平林亮子の公認会計士「最短最速」合格法




はじめに

本書を手にとっていただき、ありがとうございます。公認会計士の平林亮子と申します。 本書は、難関資格試験といわれている公認会計士試験を目指す方のために、短期間で合格する勉強法をまとめたものです。私はこれまで約15年間、本業のかたわら、公認会計士試験の受験指導に関わってきました。そして、たくさんの受験生と接してきました。この15年で、試験制度は何度も変わり、受験生や合格者を取り巻く環境も大きく変化しました。特に、この5、6年は、合格者数の変動が激しく、受験生はそうした状況に振り回されてきました。

一方で、15年間、変わらないと感じるものもあります。それは、公認会計士試験はしっかりと勉強した人が合格できる試験だということです。どんな年も、「この人は合格するだろう」という人が合格していくのです。それは特別な人でもなく、人と違う勉強をした人でもなく、テキストを読み、テストを受け、復習をする、という誰にでもできることを地道に続けることができた人なのです。

合格者数の変動があるため、年によって試験の難易度や合格者の質にバラつきがあるのではないかと言う人もいます。たしかに、そういう面もあるかもしれませんが、概観すると、合格者はいつの時代も変わっていない。それが正直な感想です。

ところで、公認会計士試験は難関資格試験のひとつとされていますが、まったく知識のない状況から、2、3年の勉強で合格することのできる試験です。たくさんの受験生がそれを証明してくれました。その一方で、合格のために5年以上の月日を費やす受験生がいることも確かです。合格できずに勉強をやめてしまう人もいます。

その違いはどこにあるのか?
短期合格のためにはどうしたらいいか?

その観点で、短期合格のために必要な力を、学力面、精神面でどうやって身につけていったらいいのかをまとめたのが本書です。具体的にどうやって勉強すればいいのか、勉強や試験にどういう気持ちで臨めばいいのか、公認会計士試験の短期合格のために必要だと思われるポイントについて整理しました。また、巻末に受験生を題材にした小説を掲載し、本書のエッセンスを吸収していただけるように工夫しました。

実はこの小説は、私の教え子であった公認会計士の眞山徳人氏に書いてもらいました。大手監査法人にて監査業務や経営コンサルティング業務に従事している、非常に優秀な公認会計士です。彼は、勉強を始めたころから非常に成績優秀な受験生でしたが、試験の結果にはなかなか恵まれませんでした。今回は、敢えて、過去の自分と向き合い、不合格の経験を持つ彼だからこそわかる短期合格の秘訣を小説で表現してもらいました。

一見、どうっていうことのないセリフの中に、とても大切なメッセージが込められていると感じています。が、あまり難しく考えず、受験の雰囲気を味わい、楽しんで読んでいただけると嬉しいです。眞山君、忙しいのに無理を聞いてくれてありがとう!

そして、本書の執筆にあたっては、クレアールアカデミーの長谷川丈洋氏にも、受験に関する情報をいただきました。また、日本実業出版社の長谷川和俊氏の企画なくして本書は生まれませんでした。二人の長谷川氏に、この場をお借りして感謝申し上げます。

公認会計士業界は、今、構造的な就職難に陥っていますが、公認会計士の資格の魅力はそれで色あせるようなものではありません。資格の持つ社会的な信用力や資格をとる過程で身につく知識は、間違いなく価値のあるものだと思います。

本書が、そんな公認会計士を目指す方の第一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

2012年3月
公認会計士 平林亮子

※本書の内容は、2012年3月1日現在の情報に基づいています。

平林 亮子 (著)
日本実業出版社、出典:出版社HP

もくじ

はじめに

プロローグ 平林亮子との1問1答

1 平林先生の受験動機 公認会計士試験受験のいきさつ
2 平林先生の受験体験記 その1 短期合格を目指したいきさつ
3 平林先生の受験体験記 その2 受験時代の生活
4 平林先生の受験体験記 その3 本試験について
5 公認会計士試験合格後監査法人就職から独立まで
6 受験指導の道へ合格者と不合格者の違い

