食品安全検定テキスト 中級 第2版
はじめに
人間には、安全な食品が必要です。現在の食品の供給や調達は、分業で行われています。多くの人々が、フードチェーンを支えています。
食品安全に関する考え方や用語の意味が人によって違っていては、フードチェーンは信頼できるものにはなりません。考え方や用語の意味は、時代とともに変化することもあります。
食品安全検定は、科学的根拠をもってフードチェーンの維持・発展に貢献しようとする方々を応援するための一手段です。中級テキストは、実際に食品を取り扱う方や指導的な立場の方を応援するために編集されています。
食品安全においてゼロリスクは存在しません。人間はミスを犯し機械は壊れます。食品の安全性を確保するシステムを構築しても、やがて不具合が生じます。順調であっても、軽微な不都合であっても、食中毒等の深刻な事件への入り口である場合もあります。
食品安全には、やはり人の関与が大切です。食料自給率が低い我が国は、国際的な食品安全の動向にも注意を払い、地球全体のフードチェーンの維持・発展にも貢献することが必要です。国際的にも、食品安全文化(Food Safety Culture)を醸成し、維持していく必要があると認識されるようになりました。
食品安全文化には、食品安全に精通し、科学的根拠も理解している人材が必要です。「ゆく河のながれは絶えずして、しかももとの水にあらず。」と、鴨長明は『方丈記』に書いています。人間は、従属栄養生物であり、食べ続けて命を繋いできました。改訂された本テキストが、フードチェーンの流れを清く美しく次世代へ渡す、お役に立てれば幸いです。
2018年6月
食品安全検定協会運営委員会委員長
一般財団法人日本食品分析センター学術顧問・北海道大学名誉教授
一色 賢司
食品安全検定とは
食品安全検定は、食の安全に対する消費者及び「食」に携わる全ての人々の信頼性を高めるため、科学的根拠に基づく食品の生産、加工又は製造販売の過程における安全性確保の方法について啓発及び普及活動を行い、わが国の食品安全文化の醸成に貢献することを目的としています。
検定の特長
科学的根拠に基づく合理的な食品の安全管理を理解することで、科学的なものの考え方を学ぶことができます。
食の安全を脅かす可能性のある要因を幅広く、分野ごとに学ぶことで、食の安全性を系統的に理解し、行動に結び付けることができます。
この検定を受けていただきたい方
食の安全に関する現場の指南役を目指す方
生産、製造、流通、外食等「食」に携わる方々で、広く食品安全の知識を身に付けたい方
食の安全管理に対する責任を担っている方
製造現場におけるHACCPチーム、FSSC/ISO22000の食品安全チームのメンバー、内部監査員など
本書の使い方
本書は、一般社団法人食品安全検定協会が主催する「中級・食品安全検定」の教科書として作成したものです。
第1章は食品安全への導入、第2章~第10章は食の安全を脅かす要因の理解、第11章および第12章は法令・制度・基準等で構成されています。
食の安全を脅かす要因は「ポイント・特徴」、「感染経路・原因食品・多趣」、「予防対策・規制基準・使用基準」という枠組みを考慮し、できるだけ科学的なデータを記載するようにしました。
要点がわかるように「ポイント」を入れ、専門的な言葉やわかりにくい言葉には「用語の解説」を行いました。また、巻末の索引を活用することで、各用語の解説ページを参照しやすくしました。
なお、新しい出来事や制度の改正などは食品安全検定協会のホームページでお知らせします。
本書は、リスク要因について知りたいときに、辞書代わりに活用することも可能です。皆さんの頭の中に食の安全に対するリスクの全体像を描き、ぜひ、「食品安全の鳥瞰図」を作り上げてください。
一般社団法人食品安全検定協会SOA〒106-0045東京都港区麻布十番2-11-5
麻布新和ビル4F
メールアドレス:fs-info@fs-kentei.jp
ホームページ:http://fs-kentei.jp
目次
はじめに
食品安全検定とは
第1章 食品の安全性
1-1 食品安全と食品衛生
●食品安全に関係するハザードとリスク
●食品安全と食品衛生
1-2 食品のリスク管理と危機管理
●リスク分析とフードチェーン対策
●危機管理への準備
1-3 食経験を大切に
●健全な食品の確保
●安全と安心の違い
1-4 食品の安全性確保
●フードチェーン対策とTDI、ADI
●食品衛生の一般原則
●食品安全への体制強化
1-5 分業と食品安全
