POV-Rayによる3次元CG制作 -モデリングからアニメーションまで-




推薦の言葉

計算機の発展と普及により、図の役割がますます重要になってきています。まさに言語から図への情報シフトの時代といえるでしょう。

とくに、各種のプレゼンテーションや教材作成において、計算機による立体表現は不可欠です。また、各種の形状設計や造形の分野でも、さまざまな過程において立体を取り扱う必要に迫られます。科学の分野でも観測データや理論データの表現手段として立体表現が援用されます。したがって、このような立体表現、いいかえれば立体情報の可視化技術の習得は、これからの時代をリードする人々に求められる必要条件といえるでしょう。

古くは、ルネサンス時代に考案された遠近法の技術がこれにあたります。そこで、重要なのは、この種の方法が、一定の客観的方法に則っていること、すなわち、特殊な画家の才能などに依存しない現在の言葉でいえば、科学技術となったことです。この種の客観的可視化の手段としての遠近法が、西欧における、ルネサンス以降の脱神、人間の視覚に基づいた文化の進展の原動力となったことはよく知られています。

われわれは、現在、さらに進んだ状態にいます。3次元CGソフトウェアを使用すれば、古来の透視図はもちろん、光や素材感などを交えたより複雑な立体形状の可視化が可能となりました。この種のソフトウェアにはさまざまなものがあり、目的に応じて選択し学ぶ必要があります。その際、価格や汎用性も考慮されねばならないでしょう。その点、フリーソフトウェア(無料)であり、汎用性も高いPOV-Rayは最適なもののひとつです。

本書は、このPOV-Rayを使用して立体表現、すなわち、3DCGの基礎を学ぶ入門書です。本書は、ソフトウェアを使用しながら、やさしい課題から徐々に複雑な課題へと進展する構成をとっており、知らず知らずのうちに、ソフトウェアの操作法が習得できます。さらに、その段階的構成によって、基本となる立体の幾何学表現をベースに、その移動、拡大、縮小、さらには繰り返し、集合演算、テクスチャ、光、アニメーション等々のCGの基本概念が体系的に理解できます。

したがって、本書で学べば、専門分野固有の他のCGソフトウェアへの移行も容易となるでしょう。なお、本書は、日本図学会創立40周年記念事業として日本図学会で公式に認められたものであり、本分野に精通した3名の著者により執筆されました。日本図学会会長として本書を推薦するとともに、本書が、図の普及にさまざまなかたちで寄与することを期待します。

日本図学会 会長 加藤道夫

鈴木広隆 (著), 倉田和夫 (著)
出版社: 画像情報教育振興協会 (2016/9/20)、出典:出版社HP

はじめに

「百聞は一見に如かず」と言われます。これは、聴覚情報に対する視覚情報の優位性を述べたものですが、文字情報に対する図の優位性を述べたものであると考えることもできます。

伝える情報の性質にもよりますが、さまざまなコミュニケーションの場において、図は文字情報では伝えられないものを伝える手段として力を発揮しています。これは、情報があふれる現代社会においてのことだけではなく、言語コミュニケーションが成立する以前から、図は意思伝達・表現の手段として用いられてきました。

しかし、描画される図のレベルは、図作成に関わるさまざまな知識や技術・センスに左右されるので、誰もが美しくわかりやすい図を描けるわけではありませんでした。コンピュータの誕生以降、劇的に発達したコンピュータグラフィクス(CG)技術は、図描画に関わる技術・センスのバリアを取り除き、美しくわかりやすい図を描く機会を万人に均等に与える可能性をもたらしました。

本書は、一般的なCG入門書でもありますが、図の作成に関する研究・教育に日々関わっている研究者によって執筆されたものですので、さまざまなコミュニケーションの場において、CGを用いて描画された図が活用されることを目的としています。そこで、現実空間を写実的に表現するような具体的な図から、計算結果を可視化するような抽象的な図まで、多様な例を示し、読者の好奇心を喚起するような工夫をしています。

本書により、何らかのかたちでコミュニケーションを円滑にするような図が作成されることが、筆者らの願いです。なお、本書は、日本図学会40周年を記念して企画されたものです。さまざまな助言をいただいた図学会理事会および会員の皆様、素晴らしい推薦の言葉をいただいた図学会会長である東京大学の加藤道夫教授、本書出版の企画にご尽力いただいた図学会副会長で企画担当理事である東京工科大学の近藤邦雄教授各位に感謝いたします。

