福祉事務管理技能検定テキスト〈2〉老人・障害者の医学と心理 (福祉事務管理技能検定テキスト 2)




福祉事務管理技能検定テキストシリーズへの改訂にあたって

本シリーズの前身である「福祉事務管理シリーズ」(全7巻+別巻)は、2002(平成14)年7月に初版を刊行し、2006、2007年には介護保険法の改正(2005年)を受けて、内容の見直しならびに記述の大幅な改正を行って“新版”とし、今日に至ります。

高齢社会の急速な進展、財政の逼迫などを背景に、福祉諸施策・制度・基準等にかかわる近年の動きはまことに急です。また、改正介護保険法は、施行後3年を目途に改正の成果を検証することを定め、3年を1期とした制度見直しや財政運営の見直しを行って介護保険事業計画を定めるよう規定しています。

そこで、初版発行後10年を機に行う今回の改訂では、社会保障・福祉制度の動向、介護保険・報酬制度の改定、介護福祉士養成カリキュラムの改定などの最新動向を盛り込むとともに、今後の動向にも柔軟に対応できるよう、構成・解説を全面的にリニューアルした新シリーズとすることとしました。

新シリーズ刊行にあたっては、福祉事務管理技能検定2・3級の技能審査基準に沿って巻構成を大幅に整理・削減し、以下の4巻構成としました。

1 社会保障・社会福祉論
2 老人・障害者の医学と心理
3 介護の基礎
4 介護保険制度
(*旧シリーズ別巻の介護報酬早見表(『介護報酬請求事務』)は、新シリーズにはラインアップせず、他の成書を参照していただくこととしました。)

また、資格取得にかかわる教育に実際に携わっておられる現行検定委員の先生方を中心に執筆をお願いし、旧シリーズ以上に出題基準に沿った解説を行い、基礎的な理解を図れるよう意図しました。解説にあたっては、できるかぎり平易かつ簡潔な記述を心がけるとともに、イラスト・模式図などを多用し、ビジュアルな要素による理解を図れるよう配慮しました。

福祉現場の厳しい労働環境などが一部で喧伝され、介護福祉士養成校の定員割れ、経済連携協定(EPA)に基づく外国人介護福祉士候補の受け入れなどが話題になっていますが、福祉実践にかかわる諸資格や関連の実務技能を備えた人材の社会的需要が今後ますます増大することは論を待ちません。
新たに全面リニューアルした本シリーズで学ばれる諸兄が、将来の福祉を担う優秀な人材として活躍されることを確信しております。

2011年2月 医療秘書教育全国協議会

大谷 佳子 (著), 白井 孝子 (著), 医療秘書教育全国協議会 (監修)
出版社: 建帛社 (2011/4/1)、出典:出版社HP

福祉事務管理シリーズ刊行にあたって

2000年(平成12年)4月より介護保険制度が実施され、保健・医療・福祉の分野において超高齢社会に対応する施策が計画的に進められています。各事業体では、ますます多様化する社会需要に対応するために、関係分野との連携を密にしながら、社会に提供する機能の内容を包括化する努力を行っています。

また一方で、社会保障制度における社会保険、公的扶助、公衆衛生、社会福祉の四つの柱はそれぞれ独立したものではなく、密接な関係性を見据えることによって国民の生存権の確保へ連結するという意味から、各制度の統合を推進し、包括的に保障する制度改革が予定されています。

このような状況のなかで、医療秘書教育全国協議会では、社会環境からの必然性、医療機関側からの要請、就職先および職種の開拓、福祉関連職種養成の教育効果、医療秘書・福祉関連教育現場の期待、といったさまざまな側面からのニーズに鑑み、このたび「福祉事務管理技能検定」を創設しました。

具体的には、2級ならびに3級の資格取得を目標に、所定の技能審査基準に基づき、「領域I社会保障、社会福祉制度」、「領域II老人・障害者の医学と心理、介護の基礎」、「領域II介護保険制度、介護報酬請求事務」の三領域による検定試験を実施するものであります。

