溶接・接合技術総論
溶接・接合技術総論 編集・査読委員会
委員長 大城桂作
委員(執筆者)
第1章
三田常夫
第2章
百合岡信孝
小川和博
笹部誠二
第3章
田川哲哉
寺崎俊夫
第4章
高野 元太
小笠原 仁夫
横野泰和
第5章
原沢秀明
小林光博
仁科直行
古賀宏志
第6章
片山典彦
中西保正
勝木誠
山本栄一
委員(査読)
赤秀公告
豐貞雅宝
野村博一
まえがき
溶接・接合は、建築鉄骨、橋梁、造船・海洋構造物、自動車、車両、重機械、圧力容器、発電機器などの産業にとって欠かすことのできない技術である。近年、安全・安心な社会への要望の高まりに対応して、構造物や製品の品質として、より高いものが求められるようになっていることから、溶接品質すなわち溶接技術においても、より高度なものが必要となってきている。
また、近年急速にグローバル化が進み、国内だけでなく海外での競争が激しくなる中溶接に携わる企業にとって溶接品質の確保および向上は、生き残りのための必須条件であり、今後さらに重要視されるものと考えられる。
ISO 9000シリーズで求められるような溶接品質の確保には、溶接法、溶接機器、材料、力学や設計、品質管理・施工管理といった溶接技術の基礎知識はもちろんのこと、溶接ロボットに代表される完全自動化溶接技術などの最新の溶接技術の知識を有し、経験に裏打ちされた十分な職務能力を有する溶接技術者と優れた溶接技能者の従事が不可欠である。その一助として、一般社団法人日本溶接協会ではISO 14731/JIS Z 3410/WES 8103に基づく溶接管理技術者の認証を行っている。
この認証制度は、1972年(昭和47年)に溶接施工技術者として発足し、1998年(平成10年)より溶接管理技術者の名称となり、2014年(平成26年)9月現在で、約1,400名の特別級溶接管理技術者、約7,400名の1級溶接管理技術者、約23,800名の2級溶接管理技術者が国内外で活躍している。
また、日本溶接協会では国内外で活躍できる溶接管理技術者の育成を目的として、溶接・接合技術の教育を行っており、2級のテキストとして『新版 溶接・接合技術入門』を、1級および特別級のテキストとして『新版 溶接・接合技術特論』を採用している。
目まぐるしく進歩する溶接技術や国内外の規格の最新動向への対応の要望に応じて、テキストの改訂を適宜行っているが、この度、『新版 溶接・接合技術特論』の大幅な見直しを一般社団法人溶接学会と共同で行い、本書を発刊することとなった。
本書では、これまでの構成はそのままに、溶接・接合技術の基盤となる「溶接法及び溶接機器」「金属材料及びその溶接性」、「力学及び設計」、「品質マネージメント及び施工管理についてはこの10年間の最新動向を盛り込むとともに内容を大幅に見直し、「フレーム系構造物」については建築鉄骨、橋梁、船舶の、「ベッセル系構造物」については事業用発電ボイラ、圧力容器、常温貯槽、低温貯槽、配管・パイプラインの具体例を取り入れている。
日本溶接協会主催の溶接管理技術者研修会講師をはじめ各分野のエキスパートに執筆者ならびに査読を頂き、3年の歳月を重ねて本発刊に至った。執筆者ならびに査読者諸氏のご尽力の賜物と感謝申し上げる。また、出版にあたり、本書の出版に快諾・ご尽力を頂いた溶接学会関係各位、日本溶接協会関係各位、産報出版株式会社関係各位に厚く御礼申し上げる。
