS規格を基準にして合格判定されます。

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ステンレス鋼溶接技能者検定試験の公式テキストは?

産報出版から公式テキストが出版されています。巻末には問題集も付属しているので、アウトプットもすることができます。専用の対策テキストを使用するのが、合格へ最も近い道のりです。

1.「新版JISステンレス鋼溶接受験の手引」(産報出版)

日本溶接協会出版委員会 (著)
出版社: 産報出版 (2017/6/1)、出典:amazon.co.jp

JIS Z 3821「ステンレス鋼溶接技術検定における試験方法及び判定基準」に基づいて実施されるステンレス鋼溶接技術検定の受験者のため、ステンレス鋼溶接の基本的な知識や作業方法、資格取得方法を説明した手引書。

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新版JISステンレス鋼溶接受験の手引―JIS Z 3821ステンレス鋼溶接技能者研修テキスト

まえがき

わが国におけるステンレス鋼の生産は,2004年をピークに減少に転じているものの中国に次いで,世界第二位の位置を占めている。ステンレス鋼の用途は,家庭用品をはじめ,化学装置,船舶,車両,食品加工機械,建築材料,原子力機器など多岐にわたり,わが国の産業の重要な部分を支えている。それらのステンレス鋼を使用した装置,構造物の製作には溶接施工が不可欠である。そのため,ステンレス協会では,1971年にステンレス鋼の溶接を行う溶接材能者の溶接技術検定制度を発足し,専門級としての資格を与えていた。しかし,(一社)日本溶接協会の溶接技能者要員認証制度の改正を機に,ステンレス鋼が普及してステンレス鋼のみの溶接技能者の存在が増えたことを考慮し,各種ステンレス鋼溶接専門級のうち,下向溶接姿勢を基本級として認める検定制度の改定が行われ現在に至っている。この間,「JISステンレス鋼溶接受験の手引」は,ステンレス協会編集の元で,ステンレス鋼に対する知識の普及と溶接技術・技能の向上のために,溶接技能者はもとより溶接技術者,研究者のための解説書として活用されており,すでに7版第9刷まで17回の重版を行っている。

このたび,ステンレス鋼の大幅なJIS規格改訂に伴い,同書の改訂が必要となり,また,編集作業を(一社)日本溶接協会が行う事になり,大幅な内容の見直し作業を行い,「新版JISステンレス鋼溶接受験の手引」として出版することになった。編集方針として,旧版で謳われている,ステンレス鋼溶接技能者・溶接技術者・研究者にも役に立つ内容にする事は,極力活かすものの,解説が難解すぎる内容や古い記述内容などの見直しを行った。第1章「ステンレス鋼の種類と性質」では,1.1節にステンレス鋼の溶接技能検定受験のための基礎知識を,12節に高度技術者・研究者にも役立つ内容を,と分けて解説した。

また,第3章「溶接機とその特性」では,本書のみでも溶接全般が理解できるように詳細に解説した。

最後に,本書の出版に当たり,編集方針から最終稿まで詳細に計画・検討.執筆いただいたワーキンググループの方々,編集作業に多大の労力を割いて頂いた,産報出版(株)の編集者,星野孝昌様並びに(一社)日本溶接協会の川添太郎様に心からお礼申し上げる。

平成29年6月
(一社)日本溶接協会
『新版 JIS ステンレス鋼溶接受験の手引』編集ワーキンググループ
主査 篠﨑 賢二(広島大学)
井上 裕滋(大阪大学)
岡﨑 司((株)タセト)
葛西 省五((株)クロセ)
金子 裕良(埼玉大学)
菅谷 裕司((一社)日本溶接協会)
山岡 弘人((株)IHI)

目次

第1部 JIS Z 3821 受験講座

1 ステンレス鋼の種類と性質
1.1 ステンレス鋼の基礎知識
1.1.1 ステンレス鋼とは
1.1.2 ステンレス鋼におけるCrとNiの役割
1.1.3 ステンレス鋼の分類
1.1.4 ステンレス鋼の物理的性質と機械的性質
1.2 ステンレス鋼の詳細
1.2.1 ステンレス鋼の歴史
1.2.2 ステンレス鋼の規格
1.2.3 ステンレス鋼の種類
1.2.4 ステンレス鋼の性質

2 ステンレス鋼の溶接
2.1 アーク溶接の概要
2.2 各種溶接法と溶接材料
2.2.1 被覆アーク溶接
2.2.2 炭酸ガスアーク溶接
2.2.3 ミグ溶接・マグ溶接
2.2.4 ティグ溶接
2.2.5 その他の溶接法

3 溶接機とその特性
3.1 電気の知識
3.1.1 電圧,電流,抵抗およびオームの法則
3.1.2 直流と交流
3.1.3 電力と力率
3.1.4 電流と電圧の測定
3.2 アーク現象の知識
3.2.1 アークの一般特性
3.2.2 溶接機の電源外部特性とアーク
3.3 溶接機の種類と特徴
3.3.1 被覆アーク溶接
3.3.2 炭酸ガスアーク・ミグ・マグ溶接
3.3.3 ティグ溶接
3.4 溶接機の取扱い
3.4.1 溶接機の設置と接続
3.4.2 溶接機の保守管理