執筆者は、以下の方々にお世話になりました。

東海大学短期大学部の非常勤講師である島森功先生にはPOV-Rayを使ったグラミング学習の教材の多くのアイデアをご提供いただきました。島森功先生は武蔵野美術大学や女子美術大学などでデザインとプログラミングを融合したユニークな授業を長年にわたって展開されており、私の近年の研究テーマであるビジュアルプログラミング教育についても共同研究者として多くの助言をいただいております。(倉田和夫)

私の担当部分は、神奈川工科大学情報メディア学科の情報メディアリテラシIIで作成した資料(http://www.sato-lab.jp/ml2/)が基になっています。この授業を一緒に担当していただいた春日秀雄先生、山内俊明先生、河合敏勝先生、藤本貴之先生(現園田学園女子大学)、古井陽之助先生(現九州産業大学)と受講してくれた学生の方々に感謝します。この本の執筆に限らず、授業資料作成などで的確なコメントを寄せてくれた大学院生の長聖君にも感謝します。(佐藤尚)

大阪市立大学で図形科学Ⅱを履修し、素晴らしい作品(http://graphics.arch.eng.osaka-cu.ac.jp/zukeikagaku/)を提出してくださった学生の方々には、POV-Rayを用いたデザイン言語としての図形科学教育を進めるうえで大いに勇気付けられました。大阪市立大学において前任の図形科学教育担当であった、大阪市立大学教授(当時)で2003年1月に急逝された三木信博先生には、POV-Rayを用いた図形科学教育の大いなる可能性を教えていただくと同時に、膨大な提出作品をひとつひとつチェックしてWebで公開する地道な作業が作品のレベル向上に結びつくことになる、という教育の基本を学ばせていただきました。(鈴木広隆)

ここに記して感謝いたします。また、CG-ARTS協会の皆様には、当初の執筆スケジュールから大幅に遅れてしまったにもかかわらず、温かく見守っていただき、またゴールに向けての適切なアドバイスをいただきました。教育事業部の宮井あゆみ様と飯田剛弘様(当時)には、本書の企画から出版の行程に至るまで、さまざまな助言アドバイスをいただきました。また、影山由夏様には、本書の実質的な担当者として、さまざまな貴重なアドバイスをいただいたうえ、本書が確実に出版されるように執筆構成作業をリードしていただきました。ここに記して謝意を表します。

ここでは紹介できなかった方も含め、本書は多くの方々のアドバイスと激励のお言葉により、無事に出版までこぎつけました。それらの方々に感謝します。本書が読者の方々の美しくわかりやすい図作成に貢献できれば幸いです。

平成20年吉日 著者一同

鈴木広隆 (著), 倉田和夫 (著)
出版社: 画像情報教育振興協会 (2016/9/20)、出典:出版社HP

CONTENTS

1POV-Rayを使ってみよう
1-1POV-Rayを試してみよう
1-1-1サンプルファイルをレンダリングしてみる
1-1-2画像のサイズを変更する
1-1-3生成された画像ファイルを確認する

1-2シーンファイルの組み立てを理解しよう
1-2-1シーンファイルの基本
1-2-2オブジェクト、カメラ、ライトの関係

2かかしをつくってみよう
2-1オブジェクトをつくる
2-1-1作成する3次元図形をイメージする
2-1-2オブジェクトの記述に必要な情報
2-1-3オブジェクトの形、色・明るさの記述方法
2-1-4インクルードファイルを利用した色名による色の指定

2-2カメラ・ライトの基本的な設定
2-2-1カメラの情報の記述方法
2-2-2ライトの位置、強さ、色の記述方法

2-3シーンファイルを組み立てる
2-3-1かかしのシーンファイルの作成
2-3-2シーンファイル記述時の注意事項
2-3-3円環と平面の記述方法

2-4より深い理解のために
2-4-1投影法について
2-4-2どんな色が現れるか
2-4-3光の強さ

3オブジェクトの移動、拡大・縮小、回転
3-1インクルードファイルを利用した形の定義
3-1-1あらかじめ定義された形を用いる

3-2オブジェクトの変形
3-2-1オブジェクトを平行移動する
3-2-2オブジェクトを拡大・縮小する
3-2-3複数の命令を書く3-2-4オブジェクトを回転させる
3-2-5もう少し複雑な物体をつくる
練習問題

