中国語検定HSK公認テキスト1級 改訂版[音声DL付]




まえがき

中国は、「試験大国」です。隋王朝から20世紀初頭(589~1905)まで、官僚登用試験である「科挙」を、一時の中断はあるにせよ、連綿と続けてきました。古来、科挙受験生であった文人達は、自身の人生と科挙を切り離すことはできず、受験にまつわる悲喜こもごものドラマを文学作品に綴ってきました。たとえば、中国最後の王朝である清の呉敬梓(1701~1754)の白話小説『儒林外史』では、試験に一生を捧げ、試験のために生きる登場人物の悲喜劇を描いています。そして、本来手段であるべき試験が人生最大の目的になってしまっていた旧中国の士大夫社会の疲弊ぶりを、ユーモアを交えつつ揶揄しながら活写し、言外に試験の意義について現代にも示唆しています。このような試験の伝統を持つ中国が、20世紀末、新中国政府の指導の下、世界に向けて生み出した中国語試験がHSK(汉語水平考試Hanyu Shuiping Kaoshiの略)です。

1990年、HSKは、中国政府公認の中国語の語学試験として産声を上げました。改革開放政策を推し進め、右肩上がりの経済成長を遂げてきた中国の現代史の歩みとともに、HSKは、増加する世界各国の中国語学習者の学習指標としての役割を担ってきました。近年、中国は経済活動の場として注目されてきたため、中国語は特にコミュニケーション能力を養うことが強く求められるようになってきました。HSKもその需要に応えるべく内容の一新が必要となり、2010年に日本で「新HSK」が始まりました。

「新HSK」では、会話などの口語表現に多く題材を求め、コミュニケーション能力を測ることに重点が置かれています。留学や企業の駐在などで、中国で生活をするとき、現地の人々が話す自然な言葉を聞き取り、また自分の思いを中国語で伝えることができたら、より深く中国の人々との友情も深まっていくことでしょう。コミュニケーション能力の達成レベルを的確に確認できる目安となることに、「新HSK」の意義があります。

HSKも資格試験であるため、合格を目標に勉強をしますが、合格した後にこそ、中国語学習の本当の目標があるはずです。試験合格のための受験勉強に終わらせず、ここで覚えた知識を使って、多くの中国の知己を得て、表面的なつきあいではなく、深い文化面からの交流が広がっていくことを、『儒林外史』の国は期待していると思います。

本書は「新HSK」の出題内容を検討し、受験されるみなさんが、それぞれの級で学ばなければならない事項をわかりやすく解説し、さらに実際の試験の形式で練習できるように編集しています。本書が、受験される方々の中国語理解と合格の栄冠の獲得の一助となれば、望外の喜びです。

宮岸雄介

本書の特徴と使い方

本書は、HSK1級で合格、つまり6割以上の点数を取得するために必要な中国田の知識、文法、単語を紹介しています。

本書で使用している文法用語

文を構成するもの及び文の成分
・単語、連語(=フレーズ・句)、節
・主語、述語、目的語、状語(=連用修飾語)、定語(=連体修飾語)、補語(様態補語、程度補語、結果補語、方向補語、可能補語、数量補語)
品詞など
名詞、時間詞、場所詞、方位調、数詞、量詞(名量詞、動量詞)、数量調、代詞(人称代詞、指示代詞、疑問代詞)、動詞、能願動詞、形容詞、副詞、介詞、接続詞、助詞(構造助詞、動態助詞、語気助詞)、感動詞、擬声詞、離合詞、成語慣用語、接頭辞、接尾辞

Part1/発音 中国語の発音に慣れるための内容です。
Part2~Part4/文法 各UNITごとに、HSKに出題される重要な文法事項を解説しています。

 

 

目次

まえがき
本書の特徴と使い方
HSK概要
HSK1級
試験概要
問題紹介
聞き取り試験のスクリプト

Part 1
UNIT1 漢字は1文字1音節に1つの意味
POINT1 形(字形) →簡体字(筒体字)
POINT2 声(発音)
UNIT2 発音篇 (1) ~母音~
POINT1 単母音は7種類
POINT2 二重母音は9種類
POINT3 三重母音は4種類
POINT4 鼻母音は16種類
UNIT3 発音篇(2) ~子音~
POINT1子音の発音 (1)
POINT2 子音の発音 (2)
Part1 実践問題.
音節表