4 溶接施工法
4.1 溶接記号
4.2 溶接継手設計上の注意
4.3 溶接施工
4.3.1 溶接作業前の準備
4.3.2 開先準備
4.3.3 溶接ジグの準備
4.3.4 タック溶接(仮付溶接)
4.3.5 溶接条件
4.3.6 本溶接
4.3.7 管の本溶接
4.3.8 溶接棒
4.3.9 溶接後の処理
4.4 溶接による変形と残留応力
4.4.1 溶接による変形の防止法
4.4.2 残留応力の除去法
4.5 溶接欠陥とその対策
4.5.1 ビード形状不良,のど厚不足,アンダカットおよびオーバラップ
4.5.2 ブローホールおよびピット
4.5.3 溶込不良,スラグ巻込みおよび融合不良
4.5.4 割れ
4.6 マルテンサイト系ステンレス鋼の溶接性と溶接施工法
4.6.1 溶接性
4.6.2 溶接材料の選択
4.6.3 溶接施工法と注意事項
4.7 フェライト系ステンレス鋼の溶接性と溶接施工法
4.7.1 溶接性
4.7.2 溶接材料の選択
4.7.3 溶接施工法と注意事項
4.8 オーステナイト系ステンレス鋼の溶接性と溶接施工法
4.8.1 溶接性
4.8.2 溶接材料の選択
4.8.3 溶接施工法と注意事項
4.9 オーステナイト・フェライト系ステンレス鋼(二相ステンレス鋼)の溶接
4.10 析出硬化系ステンレス鋼の溶接

5 炭素鋼との異種金属溶接
5.1 異種金属との溶接
5.2 炭素鋼との異材溶接
5.2.1 異材溶接の考え方
5.2.2 異材溶接における溶接材料
5.2.3 異材溶接施工法
5.3 ステンレスクラッド鋼の溶接
5.3.1 母材炭素鋼の溶接
5.3.2 合わせ材の溶接
5.3.3 溶接施工法
5.4 肉盛溶接
5.5 ライニング材の溶接

6 溶接部の試験と検査
6.1 概要
6.1.1 試験と検査
6.1.2 溶接部の試験
6.1.3 溶接部の検査
6.2 溶接部の欠陥
6.3 破壊試験
6.3.1 機械試験,
6.3.2 化学試験
6.3.3 組織試験
6.4 非破壊試験
6.4.1 表面欠陥検出のための非破壊試験
6.4.2 内部欠陥検出のための非破壊試験
6.4.3 その他

7障害とその防止対策
7.1 アーク溶接の障害とその防止対策
7.2 ヒューム・ガスによる障害とその防止対策
7.2.1 ヒューム・ガスによる障害
7.2.2 防止対策
7.3 アーク光による障害とその防止対策
7.3.1 アーク光による障害
7.3.2 防止対策
7.4 スパッタ・スラグ・アーク熱・騒音による障害とその防止対策
7.41 スパッタ・スラグ・アーク熱・騒音による障害
7.4.2 防止対策
7.5 火災・爆発とその防止対策
7.5.1 火災・爆発の概要
7.5.2 防止対策
7.6 電撃による障害とその防止対策
7.6.1 電撃の概要
7.6.2 防止対策
7.7 高周波による障害とその防止対策
7.8 その他の障害とその防止対策
7.8.1 溶接材料の取り扱い不良による障害とその防止対策
7.8.2 高圧ガス容器の取り扱い不良による障害とその防止対策

8 溶接用語

第2部 JIS Z 3821 演習問題

演習問題1 ステンレス鋼の種類と性質
演習問題2 ステンレス鋼の溶接
演習問題3 溶接機とその特性
演習問題4 溶接施工法
演習問題5 炭素鋼との異種金属溶接
演習問題6 溶接部の試験と検査
演習問題7 障害とその防止対策

第3部 JIS Z 3821 演習問題模範解答

1 ステンレス鋼の種類と性質●解答
2 ステンレス鋼の溶接・解答
3 溶接機とその特性●解答
4 ステンレス鋼の溶接性と溶接施工法●解答
5 炭素鋼との異種金属溶接●解答
6 溶接部の試験と検査●解答
7 障害とその防止対策

第4部 JIS Z 3821/WES 8221 受験ガイド

ステンレス鋼溶接技能者評価試験の受験ガイド
はじめに
1 資格の種類
2 評価試験の受験資格
3 評価試験の科目
4 実技試験の詳細
4.1 溶接姿勢
4.2 試験材料の形状・寸法
4.3 試験に使用する鋼材
4.4 試験に使用する溶接材料
4.5 試験に使用するガス
4.6 試験に使用する溶接機器
5 溶接上の注意
5.1 一般的注意事項
5.2 板の溶接の場合の注意事項
5.3 管の溶接の場合の注意事項
6 評価試験の判定方法
7 評価試験の合否判定基準
8 適格性証明書
9 資格の再評価
10 評価試験の区分
11 受験の手続

●溶接技能者認証のための評価試験受験申込先・問合先一覧

まえがき
目次
索引

ステンレス鋼の溶接

はしがき

ステンレス鋼は鉄鋼材料の一つである.

人類が鉄を使い始めたのは紀元前2500年頃からであるといわれている.鉄の使用は人類の文明に大きな変革をもたらし,現在でも金属材料の中の主役の地位を占めている.しかし,鉄の持つ最大の欠点は「さびる」ことであり,特に海洋国日本では高度成長時代に腐食による直接損失はGNPの約2%,間接損失を含めると4~5%にもなるといわれていた.

耐食性に優れた鋼が欲しいとの願いは古くからあったが,“ステンレス鋼”の歴史は意外に新しい.すなわち,ステンレス鋼の主要合金成分であるCrがフランスのVauquelinにより発見されたのが18世紀末であり,その後間をおいて1910年前後に13Cr系ステンレス鋼がイギリスのBrearleyにより,18Cr系ステンレス鋼がアメリカのHaynesとフランスのPortevinにより,18Cr-8Ni系ステンレス鋼がドイツのStraussにより発明され実用化が開始された.

わが国においては,1920年頃から研究が始まり,1926年に松永陽之助博士により13Cr系ステンレス鋼が作られた.続いて1933年頃に18Cr-8Ni系ステンレス鋼の生産が開始された.当時は主として軍需目的であったが,第2次世界大戦後は長い期間需要不振を続けたが,1962年頃から需要が伸びはじめ1970年には,アメリカを抜いて世界一の粗鋼生産国となり,現在もその地位を守り続けている.

ステンレス鋼の用途は家庭用品をはじめ,化学装置,船舶,車輌,自動車部品,食品加工機械,建築材料,原子力機器など多岐にわたり,わが国の産業の重要な部分を支えている.