第1章 試験内容と受験者の動向

1 公認会計士になるまでの道のり
誰でも受験可能な試験/出願の方法/試験の日程/試験合格後について

2 短答式試験の概要
短答式試験の試験科目と方式/短答式試験の科目ごとの問題数および配点/短答式試験の合格基準/短答式試験の免除

3 論文式試験の概要
論文式試験の試験科目と方式/論文式試験では応用力が問われる/論文式試験の問題数および配点/論文式試験の合格基準/論文式試験の免除科目

4 受験時の携行品
試験時間中に使用できるもの

5 合格率から考える公認会計士試験の動向
出願総数に占める合格者の割合/短答式試験と論文式試験の合格率

6 どんな人が受験をしているのか?
若い人ほど合格しやすい/合格者の中で一番多いのは「学生」/ 学生で受かるか、社会人経験を活かすか?/会計専門職大学院に ついて

第2章 最短最速思考法7つのポイント

1 試験の難易度を過大評価しない
公認会計士試験は短期合格できる試験/何が難しいのかを理解しよう

2 合格の決め手は「思い込むこと」と「続ける」こと
合格する人とできない人を分ける違い/一番の敵は続けられない こと

3 意志の力に頼らない
気合ではなく習慣を大切にする/勉強に対するネガティブな思い 込みを捨てる/絶対続けるという気持ちはあえて持たない

4 自分が受験の主役になる
目分の勉強スタイルを確立していく/予備校も講師も利用するもの

5 無意味な議論はしない
暗記が先か理解が先か?/内容と時間どちらを基準にするか?/ 情報はどれくらい必要か?

6 試験対策のイメージを持つ
公認会計士試験と過去問/短答式試験対策は必要か?/1回ごと の理解を深めるより何度も繰り返す/忘れることは当たり前/広 げて、深めて、最後は絞る

7 合格のイメージを持つ。
完璧主義とはさよならする/緊張しても力を発揮できる自分をつ くる

第3章 合格するための受験テクニック

1 目標を明確に定める
合格目標は“はっきり”“きっちり決める/勉強期間はできるだけ短く設定する

2 選択科目について考える
試験科目を概観する/選択科目はどれを選ぶべきか?

3おおまかなスケジュールを把握する
短答式試験は12月合格を目指せ!/勉強期間は大きく5つに分 ける/専門学校のガイダンスに行ってみる

4勉強は計算科目から
計算科目を最初に勉強すべき理由/簿記3級からスタートしよう/簿記3級が公認会計士試験の合否を分ける

5 基礎期は一通り勉強する
基礎期の目標は一通りざっくり説明できるようになること/作業 で終わらないようにする

6 短答式対策期は暗記を徹底する
短答式試験対策はしない/うろ覚えではなく正確に覚える/用語と条文を徹底暗記/計算科目は個別問題集を徹底する

7 応用期は問題に答える力を養う
項目ごとの関係を意識する/答案を書く力をつける

8 直前期は最後の追い込みをする
直前期は基本の見直し/勉強のペースは落とさない/計算は最後 までおろそかにしない/勉強の質を上げる

9 専門学校を上手に利用する
専門学校は受験のプロ/専門学校の選び方/講義や答練は必ず受 ける/講義に合わせて1日のスケジュールを組み立てる

10 声に出してみる
スピーチとは?/基礎期から短答式対策期のスピーチ/応用期の スピーチ/直前期のスピーチ/計算科目もスピーチできる/友人 を巻き込めばスピーチはもっと楽しくなる

11 ノートとボールペンを用意する
電卓を用意しよう/ノートを活用する

12 スランプは放置する
スランプといってもいろいろある/勉強が手につかなくなったと きの対処法/成績が伸びないときの対処法/勉強から少し離れて みる/合格体験記のさまざまな使い方

