食品安全検定テキスト 初級 第2版
はじめに
惑星探査機はやぶさ2が小惑星リュウグウの岩石の採取に成功しました。生命の起源の解明に役に立つことが期待されています。無事に帰ってきて欲しいものです。生命は38億年前に地球の海で誕生したとする説と、地球の外からやってきたとする説があります。
人間は、その生命を受け継ぐ生物の一種です。食べないと生きて行けない従属栄養生物です。食べることは喜びであり、楽しみでもありますが、食べた後に腹痛などの健康障害が起きてしまうこともあります。
ヒトはなぜ調理をしたり食品を加工したりするのでしょうか。そのままでは食べられない食材も調理・加工することで、食べられるようにし、より美味しく、食べやすいものにしています。忘れてはならないのは、より「安全」にしていることです。
食品の取り扱いを間違えると、安全性を低下させることもあります。食品の原材料のほとんどは生物なので、放置すると腐って、食べられなくなってしまいます。食品安全は常に変化する動的なものです。
食中毒などに悩むことなく、快適な食生活を送るためには、過去を振り返ることも必要です。祖先から受け継いできた、食べ続けるための知恵や技術を科学の目で捉え、科学的根拠に基づき、食の安全を考えることが大切です。
わが国は世界中から食料を輸入していることから、地理的な広がりのことも考えなければなりません。増え続ける世界の人口や気候変動に伴うフードチェーンの変化など、持続可能な食料調達という課語も目を向けることが必要です。農業、漁業などの第一次産業から、通・加工・調理を経て、消費にいたるまでの全過程における安全への配慮が求められています。
食品安全とは何でしょうか。「安全」には過去の経験を活かし、現在や未来についても無事であることを願う意味がこめられています。より分かり易く、そして新しい情報もお伝えするために「食品安全検定初級」用のテキストを改訂しました。本書が、食品安全の入門書として皆さんの食生活やお仕事に役立つことを心より願っています。
食品安全検定協会運営委員会委員長
一般財団法人日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授
一色 賢司
食品安全検定とは
食品安全検定は、食の安全に対する消費者及び「食」に携わるすべての人々の信頼性を高めるため、科学的根拠に基づく食品の原材料の生産から加工・製造・販売や最終消費までの過程における、安全性確保の考え方や方法について啓発及び普及活動を行い、我が国の食品安全文化の醸成に貢献することを目的としています。
検定の特長
「食の安全」に対する基本的な考え方を学ぶことで、食の安全に対する理解が深まり、実務に役立てることができます。
「なぜ、そのようにしなければいけないのか」を理解し、行動に移すことができます。
この検定を受けていただきたい方
食に関わる現場で働くすべての方
食の安全に関心をお持ちの方
食に関わる仕事につきたい方
※食品製造、流通、外食等での従業員教育や大学等での食品安全に関するカリキュラムの効果測定にも活用いただいております。
本書の使い方(第2版の発行にあたって)
本書は、食品安全検定協会が主催する「食品安全検定・初級」の教科書として作成したものです。
食品安全検定を開始してから5年を迎えることができました。当初、初級テキストは、中級テキストをベースに食品安全の入門書として再編しましたが、5年間の経験を踏まえ、今回、第2版として、大幅に刷新しました。
食の安全に関わるテーマを4つのパート、60テーマに集約し、2ページ基本として再編成しました。
PartⅠ 食品安全入門
食品安全に関する基本的な考え方や基本用語を学びます。
PartII 食の安全を脅かす可能性のある危害要因
食の安全を脅かす可能性のある危害要因(ハザード)を生物的要因、科学的要因、物理的要因に分類して、主要な危害要因について学びます。
PartIII 田食料調達のために使用されるもの
持続可能な食料調達という課題に対して、安全性を科学的視点で捉えることを学びます。
PartⅣ 食の安全を守る仕組みと制度
フードチェーン(原材料の一次生産から、消費に至るまでの食品を調達する工程)全体で食の安全を守る仕組み、制度、法令の概要を学びます。
本書に関するご意見、ご質問は以下の宛先まで書面またはメールにてお送りください。
食品安全検定協会
〒106-0045東京都港区麻布十番2-11-5
メールアドレス:fs-info@fs-kentei.jp
ホームページ:https://fs-kentei.jp
古都港区麻布十番2-11-
5麻布新和ビル4F
目次
はじめに
食品安全検定とは
PartI 食品安全入門
食品安全入門
1 食の安全の歴史から
2 食の安全と安心
3 ハザードとリスク
4 量とリスク(ADIとTDI)
5 リスク管理の仕組み
PartII 食の安全を脅かす可能性のある危害要因
食中毒と微生物
1食中毒の分類と発生状況
2微生物の増殖と発育抑制
3腐敗・発酵・食中毒
食中毒起因微生物
4 カンピロバクター属菌
5 サルモネラ属菌
6 黄色ブドウ球菌
7 腸管出血性大腸菌
8 腸炎ビブリオ
9 リステリア・モノサイトゲネス
10 エルシニア・エンテロコリチカ
11 ボツリヌス菌
12 ウェルシュ菌
13 セレウス菌
14 ノロウイルス
15 主な食中毒菌等の増殖条件
16 食中毒事件事例
寄生虫
17 寄生虫の種類と健康障害
18 アニサキス
19 クドア
20 サルコシスティス
自然毒
21 自然毒の分類と発生状況
22 フグ毒
23 シガテラ毒
24 その他の動物性自然毒
25 キノコ
26 高等植物の毒
化学物質
27 化学性食中毒の発生状況
28 アレルギー様食中毒(ヒスタミン)
29 有害金属
30 器具・容器包装の素材と衛生
31 カビ毒
異物と害虫
32 異物と害虫
33 異物混入の発生事例
食物アレルギー
34 食物アレルギーの発生状況
35 食物アレルギーが起きるしくみ
36 アレルギーを起こすおそれがある食品の表示
37 アレルゲンになりやすいタンパク質
その他の脅威
38 放射性物質
39 BSE(牛海綿状脳症)
40 鳥インフルエンザ
41 温暖化と気候変動
PartⅢ 食料調達のために使用されるもの
食品添加物
1 食品添加物とは
2 食品添加物の安全性と規制
3 食品添加物の表示
農薬
4 農薬の役割と使用目的
5 農薬の安全性と規制
動物用医薬品、飼料添加物
6 動物用医薬品、飼料添加物の規制
遺伝子組換え食品
7 遺伝子組換え食品
PartⅣ 食の安全を守る仕組みと制度
フードチェーン全体での取組
1 フードチェーン全体での取組
2 食品の安全を守るしくみ
3 一般衛生管理
4 HACCP
5 食品安全マネジメントシステム
食品安全関連法令
6 食品安全基本法と食品衛生法
7 食品安全・衛生に関連した主な法律
索引
執筆者一覧