空気調和・衛生設備の知識(改訂4版)




地球温暖化問題が顕在化する中,二酸化炭素排出量の削減を目標に掲げた都市・建築を創造することは,建築・設備技術者にとっても大切な使命であり,それには省エネルギーや省資源化に配慮した建築設備技術が欠かせない.その実現に向けて,担い手となる設備技術者の役割も大変重要なものになってきており,学習し,習得すべき基礎的な知識は,以前にも増して,新しく,また広範囲に及んでいる.

本書「空気調和・衛生設備の知識」は,1965年にその前身である「空気調和・衛生設備のやさしい知識」が刊行されて以来,初学者や初級技術者向けに空気調和設備と給排水衛生設備についての基礎的な知識をやさしく記述することを主眼に編集されており,入門書として多くの読者に親しまれてきた.

旧版となる2010年に刊行された「空気調和・衛生設備の知識(改訂3版)」は,2002年に刊行された「空気調和・衛生設備の知識(改訂2版)」について,その内容を抜本的に見直し,冒頭で述べた地球環境時代の技術者育成を大きな目標に,基礎的な知識から昨今の話題に至るまでを新たな視点から概説する日次や内容構成とし,時代のニーズに合うように執筆を行った.

改訂3版出版時に特に記載内容について考慮したのは,以下の四点であった.第一は,地球環境時代における空気調和・給排水衛生設備のあり方やその概要を1章で述べ,学生等の初学者や初級技術者に建築設備に対する興味を抱いてもらうように試みたことであった.第二は,2章「空気調和設備」,3章「給排水衛生設備」,4章「空気調和・衛生設備に関する電気設備」の各章で要点を述べることとし,前記の三つの設備の要点を把握できるように記述内容を再検討したことであった.第三は,空気調和設備・給排水衛生設備に関連した電気設備については,4章として新たに章を設け,初学者が必要とする知識について概説したことであった.第四は,随所にコラム欄を設け,キーワードや重要な事項の補足説明を行い,建築設備に対する理解を深めてもらうようにしたことであった.

その後,2011年3月に起きた東日本大震災,最近では2016年4月の熊本地震といった大災害の教訓として,改めて建築設備の耐震化への課題も認識し,ライフラインが途絶した際のBCP(事業継続計画)やLCP(生活継続計画)に配慮した建築設備計画・設計のあり方への関心も高まっている.

また,法令関係は2014年に都市・建築の利水・治水を目的とした「雨水法」が施行され,都市型洪水の抑制と水資源としての雨水利用システムの普及,促進が期待されている.一方,省COを推進するうえで民生エネルギー消費の合理化が喫緊の課題でもあり,その対策として2015年に「建築物省エネルギー法」が制定され,省エネルギー性能表示制度への誘導措置も開始された.いよいよ今年から一定規模以上の非住宅建物に省エネルギー基準適合とその判定を義務づける制度も施行される.

このように都市・建築を取り巻く社会環境が激変する中,本学会は創立100周年を迎える.そんな時期に,本改訂委員会が発足され旧版の改訂作業を実施してきた.今回の改訂では,基本方針は旧版(改訂3版)を踏襲し内容構成等は同じとするが,前述の背景などを鑑み,各章において新たな都市・建築設備技術のあり方や考え方を追記するものとする.また,次回の改訂に向けて,さらなる進展が期待できるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やエネルギーの面的利用などの分野に関連した新しい環境設備技術の記述も増やし充実させた.コラム等にも新しい話題を取り上げた.

本書は,前記の趣旨で初学者や初級技術者向けに執筆し構成されているので,さらに詳しく実務的な技術を学ぼうとする方々には,本書の内容をさらに発展させた「空気調和設備計画設計の実務の知識(改訂4版)」,「給排水衛生設備計画設計の実務の知識(改訂4版)」を活用していただき,より実践的な知識を身につけていただきたい.

最後に,今回の発刊に際して旧版を精読して改訂方針をまとめていただいた.出版委員会知識・実務の知識改訂準備小委員会ならびに知識・実務の知識改訂小委員会の委員の方々,および執筆者ならびに査読委員の方々には深く感謝いたします.また,事務局ならびに製作を担当されたオーム社の方々のご尽力に対しても厚く御礼申し上げます.

