朗読の教科書
目次
はじめに
第1章 閉院とはなにか
1 「読む」ことと「聞く」こと
2 期読を成り立たせる8つの要素
3 判読には3つの段階がある―音読・朗読・表現よみ
第2章 姿勢・発・発音
1 姿勢−上体のリラックスと落とし込み
2 声はどのようにして出るのか
3 声を出すときの4つの働きとその練習方法
4 5分間でできる課題集
第3章 リズムある朗読の仕方
1 日本語のリズムとアクセントについて
2 2音3音の区切りとリズム
3 2音3音ごとに強さアクセントをつける
4 フレーズ作りと目玉アクセント
5 リズムある読み方をするための課題集
第4章 朗読のための文法入門
1 なぜ閉読に文去が必要なのか
2 文分析入門
3 文の意味を明確にするイントネーションの原則
4 文の組み立てとイントネーションの変化
5 文分析による理解と読み深め
6 文分析の道
第5章 記号づけの方法とは
1 記号づけとは
2 記号づけの記号一覧
3 記号づけの方法
4 記号づけの応用法
5 記号づけの課題集
第6章 文学作品の表現方法
1 文のいろいろな形
2 描写と説明の読み方
3 文におけるプロミネンス
4 文と文とのメリハリ
5 人物・会話・対話の表現
6 文学表現の復習課題
第7章 文学作品の文体と「語り口」
1 文学作品をどう読むか
2 ことばの背景にあるもの
3 文学作品の「語り口」
4 文学作品の表現よみ
初版あとがき
改訂版あとがき
参考にした文献(ほぼ当作年代順)
付録 特典音ダウンロードのご案内
はじめに
朗読を楽しむために
この本を手に取ってくださり、ありがとうございます。あなたは、きっと朗読に関心があるのだと思います。この本にどんな期待を抱いているのでしょうか。これから朗読を始めるので学び方のヒントをお求めなのでしょうか。それとも、すでに朗読の勉強を始めているので上達のための参考にされるのでしょうか。
朗読とはだれもが手軽に楽しめるものです。読みたい本があって、声が出て、文字が読めれば、だれでもすぐに始められます。小学生からおとなまで幅広い世代の人たちが楽しめます。自分の好きな詩や物語や小説などを朗読することはとても楽しいことです。一度でも、そんな経験をすると、何度も繰り返し読んでみたくなるものです。
また、朗読はコトバの力をつけるための基礎訓練になります。「読み・書き、話し・聞き」というコトバ勉強の入口になります。子どもが本を読むことから始まって、おとなが話のやりとりをすることにもつながります。さらに、音声に関わる仕事をする人たちーアナウンサー、ナレーター、俳優、声優、司会者などにとっても、音声表現の訓練となるものです。
この本は実践のための本です。理論的な話は最小限にとどめました。多くの人たちがひとりで朗読の勉強ができるように考えて書きました。日本ではこれまで、何度も朗読ブームというものが繰り返されてきました。ところが、残念ながら多くの人たちが途中でやめてしまったようです。わたしもこれまで、いろいろな人たちから、
「どうしたら朗読がうまくなりますか?」
「どんな練習をしたらいいのですか?」
などという質問を受けました。この本には、そんな質問に答えるつもりでいろいろな技術を取り入れました。どれも、「こんな方法があったのか!」と思うほど手軽な方法です。とにかく実行してみてください。必ず成果が上がります。
声のコトバの訓練
この本には、朗読が上手になることのほかに、もうひとつ目的があります。朗読の練習をしながら、日本語のコトバの訓練をすることです。コトバの総合的な能力を高めるための本なのです。
人間はコトバを使ってモノ・コトを考えたり、その考えを人に伝えたりします。日本人が使うコトバは日本語ですが、学校では「国語」として勉強しています。国語の勉強というと、たいていの人がまず漢字の読み・書きを連想するでしょう。また、本を読むにも、作文を書くにも、もっぱら文字のコトパを学んでいます。
しかし、もともとコトバは人間の声だったのです。子どもたちは、話し・聞きという直接の人間関係からコトバを学んで成長します。ところが、おとなになるにつれて声のコトバを失ってしまい、文字で書かれた書類をやりとりして、文章を黙読するようになります。最近、若い人たちには、話すのが苦手だとか、人とのやりとりが苦手だという人が増えています。
また、読書ばなれという状況も進んでいます。それも声のコトバの能力が落ちたことが原因なのです。まず、何よりも、自分の考えを声のコトバにすること、自分の考えを人に話すこと、そんな能力を鍛える必要があります。
コミニュケーションとは、コトバで行われるものです。思いだけでは伝わりません。声による話しコトバが基本です。自分の口にするコトバが何を意味するのか、どう理解して、その内容をどう伝えるのか。コトバの意味は、音声においては、アクセント、イントネーション、プロミネンスによって表現されます。
そのための訓練方法として、朗読は最適な方法なのです。朗読とは、文字に書かれた文章を声に出してなぞるようなものではありません。からだ全体を使って、コトバを声にすることによって心を表現するものです。それによって、文章に書かれたコトバを理解するとともに、話す力を身につける訓練ができます。
この本は、ただ読むための本ではありません。いろいろと具体的な実践方法を提供していますから、繰り返し身につくまで練習してください。発声・発音の基本から、文による考えの組み立て方、そして、考えの表現の仕方まで訓練することができます。一度ざっと読んで終わりにするのではなく、繰り返し訓練することによって、自らのコトバで自らの考えを表現できる力がつけられます。
この本の読み方
どこからでも関心のあるところから読み始めてください。第1章は朗読についての総論、第2章から第5章までは、朗読の基礎的な能力をつけるための体力作りの草です。特に、第2章の発声・発音は、継続して行うべき基礎訓練です。そして、第6章と第7章は、文学作品の表現能力をつけるための章です。上級編といってもよいでしょう。ここまでくれば、さまざまな作品を自由に朗読できます。
この本には3つの部分があります。「本文」と「練習課題」と「コラム」です。本文をたどっていくと、朗読について理解できます。でも、朗読の実力をつけるためには、必ず「練習課題」を朗読しながら読んでください。見本が付録の特典音声に録音されています。必要に応じて耳で聴いて練習してください。そして、「本文」の内容についてもっと詳しく知りたくなったら、「コラム」も読んでください。朗読の基礎となる理論や豆知識を身につけることができます。
また、教室で教科書として使えるように、各章の終わりには復習問題もつけておきました。ひとつひとつの「練習課題」が身につくまで実行してください。この本はひと通り読み終えればよいという本ではありません。ずっと手元において、繰り返し繰り返し読みなおすための本です。朗読の実力は、基本的な練習を繰り返すことによってつけられるものです。しかも、楽しみながら総合的なコトバの能力を高めてくれます。
最後に、わたしを表現よみに目覚めさせてくれた師・大久保忠利の3つのスローガンをご紹介します。
実行が実力を生む!
コトバの力は生きる力
コトバは一生かかって磨くもの