今回のテキストの刷新にあたり、溶接・接合技術を全体的にとらえ道筋を立てて物事を説明する意味を込めて、書名を『溶接・接合技術総論』とした。本書は溶接管理技術者の特別級に求められる知識を網羅するとともに、溶接・接合技術の基礎知識は1級にも適用される内容にもなっている。
溶接・接合技術はすでに確立された技術、と思われている人も少なからずおられるようだが溶接構造物の品質の向上に関し、ここ数年に起きた大災害での構造物の耐久性もそのあり方への視点、高度成長期に建設された建築物への補修の必要度の増大など、今後も溶接・接合技術には更なる革新が求められている。本書がそれらに対応する溶接管理技術者に大いに役立つことを期待する。
平成27年1月
一般社団法人日本溶接協会
溶接管理技術者教育委員会
委員長 粉川博之
目次
1章 溶接法および溶接機器
1.1 溶接法とその分類
1.2 アーク溶接の基礎
1.2.1 アーク溶接とその分類
1.2.2 アークの性質
1.2.3 溶接アーク現象
1.2.4 溶滴の移行形態
1.2.5 溶接ビードの形成
1.3 アーク溶接機器
1.3.1 溶接電源の種類
1.3.2 溶接電源とワイヤ送給制御の組合せ
1.3.3 可動鉄心形電源
1.3.4 サイリスタ制御電源
1.3.5 インバータ制御電源
1.3.6 ワイヤ送給装置
1.3.7 溶接機の取扱い
1.4 アーク溶接法の原理と特徴
1.4.1 被覆アーク溶接
1.4.2 サブマージアーク溶接
1.4.3 非溶極式ガスシールドアーク溶接
1.4.4 溶極式ガスシールドアーク溶接
1.4.5 その他のアーク溶接法
1.5 その他の溶接法の原理と特徴
1.5.1 エレクトロスラグ溶接
1.5.2 抵抗溶接
1.5.3 高エネルギービーム溶接
1.5.4 摩擦を利用した溶接
1.5.5 その他の圧接
1.5.6 テルミット溶接
1.5.7 拡散接合
1.5.8 ろう接
1.6 アーク溶接の自動化・高能率化
1.6.1 片面裏波溶接
1.6.2 多電極溶接
1.6.3 狭開先溶接
1.6.4 大電流ミグ溶接
1.6.5 ホットワイヤティグ溶接
1.6.6 アーク溶接ロボット
1.6.7 溶接用センサ
1.6.8 自動溶接装置のシステム化
1.7 肉盛・表面改質
1.7.1 肉盛溶接
1.7.2 溶射
1.7.3 その他の表面改質
1.8 切断法
1.8.1 切断法の分類
1.8.2 ガス切断
1.8.3 プラズマ切断
1.8.4 レーザ切断
1.8.5 ウォータジェット切断
2章 金属材料と溶接性ならびに溶接部の特性
2.1 鉄鋼材料の種類と性質
2.1.1 鉄鋼材料の特徴
2.1.2 Fe-C系平衡状態図と鋼の相変態
2.1.3 鋼の熱処理|
2.1.4 圧延鋼材の製造方法
2.1.5 鋼の種類
2.2 炭素鋼と低合金鋼の溶接性
2.2.1 溶接性の定義
2.2.2 溶接入熱と冷却速度
2.2.3 熱影響部の組織・硬さと連続冷却変態図
2.2.4 母材熱影響部の組織とじん性
2.2.5 溶接金属の組織とじん性
2.2.6 炭素鋼と低合金鋼の溶接割れ
2.2.7 高温用鋼溶接部の高温特性
2.3 炭素鋼と低合金鋼の溶接材料
2.3.1 被覆アーク溶接棒
2.3.2 マグ溶接材料
2.3.3 サブマージアーク溶接材料
2.4 ステンレス鋼の溶接
2.4.1 ステンレス鋼の種類と特性
2.4.2 オーステナイト系ステンレス鋼の溶接性
2.4.3 マルテンサイト系とフェライト系ステンレス鋼の溶接性
2.4.4 フェライト・オーステナイト系(二相)ステンレス鋼の溶接性