これらのステンレス鋼を使用した装置・構造物の製作には溶接施工が不可欠であり,溶接技術もステンレス鋼の生産と相俟って大きな進歩発展をとげてきた.特に1971年にステンレス鋼の溶接技能検定制度が発足し,これと相呼応して同年「ステンレス鋼の溶接」初版を出版し,今日まで20刷を重ね幅広く多数の方々に御愛読いただいてきた.

ステンレス鋼は優れた耐食性を有する鋼材としてよく知られているが,決してオールマイティではなく材質的に神経質な材料である.たとえば硝酸のように酸化性の酸に優れた耐食性を示す18Cr-8Niステンレス鋼でも硫酸のような還元性の酸には十分な耐食性を発揮せず,Mo入りの18Cr-8Ni鋼やより高級なステンレス鋼を使用しなければならない.溶接部も母材と同等の性能を発揮させるためには,溶接棒の選定,溶接法や溶接条件の選定など留意しなければならない点が少なくない.

初版発行以来約28年経過し,ステンレス鋼や溶接材料,溶接法および溶接に関する学術・技術が大きく進歩した.この度,内容を大幅に改訂し,YAGレーザ溶接法やアブレイシブ切断法など最新の技術や学術的知見を盛り込んで改訂版を出すことにした.溶接技術者・研究者はもとより大学の学生諸君の参考書としてもお役に立てば幸いである.

本書を執筆するにあたり,もとより多数の文献のお世話になった.また一部には日本溶接協会化学機械溶接研究委員会,ステンレス協会溶接専門委員会の資料を借用させていただいた.それぞれ文献名をあげておいたが,ここにあらためて深甚なる謝意を表させていただく次第である.

平成11年8月
著者

向井 善彦 (著)
日刊工業新聞社

目次

1. スレンレス鋼の種類とその金属組織
1・1 ステンレス鋼の分類
1・2 マルテンサイト系ステンレス鋼
1・3 フェライト系ステンレス鋼
1・4 オーステナイト系ステンレス鋼
1・5 ステンレス鋼の加工と再結晶
1・6 ステンレス鋼の熱処理
1・6・1 マルテンサイト系ステンレス鋼
1・6・2 フェライト系ステンレス鋼
1・6・3 オーステナイト系ステンレス鋼
1・6・4 析出硬化型ステンレス鋼

2. ステンレス鋼の物理的・機械的特性
2・1 物理的性質
2・2 常温における機械的性質
2・3 高温における機械的性質
2・4 低温における機械的性質

3. ステンレス鋼の耐食性
3・1 腐食の基本的概念
3・2 腐食の種類とその試験法
3・3 全面腐食
3・4 孔食
3・5 粒界腐食
3・6 応力腐食割れ
3・6・1 実装置事故の現状
3・6・2 応力腐食割れを起こす環境条件
3・6・3 応力の効果
3・6・4 材料
3・6・5 クロム炭化物の粒界析出と割れの形態
3・6・6 冷間加工の影響

4. ステンレス鋼の溶接性
4・1 溶接性の定義と分類
4・2 工作に関する溶接性
4・2・1 溶接法の選択
4・2・2 溶接部の治金的特性
4・3 使用性能に関する溶接性
4・3・1 粒界腐食
4・3・2 応力腐食割れ
4・3・3 低温および高温における問題点

5. ステンレス鋼の溶接法
5・1 溶接方法の種類
5・1・1 被覆アーク溶接
5・1・2 ティグ(TIG)溶接
5・1・3 ミグ(MIG)・マグ(MAG)・炭酸ガスアーク溶接
5・1・4 セルフシールドアーク溶接
5・1・5 サブマージアーク溶接
5・1・6 プラズマ溶接
5・1・7 電子ビーム溶接
5・1・8 レーザ溶接
5・1・9 抵抗溶接
5・2 ステンレス鋼用溶接材料
5・2・1 ステンレス鋼被覆アーク溶接棒
5・2・2 ステンレス鋼の自動および半自動溶接用溶接材料
5・3 ステンレス鋼の溶接施工法
5・3・1 開先
5・3・2 治具および固定具
5・3・3 裏当て金
5・3・4 溶接棒の選定と溶接条件
5・3・5 予熱および後熱処理
5・3・6 その他の注意事項

6. クラッド鋼
6・1 クラッド鋼の製造
6・1・1 鋳造法
6・1・2 圧延法
6・1・3 溶接盛金法
6・1・4 ろう付け法
6・1・5 爆発圧着法
6・2 クラッド鋼の機械的性質
6・2・1 引張強さ
6・2・2 曲げ試験
6・2・3 接着力
6・3 クラッド鋼の熱処理に伴う諸問題
6・3・1 治金学的問題点
6・3・2 力学的問題点

7. クラッド鋼の溶接
7.1 クラッド鋼の溶接性
7・1・1 境界部の溶接
7・1・2 母材側の溶接
7・1・3 クラッド材側の溶接
7・2 クラッド鋼の溶接施工法
7・2・1 溶接棒
7・2・2 開先および溶接順序
7・2・3 溶接継手例
7.2.4 その他の注意事項

8. ライニング
8・1 ライニングの種類
8・2 プラグライニング
8・3 ストリップライニング
8・4 爆着ライニング
8・5 検査

9. 異種材の溶接
9・1 異種材溶接の意義と現状
9・2 異種材溶接部の治金的特性
9・2・1 溶着金属の希釈
9・2・2 遷移域のぜい化
9・2・3 熱処理による脱炭層と浸炭層の形成
9・3 異種材溶接部の使用性能
9・3・1 低温じん性
9・3・2 高温強さ
9・3・3 熱疲労破壊
9・4 異種材の溶接施工法
9・4・1 溶接棒の選定
9・4・2 溶接条件
9・4・3 溶接後の熱処理