2017年3月
出版委員会
知識・実務の知識改訂小委員会
給排水衛生設備担当
主査 大塚雅之
空気調和設備担当
主査 村上公哉

出版委員会
知識・実務知識改訂小委員会

空気調和設備担当
主査
村上 公哉(芝浦工業大学)
委員
佐藤 孝輔(日建設計)
佐藤 秀幸(新日本空調)
永岡 真紀(高砂熱学工業)
百田 真史(東京電機大学)
森田 英樹(清水建設)

給排水衛生設備担当
主査
大塚 雅之(関東学院大学)

委員
青木 一義(西原衛生工業所)
稲田 朝夫(須賀工業)
小原 直人(小原技術士事務所)
土井 章弘(竹中工務店)
松村 佳明(山下設計)
村田 博道(森村設計)

執筆者一覧(執筆順) 担当箇所
村上 公哉(芝浦工業大学) 1章1~2節2章1節
大塚 雅之(関東学院大学) 1章3~4節,3章4,7,8節
森田 英樹(清水建設) 2章2~3節(共著),8節(共著)
橋本 洋(鹿島建設) 2章2節(共著),8節(共著)
瀧澤 博(前 鹿島建設) 2章3節(共著)
亀谷 茂樹(東京海洋大学) 2章3節(共著)
佐藤 秀幸(新日本空調) 2章4,6節
永岡 真紀(高砂熱学工業) 2章5節(共著)
吉田 直裕(日建設計) 2章5節(共著)
佐藤 孝輔(日建設計) 2章7,10節
森山 修治(日本大学) 2章9節
百田 真史(東京電機大学) 2章11節(共著)
湯澤 秀樹(日建設計総合研究所) 2章11節(共著)
小原 直人(小原技術士事務所) 3章1節
村田 博道(森村設計) 3章2節
松村 佳明(山下設計) 3章3節
土井 章弘(竹中工務店) 3章5,9節
青木 一義(西原衛生工業) 3章6節
滝澤 総(日建設計) 4章

査読者一覧 (50音順)
青木 一義(西原衛生工業所)
稲田 朝夫(須賀工業)
大塚 雅之(関東学院大学)
小原 直人(小原技術士事務所)
篠倉 博之(日本ガス協会)
佐藤 孝輔(日建設計)
佐藤 秀幸 (新日本空調)
高橋 健彦 (関東学院大学)
土井 章弘(竹中工務店)
永岡 真紀(高砂熱学工業)
松村 佳明(山下設計)
村上 公哉(芝浦工業大学)
村田 博道(森村設計)
百田 真史(東京電機大学)
森田 英樹(清水建設)

空気調和・衛生工学会 (編集)
出版社: オーム社; 改訂4版 (2017/3/25)、出典:出版社HP

Contents

1章
空気調和・給排水衛生設備の概要
1.1 地球環境時代における空気調和・給排水衛生設備
1.1.1 地球環境・建築憲章と建築設備
1.1.2 エネルギー・水消費と環境問題
1.1.3 建築のライフサイクル
参考文献

1.2 空気調和・給排水衛生設備と都市・地域生活とのかかわり
1.2.1 都市設備
1.2.2 地域設備
1.2.3 空気調和設備と都市設備との相互関係
1.2.4 給排水衛生設備と都市設備との相互関係
1.2.5 BCP・建物機能継続
1.2.6 スマートコミュニティ
参考文献

1.3 建物における空気調和・給排水衛生設備の要点
1.3.1 空気調和設備の構成と概要
1.3.2 給排水衛生設備の構成と概要
1.3.3 ビル管理システムの必要性
参考文献

1.4 建築計画と空気調和・給排水衛生設備とのかかわり
1.4.1 建築設備の計画・設計のプロセス
1.4.2 建築・構造計画と環境配慮
1.4.3 建物と設備関連スペース
1.4.4 地球環境に配慮した建築・設備技術

2章
空気調和設備
2.1 空気調和設備の概要
2.1.1 空気調和設備の役割
2.1.2 空気調和方式の種類
2.1.3 空気調和設備(中央方式)の構成
2.1.4 空気調和設備の計画
参考文献

2.2 室内の温熱環境・空気環境
2.2.1 温熱環境評価指標のあらまし
2.2.2 温熱環境評価指標
2.2.3 室内空気環境と汚染源
参考文献

2.3 空気調和の負荷
2.3.1 空調負荷の概要
2.3.2 設計条件
2.3.3 空調負荷の計算方法
2.3.4 湿り空気線図と空調プロセス
2.3.5 空調装置負荷と装置容量
参考文献

2.4 空調方式
2.4.1 中央熱源方式と個別熱源方式
2.4.2 熱搬送媒体による空調方式

2.5 熱源システム(中央方式)
2.5.1 熱源方式と選定
2.5.2 冷凍機・ヒートポンプ
2.5.3 ボイラー
2.5.4 冷却塔
2.5.5 ポンプ
2.5.6 蓄熱システム
2.5.7 コージェネレーション
2.5.8 地域冷暖房
参考文献

2.6 空気調和システム(中央方式)
2.6.1 空調システム選定の考え方
2.6.2 空調方式
2.6.3 空調システムの構成機材

2.7 パッケージ型空調システム
2.7.1 パッケージ型空調システムの種類と特徴
2.7.2 ビル用マルチパッケージ型空調システムの設計と留意点

2.8 換気システム
2.8.1 換気の目的と概要
2.8.2 換気関連法規と必要換気量
2.8.3 換気方式
2.8.4 居室の換気
2.8.5 外気二酸化炭素濃度の実態
2.8.6 居室以外の換気
参考文献

