RPAの威力 ~ロボットと共に生きる働き方改革~




“この本を手にしたあなたへ”

「今ある仕事の半分は、ロボットやAIによって無くなるだろう」
誰もが耳にしたこの言葉、あなたはどのくらい先のことだと思いますか?
10年後? それとも20年後?

私は今、この言葉を強く実感している。実は、RPAのことだったのだ。
恐らくRPAを導入している企業のほとんどは私と同じ意見だろう。

もしあなたがまだRPAを使っていないならば、またRPAを使っていてもうまく使えていなかったならば、本書でまとめた成功ポイントや 先進8社の事例をじっくりと読んでほしい。

そしてRPAを1日でも早く使ってほしい。
そうすれば、あなたも「RPAの威力」を実感するだろう。

安部 慶喜

安部 慶喜(アビームコンサルティング株式会社) (著), 金弘 潤一郎(アビームコンサルティング株式会社) (著)
出版社: 日経BP (2017/11/16)、出典:出版社HP

はじめに

想像を絶する「RPAの威力」

「デジタルで働き方を改革せよ!」。トップの号令の下、デジタル技術を活用して働き方 を改革していこうという企業が増えている。経営者の多くは、デジタル技術の急速な進展 を目の当たりにし、今やデジタルを経営に取り入れなければ生き残れないという危機感を 抱いている。CDO (Chief Digital Officer)を置きデジタルを経営に生かしていくための 取り組みに注力している企業も出始めている。

ところが、働き方を支援するためのモバイルワーク、テレビ会議システムなどを取り入 れてみて、逆に忙しくなっていないだろうか。クラウドコンピューティング、人工知能 (AI)、IoTと新しい技術が続々と登場しているが、具体的に何をすればよいのか考え あぐねたり、あるいは、すべてやり尽くしたと思ったりしていないだろうか。

本書で取り上げた企業では、従業員名簿にロボットが名を連ねる。そのロボットは人の 何倍ものスピードで正確に仕事をこなし4時間働き続け、不平不満も言わない。オフィス でロボットと一緒に働き、人は生き生きと仕事をする。こんな組織に変え、「真の働き方改 革」を実現した企業が今、続々と登場しているのである。

「疲れ知らずのデジタルレイバー」を使いこなせ

我々がコンサルティングを手がけてきたお客様の多くは働き方改革に取り組んでいる。 そこで見えてきたことは、従業員の業務を分析していくと実に単純作業が多いという事実である。定例会議用の資料を作成するために、社内のコンピュータにある複数のデータを見てパソコンで入力して集計し会議用資料に盛り込んでいく。今後半年の売上を推定するために、過去の売上と前年の売上、および営業部門の今月の推定データを集めてきて集計して予測する。競合会社の新製品情報をWebで集めてきて一覧表を作成する、など。

人間が手作業で行っている業務がなんと多いことだろうか。実態は、人間がパソコンを使って手作業で行っている単純作業が実に多く、労働時間のかなりのウェイトを占めている。こうした単純作業を効果的に削減できる手法が、本書で取り上げたRPA(Robotic Process Automation)であり、「働き方改革」の本命である。

RPAは元々、欧米を中心に広がってきたものだが、2015年頃から日本でも導入が 始まり、2016年7月に日本RPA協会が発足して以降導入が増え始め、2017年に入って採用が急増している。このRPAは、人間がパソコンで行っていた手作業を自動で 実行するソフトウエアロボット(以下、ロボットと呼称)であり、その手法を指す。従来、工場での組み立て作業は人間が行っていたが、産業用のアームロボットに代替していった。それと同様に、ホワイトカラーの世界でも、ロボットが人間の作業を代替する時代を迎えたのである。

組織の観点では、RPAは人間が指示したとおりのことを忠実に実行してくれる有能な 部下である。そのため、RPAは「デジタルレイバー(Digital Labor) : 仮想知的労働者」 とも呼ばれている。デジタルレイバーは、昼でも夜でも4時間働き通しでも、なんら疲れを知らない。残業という概念もない。

この有能なデジタルレイバーを使いこなすことによって、人間は単純作業から解放され、 時間的な余力が生まれるだけでなく、疲弊した気持ちから解き放たれ心の余裕が生まれる ことになる。それは、従業員の残業時間を減らすという意味合いと、余力時間を、イノベーションを起こすための価値創造に振り向けられるという意味合いの両方を持つ。

