ランドスケープアーキテクトになる本2
ごあいさつ
刊行にあたって
本書には、「・・・・なる本」のタイトルが付いている。この意志がプロフェッショナルには重要だと思います。
仕事の成果、果たした役割から呼称が成立したランドスケープアーキテクトの原点に立ち返り、日本で初めて誕生した国際標準のRLA資格制度を私たちは育て上げていきます。その活動の一つとして本書は編纂されました。公表済の過去の試験問題等を綿密に分析した内容構成ですので極めて実践的で、受験に効果的です。
この二次試験受験用テキストでは、ランドスケープアーキテクトが重要な役割を担うサイトプラニング・敷地計画と、この職能ならではの特徴ある設計能力を問う実技問題が収められています。本試験は、コンピュータの支援でない手書きによる解答を求めていますので、課題の認識から始まって解法の基本プロセス、結果の表現が重要です。本書では、それぞれについて解答例をスキルとして読み取れるようビジュアルに提示しています。
ランドスケープアーキテクトになるには、知識とスキルが共に必要です。専門家の養成機関である大学等のカリキュラムに講義と演習が組まれるのはこのためです。世界中の若人が各国で取り組んでいる国際標準の資格試験の枠組みをこの本を通じて知ることにより、プロの途に飛び込む意志が固まることを期待します。
一般社団法人ランドスケープアーキテクト連盟(JLAU)
会長 蓑茂壽太郎
登録ランドスケープアーキテクト資格認定制度とは
登録ランドスケープアーキテクト(RegisteredLandscapeArchitect、略称RLA)は、現在および将来にわたり、人々の安全・環境・健康・文化・福祉に対する責任を自覚し、地球環境時代における美しい都市・地域づくりを担うランドスケープアーキテクチュア業務を遂行するために必要な、一定水準以上の知識や技術と能力を持つ者に与えられる称号です。
RLA資格制度は、ランドスケープアーキテクチュアに関する業務を実務者として遂行する技術者個人を登録する制度で、認定に必要な知識・技術・能力は、国際的にも通用するレベルとし、将来的には各国のランドスケープアーキテクチュア資格と相互承認できることを目指しています。
本書のねらい
資格認定制度試験から10年が経過しRLA補の新設や一般社団法人ランドスケープアーキテクト連盟(JLAU)の発足など登録ランドスケープアーキテクトの活躍が増え、社会的な認知度が高まり、活動も多くなりつつあります。こうした状況において、本書はランドスケープアーキテクトに求められる知識、プランニングや設計能力を二次試験の受験用テキストとしてわかりやすく紹介、基本プロセスを示しながら解説することで、ランドスケープに関心を持つ多くの方々に、RLAを目指す第一歩として活用いただくことを目的としています。
対象
造園技術者はもとより、近年増えつつある環境や空間デザインに関わりの深い都市計画、建築、土木の技術者、並びにそれらを目指す方々に発信し、より一層の潜在的なランドスケープアーキテクトの人材を掘り起こすことを視野に入れています。
本書は、次のような人を対象に考えています。
・これからランドスケープの世界に入ろうと思う人
・ランドスケープアーキテクチュアを学んでいる人
・都市計画、建築、土木の分野であってもランドスケープに関連する技術を持つ、また
は目指す人
・ランドスケープ実務者で個々の知識や職能を向上させたい、またはすることがのっ
れている技術者
・国内外でランドスケープアーキテクトとして活躍したいと思う人
構成
ランドスケープアーキテクトが携わる仕事は、生きもの(植物、動物)・土・水等の自然の要素を素材として活用しつつ、人と緑の良好な関係を検討し、そのあるべき空間や環境を具現化していくものです。公有地・民有地を問わずほとんどの土地や空間が対象となり、関係する項目も地球温暖化防止、環境負荷軽減、自然環境保全、景観形成、歴史文化環境保全、安全・安心の確保、地域活性化、観光・レクリエーション利用、コミュニティ形成、健康増進等の幅広い範囲が含まれます。
このため実技問題は、これら広範囲にわたる専門知識と、その知識を総合的に用いて、プランニングや設計デザインへ昇華させる技術、能力が求められます。土地利用ダイアグラム、敷地計画によるプランニングとしての「計画実技」、割付・造成・排水設計、植栽設計、詳細設計による設計デザインとしての「設計実技」を問う内容となっています。二次試験は、その1とその2で構成され、記述や作図による実技問題で出題されています。
【その1】 計画実技
・土地利用ダイアグラム
最新の法制度や施策に対する解釈/地域特性の差異による類例の整理/周辺環境、土地利用条件の把握/計画コンセプトの立案など