13 勉強以外の大切な準備
朝型のリズムをつくる/試験当日の試験以外の留意点/試験当日 の受験上の留意点

第4章 これで合格! 科目別攻略法

1 試験科目は3つに分類する
試験科目を改めて概観する/3科目の特徴

2 計算科目は必ず3回解き切る
個別問題と総合問題/計算科目は体で覚える/まずはテキストと 個別問題集を徹底的にマスターする/個別問題集はとにかく3回 繰り返す/問題は必ず解き切る/能動的に問題を解く/「3回繰 り返す」の数え方/総合問題は目的を定めて

3 法律科目は問題解答形式を活用する
制度と制度趣旨を理解する/問題解答形式がお勧め(基礎期から 応用期)/法律科目の短答式試験対策/いくつかの論文パターンを覚える(応用期から直前期)

4 その他の科目はテキストを中心に
テキストを最初から覚えていく/短答式試験は用語の定義と基準 を頭に入れる/続いて答練を題材にする/直前期には、論点スピ ーチ、マスタースピーチ、連想スピーチを

第5章 合格する論文の書き方

1 資格試験用の文章を書く
答案にはあなたの考えを書いてはいけない

2 答案作成時の注意点
まず全体をよく見ること/文章は結論から書く/答案構成は必須 /1文1内容、ぶつ切りでも大丈夫/箇条書き、略字はダメ/問 題文の語尾に合わせる/自分の言葉は必要ない/書く練習は有効

第6章 公認会計士の仕事

1 公認会計士は会計と監査の専門家
公認会計士とは?/税理士になることもできる/税理士との違い /公認会計士は経理の専門家ではない

2 公認会計士の独占業務は「監査」
監査とは?/粉飾を見逃したからといって会計士が悪いとは限ら ない/内部統制監査も業務のひとつ/監査を組織的に実施するの が監査法人

3 公認会計士とコンサルティング業務
コンサルティング業務といってもいろいろある/公認会計士の力 を発揮しやすいコンサルティングの分野

4 会社経営、講演、執筆などでも活躍できる
社長になる会計士もいる/講演、執筆、その他

特別講臨1 夕日とワインとあの日々と
特別講座2 出題範囲の要旨

カバーデザイン:水野敬一
本文デザインDTP:ムーブ(新田由紀子、川野有佐)
本文イラスト:近藤智子

 

平林 亮子 (著)
日本実業出版社、出典:出版社HP

プロローグ

平林亮子との1問1答
本題に入る前に、プロローグとして私自身の受験生活について紹介しておくことにします。話し言葉のほうが伝わりやすいと考えて、インタビュー形式でまとめてみました。参考にしてください。

1 平林先生の受験動機 公認会計士試験受験のいきさつ

Q.なぜ、公認会計士を目指したのですか?

私が公認会計士を目指した理由は、ズバリ「食べていく力をつけるため」です。大学に入学したのは1994年、平成不況の真っただ中でした。大学の入学式の翌日に行なわれた新入生ガイダンスで、「みなさん、卒業後の就職先はありません。教員免許を持っていても、教員の口もありません」と言われたほどの就職難でした。 専業主婦志望だったので、そもそも就職にはあまり興味がありませんでしたが、それでもその言葉を聞いて驚きました。それほどの就職難だとすれば、きちんと仕事をしている相手を見つけて専業主婦になることも難しいはず。そんな思いが頭をよぎりました。

また、中学、高校と体育会系の陸上部で運動三昧の日々を過ごしていたので、大学に入ってからの暇な時間を持て余しており、「何かしないと、4年間が本当に無駄になるな……」と感じていました。そんなとき、資格試験講座(専門学校)のパンフレットが目に飛び込んできました。大学の生協の入り口に、カラフルなパンフレットが並んでいたのです。資格があれば就職に有利だろうし、一生ものだ。結婚できなかったときの保険にもなるし、専業主婦になってからでも役に立つかもしれない。そう思い、手当たり次第にパンフレットを手にとって、家に持ち帰りました。弁護士、公認会計士、税理士、公務員……。

Q.たくさんの資格の中から、どうして公認会計士を選んだのですか?