第2章 食中毒起因微生物
2-1 微生物による食中毒の発生状況
●食中毒の分類
●微生物による食中毒の分類
●微生物による食中毒の発生状況
2-2 食品微生物の基礎知識
●微生物とは
●食品微生物の増殖条件とその抑制
2-3 主な食中毒起因微生物
●サルモネラ属菌
●腸炎ビブリオ
●カンピロバクター属菌
●腸管出血性大腸菌
●その他の病原大腸菌(腸管出血性大腸菌を除く)
●黄色ブドウ球菌
●ボツリヌス菌
●ウェルシュ菌
●セレウス菌
●リステリア・モノサイトゲネス
●エルシニア・エンテロコリチカ
●ノロウイルス
●A型・E型肝炎ウイルス
●その他の微生物による食中毒
2-4 食品の腐敗と微生物
第3章 寄生虫
3-1 寄生虫とは
●寄生虫と健康被害
3-2 食中毒の原因となる主な寄生虫の種類
●クドア
●アニサキス
●サルコシスティス
●クリプトスポリジウム
●その他の寄生虫
第4章 自然毒
4-1 動物性自然毒
●動物性自然毒による食中毒の発生状況
●フグ毒
●シガテラ毒
●麻痺性貝毒
●下痢性貝毒
●その他の動物性自然毒
4-2 植物性自然毒
●植物性自然毒による食中毒の発生状況
●キノコ毒
●高等植物の毒
第5章 化学物質
5-1 化学性食中毒の発生状況
5-2 アレルギー様食中毒(ヒスタミン)
5-3 酸化油脂(変敗油脂)
5-4 有害金属
●水銀(Hg)
●カドミウム(Cd)
●ヒ素(As)
●その他の有害金属
5-5 PCB
5-6 ダイオキシン類
5-7 カビ毒
●アフラトキシン
●赤カビ毒
●その他のカビ毒
5-8 器具・容器包装の素材と衛生
第6章 農薬
6-1 農薬の種類
●農薬の分類
●化学農薬
●生物農薬
6-2 飼料添加物と動物用医薬品
●飼料添加物
●動物用医薬品
6-3 農薬等の残留基準の決め方
6-4 農薬等のポジティブリスト制度
第7章 食品添加物
7-1食品添加物とは
7-2食品添加物の規制
7-3食品添加物の指定と安全性
7-4食品添加物の表示
7-5輸入食品と添加物
第8章 食物アレルギー
8-1 食物アレルギーの現状
●食物アレルギーとは
●年齢と症状傾向
●アレルギー原因食品
●年齢層別アレルギー原因食品
8-2 食物アレルギーの起こるしくみ
8-3 食物アレルギーの発生事例
●食物アレルギーがある人の誤食経験
8-4 アレルギーを起こすおそれがある食品の表示
●わかりやすい表示の工夫
8-5 食品事業者のアレルギー表示対応の基本
●アレルギー表示の範囲
●詳細な使用原材料の把握が基本
●原材料の管理
●コンタミネーションの可能性判断
●製造工程の管理
●コンタミネーション注意喚起表示の実施
第9章 異物混入
9-1 異物混入とは
●食中毒事件と苦情件数
9-2 苦情対応と異物混入防止対策.
●異物混入防止のための活動例
第10章 その他の危害要因
10-1 放射性物質
●食品と放射性物質との関係
●食品中の放射性物質に関する規制
●食品の安全と被ばく予防
10-2 遺伝子組換え食品
●遺伝子組換え食品とは
●遺伝子組換え食品の種類
●安全性の確保
●遺伝子組換え食品の表示
10-3 BSE
●BSEとは
●国内対策
●輸入牛肉対策
●BSEの現状
10-4 鳥インフルエンザ
●鳥インフルエンザとは
●家きんの肉や卵の安全性
第11章 食品安全衛生管理
11-1 一般的衛生管理プログラム
●食中毒予防の3原則と一般的衛生管理プログラム
●施設およびその周辺環境、設備・器具の衛生管理
●有害生物(そ族、昆虫等)の管理、廃棄物および排水の管理
●食品等の取り扱い、使用水等のユーティリティの管理
●運搬、回収・廃棄、情報の提供
●従事者の衛生管理・教育訓練、記録の作成および保存
11-2 HACCPシステム
●HACCPの考え方
●危害要因分析に基づく重要管理点の設定
●CHACCPと一般的衛生管理プログラム
●HACCPの由来
●OHACCP制度の動向
●LOHACCPシステムの構築
11-3 食品安全マネジメントシステム
●ISO22000266
●FSSC22000
●ISO22000とFSSC22000の関係
11-4 食品防御と食品偽装
●食品防御
●流通食品毒物混入防止法
●農林水産省報告書
●国際的な動向
●食品偽装
●食品偽装防止の国際動向
●わが国の動向
第12章 食品安全関連法令
12-1 食品安全衛生に関連した主な法律等
12-2 関係法令
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