基礎からの冷凍空調―考え方と応用力が身につく




はしがき

経済発展とともに人々の生活は豊かになり、快適さを求めるアメニティ指向が広がってきた。

それにともない、冷凍サイクルで運転されるエアコンや冷蔵庫・冷凍庫は各家庭に普及し、一家にある冷凍サイクル台数はテレビと同数かそれ以上といっても過言ではなく、生活から切り離せないものとなっている。冷凍(冷熱)技術はきわめて広い分野で応用され、宇宙・半導体・超伝導など極低温を含む先端技術に関するもの、食品・生体・医療など冷凍(低温)貯蔵や凍結による細胞膜の破壊に関するもの、さらに、建設・エネルギー・物流など土木工事、冷熱エネルギーの貯蔵や輸送に関するものなど、あらゆる産業で欠かせない技術となっている。

本書は、大学・高専の学生や冷凍空調工学を初めて学ぶ技術者を対象に執筆した。しかし、高専や大学のカリキュラムをみてみると、冷凍空調工学という科目を教えているところは少ない、ということは、多くの技術者はほとんど独学で習得しているのではないだろうかと思われるこのような観点に立ち、本書ではわかりやすく説明するように配慮した。

冷凍空調工学の基礎となっている学問は熱力学であり、空気調和の理論においては理想気体の状態式であるボイル−シャルルの法則が基礎になっているまた、冷凍サイクルを理解するためには、モリエ線図、等圧変化、等エンタルピー変化、等エントロピー変化などの状態変化を習得し理解しておく必要がある。

本書の特徴の一つとして、蒸気圧縮式冷凍サイクルの代替サイクルとして近年注目されているスターリングサイクル冷凍機について解説する。また、冷凍プロセスの考察には欠かせない凍結伝熱についても記述した。

冷凍や空調の初学者にとって、その基礎理論を視覚的にわかりやすいものとするために、図には吹き出しを用い、本文と同一の説明を加えた、理解を助けるために、随所に例題Q&Aを挿入して学習した知識を確認できるようにした。さらに、本文として記述するまでもないが知識として必要な事柄は、コラム「ちょっと横道」として記述した。各章末の演習問題には略解を示し、解答の正否を自ら確認できるようにしてある。

限られた紙数の中で十分に説明できなかった点のあることは否めない。本書で不十分な点は他書を参考とされることをお願いしたい。

おわりに、本書の企画にあたっては森北出版の利根川和男氏に数多くのご助言をいただいた。また、編集・出版にあたっては加藤義之氏に多大なご尽力をいただいた。ここにあらためて御礼申し上げる。

2007年2月 平田哲夫

平田 哲夫 (著), 田中 誠 (著), 石川 正昭 (著), 西田 耕作 (著), 岩田 博 (著)
出版社: 森北出版 (2007/4/1)、出典:出版社HP

目次

冷凍空調工学を学ぶ前に 平田哲夫

1 理想気体の状態方程式
2 比熱、比エンタルピーと比エントロピー
3 理想気体の状態変化
4 モリエ線図
5熱移動現象

 

第1章 冷凍サイクル 石川正昭

1.1 冷凍機と冷凍サイクル

1.2 蒸気圧縮式冷凍サイクル
◆1.2.1 理想冷凍サイクル
◆1.2.2 二元冷凍サイクル
◆1.2.3 二段圧縮冷凍サイクル

1.3 冷媒と二次冷媒
◆1.3.1 冷媒の種類
◆1.3.2 炭化水素系冷媒
◆1.3.3 自然系冷媒
◆1.3.4 二次冷媒

1.4 スターリングサイクル冷凍機
◆1.4.1 動作原理と理論サイクル
◆1.4.2 基本構造とシェミットサイクル
◆1.4.3 機器の形式と特徴
◆1.4.4 実際の機器

演習問題

第2章 冷凍機器 西田耕作

2.1 蒸気圧縮式冷凍機
◆2.1.1 圧縮機
◆2.1.2 凝縮器
◆2.1.3 蒸発器
◆2.1.4 制御機器と付属機器
◆2.1.5 ターボ冷凍機

2.2 熱駆動冷凍機
◆2.2.1 吸収冷凍機の作動原理とサイクル
◆2.2.2 吸収冷凍サイクルと熱収支
◆2.2.3 二重効用冷凍機のサイクル
◆2.2.4 アンモニア吸収冷凍機

2.3 熱電冷凍機
◆2.3.1 原理と概要
◆2.3.2 性能と特徴

2.4 極低温装置
◆2.4.1 概要
◆2.4.2 極低温領域の熱力学
◆2.4.3 クロウドサイクル
◆2.4.4 水素とヘリウムの液化

演習問題

第3章 空気調和 岩田博

3.1 空気調和の基礎
◆3.1.1 空気調和の考え方
◆3.1.2 湿り空気
◆3.1.3 湿り空気線図

3.2 空気調和装置
◆3.2.1 冷暖房空気調和装置の概要
◆3.2.2 加湿と除湿
◆3.2.3 空気質調節
◆3.2.4 冷却塔

3.3 ヒートポンプ空気調和機
◆3.3.1 ヒートポンプ空気調和機の特徴
◆3.3.2 ヒートポンプの基本 構成と動作
◆3.3.3 ヒートポンプの利用展開

3.4 空気調和技術の進展
◆3.4.1 冷媒規制の動向と規制への対応
◆3.4.2 空気調和機における 高効率化の動向

演習問題

第4章 伝熱量の計算 田中誠

4.1 熱伝導による伝熱
◆4.1.1 非定常と定常熱伝導
◆4.1.2 平板と円筒の定常熱伝導
◆4.1.3 熱通過率

4.2 対流による伝熱
◆4.2.1 対流伝熱の基本事項
◆4.2.2 平板に沿う流れの熱伝達
◆4.2.3 円柱表面の熱伝達
◆4.2.4 円管内の熱伝達
◆4.2.5 自然対流熱伝達

4.3 熱交換器の伝熱
◆4.3.1 熱交換器の分類
◆4.3.2 熱交換器の特性
◆4.3.3 熱交換器の温度効率
◆4.3.4 フィンの伝熱

4.4 凍結における伝熱
◆4.4.1 凍結量計算の基礎理論
◆4.4.2 水平面や円管内の凍結

演習問題

付図

演習問題略解

参考文献

索引

 

平田 哲夫 (著), 田中 誠 (著), 石川 正昭 (著), 西田 耕作 (著), 岩田 博 (著)
出版社: 森北出版 (2007/4/1)、出典:出版社HP