パンフレットを持ち帰ると、すぐに試験の難易度や仕事の内容はまったく考えず、両親に相談してみたのです。「大学は暇だし、やりたいこともないから、資格の勉強でもしてみようと思うのだけれど」と切り出すと、両親とも快く賛成してくれました。

さっそく、どの資格を目指すかという話になりました。資格が職業(収入)に直結するものがいい、それならば、弁護士か会計士か税理士か国家公務員か……。そんな適当な話し合いの中、父が、「司法試験は合格するのは無理かもしれないが、公認会計士試験だったらがんばれば受かるかもしれないぞ!」と言い出しました。

しかも、公認会計士試験の講座は、他の講座と比べて授業料が安く、合格すれば「監査法人」という就職先があることから、費用対効果も格段によかったのです。 そんな非常に軽いノリで、公認会計士試験を目指すことになりました。

2 平林先生の受験体験記 その1 短期合格を目指したいきさつ

Q.短期合格を目指したきっかけはありましたか?

ありました。そのきっかけは、短期合格を本気で目指している友人に巡り会ったからなのです。専門学校に通うようになると、同じ試験を目指している他大学の1年生と出会い、話をするようになりました。そんな友人の一人に、「やっぱり1回の受験で合格する(つまり大学3年生で合格する)のは、難しいんだろうね」と話しかけたところ、「大学3年で一発合格できるに決まっているでしょう。どうして本気でそう思えないの?」という言葉が返ってきたのです。

自信を持ってそしてそう答える友人を見て、私も「大学3年で一発合格しよう!」と本気で思うようになりました。また、当初「大学3年生のときに試し受験をして、大学4年生で合格する」と言っていた別の友人も、私たちに出会ってからは本気で大学3年生 での合格を目指すようになり、実際に合格しました。

Q.勉強の途中で「一発合格はやっぱり無理かも」と、弱気になることはありませんでしたか?

私は父との約束で、大学在学中に試験に受からなければあきらめることになっていましたし、「他に夢や目標が見つかればいつでも勉強をやめていい」と言われていましたので、もともと長期にわたって勉強するつもりはありませんでした。とはいえ、当時の合格率は7~8%でしたから、「1回で合格する」とは当初は思っていませんでした。

友人と出会って本気で合格を目指してからは、勉強をやめようかと思うことはありましたが、弱気になることはありませんでした。弱気になっている余裕などなかったというのが正直なところです。結局、大学1年の5月から専門学校に通い始めて、大学3年の7月の試験を受け、運よく1回の試験で合格しましたので、勉強期間はおよそ2年と3か月でした。

難関の資格試験は、とかく「1回では合格できない」「短期合格は難しい」と言われていますが、その思い込みこそが短期合格を阻む一番の壁だと思います。

3 平林先生の受験体験記 その2 受験時代の生活

Q.受験勉強中のスケジュールを教えてください

時期によっても異なりますが、典型的なパターンをご紹介しておきます。

5:00 起床、軽い朝食
5:30 出発、電車の中で自習。専門学校に着いたら自習
7:00 専門学校で答練を受ける
8:30 改めて軽い朝食
9:00 専門学校で自習
11:30 昼食、そして大学へ。移動中も勉強
13:00 大学で授業
18:00 大学が終わり次第、専門学校へ。専門学校で講義または自習
21:00 帰宅、電車の中で自習
22:00 夕食、その他
23:00 就寝

当時は、午前7時からの答練を受けるのが受験生のスタンダードでした。10月から7月までの約10か月間、毎日のように実施されました。 私は、ほぼ休まず、遅刻もせず、ほとんどすべての答練に参加し続けました。 私の知る限り、これを続けることができた受験生で不合格になった人はいません。移動時間は、基本的にすべて勉強時間でした。歩いているときも、勉強していました。移動する前にテキストを読んで頭に入れ、移動の際に、歩き ながら復習するのです。お昼ご飯を食べているときもお風呂に入るとき、 勉強していましたね。

Q.スランプはありましたか?

