先輩に聞いてみよう! 臨床心理士の仕事図鑑 (先輩に聞いてみよう!仕事図鑑シリーズ)




巻頭インタビューINTERVIEW

INTERVIEW 臨床心理士 小澤満玲

先輩に聞く! 臨床心理士の新たな使命とは?
心の病気が増えるなか、新たな国家資格「公認心理師」の登場もあり、ますます注目される「臨床心理士」。しかし、具体的にどんな活動をしているのか、イメージできる人は少ないかもしれません。

巻頭では、登録10年目になる先輩、小澤満玲さんにそのお仕事についてお話を伺います。

(インタビュアー:植田健太)

Q1 いま、どんなお仕事をされているのでしょうか。
早稲田大学人間科学部の大学院を卒業してからは、自治体での心理職をメインに、スクールカウンセラーやインターネットを使ったうつ病予防のプログラムのカウンセラー、そして今後は企業でのカウンセリングなどを展開していく予定です。以前は心療内科、精神科のクリニックでも働いていた時期がありました。

もともとは、子どもへのカウンセリングをメインにしていたのですが、かかわった子どもたちは成長して大人になっていきますし、また、現在大人が抱えている問題や課題が、子どもの頃の体験や経験によるところが多いのを感じて。

そこをトータルに見ていきたいな、ということを日々感じるようになって。それで、子どもから大人まで幅広くかかわれる今の仕事スタイルになりました。

Q2 子どもから大人までをカウンセリング、なかには深刻な問題もあって大変そうに思いますが。
そうですね。相談の内容が虐待・いじめなどネガティブな内容であったり、生死にかかわることであったりすると、聞いている私自身のエネルギーが吸い取られるようでかなり疲労を感じることがあります。

それでも、相談者の問題が解決して「もう先生がいなくても大丈夫です」と言われるときは「この仕事をしててよかった!」と思います。すぐに解決するような相談は少なく、何年もかかってようやく・・・という長い道のりのものも多いのですが。

子どもも大人もその人自身のもともとの力があり、それぞれがその問題に対峙したり受け入れたりして変わっていきます。

Q3 やりがいを感じられてお仕事をされているようですね。そもそも小澤さんはなぜ臨床心理士を目指されたんでしょうか。
そもそも「心」に興味がありました。大学を目指すときから迷うことなくこの道だったんです。どうして興味があったのか…周りで不登校の友達がいたり、当時酒鬼薔薇事件などセンセーショナルな事件があったりして。「心」というものに自然に惹かれていったのかもしれません。

もちろん、大学受験では色々な学部も受けましたが、幸い希望する早稲田大学人間科学部に入ることができました。

Q4 早稲田大学人間科学部ではどんな勉強をしましたか?
ゼミに入る前の大学1、2年は哲学とかスポーツ系とか、文化人類学とか。いろんな授業をとりました。とにかく高校と違って興味のあることを学ぶので、楽しくて仕方なかったですね。その後、認知行動療法と学校カウンセリングに興味を持ち、悩んだ末、学校カウンセリングのゼミに入りました。

ゼミでは、発達検査、性格検査、さまざまな心理療法などの内容を学ぶだけでなく、実際に自分でも検査を体験しました。自分自身のこともわかって面白かったですね。それらは、今の仕事で実際に使っている知識なので、とても勉強になりました。

『心理学』というと文系の学問と思われますが、「エビデンス・ベースド」が基本でじつはかなり理系寄りなんです。つねに実験データや症例など数字による実証が求められるわけです。だから、統計とか分散とか結構数学を使いますね。

Q5 『心理学』といったときに一般の人が想像するトラウマとか、そういうのよりずっと理系的な学問ですよね。小澤さんはその後大学院に進学されますが、大学院ではどのようなことを学ばれましたか。
大学院は実習がメインでした。机上で学んだことを実際に行ってみて活用する、という感じでしたね。クリニックや小学校、中学校、大学の相談室などが主な実習先でしたが、実習してみたら想像した内容と違うなんてこともありました。

スクールカウンセラーに随行して1日過ごした時は、給食を生まれて初めて食べました(笑)。じつは私、学生時代ずっとお弁当で学校給食って食べたことなくて(笑)。校長先生が「じゃあ給食をごちそうするよ」って食べさせてくださいました。

