図でわかる 溶接作業の実技(第2版)
はしがき
現場で実際に溶接作業に携わっている方々が、仕事に必要な基礎的知識や基本技能を、書物を通して独りで学ぼうとするとき、書店の専門書コーナーに行っても、「溶接の本はたくさんあるけれど、本当に知りたいこと、教わりたいことが書いてある親切な指導書が見当たらない」ということをよく口にされる。本書は、そんな空白を埋めてみたいという一念から、浅学非才を顧みず著したものである.
“溶接”が金属を接合する技法の代名詞となって久しいが、その間、ハイテクあるいはメカトロニクスの波は溶接業界にも押し寄せ、時代の要請としての省力(人件費削減)、高能率生産の必要性とも相まって、ロボット溶接に代表される各種の自動溶接装置を採用することが、昨今では、中小の企業においても当たり前になってきている。
しかし、いかにロボットや自動溶接装置が導入されるようになっても、それに指示を与え、操作するのがあくまでも人であること、また、こと現場の溶接作業に関しては、まだまだ被覆アーク溶接や炭酸ガス半自動アーク溶接、ティグ溶接といった、いわゆる手溶接作業に負わざるを得ないことは否定できず、それら手溶接の知識や技能の習得をないがしろにはできない。
本書は、これら現場で多用される各種手溶接作業について、現場技術者がぜひ知りたいと思われる基本的実技、および最低限知っておいてほしい電気や溶接材料などの基本的知識を、長年、新人溶接作業者の養成現場で実技指導してきた経験にもとづいて一冊にまとめたものである
各種手溶接の実技、たとえば被覆アーク溶接、炭酸ガス半自動アーク溶接、ティグ溶接、さらにガス溶接(切断を含む)、火炎ろう付け法などに関しては、それぞれ個別に解説された優れた書物がすでに数多く存在しているが、本書は、これらを一人の著者の手で、リアルな図を駆使して、本当に知りたいことを懇切丁寧に説明したつもりであり、その点では、他に類を見ないものと自負している。
本書の初版は、前著「機械工学入門シリーズ溶接技術入門(第2版)」(1991年、初版発行)の姉妹編として2007年に発行されたもので(いずれも初版は理工学社)、以来、実に多くの読者の方々に手にしていただき、また“解説や図が丁寧でわかりやすい”という墓外の評価をいただくことができた。その後、溶接に関係するJIS規格の改正が行われたこともあり、このたび、第2版として改訂版を刊行する運びとなった。
改訂にあたっては、規格の改正に準拠した内容にすることはもちろん、より視覚効果を高め、独習者の理解をより助けられるように、多数の図版・写真を補充した。
本書が、前著ともども今後も、溶接作業に携わる多くの技術者の方々や、溶接作業を自ら学ぼうとする方々の手引書として大いに活用していただけるならば、著者としてこのうえない喜びである。
最後に、初版に引き続き、数多くの文献から図表等を引用、参考にさせていただいたことに対し、深く感謝申し上げるとともに、改訂にあたりご尽力いただいたオーム社書籍編集局の皆さんに厚く御礼を申し上げたい。
2016年5月
著者
目次
1章 溶接について
1・1溶接とは何か
1・2溶接の長所と短所
1・3溶接法の種類
1・4金属材料と溶接法の相性
1・5自動溶接とロボット溶接
2章 主な溶接法と切断法
2・1融接法の仲間
2・1・1被覆アーク溶接
2・1・2マグ溶接
2・1・3ミグ溶接
2・1・4ティグ溶接
2・1・5ノーガスアーク溶接
2・1・6サブマージアーク溶接
2・1・7ガス溶接
2・2その他の融接法
2・2・1プラズマ溶接
2・2・2アークスポット溶接
2・2・3アークスタッド溶接
2・2・4エレクトロスラグ溶接
2・3特殊な熱源を用いる融接法
2・3・1電子ビーム溶接
2・3・2レーザビーム溶接
2・4圧接法の仲間
2・4・1スポット溶接
2・4・2フラッシュ溶接
2・5その他の圧接法
2・5・1冷間圧接
2・5・2超音波圧接
2・5・3ガス圧接
2・5・4摩擦圧接
2・5・5鍛接
2・6ろう接法の仲間
2・7熱切断法
2・7・1溶接と切断
2・7・2熱切断法の種類
3章 溶接母材の基礎知識
3・1鋼材
3・1・1鋼の分類
3・1・2溶接と関係の深い普通鋼(軟鋼)
3・1・3溶接と関係の深い特殊鋼
3・2鋼の溶接
3・2・1鋼の溶接部の構造と性質
3・2・2ガス成分が鋼の溶接部に及ぼす害とその対策
3・2・3各種鋼材の溶接特性
3・3アルミニウムとその合金
3・3・1アルミニウムとその合金の一般的性質
3・3・2アルミニウムとその合金の種類と用途
3・3・3アルミニウムとその合金の溶接特性
4章 溶接材料の基礎知識
4・1被覆アーク溶接棒の基礎知識
4・2溶接ワイヤの基礎知識
4・2・1マグ溶接・ミグ溶接用ソリッドワイヤ
