計測工学入門(第3版・補訂版)
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第3版のまえがき
計測とは、目的とする量を計器によって求めることである。
それによって初めて、推定や予見でなく計測結果に基づいて推論を確認したり、予想との違いの原因を見極めて考え方や理論を更新することができる、その技術的な進歩が新しい現象の発見につながり、研究の発展に大きな貢献をしてきた。さらには、高度・高性能の工業製品を作り上げる根幹でもある。今では計測技術の重要性は、イノベーションを加速するためのボトルネックとして認識され、社会の発展に伴い、常に要求される計測精度の向上と計測対象の拡大を実現する革新的計測分析技術が求められている。
このような状況にあって、工学部生向けの教科書と入門書を兼ねた本書の初版発行後、2007年に抜本的に見直しを行って第2版を発行したが、この間の技術進歩の速度が速く、さらに改訂が必要とされるようになった。たとえば、SI単位系などは、不変のものと思いがちであるが、常に不確定性をより小さくしようとする努力が続けられている。長さの1次標準を光コムとしたり、重さの単位を原器から原子レベルの定数を使おうと検討しているのはそうした最新技術の流れである(また2018年の国際度量衡総会での決定で、重さの単位にプランク定数が使われることになった。これにあわせて、2020年発行の補訂版では本文を見直している)。
改訂に当たっては、計測の補助手段としての“電気信号の増幅とディジタル回路”はほかの教科書に譲るとして全文削除したうえ、初版、第2版の方針を継承して基礎的で必要な項目に絞り、計測の原理、現在実用化されている主な計測方法・手段および実用面で注意すべき事柄に重点を置いた。また、例題を見直して本文で十分理解できると思われるものは削除した。さらに、CoffeeBreakを最小限に絞り込み、Topicsの内容も見直して現在の潮流に沿うものとした。
計測技術は、製品やサービスの質および量を定量化するものであるがこれを社会・産業活動に適用するうえでは、測定対象、測定する量、測定器、測定環境、測定結果の表示およびその信頼性など、広く情報化のための社会システムとしてとらえる必要性が大きくなってきている。本書がそのお役に立てば幸甚である。
2015年10月(2019年11月追記)
著者
まえがき
計測の礎ともいえる計測量の単位について、わが国でもようやく国際単位が施行されはじめ、今までなじんできたカロリーは、栄養に関するもの以外は使えなくなるなど大きな改定が行われている。また、放射線の単位“キュリー”は使われなくなり、キュリー夫人引退という報道記事が出たこともある。さらに、天気予報でおなじみのミリバールは、ヘクトパスカルという聞きなれない単位に置き換えられている。
1959年に尺貫法から切り替わったメートル法はすっかり定着したが、ここで再び若千の戸惑いを交えながら頭の切り替えをしなければならない状況になってきている。一方、計測の最先端では、高精度、高感度、高分解能、高速応答といった従来の開発指向だけでなく、それらに加えて、複合情報、あいまい量なども積極的に計測の対象に取り入れ、人間にとって必要な情報とは何かを追求し、わかりやすく、有益な[データを提供するような努力が積み重ねられている。つまり、単に物理量だけを計測するのではなく、豊富でかつ多様なデータを集め、これを処理して有効な情報に仕上げることができる時代になってきたともいえる。その背景には、半導体の集積回路によるコンピュータ技術の大きな寄与がある、そして、それを使いこなし、いわゆるインテリジェンドな計測システムを構築するためのソフト開発に多大な努力が払われている。
このような状況にあって、機械系学生向けの“計測”の講義と、各種委員会における先端計測についての調査を通じて得た知見をもとに、教科書と入門書を兼ねた本書をまとめた。計調については、多くの優れた著書があるので、正面から計画を論じることよりも、少し視点を変えて計測の本質に迫り、かつわかりやすい内容にするようこころがけた。したがって、計測項目の各論では基本的かつ必須な項目に絞り、実用面で注意すべき事柄と原理に重点をおいて解説し、詳細はほかの専門書に譲った。また、実用化段階ででの最先端計画をトピックス的に取り上げ、その概要を解説した。さらに、理解を深めるために演習問題を盛り込んだ。なお、頭休めのため、CoffeeBreakを設けた。たとえば、1000の接頭語”k”の話がある。