実習はこんな感じで楽しいんですが、報告書や検討会は大変でしたね。

Q6 大学院卒業後はすぐに就職されたのですか?
自治体で非常勤として働きはじめました。じつは、大学院を卒業しても、仕事を始めた段階では資格がないんですよね。だから「資格見込」としての採用なので、仕事と勉強を両立しなければならず大変でした。

大学院卒業は単なる受験資格だから、そこから臨床心理士試験を受けるんです。

私はスキマ時間でなんとか勉強しました。覚える項目をマイクで吹き込んで聞きながらマラソンしたりしていましたね(笑)。

Q7 無事に臨床心理士試験に合格されて。資格見込から資格者になったわけですね。自治体ではどのようなお仕事をされているのでしょうか。
私の所属している自治体は部署ごとに仕事内容が違い、心理職はその部署間を行き来しています。さまざまな仕事がありますので一言で表現するのは難しいですが。

例えば、保護者や子どもに相談室へ来てもらって、面接や遊戯療法を行います。電話相談に応じることもあります。また、小学校・中学校からの依頼により実際に学校に出向き、気になる児童・生徒の観察を行って、学校の先生とともに対応を考えたりすることもあります。

小学校や中学校へ進学の時期には、子どもたちがどの学校や学級に就学するのが1番良いのか相談を受けます。発達検査を実施したり実際にその子どもの様子を観察して、どの就学先が良いのかを考えます。

そのほか、不登校の児童や生徒が通う適応指導教室で心理的ケアを行うこともあります。

Q8 現在は、こちらの自治体のお仕事をメインに、ほかのお仕事にもかかわっていらっしゃるんですよね。
はい。スクールカウンセラーとしても活動しています。

こちらでは、配属された学校の子どもたちや保護者に対してカウンセリングを行います。また、学校の先生方が子どもたちへの対応に迷ったときに、一緒に解決策を考える役割を担っています。地域の病院、教育相談室、関係機関などと電話でやり取りをしたり、子どもの支援をみんなで考える会議に参加したりしています。

重いケースであればあるほど、さまざまな機関が関わります。そのため、情報交換や連携は不可欠なんです。関係機関それぞれの役割があるので、時には足並みを合わせるのに苦労することもあります。

Q9 そして、企業で働く大人へのカウンセリングも行っていると。
以前はクリニックで、すでに病を患っている方へカウンセリングをしていましたが、今は予防的なかかわりが多いです。平成27年12月より労働安全衛生法が改正され、従業員50人以上の企業にストレスチェックが義務化されました。国が指定する質問項目に働く方が回答するのですが。

そこで、高ストレス、ストレスが高いと判断された方で、かつ、カウンセラーとの面接を希望された方との面接を行います。

Q10 労働安全衛生法が改正されたのは、あまりに働き盛りの自殺が多いからです。これはあまりにも悲劇ですよね。
最近、過労による自殺が報道され話題になりましたが、実際のところ15歳~40歳までの死因の第1位は自殺だそうです。

先進7カ国(日本・フランス・ドイツ・カナダ・米国・英国・イタリア)のなかでも、若者の死因で事故が自殺を上回っているのは日本だけと聞きます。

誰にも相談できず、1人で抱え込んで、うつ病や自殺に追い込まれて…。もっとカウンセリングが身近な存在になっていく必要があります。

アメリカのドラマや映画なんかを見ていると、よくカウンセラーが出てきますよね。カウンセラー社会になっていて、大学や高校での専攻とか授業を決める時ですら相談するのが普通のようです。

Q11 そのようにカウンセリングが当たり前の世界にしていくために、私たち臨床心理士のほうも積極的に活動していかなくてはいけませんね。高学歴プアとか言われている場合ではなくて(笑)。
よく資格を取っても食べられない「足の裏の米粒」のようなものだとか。臨床心理士資格についてネガティブな情報を聞く方も多いかもしれません。

でも、弁護士も、会計士も、同じように言われていますし。資格全般について「とればバラ色」ということではないのかと。

公認心理師が国家資格になったことからも、今社会に求められている資格であることは間違いがないと思います。

Q12 そうですね。とうとう公認心理師が国家資格に。とりますか?
まだ資格の全貌が見えませんけれども、とるつもりです。やはり多くの臨床心理士が取得して「公認心理師・臨床心理士」になるのかな、と思います。『そもそも「臨床心理士」が国家資格だと思っていた』とよく言われます。今までは民間資格だったんですよね。それで、ニーズの高まりを受けて新たに「公認心理師」という国家資格ができました。