くしくも日本は消費の飽和状態が続き、モノ売りからコト売りへの転換、海外進出、M&A、デジ タル化推進を背景にイノベーションこそが求められており、余力時間をこうした価値創造 に費やすことができる。

しかも、デジタルレイバーは、とてつもないスピードで、大量のデータを正確に処理す ることができる。人間では到底及ばない、ずば抜けた能力を持つスーパーロボットだ。ビ ジネス、事業の「短サイクル化」が進展する中で、データ処理をデジタルレイバーに任せれば、人間は分析の頻度を上げることができ、短サイクル化に対応させることができる。毎 月1回、毎週1回しか実現できなかった分析を毎日でも、あるいは毎日何回でも実施する ことができるようになる。デジタルレイバーを組織の一員として迎え入れることが、人間 の働き方まで変えようとしているのである。

このように、デジタルレイバーが人間に余力時間を作ることで人間はイノベーションや 価値創造に時間を費やすことができるとともに、デジタルレイバーのずば抜けた処理能力を活用することで人間の働き方までも変えることができる。これこそ「真の働き方改革」であり「RPAの威力」である。

半信半疑から意識と行動の大変革へ

アビームコンサルティングでは、「真の働き方改革」を実現する強力な手法として企業へ のRPAの導入を推奨し、すでに3桁に及ぶ数のお客様の取り組みを支援してきた。そこ で、各業界でRPAの導入に先進的に取り組んでいる企業8社にご協力いただき、本書で実例として取り上げさせていただいた。

衝撃を受けたのは、各社は導入時に自ら想像していた以上に5歩も10歩も先を行ってい るという実態である。導入前はRPAの導入に半信半疑で効果を疑問視する声があったにもかかわらず、導入後はその効果を実感し、自らがRPAを活用した業務改革に取り組も うとする姿に変わっていたのである。

「この業務に適用して効果が出たのだから、あの業務にも適用してみよう」
「そもそも、この手順、この仕事は必要なのだろうか」
「グループ内の他の会社にも使ってもらえるようにロボットを派遣しよう」
「この拠点で成功したノウハウをアジア全体に展開しよう」
「ロボットを作れる人材を自分たちで養成しよう」
「デジタルレイバーが居るという前提で組織を考えるようになった」
「デジタルレイバーに社員番号を与えて社員名簿に載せるようにした」
「これを機に全社のデジタル化を本格的に展開することにした」

現場の人たちが、自ら考え行動する、意識・行動の大変革が起きていた。疲弊感が漂っ ていた現場は明るくなり、自分で考えて生き生きと行動する雰囲気に変わっていた。 「RPAの威力」は、働く人たちの意識と行動までを変え、自律型組織へと会社を変質させ るチカラだった。「これこそ働き方改革なのだ」ということを実感した。取材に快く応じて いただいた8社の皆さんに感謝する次第である。

安部 慶喜

安部 慶喜(アビームコンサルティング株式会社) (著), 金弘 潤一郎(アビームコンサルティング株式会社) (著)
出版社: 日経BP (2017/11/16)、出典:出版社HP

目次

この本を手にしたあなたへ
はじめに…想像を絶する「RPAの威力」

第1章 RPAの本質 なぜRPAが求められているのか?

1-1 人間とロボットが共に生きる時代に
「デジタルレイバー」を採用せよ、増員せよ!
「ロボットに仕事を奪われる」の誤解
高速で正確な処理をいとも簡単に実現
社外情報の収集も大得意
AIよりRPAが使われるワケ

1-2 働き方改革の大本命
日本の労働生産性は先進7カ国で最下位
過残業でコーポレートリスク高まる
求められる「真の働き方改革」

1-3 採用企業は急増し数百社に
金融からサービス業、メーカーへと拡大

1-4 経営にすぐ効く「即効薬」
半数が1カ月で導入
97%が5割以上業務削減
正確性を担保でき、余力が生まれる
意識が変わり働き方が変わる「RPAの威力」
RPAを活用しない企業は生き残れない

第2章 進め方と成功のポイント RPAを導入する際の注意点と対応策は?