何度もありました。勉強をやめてしまおうかと思ったほどのスランプは3回ほどあったと思います。成績はそれほど悪くなかったのですが、先の見えない受験生活が無性に苦しくなったのです。あるときは、夜中に家で泣きながら愚痴り続けました。そんな私の話を、母と兄が根気よく聞いてくれました。またあるときは、専門学校で突然泣き出した私を、友人が喫茶店に連れ出してくれて、何時間も話を聞いてくれました。

短答式試験合格後に、まったくやる気を失って、論文式試験の受験をやめようと思ったこともありました。理由はよくわからないのですが、今思えば、燃え尽き症候群のようなものだったのだと思います。短答式試験合格後1週間、まったく勉強をしないまま時間だけが過ぎました。

その後、公開模擬試験の成績が友人よりも悪かったことで、再びがんばろうという気持ちを持てたのですが、本当にそのままやめてしまってもおかしくないくらい、やる気が失せてしまいましたね。他にも、まったく成績が上がらない、というスランプもありました。 あるときは監査論の成績が伸びないことに悩み、あるときは得意だったはずの連結会計の問題が突然解けなくなってしまったことに戸惑いました。

Q.どのようにしてスランプから抜け出したのでしょうか?

成績が上がらないスランプについては、勉強量を増やすことで解決できましたが、スランプと一言でいっても、実際にはいろいろな状況があると思います。成績の良し悪しにかかわらず、スランプは誰にでも訪れる可能性があります。スランプがあったり、逆に調子のよいときがあって当たり前です。ですから無理に克服しようとせず、どんなスランプなのか、なぜスランプなのかを、冷静に見極めることが大切だと思います。

平林 亮子 (著)
日本実業出版社、出典:出版社HP

4 平林先生の受験体験記 その3 本試験について

Q.本試験を受験したときの感想は?

頭の中が真っ白になりました。短答式試験の会場で、文字通り、頭の中に白い紙というか、白い壁が見えたのです。何も考えられないというより、「あ、頭の中が白くなってる」と思いました。実は短答式試験については、それ以上のことはよく覚えていません。論文式試験は、友人と直前に勉強していた内容が出て、少しホッとしたのを覚えています。

ひとつは監査論でした。「通常実施すべき監査手続とは何か」という問題が出ました。この言葉の定義は、睡眠中でも無意識に答えられるくらいしっかりと暗記していたので、スラスラと書くことができ、勢いづきました(なお、現在は「通常実施すべき監査手続」という用語は存在しません)。

もうひとつは財務諸表論(財務会計論)でした。「有価証券の時価評価のメリット・デメリットを述べよ」という趣旨の問題が出ました 会計基準では、有価証券は時価評価をしない、という規定になっていました。そのため、有価証券を時価評価すべきかどうかが議論になっていたのです。これは友人と直前にしっかり勉強した内容だったので、おそらく、きちんと解答できたのではないかと思います。

一方で、見たこともない問題もありました。原価計算(管理会計)で、「ディシジョンツリー」というものが出題されたのです。当時、ディシジョンツリーなんて言葉は見たことも聞いたこともなくて、少しびっくりしたのを覚えています。

ただ、友人と「見たこともない問題はみんな知らないのだから、これほど楽なものはない。解き方は必ず問題文に書いてあるから(そうでなければどうせ誰も解けないし)、問題文を読んでその通りに解いていこう」と話をしていたので、意外と落ち着いて対処することができました。緊張している自分と、試験会場や自分を俯瞰している落ち着いた自分がいて、全体的には本試験を楽しめたと記憶しています。

Q.合格発表まではどんな気持ちでしたか?