・敷地計画
現況植生、地形、隣地などの把握/諸施設に対する法制度の適用/良好な緑地環境の整備など
【その2】 設計実技
・割付・造成・排水設計
周辺を含めた等高線(高低差)の把握/排水経路の把握/排水方法の検討/法面勾配と施設・植栽の納まり、動線の調整/多様な土留工法および緑化工法の整理など
・植栽設計
地域植生の把握/気候、土壌、排水等の条件整理/植物の生理的な特性の理解、植栽基盤の確保/支柱の選択/生育管理に配慮した修景技法の選択/特殊緑化の工法の提案など
・詳細設計
安全性、経済、修景を考慮した構造の提案/士壌、排水条件の把握/地域性に配慮した素材や工法の提案など
本書では、各章ごとに、(1)これまでの出題の傾向と対策、(2)問題解法の基本プロセス、(3)基礎知識、を簡潔にまとめた上で、過去の試験問題を用いて(1)問題文の読み取りポイント(2)計画のポイントと解法プロセス、(3)解答例、を掲載しています。これにより、二次試験対策として適切な解答を導く方法を学べるだけではなく、ランドスケープアーキテクトとして課題に対してどのように解法を導き出すのかについて、そのプロセスを学習できるようになっています。
目次
ごあいさつ 刊行にあたって
登録ランドスケープアーキテクト資格制度とは
序章 ランドスケープアーキテクトの世界
1章 二次試験【実技問題】の概要
1-1二次試験【実技問題】の内容と視点
1-1-1実技問題とは
1-1-2実技問題に求められるもの
1-2出題傾向と今日的テーマ
1-2-1実技問題の出題範囲
1-2-2実技問題の出題傾向
1-2-3今日的テーマ
2章 二次試験【その11
2-1土地利用ダイアグラム
2-1-1土地利用ダイアグラムとは
2-1-2 2012年問題と解答例
2-2敷地計画
2-2-1敷地計画とは
2-2-22012年問題と解答例
2-2-32013年問題と解答例
3章 二次試験【その2】
3-1割付・造成・排水設計
3-1-1割付・造成・排水設計とは
3-1-2 2011年問題と解答例
3-1-3 2014年問題と解答例
3-2植栽設計
3-2-1植栽設計とは
3-2-2 2011年問題と解答例
3-2-3 2014年問題と解答例
3-3詳細図
3-3-1詳細図とは
3-3-2 2008年問題と解答例
3-3-3 2013年問題と解答例
3-3-4 2014年問題と解答例
3-3-5 2016年問題と解答例
受験の手引き
ランドスケープアーキテクトになるために ランドスケープに携わる諸先生方からのお言葉
執筆者一覧
序章 ランドスケープアーキテクトの世界
ランドスケープアーキテクトは、地域の風景や環境の調和を図り、美しい屋外環境を創造するだけではなく、荒廃した土地や自然環境を本来の健全な状態へと導き、また、都市の微気象の改善や防災機能を高めるなどの今日的な課題解決に向けて重要な役割を担っています。
ランドスケープアーキテクトが活躍する分野は、様々な緑地を対象に展開されています。農村景観や水辺景観などの文化的景観の保全・再生、環境の基盤となる国土インフラの形成や競争力のある都市の形成分野において活躍が期待されています。
また、地域ごとに固有の生きものが育まれている生物多様性の保全や自然公園などにおける自然環境の保護と利用、自然資源やオープンスペースを通じた自立可能な地域づくりに寄与する自然体験や環境教育などの分野、日本庭園などの伝統の継承においても活躍が期待されています。さらに、身近に自然を感じることができ、暮らしやすい生活環境の形成、観光振興、地域コミュニティの形成などの分野において活躍しています。
<文化的景観の保全・再生>
地域における人々の生活や生業、地域の風土により形成された農村景観や水辺景観、城下町や鉱山町などのまちなみ景観などは、かけがえのない地域財産です。これらの文化的景観は、これまでの地域の生活や生業の歴史を次の世代に継承するだけではなく、地域のアイデンティティの保持や地域の魅力を高めて地域経済の自立に寄与する重要な資源となります。ランドスケープアーキテクトはこれらの地域と歴史の文脈を読み解き、これからの新たな資源として継承・活用するうえで重要な役割を果たします。
<国土インフラの構築>
国土のインフラには、建築物や道路、上下水道などの土木施設としてのインフラがあります。同様に緑地には、環境保全や土砂流出の防止、雨水の地下浸透による洪水などの緩和、津波被害の軽減、延焼防止などの国土を保全する上で様々な役割があります。このように緑地が持つ環境や防災面の国土を支えるインフラ機能に着目したものをグリーンインフラストラクチャーと呼びます。ランドスケープアーキテクトは、国土インフラであるグリーンインフラストラクチャーの計画設計においても重要な役割を果たします。
