産業・組織カウンセリング実践の手引き──基礎から応用への全7章
はじめに
産業領域において,労働者の心の健康問題は重要な課題となっています。心のケアの専門家として,カウンセラーを導入している企業・組織も増えてきています。また, EAP(Employee Assistance Program)のように従業員の支援を専門とした機関で働くカウンセラーも多く,産業領域においてカウンセラーの職域は拡大しつつあります。
産業領域におけるカウンセラーは,労働者個人の支援にとどまらず,「組織の理念追求」「生産性向上」という側面から企業・組織に対する支援を行うことも必要であると考えます。そのような支援を行うためには,カウンセラーとしての専門的なスキルに加え,企業・組織において頼りになる専門家であり,チームの一員として認められるための能力が求められます。
産業領域で働くカウンセラーは多用な知識やスキルを修得しなければなりません。カウンセラーとして働いている人は,臨床心理士,産業カウンセラ一,精神保健福祉士,保健師や看護師などさまざまな資格を取得していますが,個々の資格によって育成のプログラムが異なります。しかし,産業領域に特化した育成プログラムはまだ少ないため、現場で必要な知識やスキルは,試行錯誤しつつ各自が身に付けてきたことが多いと思います。この本では、これらの資格を有して,心理援助の仕事をしている方々をカウンセラーと呼んでいます。今後増えるであろう,公認心理師もここに含まれるでしょう。
産業領域で働くカウンセラーは一人職場であることが多く,各自が身に付けたノウハウの多くは,情報保護の観点から,企業・組織の枠組みを超えて共有されることが少ないのが現状です。
この本は,公的機関、企業内のカウンセリングルーム,EAPなど産業領域で実際に働いている3人のカウンセラーがそれぞれの経験から獲得した知識やノウハウを提供しています。産業領域で働くカウンセラーの皆さまが活躍されるための一助となり,カウンセラーの職域がさらに広がれば幸いです。
目次
はじめに
第1章
産業領域における心理臨床活動
Ⅰ 産業領域における心理臨床活動とは
Ⅱ 産業領域におけるカウンセラーの役割——必要な3つの能力
III メンタルヘルス対策の基礎知識
第2章
従業員から相談を受けたら
I 面接の構造
II 個人の見立てと相談対応
III 個人相談における守秘義務と情報開示
コラム 産業領域における法律
第3章
管理職から相談を受けたら
I マネジメントコンサルテーションとは
II マネジメントコンサルテーションの進め方
コラム 人事・管理職相談における守秘義務と情報開示
第4章
人事部からの依頼を受ける(組織介入)
I 企業・組織の見立て
II ストレスチェックの集団分析と職場環境改善
III ハラスメント
IV 惨事ケア
コラム スーパービジョン
コラム ストレスチェック制度
第5章
従業員の職場復帰支援
I 休職・職場復帰について
II 休職および職場復帰支援の流れ
III 職場復帰支援におけるカウンセラーの役割
IV 職場組織内外の他職種との連携
コラム リワーク
コラム 休職中の生活を支える制度と労働災害
第6章
研修を依頼されたら.
I コンサルテーション・ツールとしての研修
II セルフケア研修
III ラインケア研修
第7章
事例編
事例1 うつ病
事例2 現代型うつ病
事例3 発達障害
事例4 パーソナリティ障害
事例5 アルコール依存症
事例6 セクシャルハラスメント
事例7 職場復帰の困難事例
事例8 異動して復職し,成功した事例(適応障害)
事例9 キャリアの問題が背景となった事例
事例10 自殺のポストベンションの事例
索引
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