合格発表までの日々は、心が落ち着くことはまったくありませんでした。「あれだけできたんだから絶対に受かる!」と思う日もあれば、「いや、やっぱりあの問題もあの問題もできなかったし、落ちるのかも……」と思う日もありました。

また、1日のうちでも「受かる!」と思う時間帯もあれば、「きっと落ちる・・・」と思う時間帯もあって、とにかく、試験のことが頭から離れませんでした。車の免許をとるための合宿教習の予定を入れておいて本当によかったです。その間だけは、教習に集中することで、試験を忘れることができましたから。

Q.合格発表当日のことを教えてください。

合格発表の日は、緊張のせいか朝から非常に気持ちが悪く、合格発表の会場へ向かう電車に乗っているときは本当につらかったです。当時は携帯電話を持っている大学生などほとんどいませんでしたから、会場にたどり着くまで仲間と連絡をとることもできず、自分の合否も友人の合否もわかりませんでした。

会場に着くと、友人が「受かってたよ!」と教えてくれました。それを聞いて、体中の力が抜けました。そう教えてくれた友人も含め、たくさんの仲間と一緒に合格することができました。落ち着いたところで、自分の目でも合格を確認。改めて、友人たちと合格の喜びを分かち合いました。その後、一人になってから、両親に連絡を入れました。本当に喜んでくれましたね。二人とも、合格発表の会場に駆けつけてくれました。そうそう、合格発表の掲示板の前で記念写真を撮りました。

5 公認会計士試験合格後 監査法人就職から独立まで

Q.合格したあとはどうしましたか?

大学3年生のときに試験に合格しましたので、卒業まではアルバイトをしながら遊んで過ごしました。合格発表の少し前に、通っていた専門学校からアルバイトをしないかというお誘いをいただきましたので、合格を待たずしてアルバイトを始めることにしました。

試験合格後は、専門学校だけではなく、監査法人系列のコンサルティング会社でもアルバイトを始めました。コンサルティング会社では、 コンサルタントの資料づくりや調査の補助のようなお仕事をさせていただきます、パソコンの操作などは、こういったアルバイトを通じて覚えることができました。

大学4年生の秋からは太田昭和監査法人(現・新日本有限責任監査法人)でパートとして働き、卒業後にそのまま入社しました。さまざまな企業の監査を経験させていただきましたが、残業もほとんどしないうえに有給休暇を使い切るようなダメリーマンでした(笑)。

Q.なぜ、独立したのですか?

会社勤めを続けられなくなったからです。監査法人に勤めていると、たくさんのクライアント(の社員)さんとお会いします。私は人見知りなので、ものすごい数の人と会っているうちに、本当に心が疲れてしまいました。また、乗り物が大の苦手。山手線で酔ってしまうときもあるくらいなので、通勤はもちろん、出張もきつかったです。

監査業務は好きだったのですが、このような理由から、どうしても心と体がついていかなくなり、監査法人を辞めることにしました。つまり、「独立した」というわけではなく、監査法人を逃げ出しただけだったのです。その後、運よくいろいろな仕事に恵まれて今にいたっています。

独立して仕事を続けられるなんて思ってもいませんでしたが、そういう気持ちがかえってよかったのかもしれません。どんな仕事でも与えられたらしっかりやろう、と思えましたから。独立してみて、本当によかったと思います。自分のペースで仕事ができるので、体調もよくなりましたし、家庭との両立もしやすいと思います。収入は若干不安定ですが、仕事がなくて困ったことはありません。

6 受験指導の道へ 合格者と不合格者の違い

Q.受験指導を始めたきっかけは?

通っていた専門学校から声をかけていただき、受験指導を始めることになりました。子供のころから人前で話をしたり参考書をつくったりするのは大好きでしたので、専門学校から声をかけていただいたのは本当にうれしかったですね。

監査法人に勤務し始めてからも、平日の夜や土日は、専門学校のアルバイトをしていました。こういった掛け持ちは、今では禁止している監査法人も多いようですが、私が働いていたころは業務に支障がなければ容認されていました。そうこうしているうちに、現在にいたるまで、断続的に15年ほど受験指導を続けています。

Q.最近の受験生を見ていて思うことはありますか?