2-1 考えるより触れ
「短サイクル化」に対応せよ
現場の実業務で試せ
トップダウンに応えるボトムアップがカギ

2-2 業務部門とIT部門がタッグを組め
一定のルールの下ですみ分けて両輪で
システム部門の関与は構想段階から
セキュリティは情報システム部門主導で対策を

2-3 運用ルール・体制を考え抜け
基幹システムの運用ルールは使えない
内部統制とRPA
トラブル時のリカバリーを想定する
夜中もロボットに働いてもらう

2-4 現場を巻き込め
デジタル戦略の一環で、RPAは推進の第一歩

2-5 最適なツールを選べ
推奨はサーバー型で修整容易なタイプ

第3章 先進8社の取り組み 各社の導入の狙いとその効果は?

3-1 大和ハウス工業
急成長を裏で支える働き方改革、グループ各社への「ロボット派遣」も視野に
実効性を重視し、実績のないベータ版にあえて挑戦
オープンデータをロボットで取り込み1200万円コスト削減
勤怠チェックロボで業務を完全自動化
事業競争力に直結する作業、ものづくり、さらにグループ各社へ
トライ&エラーで進化させる
ロボットを情報システム部の管理下に置く

3-2 農林中央金庫
業務部門主導でロボットを開発・導入、有価証券の時価登録業務に適用
システムとシステム未満をつなぐ
時価登録業務の9割を自動化
業務負荷の軽減、平準化のほかに意識改革も
人とシステムとロボットが共存共栄で
運用ポリシーの確立が重要

3-3 ブリヂストン中国
凄まじいスピード感の競争に勝ち残るため、人海戦術を脱しロボットとの共同作業へ
疑心暗鬼ながらも新しい技術だからこそ全社で挑戦
業務の棚卸から着手
「商品情報収集」ロボは年間2000時間以上の削減効果
「販売見込作成」「価格情報収集」など初期5体で年間3600時間を削減
PDCAではなくDoから始めるDCAPが重要
継続的な活動として浸透させる

3-4 帝人フロンティア
BPRとRPAを並行で推進、OCRロボによる自動化で業務を86%削減
OCRロボットで入金業務260時間を86%削減
毎月の連結決算業務は12時間からコピペ1回に
ロボット開発はわずか3~4週間で、高いフレキシビリティ
原点に立ち返り、自発的に業務を見直す視点が生まれた

3-5 アサツー ディ・ケイ
間接業務をロボットに委ね営業は本業に専念、計画中の新ERPシステムにも組み込む
ロボットと共に働く部署を新設
ロボット2割、人は8割
営業はExcel入力だけで済み、本来の業務に集中
これからは、人とシステムにロボットが加わる
「RPAでできるかもしれない」という発想が思考回路に
ロボットを作成できる人材を育成しながら全社に展開

3-6 テレビ朝日
夏祭りイベントのチケット販売管理に応用、入力業務から解放され分析・対策を「短サイクル化」
チケットの種類は多種多様
ロボットもチームの一員
分析・対策は毎日1回から毎時間へ「短サイクル化」
今後はより戦略的なマーケティングへ
「とりあえず、やってみませんか」と声をかけやすくなった

3-7 NECマネジメントパートナー
ロボット100体稼働で数万時間削減へ、グループの業務改革推進プロジェクトを牽引
トップダウンで専門部署「自動化ツールグループ」を設置
垂直立ち上げに成功
自動化対象業務を洗い出し100件をリストアップ
EUC、汎用ツール、RPAを適材適所で使い分け
「チェックロボ」「データ集計ロボ」「対話型ロボ」などを作成
Excel、PDF向けの汎用ツールと使い分け
ロボットを内製化し100体に
社内啓発セミナーで従業員を巻き込む
余力を創出し高付加価値業務へシフト
現場を巻き込む組織戦略がカギ
AIとRPAとの組み合わせも

3-8 インテージホールディングス
グループ戦略のデジタル基盤としてRPAを採用、成長事業に適用し業務の大幅な効率化を実証
AIの進化を踏まえて、まずはRPAを現場に展開
急成長しているグループ会社の課題解決に適用
RPAの権限を明確にするため「社員一覧にロボット」
デジタルレイバーがプラットフォームに

第4章 RPAの将来像 ロボットはどのように進化していくのか? そして人間は
進化するデジタル技術とのつなぎ役に

RPAは「デジタルレイバー・プラットフォーム」に
「プロセスイノベータ」を育成せよ
0から1を生み出し、人の心を動かす
ロボットの進化が人の真価を掘り起こす

おわりに

安部 慶喜(アビームコンサルティング株式会社) (著), 金弘 潤一郎(アビームコンサルティング株式会社) (著)
出版社: 日経BP (2017/11/16)、出典:出版社HP