「福祉事務管理シリーズ」は、上記の試験科目に対応した標準的なテキストとして企画・立案されたもので、以下の7巻で構成されます。

1 社会福祉論I
2 社会福祉論II
3 老人・障害者の心理
4 介護基礎論
5 医学一般・精神保健
6 介護保險制度論
7 介護福祉運営論

各巻ともに、福祉教育現場の第一線で活躍する先生方や、豊かな福祉実践経験をもつ各分野のスペシャリストの方々にご執筆いただきました。「福祉事務管理シリーズ」で学ばれた方々が、将来の福祉を担う実務家となられるよう期待して、発刊の言葉といたします。

2002年7月
医療秘書教育全国協議会
検定試験委員長 橋本勝信

はじめに

急速な高齢化が進む中、長寿国家としてのわが国では少子高齢化という言葉が聞かれるようになって久しい。長寿国家を支える仕組みとして2000(平成12)年に開始された介護保険制度も10年を過ぎた。2015年には団塊の世代が65歳を迎え、また2025年には現在1千万人といわれる後期高齢者が2千万人に達し、倍増する時代がくる。介護保険制度はわが国が経験したことのない高齢化に対応していくために、今後も改定されて継続されていく仕組みである。

このように変化する中、介護を取り巻く現状も変化している。第一に、介護保険制度の導入や障害者自立支援法の制度等により、認知症の介護など従来の身体介護にとどまらない新たな介護サービスへの対応が求められている。第二に、利用者がサービスを選択できる制度を導入したことに伴い、サービスの利用支援、成年後見、権利擁護等の新しい相談援助の業務が拡大してきていることがあげられる。このような中「社会福祉士及び介護福祉士法」が改正され、介護を支える人材養成の方法も変化してきている。

本書は、医療秘書教育全国協議会の監修による「福祉事務管理技能検定テキスト」の一冊として、福祉事務職をめざす方々のために『老人・障害者の医学と心理』という書名で、新たな教育内容をもとに全体を改訂した。その主な内容は、人のこころとからだはひとつのものであり、こころとからだの不都合が影響し疾患となり、生活に支障をきたすことを中心として構成されている。また、人が生活していく基本となるのは健康であることから、健康的な生活を支える保健医療対策についてもふれている。

本書を活用して福祉事務管理についての学びを深めながら、人として自分のこころとからだの仕組みを知ることができ、さらには健康的な生活をするための社会の仕組みを知ることができる。ひいてはわが国の現状に興味をもつための基礎知識になることが期待できる。

2011年2月
大谷佳子 白井孝子

大谷 佳子 (著), 白井 孝子 (著), 医療秘書教育全国協議会 (監修)
出版社: 建帛社 (2011/4/1)、出典:出版社HP

目次

Chapter1 からだの理解

① からだの構造と機能
1. 脳・神経系
(1) 脳と脊髄
(2) 脳とそのはたらき
(3) 脳神経と脊椎神経
(4) 自律神経
2. 骨・筋系
(1) 骨と骨格
(2) 関節
(3) 筋肉
3. 血液循環器系
(1) 心臓
(2) 血液
4. 呼吸器系
(1) 呼吸器系器官と主なはたらき
5. 消化器系
(1) 消化器官と主なはたらき
6. 泌尿器系
(1) 泌尿器と主なはたらき
7. 内分泌系
8. 感覚器

Chapter2 からだと生活の関係

① 生活と健康の関係
1. 健康の定義
2. 健康寿命

② 身じたくに関連したからだの仕組み
1. 身じたくを整える効果
2. 爪
(1) 爪の構造と機能
(2) 爪の老化による変化
3. 毛髪
(1) 毛髪の構造と機能
(2) 毛髪の老化に伴う変化
4. 口腔
(1) 歯の構造と機能
(2) 舌の構造と機能
(3) 唾液と唾液腺の構造と機能
(4) 口臭
(5) 口腔の老化に伴う変化
(6) 口腔内の変化として予測されること

③ 移動に関連したからだの仕組み
1. 移動することの意義
2. からだを支える
3. 筋力・骨の強化の仕組み
4. よい姿勢の条件
5. 歩行の仕組み
6. 良肢位
7. 機能の低下・障害が及ぼす移動への影響
(1) 視力低下
(2) 聴力低下
(3) 運動機能低下
(4) 円背
(5) 片まひ
(6) 骨折