4・2・2マグ溶接・ミグ溶接用フラックス入りワイヤ
4・3ティグ溶接・ミグ溶接用溶加材の基礎知識
4・4ティグ溶接用タングステン電極棒
4・5シールドガスの基礎知識
4・5・1シールドガスの種類
4・5・2シールドガスのはたらき
4・6溶接材料の管理
4・7溶接材料の選び方
4・7・1軟鋼と高張力鋼用溶接材料の選び方
4・7・2ステンレス鋼用溶接材料の選び方
4・7・3アルミニウムとその合金用溶接材料の選び方
5章 アーク溶接機の基礎知識
5・1電気の基礎知識
5・2アークとその性質
5・3アーク溶接機の外部出力特性
5・4アーク溶接機
5・4・1被覆アーク溶接用アーク溶接機
5・4・2マグ半自動溶接用アーク溶接機
5・4・3ティグ溶接用アーク溶接機
5・4・4アーク溶接機の特性
5・4・5自動電撃防止装置
6章 被覆アーク溶接の実技
6・1被覆アーク溶接作業の準備
6・2被覆アーク溶接の基本実技
6・2・1下向き溶接のかまえ方
6・2・2アークの出し方とアーク長さの保ち方
6・2・3ビードの置き方
6・2・4水平すみ肉溶接の練習
6・3下向き突合せ溶接の実技
6・3・1中板裏当て金あり下向き突合せ溶接(A-2F)の実技
6・3・2薄板裏当て金なし下向き突合せ溶接(N-1F)の実技
6・4立向き溶接の実技
6・4・1立向き溶接のかまえ方
6・4・2立向きストリンガビードの置き方
6・4・3立向きすみ肉溶接の実技
6・4・4立向きウィービングビードの置き方
6・5立向き突合せ溶接の実技
6・5・1薄板裏当て金なし立向き突合せ溶接(N-1V)の実技
6・5・2中板裏当て金あり立向き突合せ溶接(A-2V)の実技
6・6横向き溶接の実技
6・6・1横向き溶接のかまえ方
6・6・2横向きビードの置き方
6・6・3中板裏当て金あり横向き突合せ溶接(A-2H)の実技
6・7上向き溶接の実技
6・7・1上向き溶接のかまえ方
6・7・2上向きビードの置き方
6・7・3中板裏当て金あり上向き突合せ溶接(A-20)の実技
6・8固定管の突合せ溶接の実技
6・8・1固定管の突合せ溶接について
6・8・2中肉固定管裏当て金なし突合せ溶接(N-2P)の実技
7章 炭酸ガスアーク溶接の実技
7・1炭酸ガスアーク溶接装置の構成
7・2溶滴の移行現象
7・3炭酸ガスアーク溶接の作業条件
7・4炭酸ガスアーク溶接の実技
7・4・1溶接作業の準備7・4・2炭酸ガスアーク溶接の基本練習
7・5突合せ溶接の実技
7・5・1薄板裏当て金なし下向き突合せ溶接(SN-1F)の実技
7・5・2中板裏当て金なし下向き突合せ溶接(SN-2F)の実技
7・5・3中板裏当て金あり下向き突合せ溶接(SA-2F)の実技
7・5・4薄板裏当て金なし立向き突合せ溶接(SN-1V)の実技
7・5・5中板裏当て金なし立向き突合せ溶接(SN-2V)の実技
7・5・6中板裏当て金あり立向き突合せ溶接(SA-2V)の実技
7・5・7中板裏当て金なし横向き突合せ溶接(SN-2H)の実技
7・5・8中板裏当て金なし上向き突合せ溶接(SN-20)の実技
7・5・9中肉固定管裏当て金なし突合せ溶接(SN-2P)の実技
8章
ティグ溶接の実技
8.1直流と交流のティグ溶接
8.2ティグ溶接装置の構成
8.3ティグ溶接機に必要な機能
8.4ティグ溶接作業の準備
8・4・1溶接の準備
8・4・2溶接条件
8.4.3ティグ溶接装置の接続と点検・準備作業
8.5アルミニウム溶接の基本練習
8.6アルミニウム溶接の実技
8.6.1薄板の水平すみ肉溶接の実技
8・6・2薄板下向き突合せ溶接(TN-1F)の実技
8.6.3薄板立向き突合せ溶接(TN-1V)の実技
8・6・4薄板横向き突合せ溶接(TN-1H)の実技
8.7ステンレス鋼溶接の基本練習
8.8ステンレス鋼溶接の実技
8.8.1水平すみ肉溶接の実技
8.8.2下向き突合せ溶接(TN-F)の実技
8.8.3立向き突合せ溶接(TN-V)の実技
8.8.4横向き突合せ溶接(TN-H)の実技
9章|ガス溶接とガス切断の実技
9・1ガス溶接作業の実技
9.1.1酸素とアセチレンの性質
9・1・2ガス容器とその取扱い
9.1.3ガス集合装置について
9.1.4ガス溶接に用いる器具とその取扱い
9.1.5ガス溶接作業の準備
9・1・6
ガス溶接作業の基本実技
9.1.7薄板の下向き突合せ溶接の実技
9・1・8やや厚い板の下向き突合せ溶接の実技
9.1.9水平すみ肉溶接の実技
9・1・10立向き突合せ溶接の実技
9.2ガス切断作業の実技
9.2.1ガス切断作業の準備
9・2・2ガス切断作業の実技
9・3火炎ろう付け作業の実技
9.3.1黄銅ろうによる軟鋼板の火炎ろう付け
9.3.2銀ろうによるステンレス鋼板の火炎ろう付け
溶接関連の主な資格試験について・
索引