Part2
UNIT4動詞述語文(1)~「是」を使う文~
POINT1 「是」は中国語のbe動詞!
UNIT4 練習問題
UNIT5 動詞述語文(2)
POINT1 中国語は語順が大事!
UNIT5 練習問題
UNIT6形容詞述語文
POINT1形容詞述語文の「很」
POINT2 「太」の使い方
UNIT6 練習問題
Part2 実践問題

Part 3
UNIT7名詞述語文~年月日の表現~
POINT1 中国語は名詞も述語になる!
POINT2 数字と時間の表現を覚えよう!
UNIT7 練習問題
UNIT8 数詞と量詞
POINT1 量詞は数詞や指示代詞と名詞をつなぐもの
UNIT8 練習問題
UNIT9疑問代詞を使った疑問文 (1)
POINT1 何曜日?何時?と尋ねる表現「几」
POINT2 数の尋ね方(年齢とお金)
UNIT9 練習問題
UNIT10 疑問代詞を使った疑問文 (2)
POINT1 聞きたいところに置く!中国語の疑問代詞
UNIT10 練習問題
UNIT11 中国語の助動詞~能願動詞〜 .
POINT1 2つの「できる」「能」と「会」
POINT2 「~したい」の「想」
UNIT11 練習問題
Part3 実践問題

Part 4
UNIT12 動詞述語文 (3)
POINT1 1つの文で動詞を2つ使う用法
UNIT12 練習問題
UNIT13 存在と場所
POINTI 存在と場所を表す「有」と「在」
UNIT13 練習問題
UNIT 14 「在」の用法
POINT1 動詞以外の「在」の用法
UNIT14 練習問題
Part4 実践問題

模擬問題

HSK 概要

HSKとは??
HSKは中国語能力検定試験“汉语水平考试” (Hanyu Shuiping Kaoshi)のピンインの頭文字をとった略称です。HSKは、中国政府教育部(日本の文部科学省に相当)が認定する世界共通の中国語の語学検定試験で、母語が中国語ではない人の中国語の能力を測るために作られたものです。現在、中国国内だけでなく、世界各地で実施されています。

新 HSKの導入と試験内容

HSKは、1990年に中国国内で初めて実施され、翌1991年から、世界各国で実施される
ようになりました。

2010年から導入された新HSKでは、これまで以上にあらゆるレベルの学習者に対応できるよう、試験難易度の幅を広げ、各段階での学習者のニーズを満たすことを目指しまし
た。また、HSKは、中国語によるコミュニケーション能力の測定を第一の目的とした実用的な試験です。そのため、実際のコミュニケーションで使用する会話形式の問題や、リスニング、スピーキング能力の測定に重点をおいた試験となっています。

HSK 受験のメリット

HSKは、中国政府の認定試験であるため、中国において中国語能力の公的な証として通用し、HSK証書は中国の留学基準や就職の際にも活用されています。

また、2010年のリニューアルでは、ヨーロッパにおいて外国語学習者の能力評価時に共通の基準となるCEF※1と合致するよう設計されたため、欧米各国の外国語テストとの互換性から難易度の比較がしやすく、世界のどの地域でも適切な評価を受けることが可能となりました。

中国語能力の測定基準
自分の中国語能力を測定することで、学習の効果を確認するとともに、学習の目標
として設定することでモチベーション向上につながります。

企業への中国語能力のアピール
企業採用選考時の自己アピールとして中国語能力を世界レベルで証明できるだけでなく、入社後の実務においても中国語のコミュニケーション能力をアピールする手段になり、現地(中国)勤務や昇進等の機会を得ることにつながります。

中国の大学への留学や中国での就職
HSKは大学への本科留学の際に必要な条件となっています。また、中国国内での就
職を考える際にも、中国語能力を証明するために必要な資格であると言えます。