10. ステンレス鋼のろう付け
10・1 ろう付けの分類
10・2 軟ろう付け
10・3 硬ろう付け
10・3・1 ろうの種類
10・3・2 溶剤と雰囲気
10・3・3 施工法
10・3・4 ろう付け後の処理と検査
10.4 耐熱ろう付け
10.5 ろう付け継手の強さ

11. ステンレス鋼の切断
11・1 イナートガスアーク切断
11・2 プラズマ・ジェット切断
11・3 レーザ切断
11・4 その他の切断法
索引

向井 善彦 (著)
日刊工業新聞社

ステンレス鋼の溶接 (溶接・接合選書)

「溶接・接合選書」の発行に当たって

溶接・接合技術は,電子機器から大型構造物に至る製造の基盤技術として,産業立国としてのわが国の発展に重要な役割を果たしている。溶接・接合技術は,いくつかの基礎工学の上に展開されており,近年の科学・技術の著しい進歩は,基礎理論をはじめとし,応用技術に大きく影響を与えている。この流れの中で,新しい学問的体系化と高度な先進技術の有機的結合による溶接・接合技術が進展し,それらの正しい理解と適用が必要となっている。

(社)日本溶接協会では,これまでも常に進歩する溶接・接合技術の体系化ならびに正しい適用を図るため,昭和30年に全20巻の「溶接叢書」を,昭和53年に全20巻の「溶接全書」を企画,ともに産報出版(株)から刊行し,各界から高い評価を得てきた。

しかし,内外の社会情勢の変革や,科学技術の進歩に対応した,この分野の新たな技術全集の編纂が望まれるに至り,同会技術図書編集委員会のもとに溶接・接合選書編集委員会を設置,全巻構成,內容,執筆分担等について検討を重ね,全15巻の「溶接・接合選書」を発行することとなった。

「溶接・接合選書」は,基幹系,プロセス系,材料系,力学系の4系列から成り,基幹系の第1巻「溶接・接合プロセスの基礎」はプロセス系各巻の基礎を,基幹系の第2巻「材料接合工学の基礎」は材料系各巻の基礎を,基幹系の第3巻「溶接力学の基礎」は力学系各巻の基礎を,それぞれ受け持つ構成とした。

また,プロセス系には「アーク溶接」「ビーム溶接」「抵抗溶接」「ろう付」「特殊材料・特殊接合法」「表面改質」の6巻を,材料系には「鉄鋼材料の溶接」「ステンレス鋼の溶接」「アルミニウム合金の溶接・接合」の3巻を,力学系には「数値溶接力学」「溶接・接合継手の強度」「溶接構造のCIMシステムと溶接変形・残留応力」の3巻を設けて,各分野について詳しく説明する。

なお,基幹系は,溶接・接合技術を学習しようとする学生や溶接・接合技術の知識を得ようとする専門外の研究者および技術者を,残る3系列は,溶接・接合技術の研究者および設計施工や検査等に従事する技術者を,それぞれ読者対象としている。

本文の執筆には,学界ならびに産業界から,各分野の第一線でご活躍の専門家が当たり,懇切に各々の学説,技術解説に筆を揮い,今日の溶接・接合技術の最も信頼できる指標が示されたと信じている。

現在の溶接・接合技術に関する参考書として,最高峰に位置付けられる「溶接・接合選書」は,幅広い層の関係者の,技術調査あるいは研究および実務に必要な支援材料として,また,より高い知識の習得に導く座右の書として,さらに溶接・接合技術の進歩に役立つものと期待している。

平成8年4月
溶接・接合選書編集委員会

西本 和俊 (著), 小川 和博 (著), 夏目 松吾 (著), 松本 長 (著)
産報出版

まえがき

ステンレス鋼は今日,家庭用品,建設設備,自動車・車両,エネルギー関連機器および航空宇宙などあらゆる産業分野での製品に広く用いられる重要な工業材料である。ステンレス鋼がこのような発展を遂げるまでには約1世紀の期間を要している。

すなわち,ステンレス鋼の開発は,19世紀末における鉄一クロム合金の金属学的研究に端を発しているが,現在の主要な鋼種であるオーステナイト系,マルテンサイト系およびフェライト系ステンレス鋼の母胎となる鋼種に関する実用特許が出されたのは,いずれも1900年代初期である。その後しばらくの間,クロム中の炭素量を下げる精錬技術が未発達であったため,生産量もわずかで用途は軍需用のごく限られものであった。しかしながら,第2次世界大戦以降,精錬および製鋼技術が急速に進歩し,ステンレス鋼の生産量も大幅に増加するとともに,品質も著しく向上した。

我が国においては,この時期は戦後の復興期の経済成長期と重なり,工業技術も大きく発展した時期であり,ステンレス鋼の生産技術もめざましい発達を遂げた。1959~1960年にはゼンジミア冷間圧延機の製鋼メーカーに導入によるステンレス鋼薄板の生産の高効率化や,AODやVODなどの新しい製鋼法の導入と相まって生産量が急増し,1970年には我が国のステンレス鋼生産量は世界第1位となっている。その後も現在に至るまで,我が国はステンレス鋼の生産高および鋼種の多さでは世界トップクラスの地位を維持し続けている。

我が国が世界をリードするステンレス鋼の生産国であるのは,製造技術や新鋼種の開発努力もさることながら,その利用に関する周辺技術も常に発展させる努力を続けてきたことによることを忘れてはならない。これらの総合的な技術基盤が,今日のステンレス鋼技術最先進国日本を支えているといえる。ステンレス鋼の谷接技術はこの材料の利用技術のなかでも極めて重要な要素技術であり,世界に見ても優秀な我が国の溶接技術がステンレス鋼の産業各分野で需要の促進に果たした役割は少なくないといえる。

ステンレス鋼は鉄鋼材料の範疇であるが,その溶接技術は一般の炭素鋼や低合金鋼とは異なる部分もかなり多い。そのため,一般の炭素鋼や低合金鋼の溶接技術に関する知識や経験のみに頼って,溶接施工を実施して,問題や不具合に遭温するケースもしばしばある。