2.9 排煙設備
2.9.1 排煙設備の性能
2.9.2 排煙設備の方式
2.9.3 付室等の煙制御方式
2.9.4 煙制御方式の組合せ上の留意点
参考文献

2.10 空気調和設備にかかわる省エネルギー技術
2.10.1 負荷を抑制する技術
2.10.2 再生可能エネルギーを活用する技術
2.10.3 エネルギーを有効に利用する技術

2.11 空気調和設備のマネジメント
2.11.1 マネジメントの要点
2.11.2 建物のエネルギー管理
2.11.3 中央監視・自動制御設備
2.11.4 コミッショニング
参考文献

3章 給排水衛生設備
3.1 給排水衛生設備の概要
3.1.1 給排水衛生設備の役割
3.1.2 給排水衛生設備の構成
3.1.3 給排水衛生設備の原則
3.1.4 給排水衛生設備と社会・環境とのかかわり
3.1.5 給排水衛生設備の設計計画の流れ
参考文献

3.2 給水設備
3.2.1 目的と要求条件
3.2.2 給水方式
3.2.3 給水量と給水圧力
3.2.4 上水の汚染防止
3.2.5 機器容量
3.2.6 配管計画設計
参考文献

3.3 給湯設備
3.3.1 給湯設備にかかわる基礎知識
3.3.2 給湯温度と湯量
3.3.3 給湯方式
3.3.4 加熱装置
3.3.5 配管材料・配管設
3.3.6 安全装置
3.3.7 汚染防止
参考文献

3.4 衛生器具設備
3.4.1 衛生器具の分類と要求条件
3.4.2 水受け容器
3.4.3 給水器具・排水器具・付属品
3.4.4 設備ユニット
3.4.5 衛生器具のスペースと所要器具数
参考文献

3.5 排水通気設備
3.5.1 排水の種類と排水方式
3.5.2 トラップと阻集器
3.5.3 排水配管
3.5.4 通気方式
3.5.5 排水槽
3.5.6 排水通気管径の決め方
3.5.7 雨水排水
参考文献

3.6 排水処理・雨水利用設備
3.6.1 排水の汚染度の指標項目
3.6.2 排水処理方法の分類と特徴
3.6.3 浄化槽
3.6.4 特殊排水処理
3.6.5 除害施設
3.6.6 排水再利用設備
3.6.7 雨水利用設備
参考文献

3.7 消火設備
3.7.1 火災の種類
3.7.2 消火の方法
3,7.3 消火設備の種類と目的
3.7.4 屋内消火栓設備
3.7.5 スプリンクラ設備
3.7.6 水噴霧消火設備
3.7.7 泡消火設備
3.7.8 不活性ガス消火設備
3.7.9 ハロゲン化物消火設備
3.7.10 粉末消火設備
3.7.11 屋外消火栓設備
3.7.12 消防用水
3.7.13 連結散水設備
3.7.14 連結送水管
参考文献

3.8 ガス設備
3.8.1 ガスの種類と特性
3.8.2 都市ガス設備
3.8.3 液化石油ガス(LPガス)設備
3.8.4 ガス設備と設計上の留意点
3.8.5 安全装置
3.8.6 ガス機器の給排気方式
参考文献

3.9 配管材料
3.9.1 配管材料と継手
3.9.2 弁(バルブ)
参考文献

4章
空気調和・衛生設備に関する電気設備
4.1 電気設備の概要
4.1,1 電気設備とは
4.1.2 電気の理論
4.1.3 電気設備の計画
参考文献

4.2 電力設備の概要
4.2.1 電源設備
4.2.2 電灯・コンセント設備
4.2.3 動力設備
4.2.4 配線の種別
参考文献

4.3 通信・情報・防災・中央監視制御設備の概要
4.3.1 通信・情報設備
4.3.2 防災設備の概要
4.3.3 中央監視制御設備の概要

4.4 搬送設備の概要
4.4.1 エレベータ
4.4.2 エスカレータ
索引

Column
環境性能評価による建築物の格付け
都市の熱汚染と健康被害・気温感応度
HASP/ACLDと標準年気象データ
米国における冷凍トンの定義
冷凍用冷媒の今昔
BCP・LCP
地球の淡水量と日本の水資源賦存量
生活用水量のトレンド
レジオネラ症の感染事故
混合水栓の節水と節湯
排水ヘッダ
ディスポーザ排水処理システム
火災の進行プロセスと防火安全上の問題点
汚泥バイオマスとバイオガス利用

空気調和・衛生工学会 (編集)
出版社: オーム社; 改訂4版 (2017/3/25)、出典:出版社HP