<都市空間の形成>
建築物や土木施設などが集積する都市において、水と緑による潤いのある環境や、季節を感じることができる身近な自然環境を創成することは、品格を持った、競争力のある都市を形成し、良好な生活環境を都市に具現化する上で欠かせません。オフィスなどの商業施設、音楽ホールや美術館などの施設、街路や公園緑地などのオープンスペースを対象として、地上部のみならず屋上や壁面を含めた立地において特殊緑化もよく見るようになりました。
このような緑化技術や管理技術を基礎として都市景観の形成までを見据えたランドスケープアーキテクトの役割はかかせないものとなっています。特に近年では都市の微気象の改善、生物多様性の保全、雨水の地下浸透による地下水の涵養などのオープンスペースが持つ機能を最大限高めたデザインも求められています。
<生物多様性の保全>
「私たちの暮らしは、多様な生きものが関わり合う生態系から得られる食糧や文化的活動の源泉である生態系サービスによって支えられています。水、土壌、植物などから構成される多様なランドスケープは地域固有の生きものを育む基盤であり、健全なランドスケープを確保することは生物多様性の保全のためには欠かせません。ランドスケープアーキテクトは計画設計などにおいて自然環境の保全・再生・創出を具現化する重要な役割を担っています。近年では、低炭素化社会の形成、循環型社会の形成、地域振興などの複合的な地域課題にも対応することが求められています。
<自然環境の保護と利用>
国立公園などの優れた自然環境や風景を保護し、適切な利用を図り、自然とのふれあいを推進することは自然共生社会を形成する上で重要なテーマです。自然公園などにおける保護と利用のバランスを図る利用調整、自然環境の情報発信などの役割を担うビジターセンター、植生や地形の保護を踏まえた登山道や遊歩道などの計画設計において、ランドスケープアーキテクトは重要な役割を果たしています。
<自然体験と環境教育>
身近な自然環境とふれあい、環境への関心や環境の現状などに関する正しい認識を持つことはこれからの環境人材を育成し、地域の環境を地域主体で守り、引き継いでいく上で大切な取り組みになります。ランドスケープアーキテクトは、自然環境の代弁者として、自然環境に対する正確な情報や環境管理の手法などを地域に伝え、地域住民が政策の意思決定のプロセスに関わることができるようにサポートする役割を担っています。
<身近な生活環境の形成>
身近な生活環境として、戸建住宅の庭園、集合住宅やマンションのみどり、街中の公園などのオープンスペースがあります。これらのオープンスペースは身近に自然を感じることができ、暮らしやすく安全で快適な生活環境を支える大切な役割を果たしています。ランドスケープアーキテクトは、植物がもつ季節感や色や香り、生育特性などの知識をもとに、デザインを通じて遊びやコミュニティ、防災などの公共的な場づくりや、マンションのオープンスペースや庭園、ガーデンなどの私的な空間づくりに貢献しています。
<観光の振興と推進>
観光は、日本国内の需要にとどまらず、アジアなどの観光需要を取り込んだ地域経済の発展に寄与する成長分野として期待されています。ランドスケープアーキテクトは地域の豊かな自然環境や歴史文化的資源を活用した観光計画の立案や観光を推進するランドスケープの設計において重要な役割を果たしています。また、ホテルや商業施設等のリゾート空間において良質なランドスケープデザインを展開しています。
<伝統の継承>
わが国では、先人の優れた作庭家などにより池泉回遊式庭園や枯山水、茶庭、坪庭などの庭園が作庭され、これらの伝統が現代においても継承されています。ランドスケープアーキテクトは、これらの優れた伝統をもとに、宿泊施設や迎賓館などのもてなしの空間において空間づくりを展開します。伝統的な庭園デザインなどにおいてもランドスケープアーキテクトの技術とデザインが求められています。
<地域コミュニティの形成>
人口の減少や少子高齢化などの社会経済の変化の中で、人間関係の希薄化等の問題が顕在化しています。ランドスケープアーキテクトは個人庭園等の私的な空間に加えて公園緑地などの公共空間を創出し、地域住民が日常的な地域のコミュニケーションの場や祭りなどの人々が集う場として活用されることで、地域コミュニティの形成に寄与しています。ランドスケープアーキテクトは、地域の潜在的な人的資源や自然的資源を発揮することを目的として、ワークショップなどの手法を用いて地域のコミュニケーションを創発するファシリテーション等の役割を担っています。