このような場合の不具合の解決や事前の問題の回避のためには,ステンレス鋼の溶接技術に関する十分な理解が必要なことはいうまでもない。本書はステンレス鋼の溶接技術全般について,基礎的な理解から実際的な問題解決に必要な事象について,レーザ溶接などのデータを含め最新の情報に基づいてまとめたものである。内容については,溶接部の組織形成過程や溶接欠陥の発生機構などに関しては初学者にも理解できるよう出来るだけ懇切に記述するようにつとめている。また,溶接施工条件や溶接施工管理に関しては,実施工データに基づく実践的な記述を行うようにつとめた。しかしながら,紙面の制約もあり,割愛した事項のあることに関してはご容赦を頂きたい。

本書の執筆に際して,小川和博が第1章および第2章(2.3項)を,西本和俊が第2章(2.1,2.2,2.3項)を,夏目松吾が第3章(3.1,3.4,3.5,3.7,3.8,3.11項),第6章,第7章,第8章を,松本長が第3章(3.3,3.6,3.9,3.10項),第4章,第5章,第9章,第10章をそれぞれ分担した。本書の記述に際して多くの研究者から貴重な資料の提供を頂いた。また,本書の執筆に際して,大阪大学大学院の森裕章氏,(株)神戸製鋼所 丸山敏治氏,および三菱重工業(株)川口聖一氏から多大なご協力を頂いた。これらの方々に厚く御礼申し上げます。

また,本書に貴重な資料を引用させて頂いた文献の原書者ならびに転載を許可していただいた出版社に対しましても深甚の謝意を表します。

2001年9月
西本 和俊

西本 和俊 (著), 小川 和博 (著), 夏目 松吾 (著), 松本 長 (著)
産報出版

目次

1. ステンレス鋼の種類と性質
1.1 ステンレス鋼の種類
1.1.1 ステンレス鋼とは
1.1.2 ステンレス鋼の分類
(1) 種類
(2) 発展系統
1.1.3 各種ステンレス鋼の特徴
(1) マルテンサイト系ステンレス鋼
(2) フェライト系ステンレス鋼
(3) オーステナイト系ステンレス鋼
(4) 二相系ステンレス鋼
(5) 析出硬化系ステンレス鋼
(6) 耐熱鍋
1.2 ステンレス鋼の性質
1.2.1 物理的性質
1.2.2 機械的性質
(1) 常温における機械的性質
(2) 高温における機械的性質
1.2.3 加工性
(1) 熱間加工性
(2) 冷間加工性
1.2.4 熱処理
(1) マルテンサイト系ステンレス鋼
(2) フェライト系ステンレス鋼
(3) オーステナイト系ステンレス鋼
(4) 二相系ステンレス鋼
(5) 析出硬化系ステンレス鋼
1.2.5 耐食性
(1) ステンレス鋼の不働態と全面腐食
(2) 粒界腐食
(3) 孔食・隙間腐食
(4) 応力腐食割れ

2. ステンレス鋼の溶接性
2.1 溶接部の組織
2.1.1 凝固モード
(1) 溶接金属の凝固
(2) サブ組織
(3) ステンレス鋼の凝固
(4) 凝固組織に及ぼす凝固速度の影響
2.1.2 室温組織
(1) 特徴
(2) 結晶方位関係
2.1.3 フェライト量の予測
(1) デルタフェライト量の予測方法
(2) フェライト量の表示
2.1.4 凝固偏析
(1) 溶質元素の分布
(2) フェライトおよびオーステナイトにおける分配係数
2.2 溶接欠陥
2.2.1 高温割れ
(1) 溶接過程で発生する高温割れ
(2) 使用中に発生する高温割れ
2.2.2 低温割れ
(1) ぜい化割れ
(2) 遅れ割れ(水素ぜい化割れ)
2.2.3 ブローホール
2.3 使用性能としての溶接性
2.3.1 耐食性
(1) 粒界腐食
(2) 孔食
(3) 応力腐食割れ
(4) ガルバニック腐食
2.3.2 機械的性質
(1) じん性
(2) クリープ特性

3. ステンレス鋼の溶接施工
3.1 溶接施工の能率性と経済性
3.2 溶接施工上の留意点
3.2.1 施工計画
3.2.2 品質管理
3.2.3 施工管理
3.3 開先準備
3.3.1 切断および開先加工
3.3.2 開先形状
3.3.3 開先面のクリーニング
3.4 溶接・接合方法
3.4.1 溶接・接合方法の種類
(1) 被覆アーク溶接
(2) マグ(Metal Active Gas Arc)
(3) ミグ(Metal Inert Gas Arc)
(4) ティグ(Tungsten Inert Gas Arc)溶接
(5) サブマージアーク溶接
(6) 帯状電極溶接
(7) エレクトロガスアーク溶接
(8) エレクトロスラグ溶接
(9) 電子ビーム溶接
(10) プラズマアーク溶接
(11) レーザ溶接
(12) スポット溶接
(13) ろう付
3.4.2 溶接・接合方法の選び方
(1) 溶接作業性・適用性からの選択
(2) 溶接性・品質からの選択
(3) 高能率・省人化からの選択
3.5 溶接材料
3.5.1 溶接材料の種類
(1) 被覆アーク溶接棒
(2) フラックス入りワイヤ
(3) ミグ・ティグ溶接用ソリッドワイヤ
(4) サブマージアーク溶接材料
(5) 帯状電極溶接材料
3.5.2 溶接材料の選び方・使い方
(1) ステンレス鋼同士の溶接
(2) 異種材料の溶接
(3) 肉盛溶接・クラッド鋼の溶接
3.5.3 溶接材料の保管・管理
3.6 溶接変形の防止
3.7 溶接条件の選択
3.7.1 被覆アーク溶接
3.7.2 フラックス入りワイヤ
3.7.3 ミグ溶接
3.7.4 ティグ溶接
3.7.5 サブマージアーク溶接
3.7.6 帯状電極肉盛溶接
3.7.7 プラズマアーク溶接
3.8 予熱および溶接後熱処理
3.8.1 予熱
(1) マルテンサイト系ステンレス鋼
(2) フェライト系ステンレス鋼
(3) オーステナイト系ステンレス鋼
(4) 二相系ステンレス鋼
(5) 異種材料
3.8.2 溶接後熱処理
(1) マルテンサイト系ステンレス鋼
(2) フェライト系ステンレス鋼
(3) オーステナイト系ステンレス鋼
3.9 溶接後の表面処理
3.9.1 溶接後の表面処理の目的
3.9.2 機械的方法によるスケールの除去
(1) グラインダ研削
(2) バフ研磨
(3) ブラスト研磨
(4) その他の方法
3.9.3 化学的方法によるスケールの除去
(1) 前処理
(2) 酸洗
(3) 後処理
3.9.4 不働態化処理
3.10 補修溶接
3.10.1 溶接欠陥の補修
(1) 欠陥の除去および欠陥除去の確認
(2) 補修溶接施工
(3) 補修溶接部の品質確認
3.10.2 供用中の補修
(1) 欠陥の除去および前処理
(2) 溶接補修
(3) 補修溶接部の品質確認
3.11 安全・衛生
3.11.1 有害輻射線による障害
3.11.2 ヒュームおよびガスによる障害
3.11.3 火傷と火災
3.11.4 感電による障害