公認会計士試験の受験指導を続けて15年くらいになりますが、いつの時代も、きちんと勉強した人が合格していくのだな、と感じます。「最近の受験生は○○だ!」のような印象はあまりありません。もし、敢えて挙げるとすれば、受験生の中でも大学生はとてもしっかりしている、ということでしょうか。私の知る限りですけれど。バブル崩壊後の時代を生きてきたせいか、とてもまじめに勉強しますし、大学生という遊びたい時期であるにもかかわらず、試験に対して真摯に向き合っている子が多いように思います。

それでいて、お酒も飲むし、カラオケも行く。学生らしさもある。勉強もするし遊びもする。また、お金も、お金では買えないものも、どちらも大切にできるバランス感覚を持っていると感じます。反面、安定志向が強い印象を受けることもあります。以前は、もう少し「独立して自分の事務所を開きたい」「組織に縛られずに生きるために、手に職をつけたい」という受験生が多かったように思います。けれども、現在は、「監査法人(という安定した会社)に就職するために」という日の資格をとる人も多いようです。

どちらがよいとか悪いとかいう問題ではありませんが、資格をとっても安泰ではなく、監査法人であっても倒産する時代だということは知っておいていただきたいと思います。

Q.短期で合格していく人と合格までに時間がかかる人、いずれも努力をしていると思いますが、どこかに違いがありますか?

多くの受験生を見てきた経験上、短期で合格していく人は、「試験に受かるために勉強をする」傾向があるのに対し、合格までに時間がかかる人 は、「理解を深めようとする」「知識を広めようとする」傾向にあります。極端な話ですが、資格試験は、出題された問題に対し合格レベルで解答すれば合格できます。つまり、学者と同じように深く理解していなくても、出題されたこと以外は何も知らなかったとしても、合格できてしまうわけです。

実は私の会計士の先輩に、受験生のときに簿記の連結会計についてほとんど勉強しなかったという方がいました(現在の試験の状況を考えますと、連結会計の勉強は受験生として必要不可欠ですよ!)。「もしも連結会計が出題されていたら、試験には受からなかったのではないか」と言っていましたが、連結会計をほとんど知らないままで会計士になったのは事実のようです。

この先輩の話は、本当にごくまれなケースで、さすがの私もびっくりしました。絶対に真似をしてはいけません。ただ、試験というのはそういうものと割り切る気持ちはとても大切です。つまり、試験に合格するために努力することが、短期合格につながるのです。何を隠そう、私も最初は、長期間型で勉強をしていました。会計の勉強が楽しくて、試験に出ないような内容についても本を読み、答案をどのように書くべきかなど考えずに、理解を深める努力をしていました。こうした勉強法でも、専門学校の答練ではそこそこの成績をとることが可能です。

しかし、本番の試験では、「理解したことを自分なりの言葉で説明できる能力」や「誰も知らないような知識を持っていること」よりも「専門用語を正確に使える能力」「聞かれたことに的確に答える能力」「公認会計士であれば絶対に必要な知識を持っていること」が求められます。私はたまたま、そういう試験への割り切りが上手な友人に助けられ、最終的には試験用の勉強に切り替えることができました。その結果、1回の試験で合格することができたのです。

もし、自分の興味や思考を大切にするという自己満足のための勉強を続けていたら、短期合格は難しかったと思います。

Q.最後に、受験生にメッセージをお願いします。

私は、公認会計士になって本当によかったと思っています。私が会計士になってから今にいたるまで、就職難、粉飾決算がらみの不祥事など、業界にはいろいろなことがありましたが、私自身はこの資格に人生を救われてばかりです。結婚してからも家庭を大切にしながら仕事を続けることができていますし、テレビ出演など資格がなかったら経験できなかったような仕事もさせていただいていますからね。

勉強は大変な面もありましたが、新しいことを学ぶのはとても楽しかったですし、当時の勉強仲間が今では仕事仲間だったりして、資格が紡いでくれた縁に支えられて生きています。たかが資格、されど資格です。きっと、人生を楽しくしっかりと生きるための力になってくれると思います。

平林 亮子 (著)
日本実業出版社、出典:出版社HP