2.4.5 クラッド鋼ならびに異材継手の溶接
2.5 Ni基合金の溶接
2.5.1 Ni基合金の種類と特性
2.5.2 Ni基合金の溶接性
2.5.3 溶接材料と溶接施工
2.6 アルミニウムおよびアルミニウム合金の溶接
2.6.1 アルミニウムおよびアルミニウム合金の種類と特性
2.6.2 アルミニウムおよびアルミニウム合金の溶接性
2.6.3 アルミニウムおよびアルミニウム合金の溶接材料と溶接施工
2.7 チタンおよびチタン合金の溶接
2.7.1 チタンおよびチタン合金の種類
2.7.2 チタンおよびチタン合金の溶接性
2.7.3 チタンおよびチタン合金の溶接施工
2.8 銅および銅合金の溶接
2.8.1 銅および銅合金の種類
2.8.2 銅および銅合金の溶接性
2.8.3 銅および銅合金の溶接施工
2.9 金属の腐食
2.9.1 金属の腐食について
2.9.2 炭素鋼・低合金鋼の腐食現象
2.9.3 ステンレス鋼の腐食現象
2.9.4 その他金属の腐食現象
3章 溶接構造の力学と設計
3.1 材料力学の基礎
3.1.1 荷重と内力、応力
3.1.2 ひずみの定義と応力との関係
3.1.3 応力の基礎知識
3.2 静的強度
3.2.1 母材の引張試験
3.2.2 引張試験における破壊形態(延性破壊)
3.2.3 多軸応力における材料の変形と強度
3.2.4 溶接継手の静的強度
3.2.5 その他の静的強度試験(曲げ試験、硬さ試験)
3.3 ぜい性破壊
3.3.1 鋼材のぜい性破壊
3.3.2 遷移温度とじん性
3.3.3 溶接継手のぜい性破壊
3.3.4 破壊力学
3.4 疲労強度
3.4.1 疲労損傷の過程と特徴
3.4.2 疲労き裂の発生機構
3.4.3 疲労き裂の進展機構
3.4.4 疲労試験と疲労限度
3.4.5 き裂進展寿命の予測
3.4.6 溶接継手の疲労限度とその改善方法
3.5 その他の時間依存型の破壊
3.5.1 クリープ
3.5.2 腐食
3.6 溶接変形と残留応力
3.6.1 発生原因
3.6.2 溶接変形
3.6.3 溶接残留応力の分布
3.6.4 溶接残留応力の影響
3.6.5 溶接残留応力・変形の軽減法
3.7 溶接継手設計の基礎
3.7.1 溶接の種類
3.7.2 部材の形状による溶接継手の種類
3.7.3 溶接記号
3.8 溶接継手の強度計算
3.8.1 継手設計上の注意点
3.8.2 継手形式の選択
2.8.3 すみ肉溶接のサイズと溶接長さの制限
3.8.4 継手の静的強度の計算
3.8.5 溶接継手の強度計算例
3.9 溶接構造物の破損事例と耐破壊設計
3.9.1 溶接構造物の破損事例
3.9.2 溶接継手の疲労強度設計
3.9.3 溶接継手の耐ぜい性破壊設計
3.9.4 アルミニウム合金構造物の設計
4章溶接構造物の品質マネジメントと溶接施工管理
4.1 溶接の品質マネジメントシステム
4.1.1 品質管理の歴史
4.1.2 ISO 9001-2008の概要
4.1.3 ISO 3834(JIS Z 3400)による溶接管理
4.1.4 溶接施工要領書の作成、承認および記録
4.2 溶接管理技術者の国内および国際的動向
4.2.1 ヨーロッパにおける溶接管理技術者の資格制度
4.2.2 IW国際溶接技術者資格制度
4.2.3 日本でのIIW 資格の取得
4.2.4 日本の溶接管理技術者制度(WES 8103)
4.3 溶接施工計画
4.3.1 溶接施工計画と管理
4.3.2 日程