4. ステンレス鋼の溶接継手性能
4.1 機械的性質
4.1.1 オーステナイト系ステンレス鋼
(1) 室温における機械的性質
(2) 高温における機械的性質
(3) 低温における機械的性質
4.1.2 フェライト系ステンレス鋼
(1) 機械的性質
(2) シグマ相ぜい化
(3) 475℃ぜい化
4.1.3 二相系ステンレス鋼
4.2 溶接継手部の耐食性
4.2.1 孔食
(1) オーステナイト系ステンレス鋼
(2) 二相系ステンレス鋼
4.2.2 粒界腐食
(1) オーステナイト系ステンレス鋼
(2) フェライト系ステンレス鋼
4.2.3 溶接部の応力腐食割れ
(1) 塩化物応力腐食割れ
(2) 高温純水中応力腐食割れ
4.2.4 隙間腐食

5. 異種材料の溶接
5.1 ステンレス鋼と炭素鋼,低合金鋼
5.1.1 溶接金属の成分変化と問題点
5.1.2 異材溶接境界部のボンドマルテンサイトの生成
5.1.3 異材継手部の溶接割れ
(1) 高温割れ
(2) 低温割れ
(3) 再熱割れ
5.1.4 溶接部の熱応力と残留応力
5.1.5 溶接後熱処理による組織変化
5.1.6 異材溶接施工技術
5.2 異種のステンレス鋼

6. ステンレスクラッド鋼の溶接
6.1 ステンレスクラッド鋼の種類
(1) 圧延クラッド鋼
(2) 爆着クラッド鋼
(3) 肉盛クラッド鋼
6.2 ステンレスクラッド鋼の溶接
6.2.1 開先形状
6.2.2 溶接施工
(1) 母材側の溶接
(2) 合せ材側の溶接
6.2.3 溶接後熱処理

7. 肉盛溶接
7.1 溶接施工上の注意点
7.2 溶接施工条件と溶接方法
7.3 アンダクラッドクラッキング
7.4 水素によるはく離割れ
7.5 溶接後熱処理

8. 溶接部の試験と検査
8.1 外観検査
8.2 ステンレス鋼の非破壊検査
8.3 溶接部の機械的性質に関する試験
8.3.1 クリープ試験
8.3.2 熱疲れ試験
8.4 デルタフェライト量の測定方法
8.4.1 化学組成から求める方法
8.4.2 磁性を利用する方法
8.4.3 体積率測定法
8.5 腐食試験
8.5.1 全面腐食試験
8.5.2 粒界腐食試験
(1) 硫酸・硫酸銅腐食試験(JIS G 0575)
(2) 65%硝酸腐食試験(JIS G 0573)
8.5.3 隙間腐食試験
8.5.4 孔食試験
(1) 塩化第二跌水溶液浸渍法
(2) 食塩水浸漬法
(3) 孔食電位測定
8.5.5 応力腐食割れ試驗
8.5.6 発錆試驗
(1) 塩水噴霧試驗(JIS Z 2371)
(2) 銅·酢酸加速塩水噴霧試驗(キャス,CASS試験)(JIS D 0201)
8.5.7 高温酸化試驗

9. 劣化診断・寿命予測
9.1 経年劣化による損傷要因
9.2 余寿命診斷技術
9.3 解析的評画法
9.4 破壞的評画法
9.5 非破壞的評画法
9.5.1 クリープ損傷診断法
9.5.2 疲劳損傷診斷法
9.5.3 時効損傷診断法
9.5.4 オーステナイトステンレス鋼の鋭敏化度検知法
9.6 余寿命評価技術の現状
9.6.1 熱交換器チューブの寿命予測技術
9.6.2 配管の寿命予測技術

参考文献
索引

西本 和俊 (著), 小川 和博 (著), 夏目 松吾 (著), 松本 長 (著)
産報出版

ステンレス鋼溶接トラブル事例集

まえがき

成熟化社会の中でのモノづくり産業に求められる,生産の効率化,合理化,省力化が各産業分野で推進される中で,生産現場から技術者,技能者の削減が進められている。かたや,地球規模での経済成長の鈍化,地球環境への配慮の影響もあり,プラントや生産設備の新規製作のインターバルも長くなる傾向がある。

このような状況下で生産現場で何が起こっているか。それは熟練技能者の高齢化と若年技術者および技能者のこれまでにない速度での減少である。技術の伝承の重要性は高度の工業製品の製作において必要不可欠なことはいうまでもないが,このような環境により,従来から受け継がれてきた現場の技術,経験の伝承が途絶える危機的状況にあるといっても過言でない。