4繰り返し・条件分岐
4-1繰り返し
4-1-1繰り返しの基本
4-1-2横方向に並べる。
4-1-3縦方向に並べる
4-1-4奥行き方向に並べる
4-1-5円形に配置する

4-2繰り返しの応用
4-2-1色のグラデーション
4-2-2多重繰り返し
4-2-3回転と移動の組み合わせ

4-3繰り返しのなかの条件分岐
4-3-1条件分岐の表し方
4-3-2数学関数を使った条件分岐
練習問題

5集合演算で複雑な形状をつくってみよう
5-1集合演算
5-1-1集合演算とは
5-1-2和集合(union)
5-1-3積集合(intersection)
5-1-4差集合(difference)

5-2集合演算を組み合わせて複雑な形状をつくる
5-2-1複雑な図形をつくる
練習問題

鈴木広隆 (著), 倉田和夫 (著)
出版社: 画像情報教育振興協会 (2016/9/20)、出典:出版社HP

6模様や質感の設定
6-1オブジェクトに模様をつける
6-1-1オブジェクトのテクスチャについて
6-1-2pigmentで模様を指定する
6-1-3normalで凹凸をつける
6-1-4finishで表面の性質を設定する

6-2リアルな質感を表現する
6-2-1質感の設定方法
6-2-2石の質感を表現する
6-2-3木の質感を表現する
6-2-4金属の質感を表現する
6-2-5金属表面の映り込みを表現する
6-2-6ガラスの質感を表現する

7照明器具をつくろう
7-1光を操るための基礎知識
7-1-1ライトの設定
7-1-2物体表面の光学的な性質
7-1-3鏡面反射の設定
7-1-4透過の設定

7-2光源と間接光の表現
7-2-1光源の表現
7-2-2間接光の表現

7-3さまざまな照明器具のあるシーン
7-3-1トンネル照明のシーン
7-3-2蛍光灯のあるシーン
7-3-3パラメトリックに定義された照明器具があるシーン

8アニメーションをつくろう
8-1連続して変化する静止画をつくる
8-1-1フレームレートとアニメーション設定
8-1-2dock変数の使い方
8-1-3円錐のまわりを回転する球のアニメーション
8-1-4平行移動と回転を組み合わせたアニメーション
8-1-5カメラのアニメーション
8-1-6色の変化のアニメーション
8-1-7弾むボールのアニメーション

8-2動画ファイルをつくる
8-2-1Stripeのインストール
8-2-2Stripeに静止画を読み込む
8-2-3動画ファイルを作成・保存する。

9幾何学グラフィックスをつくろう
9-12次元の曲線を描く
9-1-1球オブジェクトによる曲線
9-1-2内転サイクロイドを描く
9-1-3内転サイクロイドのためのシーンファイル

9-23次元の曲線を描く
9-2-1内転サイクロイドの3次元化
9-2-2らせんの表現

9-3さまざまな曲面の表現
9-3-1小さな球による曲面の表現
9-3-2双曲放物面をつくる
9-3-3そのほかの曲面の表現

9-4万華鏡をつくる
9-4-1万華鏡の仕組み
9-4-23枚の鏡をつくる
9-4-3万華鏡の模様をつくる
9-4-4万華鏡のシーンファイルのレンダリング
9-4-5万華鏡アニメーションをつくろう

10数値データを可視化しよう
10-1数値データを用意する
10-1-1数値データを作成する
10-1-2表のデータを保存する
10-1-3空白セルと行末カンマの処理

10-2外部数値データファイルからの数値を読み込む
10-2-1外部のファイルを開く
10-2-2外部ファイル内の数値データを読み込む
10-2-3配列変数を利用する

10-3シーンファイルの組み立てと可視化結果
10-3-1球による曲面の表現
10-3-2三角形オブジェクトによる曲面の表現

10-4科学データの可視化
10-4-1科学データの読み込み

appendix
1 POV-Rayのインストール
2インクルードファイルで定義された正多面体
3インクルードファイルで定義された色
4インクルードファイルで定義された材質

練習問題の解答
index

鈴木広隆 (著), 倉田和夫 (著)
出版社: 画像情報教育振興協会 (2016/9/20)、出典:出版社HP