4.3.3 溶接設備
4.3.4 溶接要員
4.3.5 試験・検査
4.3.6 溶接コスト
4.4 溶接施工管理
4.4.1 母材および溶接材料
4.4.2 材料の加工
4.4.3 溶接準備
4.44 溶接作業
4.4.5 予熱および溶接後の熱処理
4.5 半自動溶接および自動溶接
4.5.1 半自動溶接の注意事項
4.5.2 自動溶接の注意事項
4.5.3 生産方式と溶接ロボット
4.6 溶接変形の防止と溶接ひずみの矯正
4.6.1 溶接変形の防止対策
4.6.2 溶接変形の矯正方法
4.7欠陥の防止
4.7.1 溶接欠陥とその影響
4.7.2 溶接欠陥の防止対策
4.8 補修溶接
4.8.1 補修溶接の手順
4.8.2 溶接欠陥の除去
4.8.3 補修溶接の施工条件
4.8.4 補修溶接の検査
4.9 安全、衛生
4.9.1 溶接の安全、健康障害
4.9.2 ヒュームからの保護
4.9.3 有害ガスからの保護
4.9.4 有害光からの保護
4.9.5 感電(電撃)からの保護
4.9.6 火災・爆発対策
4.9.7 熱からの保護
4.9.8 レーザ光による障害からの保護
4.9.9 高所作業の危険防止
4.9.10 ロボット溶接の安全対策
4.10 溶接部の非破壊試験法と検査
4.10.1 非破壊試験と非破壊検査
4.10.2 溶接欠陥と非破壊試験
4.10.3 外観試験(目視試験)(VT)
4.10.4 溶接表面および表面近くの非破壊試験
4.10.5 溶接内部の非破壊試験
4.10.6 各種試験方法の比較
4.10.7 その他の試験法
4.10.8 保守検査
5章 鋼構造物の溶接設計と溶接施工
5.1 鋼構造物の概要
5.1.1 一般事項
5.1.2 鋼構造物の基本的品質要求事項
5.2 建築鉄骨の溶接設計と溶接施工
5.2.1 建築鉄骨の溶接設計
5.2.2 建築鉄骨の溶接施工
5.2.3 建築鉄骨の試験・検査
5.2.4 建築鉄骨で求められる品質記録
5.2.5 建築鉄骨溶接部の破壊事故対策と補修
5.3 橋梁の溶接設計と溶接施工 .
5.3.1 橋梁の溶接設計
5.3.2 橋梁の製作、溶接施工
5.3.3 溶接部の検査
5.3.4 橋梁の維持管理
5.4 船舶の溶接設計と溶接施工
5.4.1 船舶の溶接設計
5.4.2 船舶の溶接施工
5.4.3 溶接施工管理と品質管理、精度管理
6章 圧力設備の溶接設計と溶接施工
6.1 圧力設備の概要
6.1.1 圧力設備の定義
6.1.2 圧力設備の種類と特徴
6.1.3 圧力設備の材料およびその溶接の概要
6.2 関連規格・基準
6.2.1 国内の圧力設備に関する関連規格とその動向
6.2.2 国外の圧力設備に関する関連規格とその動向
6.3 圧力容器の設計
6.3.1 容器設計の基礎
6.3.2 許容応力
6.3.3 胴の計算厚さ
6.3.4 溶接設計
6.4 圧力設備の溶接施工と管理
6.4.1 製作一般
6.4.2 溶接管理
6.5 圧力設備の構造・溶接の事例
6.5.1 事業用発電ボイラ
6.5.2 圧力容器
6.5.3 常温貯槽
6.5.4 低温貯槽
6.5.5 配管・パイプライン
6.6 供用中の圧力設備の劣化・損傷
6.6.1 劣化・損傷の種類
6.6.2 腐食損傷
6.6.3 高温劣化・損傷
6.7 設備保全と維持管理
6.7.1 設備保全
6.7.2 設備診断
6.7.3 溶接補修
6.7.4 溶接補修事例および溶接補修に起因した破壊事故事例
索引