生産現場では,製品の性能や信頼性に直結する重要な要素技術が数多くある。かつての高度成長期に培われた豊富な知識や経験に支えられ,世界的に見てもトップレベルにある溶接技術もその一つである。しかしながら,その溶接技術に関しても,先輩から後輩へ,熟練技能者から初心者へのノウハウの伝承が潤沢に行われていないのが現状である。

技術は時代とともに変遷し,なかには時代の進歩に伴い滅びゆく宿命を持ったものもある。これはそのニーズの減少に伴う従事者の減少という形で生じる。しかしながら,現在の状況は技術それ自体に対するニーズがあるのにもかかわらず,他の要因でその従事者が減少して技術が退化する傾向さえ見られている。科学技術立国を標榜するわが国としては由々しき事態であるといわざるを得ない。

このような状況を改善するための努力もなされている。過去の膨大な情報をコンピュータに記憶させ,それをデータベースとして利用する試みや,データに表せない匠の技をエキスパートシステムの中へ取り入れる努力などである。これらの手法は今後の技術伝承のあり方の一つであることは事実である。しかしながら,現状ではそれらのいずれもが未成熟で完全に技術伝承を補完する手段にはなり得ていない。このような状況において,かつての技術,情期ハウをまとまったものとして残しておく努力は重要であろう。

(社)日本溶接協会特殊材料溶接研究委員会では,従来よりステンレス鋼,鋳鉄,耐熱鋼,非鉄合金(Ni, A1, Ti, Cu, Ta, Zr, Mo合金など)など特殊料の溶接・接合に関わる諸問題について研究報告や情報交換を行うとともに,講習会や専門書の出版を通じてこれらの材料の溶接・接合施工技術に関する社会的な啓蒙活動を続けてきた。一方,溶接技術者および溶接技能者などの不安に対する対策の一助にすべく,各企業で長年にわたって培われた特殊材料の溶接・接合施工関係の情報・技術のノウハウの蓄積をデータシート化し,その内容の年次更新を続けながら「溶接施工データ集」を発刊してきた。

本書はこの流れに沿って企画されたもので,溶接技術の伝承に寄与すべく,特殊材料のなかでも需要の多いステンレス鋼を対象として,各企業におけるこれまでの溶接施工事例の中から不具合の事例をまとめた。各事例は,経験豊かな実務経験者により,実例に基づき記述されており,その発生原因およびメカニズムならびに問題解決の対策についても詳細に説明されている。

本書は第1部「トラブル事例と対策編」,第2部「基礎知識編」の2部構成で成り立っており,特に第2部においては,ステンレス鋼の溶接に関わる問題点や不具合の発生機構の理解を助けるため,ステンレス鋼溶接に関する基礎的事項をまとめて記述している。また,ステンレス鋼の母材および溶加材料の種類と特徴ならびにステンレス鋼溶接部に関する各評価試験や検査の概要についても記述している。本書がステンレス鋼の溶接に携わる技術者の参考となり,技術伝承についても何らかのお役に立てば幸いである。

最後に,本書編纂のために設立されたワーキンググループの主査 川嶋 巌氏をはじめ,各執筆担当者および委員ならびに資料を提供いただいた各企業の関係各位に対して厚く御礼申しあげる。

2003年1月
(社)日本溶接協会 特殊材料溶接研究委員会 委員長 西本 和俊

日本溶接協会特殊材料溶接研究委員会
産報出版

目次

第1部 トラブル事例と対策

第1章 ステンレス鋼溶接のトラブル
1.1 オーステナイト系ステンレス鋼
1.1.1 溶接施工における欠陥の発生事例
(1) 裏波溶接金属の酸化による溶接欠陥の発生
(2) 亜鉛による溶接割れ
(3) 清浄不良による溶接欠陥
(4) FCAW溶接金属へのGTAW溶接施工における融合不良状欠陥の発生
(5) 銅裏当金からの浸銅による溶接金属割れ
(6) 風によるシールドの乱れに起因した溶接金属割れ
(7) SUS310S鋼突合せ溶接部の裏曲げ試験時の割れ
(8) ステンレス鋼へのインコネル肉盛溶接における割れ
(9) 厚板突合せ溶接継手部の側曲げ試験時の割れ
1.1.2 溶接後熱処理および高温使用による割れの発生
(1) SUSF347鋼の溶接熱影響部に発生した安定化熱処理による割れ
(2) FCAW溶接金属に発生した安定化熱処理による割れ
(3) FCAW溶接金属の高温使用時の割れ
1.1.3 腐食事例
(1) ステンレス鋼への酸素アセチレンガス溶接法によるステライト肉感部の腐食
(2) ステンレス鋳鋼溶接部の応力腐食割れ
(3) 裏波溶接金属の酸化部の腐食
1.2 マルテンサイト系ステンレス鋼
1.2.1 溶接施工における欠陥の発生事例
(1) SUS410鋼突合せ溶接金属の低温割れ
(2) 13Cr-5Ni銅継手溶接金属の低温割れ
1.2.2 機械的性質劣化
(1) SUS410銅継手溶接金属の延性およびじん性の低下
(2) SUS410鋼溶接継手の曲げ試験時の割れ
1.3 フェライト系ステンレス鋼
1.3.1 溶接施工における欠陥の発生事例
(1) 炭素鋼/SUS405鋼の異材継手溶接部の曲げ試験時の割れ
(2) SUS405クラッド鋼溶接部の遅れ割れ
(3) フェライト系ステンレス鋼肉盛溶接部の曲げ試験時の割れ
(4) フェライト系ステンレス鋼の薄板溶接時に発生する割れ
(5) 高純度フェライト系ステンレス鋼溶接熱影響部の粒界脆化
(6) 高純度フェライト系ステンレス鋼の溶接金属部脆化
(7) 高純度フェライト系ステンレスクラッド鋼溶接部の延性低下
1.3.2 腐食事例
(1) SUS405鋼溶接部の腐食
1.4 オーステナイト・フェライト二相ステンレス鋼
1.4.1 溶接施工における欠陥の発生事例
(1) SUS329J4L溶接後熱処理時の相脆化割れ
(2) SUS329J4Lサブマージアーク溶接金属の高温割れ
(3) SUS329J1溶接金属の低温割れ
(4) SUS329J4Lの曲げ加工部の溶接時の割れ
1.4.2 腐食事例
(1) SUS329J4L溶接部の孔食
(2) SUS329J4L溶接部の応力腐食割れ
1.5 異材溶接および肉盛溶接
1.5.1 異材溶接
(1) SUS316Lクラッド鋼溶接継手の側曲げ延性低下
(2) SUS304とSUS303の異材溶接金属部に発生した高温割れ
(3) 熱処理によって生じた溶接継手ボンド部近傍の浸炭・脱炭現象
(4) ステンレス鋼と炭素鋼異材継手の曲げ性能不良
1.5.2 肉盛溶接
(1) ステンレス鋼帯状電極肉盛溶接金属部における高温割れ(希釈変動)
(2) 炭素鋼へのステンレス鋼肉盛溶接時の高温割れ
(3) Cr-Mo鋼へのFCAWによるステンレス鋼肉盛溶接時の高温割れ
(4) 309L系フラックス入りワイヤ(YF309L)による肉盛溶接部側曲げ試験片の延性低下
(5) オーステナイト系ステンレス鋼肉盛溶接部の側曲げ試験片の延性低下
(6) オーステナイト系ステンレス鋼肉盛溶接金属における剥離割れ
1.6 溶接変形
1.6.1 面内変形
(1) SUS304鋼製パネル構造体の板継溶接による横収縮変形
(2) SUS304鋼製円筒容器の縦シーム溶接時に発生する回転変形
1.6.2 面外変形
(1) SUS304 鋼製薄板外装板および内部補強材のT型すみ肉溶接部における横曲がり変形
(2) SUS347鋼製ヘダーへの枝管取付溶接による縦曲がり変形
(3) SUS304鋼製上水タンクのすみ肉溶接による主板の座屈変形