④ 食事に関連したからだの仕組み
1. 食事をすることの意義
2. からだをつくる栄養素
(1) 炭水化物
(2) 脂質
(3) たんぱく質
(4) 無機質(ミネラル)
(5) ビタミン
3. 空腹を感じる仕組み
4. 食事摂取の仕組み
5. 消化と吸収の仕組み
6. 食事に関連した機能の低下・障害が食事に及ぼす影響
(1) 食欲低下
(2) 姿勢
(3) 片まひ
(4) 窒息
(5) 誤嚥
(6) 低栄養

⑤ 入浴に関連したからだの仕組み
1. からだを清潔にすることの意義
2. 汗の出る仕組み
3. 皮膚の汚れ
4. 陰部の汚れ
5. 入浴の効果
6. 入浴の負担
7. 入浴と事故
8. 機能の低下・障害が及ぼすからだへの影響
(1) 視覚機能の低下
(2) かゆみ
(3) 脱水

⑥ 排泄に関連したからだの仕組み
1. 排泄することの意義
2. 排泄に関連するからだの仕組み
(1) 排尿の仕組み
(2) 排便の仕組み
(3) 便の形状
3. 機能の低下・障害が排泄に及ぼす影響
(1) 尿失禁
(2) 便秘
(3) 下痢
(4) 人工膀胱
(5) 人工肛門
(6) 人工透析
(7) 尿路感染症

⑦ 睡眠に関連したからだの仕組み
1. 睡眠の意義
2. 睡眠の仕組み
3. 機能の低下・障害が睡眠に及ぼす影響
(1) 不眠
(2) レストレスレッグス症候群
(3) 睡眠時無呼吸症候群

⑧ 死にゆく人に関連したからだの仕組み
1. 身体機能の変化
2. 死後のからだの変化
(1) 体温の変化
(2) 死斑
(3) 死後硬直

Chapter 3 高齢者の代表的な病気

① 高齢者の病気の特徴

② 高齢者に多い病気の特徴
1. 主なからだの変化
(1) 骨・筋系の主な変化
(2) 循環器系の主な変化
(3) 呼吸機能の主な変化
(4) 消化機能の主な変化
(5) 感覚機能の主な変化
2. 高齢者に多い病気
(1) 骨粗鬆症
(2) 骨折
(3) 脊柱管狭窄症
(4) 変形性脊椎症
(5) 変形性関節症
(6) 関節リウマチ
(7) 白内障
(8) 緑内障
(9) 加齢黄斑変性症
(10) 老人性難聴
(11) 慢性硬膜下血腫
(12) 心不全
(13) 胃・十二指腸潰瘍
(14) ウイルス性肝炎
(15) 糖尿病
(16) 前立腺肥大症
(17) 結核
(18) 感染性胃腸炎
(19) MRSA 感染症
3. 廃用症候群(生活不活発病)
(1) 褥瘡
(2) 起立性低血圧
(3) 老人性皮膚瘙痒症

Chapter 4 障害者(児)に多い疾患

① 遺伝子病
1. 主な遺伝子病
(1) 常染色体慢性遺伝
(2) 常染色体劣性遺伝
(3) 伴性劣性遺伝
2. その他の遺伝子病

② 染色体異常

③ その他の障害

Chapter 5 生活習慣病

① 成人病から生活習慣病へ
1. 食習慣に対して
2. 運動習慣に対して
3. 喫煙習慣に対して
4. 飲酒習慣に対して

② 生活習慣病とは
1. 生活習慣病の概要
(1) 動脈硬化症
(2) 高血圧症
(3) 脳血管疾患
(4) 虚血性心疾患
(5) 糖尿病
(6) 脂質異常症(高脂血症)
(7) 高尿酸血症(痛風)
(8) がん(悪性新生物)
(9) 肥満
(10) メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)
(11) 慢性気管支炎
(12) 慢性閉塞性肺疾患
(13) アルコール性肝疾患

Chapter 6 介護保険における特定疾病

① 特定疾病とは
1. 特定疾病の概要
(1) がん末期
(2) 筋萎縮性側索硬化症
(3) 後縦靭帯骨化症
(4) 骨折を伴う骨粗鬆症
(5) 多系統萎縮症
(6) 初老期における認知症
(7) 脊髄小脳変性症
(8) 脊柱管狭窄症
(9) 早老症(ウェルナー症候群など)
(10) 糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症
(11) 脳血管疾患(脳出血、脳梗塞など)
(12) 進行性核上性まひ、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病
(13) 閉塞性動脈硬化症
(14) 関節リウマチ
(15) 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
(16) 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