日本国内の大学入試優遇
大学入試の際にHSKの資格保有者に対し優遇措置をとる大学が増えてきています。
(詳細はHSK事務局HP:http://www.hskj.jp)

※1 CEF (ヨーロッパ言語共通参照枠組み:Common European Framework of Reference for Languages: Learning, teaching, assessment) は、ヨーロッパにおいて、外国語教育のシラバス、カリキュラム、教科書、試験の作成時、および学習者の能力評価時に共通の基準となるもので、欧州評議会によって制定されたもの。学習者個人の生涯にわたる言語学習を、ヨーロッパのどこに住んでいても断続的に測定することができるよう、言語運用能力を段階的に明記している。

HSK 各級のレベル
新HSKでは、1級から6級までに級が分けられ、合否およびスコアによって評価されます。

図1

試験の程度 語彙量 CEF
6級 中国語の情報をスムーズに読ん だり聞いたりすることができ、会 話や文章により、自分の見解を 流暢に表現することができる 5,000語以上の常用 中国語単語 C2 熟達した言語使用者
5級 中国語の新聞・雑誌を読んだり、中国語のテレビや映画を鑑賞したりでき、中国語を用いて比較的整ったスピーチを行うことが できる。 2,500 語程度の常用 中国語単語 C1
4級 中国語を用いて、広範囲の話題 について会話ができ、中国語を 母国語とする相手と比較的流暢 にコミュニケーションをとること ができる。 1,200 語程度の常用 中国語単語 B2 自立した言語使用者
3級 生活・学習・仕事などの場面で 基本的なコミュニケーションをと ることができ、中国旅行の際に も大部分のことに対応できる。 600語程度の基礎常用中国語単語及びそれに相応する文法知識 B1
2級 中国語を用いた簡単な日常会話 を行うことができ、初級中国語 優秀レベルに到達している。大 学の第二外国語における第一年 度履修程度。 300語程度の基礎常 用中国語単語及びそれに相応する文法知識 A2 基礎段階の言語使用者
1級 中国語の非常に簡単な単語と レーズを理解、使用すること できる。大学の第二外国語に ける第一年度前期履修程度。 150語程度の基礎常 用中国語単語及びそれに相応する文法知識 A1

HSK1級 試験概要

HSK1級について

HSK1級は、受験生の日常中国語の応用能力を判定するテストで、「非常に簡単な中国語の単語と文を理解、または使用することができ、具体的なコミュニケーションを行うことができる。また、中国語を学習するための基礎能力も備えている」ことが求められます。主に週2~3回の授業を半年間(1学期間)習い、150語程度の常用単語と文法知識を習得している者を対象としています。

試験内容
聞き取り:約15分・放送回数2回

図2

パート 形式 問題数 時間 配点
第1部分 放送される語句が写真と一致するかを答える 5題 約15分間 100点
第2部分 放送される短文の内容に一致する写真を選ぶ 5題
第3部分 放送される会話文の内容に一致する写真を選ぶ 5題
第4部分 放送される短文の内容に関する問いに答える 5題

読解:17分

図3

パート 形式 問題数 時間 配点
第1部分 語句が写真と一致するかを答える 5題 17分間 100点
第2部分 短文に一致する写真を選ぶ 5題
第3部分 短い疑問文とその答えを組み合わせる 5題
第4部分 文中の空所に適切な語句を補う 5題

○試験開始の前に、解答用紙に個人情報を記入する時間が5分間与えられます。
○聴力試験終了後に、解答用紙に記入する時間が予備として3分間与えられます。

成績および有効期間

○聞き取り、読解の配点はそれぞれ100点、合計200点で評価されます。
○総得点120点が合格ラインです。
○HSK1級の成績証には、聞き取り、読解のそれぞれの得点および総得点が明記されます。
○成績証は合否に関わらず受験者全員(試験無効者を除く)に送付され、発送には試験後約60日を要します。
○試験の約1か月後から、HSK公式ホームページ(http://www.hskj.jp)にて成績照会を行うことが可能(受験番号と姓名の入力が必要)です。
○HSKの成績は、外国人留学生が中国の大学に入学するための中国語能力証明とする場合、その有効期間は受験日から起算して2年間とされています。