接頭語”k”はよく間違えられる。これは大文字にする人が多いのだが、そのように間違えられるそれなりの背景がある。工学にたずさわる人のほとんどは、計測に関与する機会をもつはずである。計測の専門家ではなくても、計測の本質を理解しておくことは開発を進めるうえで大きな力になると信じている。その意味で、本書が皆様のお役に立てば幸いである。
1994年3月
著者
目次
第1章 計測の基礎
1.1計測の意味
1.2単位
1.3次元
1.4標準とトレーサビリティ
1.4.1標準
1.4.2トレーサビリティ
1.5計測用語
1.6確率分布関数
1.6.1確率密度関数
1.6.2累積確率密度関数
1.6.3代表的な分布
1.7有効数字
1.7.1有効数字と誤差
1.7.2計算における取扱い
1.7.3誤差の伝ぱん
1.8近似式
1.9測定値の信頼度―不確かさの概念とその評価
1.9.1不確かさの考え方
1.9.2不確かさの定義
1.9.3標準不確かさの評価
1.9.4合成標準不確かさ
1.9.5拡張不確かさ
演習問題
第2章 長さ、角度、形状の測定
2.1長さの測定
2.1.1ブロックゲージと標準ゲージ
2.1.2標準尺
2.1.3光波干渉による測定
2.1.4各種ゲージとマイクロメータ
2.1.5測長器
2.1.6測定顕微鏡とレーザ干渉測式
2.1.7誤差要因
2.2角度の測定
2.2.1機械的角度定規
2.2.2サインバー類
2.2.3角度ゲージ
2.2.4水準器
2.2.5オートコリメータ
2.3面積、形状、体積の測定
2.3.1面積
2.3.2面粗さ
2.3.3形状
2.3.4体積
演習問題
第3章 力、圧力等の測定
3.1質量
3.1.1てんびん
3.1.2ロバーバルの機構
3.2力の測定
3.2.1変位測定法
3.2.2ひずみ測定法
3.2.3圧電効果により発生する電荷を計測する方法
3.3トルクの測定
3.4圧力の測定
3.4.1液体圧力計
3.4.2弾性体圧力計
3.5密度の測定
3.5.1浮秤
3.5.2連通管
3.5.3気体の密度
演習問題
第4章温度、湿度等の測定
4.1温度の測定
4.1.1温度計の分類
4.1.2膨張式温度計と圧力式温度計
4.1.3熱電温度計
4.1.4抵抗温度計
4.1.5熱放射を利用した温度計
4.2熱量の測定
4.2.1熱量の単位
4.2.2熱量計測法
4.3湿度および含水量
4.3.1湿度の定義
4.3.2湿度計測法
4.3.3含水量計測法
演習問題
Topics人工衛星の姿勢制御用地球センサ
第5章 真空度の測定
5.1マクレオド真空計
5.2クヌーセン真空計
5.3ピラニー真空計
5.4電離真空計
演習問題
第6章 時間等の測定
6.1時間の測定
6.1.1振子時計の等時性
6.1.2時計の種類
6.2速度・回転数の測定
6.2.1速度の測定
6.2.2回転速度計
6.3振動の測定
6.3.1変位振動計
6.3.2加速度振動計
6.3.3電気的振動計
6.3.4振動計の校正
6.3.5振動レベル計
6.4音の測定
6.4.1音の大きさのレベル
6.4.2音量計
演習問題
第7章 流量等の測定
7.1流量の測定
7.1.1流量計測法の分類
7.1.2流量計
7.2粘度の測定
7.2.1粘度の定義と単位
7.2.2動粘度
7.2.3粘度の測定法
演習問題
Topicsオゾン層の測定(宇宙からの観測)
第8章 光と放射線の測定
8.1電磁波
8.2赤外線の測定
8.2.1検出器性と評価
8.2.2放射率の測定
8.2.3反射率と透過率の測定
8.3核放射の測定
8.3.1放射線と放射能
8.3.2放射線計測
8.4X線の測定
TopicsX線CTとMRI
演習問題
第9章 電気計測の基礎
9.1電磁気量の単位と標準
9.1.1電磁気量の単位系
9.1.2電気標準
9.2測定機器
9.2.1指示電気計器
9.2.2ディジタル計器
9.3電圧・電流の測定
9.3.1電流の測定
9.3.2電圧の測定
9.4抵抗とインピーダンスの測定
9.4.1直流抵抗の測定
9.4.2インピーダンスの測定
9.5周波数の測定
9.5.1標準電波
9.5.2周波数測定
9.6電力の測定
9.6.13電圧計法
9.6.2ホール効果電力計
9.6.3熱電型電力計
9.6.4電力計法
9.6.5誘導型電力量計
9.7磁気の測定
9.7.1磁界の測定
9.7.2磁束の測定
演習問題
Topics超伝導量子干渉素子(SQUID)
第10章 測定量の記録
10.1グラフ記録計
10.1.1ペンレコーダ
10.1.2X-YレコーダとX-Yプロッタ
10.2オシロスコープ
10.2.1アナログオシロスコープ
10.2.2ディジタルオシロスコープ
10.2.3信号検出とプローブ
演習問題
Topicsあいまい量の計測
演習問題解答
参考文献
索引