第2部 基礎知識

第2章 ステンレス鋼およびステンレス鋼溶接材料の種類と性質
2.1 ステンレス鋼の種類と性質
2.1.1 種類と規格および用途
(1) 種類
(2) 規格
(3) 用途
2.1.2 機械的性質
(1) マルテンサイト系ステンレス鋼
(2) フェライト系ステンレス鋼
(3) オーステナイト系ステンレス鋼
(4) オーステナイト・フェライト二相ステンレス鋼
(5) 析出硬化系ステンレス鋼
2.1.3 耐食性
(1) ステンレス鋼の不働態と全面腐食
(2) 粒界腐食
(3) 孔食・隙間腐食
(4) 応力腐食割れ
2.2 ステンレス鋼溶接材料の種類と性質
2.2.1 規格
(1) 被覆アーク溶接棒
(2) 溶加棒およびソリッドワイヤ
(3) フラックス入りワイヤ
(4) サブマージアーク溶接用溶接材料
(5) バンド溶接用溶接材料
2.2.2 溶接金属の性能
2.3 溶接材料の選定と注意事項
2.3.1 共金溶接
(1) マルテンサイト系ステンレス鋼
(2) フェライト系ステンレス鋼
(3) オーステナイト系ステンレス鋼
(4) オーステナイト・フェライト二相ステンレス鋼
(5) 析出硬化系ステンレス鋼
2.3.2 異材継手溶接と肉盛溶接
(1) 異材継手溶接
(2) 肉盛溶接とクラッド鋼の溶接

第3章 ステンレス鋼溶接の基礎
3.1 溶接金属の凝固
3.1.1 凝固組織の形成
3.1.2 凝固モード
3.1.3 凝固偏析
3.2 溶接金属の室温組織
3.2.1 室温組織の分類
3.2.2 フェライト量予測方法
3.3 溶接割れの分類
3.4 溶接割れの発生機構とその対策
3.4.1 高温割れ
(1) 凝固割れ
(2) 多層溶接時の延性低下割れ
(3) 後熱処理過程での延性低下割れ
3.4.2 低温割れ
(1) 脆化割れ
(2) 水素脆化割れ
3.5 溶接部に生じる脆化原因の分類
3.6 溶接部のじん性に影響を及ぼす諸要因
3.6.1 フェライト
3.6.2 酸素,窒素のピックアップ
3.6.3 炭化物
3.6.4 σ相
3.6.5 475℃脆化
3.7 溶接部に生じる腐食形態の分類
3.8 溶接部の腐食とその対策
3.8.1 粒界腐食
(1) ウェルドディケイ
(2) ナイフラインアタック
(3) フェライト系ステンレス鋼の粒界腐食
3.8.2 孔食
3.8.3 隙間腐食
3.8.4 異材継手部の腐食
3.8.5 溶接部の応力腐食割れ
(1) 塩化物応力腐食割れ
(2) 高温純水中応力腐食割れ
3.9 溶接部の残留応力と変形
3.9.1 溶接継手の残留応力
3.9.2 溶接変形

第4章 ステンレス鋼溶接部の品質評価に関する試験方法
4.1 溶接部のミクロ組織および化学成分の評価
4.1.1 フェライト量の測定
4.1.2 金属組織観察
4.1.3 化学成分の評価
(1) Fe
(2) Cr
(3) Mo
4.2 溶接性の評価
4.2.1 溶接割れ感受性
(1) 高温割れ試験
(2) 低温割れ試験
(3) SR割れ試験
4.2.2 溶接欠陥検査
(1) X線透過試験
(2) 超音波探傷試験
(3) 渦電流探傷試験
4.2.3 耐食性
(1) 全面腐食試驗
(2) 粒界腐食試験
(3) 孔食試驗
(4) 隙間腐食試験
(5) 心力腐食割試驗
4.3 溶接施工の確認
4.4 機械的性能の評価

参考文献
索引

日本溶接協会特殊材料溶接研究委員会
産報出版

 

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