Q13 私自身は、企業に積極的に営業していくぐらいの気概をもった人材にどんどん入ってきていただだきたい。実際のところカウンセラー1人採用して、企業の優秀な人材の流出が止められるんだったら安いものではないですかと。
たしかに、企業に対しては費用対効果が高いことを主張していかないとダメですね。

カウンセリングだけでなく、企業内でのストレスケアや予防について広められると、社会が変わってくると思います。自分のストレスは意外に気がつきにくいものなので。

Q14 最後に、これから目指す人にメッセージをお願いします。
マザーテレサの言葉に「Lifeisanopportunity、benefitfromit(人生とは機会です。その恩恵を受けなさい)」というのがあります。やりがいを感じられる職業に就けることはとても幸せです。もし「心」に興味を持ってこの書籍を手にとられたのであれば、それが臨床心理士への第一歩です。ぜひ自分の興味を活かす方向で将来を考えていただければと思います。

公認心理師、臨床心理士が活躍することにより、通勤電車に乗る人、世の中の子どもやそれに携わる人達の顔を明るくしていきたい、そんな思いを持っています。

一緒に頑張っていきましょう!!

PROFILE

臨床心理士小澤満玲MireOzawo
臨床心理士。早稲田大学大学院卒。現在は、自治体での心理職をメインに、スクールカウンセラー、企業で働く人へのカウンセリングも行っている。
写真:滝口元(フォトサロン麹町)

植田健太 (編集), 山蔦圭輔 (編集)
出版社: 中央経済社 (2017/5/27)、出典:出版社HP

業界まるわかりMAP

臨床心理士にはさまざまな働き方があります。自分の思い1つでこのMAPの中を行き来することが可能です。このMAPに載せきれない働き方をしている人もいます。

皆さんはどんな働き方を選びますか?

学校の相談窓口
>小学校・中学校・高校のスクールカウンセラー
>大学の学生相談室等

職場のメンタルヘルス関連
>大手企業の健康管理センター・相談窓口
>外部EAP機関等

私設心理相談機関
個人で開業した心理相談室等

大学・大学院
大学職員として研究や後進の指導に当たる等

国や地方自治体の相談窓口・機関
>保健所
>精神保健福祉センター
>児童相談所
>療育センター
>女性相談所
>教育相談所等

医療機関
>総合病院の精神科
>精神病院
>心療内科
>小児科
>心理相談室併設の診療所等

CONTENTS

巻頭インタビュー
先輩に聞く!臨床心理士の新たな使命とは?
業界まるわかりMAP

PARTⅠ 臨床心理士の仕事とは?

一番有名な心理職の資格、臨床心理士
そもそも臨床心理士とは?
臨床心理士の専門性とは?
臨床心理士の活躍の場は?
COLUMN産業界がいま、臨床心理士を求めている!

PARTⅡ プロフェッショナルのONとOFF

スクールカウンセラーとして思春期を支える>>真子紘子
クライエントを救うため心理相談室を開業>>成田恵
日本のビジネスパーソンの顔を明るくするため起業>>植田健太
研究大好き!周産期のメンタルヘルスを研究>>土井理美
国立大学で障害学生を支援>>村中泰子
大学教員として後進を育てる>>山蔦圭輔
EAPで働く人を支援>>小薬理絵
社会人や留学経験を活かして産業関係で支援>>A.O
精神障がいのある方の自立を支援する>>須賀雅浩
アロマテラピーやハーブを活かしてカウンセリング>>山本裕美
COLUMNメンタルケアとしてのハーブのすすめ

PARTⅢ 臨床心理士になるために

臨床心理士試験を受けるには?
指定大学院に行くには?
臨床心理士試験の概要

もっと知ってほしい臨床心理士ってこんな人!?

おわりに

「先輩に聞いてみよう!仕事図鑑シリーズ」は学生や若手社会人の皆さんに代わってバリバリ働く先輩たちに取材し、リアルな声を集めたお仕事ガイドです。

1つの業界の中でも、いろいろな働き方があります。自分のキャリアを選ぶとき、この本と出会えば、きっと新しい道が見つかるはずです。

植田健太 (編集), 山蔦圭輔 (編集)
出版社: 中央経済社 (2017/5/27)、出典:出版社HP