Chapter 7 こころの理解

① こころの仕組み
1. こころとは
2. 人間の欲求:マズローの欲求段 階説
3. 欲求とフラストレーション
(1) 欲求充足の障壁
(2) フラストレーション反応
(3) フラストレーション耐性
(4) 適応機制

② こころの健康:メンタルヘルス
1. メンタルヘルスとは
2. こころの問題とは
3. 精神病(精神障害)とは

③ 人の発達とメンタルヘルス
1. 乳幼児期・児童期
(1) 乳児期の特徴
(2) 幼児期の特徴
(3) 児童期の特徴
(4) 子どものこころの問題
2. 青年期
(1) 青年期の特徴
(2) 青年期のこころの問題
3. 成人期
(1) 成人期の特徴
(2) 成人期のこころの問題

④ 精神障害
1. 代表的な精神障害
(1) 統合失調症
(2) 気分障害(躁うつ病)
(3) 神経症性障害(神経症)
(4) ストレス関連障害(心因反応)
(5) 心身症

⑤ こころの問題への対応
1. ヒューマニスティック心理学的アプローチ
(1) 来談者中心療法(カウンセリング)
(2) フォーカシング
(3) エンカウンターグループ
2. 行動療法的アプローチ
3. 精神分析的アプローチ
(1) 精神分析
(2) 箱庭療法(サンドプレイセラピー)

Chapter 8 高齢者の心理特性

① 高齢者の理解
1. 老年期の特徴
(1) 老性自覚と喪失体験
(2) 老年期の発達課題
2. 老化とは

② 加齢に伴う精神機能の変化
1.認知機能
(1) 知的能力
2.記憶機能
3. パーソナリティ(人格)

③ 高齢者のこころの問題
1. 老年期のうつ病
2. せん妄
3. 幻覚・妄想
4. 高齢者の自殺
(1) 自殺の原因
(2) 自殺の予防

④ 認知症
1. 認知症とは
2. 認知症の原因疾患
(1) アルツハイマー型認知症
(2) 脳血管性認知症
(3) レビー小体型認知症
3. 認知症の症状
(1) 中核症状
(2) BPSD(認知症による行動症状・心理症状)
4. 認知症高齢者に対する心理的理解
(1) 不安、とまどい
(2) 孤独感
(3) 自信・自尊心の喪失
5. 認知症高齢者への対応
(1) 心理的援助
(2) 効果的なコミュニケーション
(3) 認知症高齢者に適用可能な心理療法

Chapter9 障害者の心理特性

① 障害者の理解
1. 障害の定義
(1) 日本の法制度における定義
(2) 国際生活機能分類(ICF)による定義
2. 手帳制度と障害の等級
(1) 身体障害者
(2) 知的障害者
(3) 精神障害者

② 障害者の心理
1. 障害者心理の2つの側面
2. 発生時期に基づく分類とその心理
(1) 先天性障害
(2) 中途障害

③ 障害形態別の心理
1. 身体障害者の心理
(1) 視覚障害
(2) 聴覚障害
(3) 肢体不自由
(4) 言語障害
(5) 内部障害
2. 精神障害者の心理
3. 重症心身障害者の心理
4. 知的障害者の心理

④ 障害者への心理的対応
1. 障害の受容
(1) 身体的な受容
(2) 心理的な受容
(3) 社会的な受容
2. 価値転換理論
3. ピアカウンセリング

Chapter 10 公衆衛生・保健医療対策の現状

① 公衆衛生の現状
1. 少子高齢化
2. 人口増加率と出生率
3. 平均寿命

② 保健医療対策の現状
1. 生活習慣病対策
(1) 21 世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)
(2) 健康増進法
2. 母子保健対策
3. 感染症対策
4. 難病対策

Chapter 11 高齢者のこころとからだを守る:高齢者虐待防止

① 高齢者虐待防止法

② 家族介護者(養護者)による虐待

③ 施設内介護従事者による虐待

索引

大谷 佳子 (著), 白井 孝子 (著), 医療秘書教育全国協議会 (監修)
出版社: 建帛社 (2011/4/1)、出典:出版社HP