海事代理士のおすすめ参考書・テキスト(独学勉強法/対策)
海事代理士の概要
海事代理士は海に関する法律を専門としています。海事代理士の主な仕事は、造船業者など海に関する仕事をしている企業や個人の代わりに登記・申請などの書類を作成し、行政などに提出することです。試験は筆記試験と口述試験があり、一般法律の基本知識や海に関する法律の深い理解が必要です。
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公式テキスト
公式テキストはありません。水産・海洋などの専門書籍を出版している成山堂書店を中心にテキストが販売されています。また、海事代理士は海の法律家なので、六法・海事法規を手に入れるのは必須でしょう。
海事代理士試験のおすすめテキスト
1.「海事代理士合格マニュアル」(成山堂書店)
海事代理士試験対策本。受験の手引、筆記試験(過去問)、口述試験(過去問)、合格体験記がおもな内容。付録的に、新形式の問題、難読用語の読み方、参考書等を収録。
2.「海事六法<2018年版>」(海文堂出版)
充実した収録法令・条約。重要法律には事項ごとに参照条文を表記。海事代理士試験の規程法令科目にも対応した収録内容。
3.「概説 海事法規(改訂版)」(成山堂書店)
海事に関する法規をわかりやすく解説した1冊。海技士試験、海事代理士試験の参考書に最適です。
4.「海の法律家 海事代理士になる 海事代理士試験 口述試験練習問題集」(デザインエッグ社)
「海の法律家 海事代理士になる口述試験練習問題集」第2版。本書は、海事代理士口述試験対策問題集です。過去問題とオリジナル問題(船員法89問・船舶法38問・船舶職員及び小型船舶操縦者法64問・船舶安全法49問)を織り交ぜて収録しています。
5.「海事代理士口述試験対策問題集」(成山堂書店)
海事代理士試験の口述試験に出題された問題とその類似問題・派生問題に、ヒント(=解答の根拠となる条文)、解答、解説(=関連する条文等の参考事項)を記載した問題解答集。船舶法(38問)、船舶安全法(90問)、船員法(139問)、船舶職員及び小型船舶操縦者法(82問)を掲載。
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目次 – 海事代理士合格マニュアル(6訂版)
編者のことば
本書は,実務家である海事代理士が編者となって発行するもので、海事代理士試験の受験を目指す多くの方々に利用していただいております。
2年前に本書5訂版を発行いたしましたところ、受験生の皆様から望外の好評を得て,さらに新しく受験を目指す皆様から改訂版を希望する声が多く寄せられているところから,このたび6訂版を出版するに至りました。
本書では,最近5年間に出題された問題を列挙し,出題傾向と出題条文一覧表,ヒント,模範解答,難読用語の読み方などを付し,わかりやすく作成しましたので,海事代理士を目指す受験者に大きな武器として活用されますことを願っております。
なお,読者から寄せられたご要望の中で多かった難読用語の読み方も掲載しておりますので、併せてご参照ください。
2018年5月
編者代表 天野利彦
口述試験で役立つ難読用語の読み方
[船舶法] 官海官庁 かんかいかんちょう不開港場 ふかいこうじょう
非サレハ あらざれば
毀損 きそん
請受 こいうけ
到著 とうちゃく
三个月間 さんかげつかん
雖モ いえども
已ムコトヲ得サル やむことをえざる
端舟 たんしゅう
其他 そのた
櫓櫂 ろかい
[船舶法施行細則] 浚渫船 しゅんせつかん
看做サス みなさず
碇泊 ていはく
船梁 せんりょう
釘著 ていちゃく
[船舶安全法] 型式承認 かたしきしょうにん
繋船 けいせん
堪航性 たんこうせい
[商法] 噸数 とんすう
爾後 じご
堪フル たうる
著手 ちゃくしゅ
挽船料 ひきふねりょう
惹起 じゃっき
濫ニ みだりに
目次
第Ⅰ章 海事代理士試験について
①受験手続き
1.受験資格
2.出願期間と試験日程
3.受験手続き等
②筆記試験
1.試験実施時期
2.試験科目
3.試験実施場所
4.試験の方法
5.筆記試験の合格者の発表
6.筆記試験の免除
③口述試験
1.試験実施時期
2.試験科目
3.試験実施場所
4.試験方法
5.合格発表
第Ⅱ章 筆記試験
第1節 憲法
第2節 民法
第3節 商法
第4節 国土交通省設置法
第5節 船員法
第6節 船員職業安定法
第7節 船舶職員及び小型船舶操縱者法
第8節 海上運送法
第9節 港湾運送事業法
第10節 内航海運業法
第11節 港則法
第12節 海上交通安全法
第13節 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律
第14節 船舶法
第15節 船舶安全法
第16節 船舶のトン数の測度に関する法律
第17節 造船法
第18節 国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律
第Ⅲ章 口述試験
第1節 船舶法
第2節 船舶安全法
第3節 船員法
第4節 船舶職員及小型船舶操縱者法
第IV章 合格体験記
付録
海事代理士試験参考書
第Ⅰ章 海事代理士試験について
この試験は,海事代理士の業務を行う能力の有無を判定するため,一般法律常識,海事法令についての専門知識,海事代理士の業務を行うのに必要な実務上の知識について,筆記および口述の方法により行われます。
なお,本書の筆記試験および口述試験の傾向と対策では,平成22年以降の最新の試験問題の傾向を中心に記述しています。
①受験手続き
1.受験資格
他の資格と異なり,学歴,年齢,性別等による制限はありませんが,海事代理士法第3条に規定する欠格事由に該当する者は,試験に合格しても海事代理士の登録ができないことになっています。
欠格事由(海事代理士法第3条)
(1)未成年者
(2)成年被後見人又は被保佐人
(3)禁錮以上の刑に処せられた者であって,その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなってから2年を経過しない者
(4)国家公務員法,国会職員法又は地方公務員法の規定により懲戒免職の処分を受け,当該処分のあった日から2年を経過しない者
(5)海事代理士法第25条第1項の規定により登録のまっ消の処分を受け,その処分から5年を経過しない者
2.出願期間と試験日程
海事代理士試験の施行については,毎年7月末の官報に告示される。ちなみに平成27年の海事代理士試験の出願期間と試験日程は,次のとおりであった。
平成29年海事代理士試験日程表(例)
7月13日 | 8月1日〜8月31日 | 9月29日 | 11月1日 | 12月4日 | 12月22日 |
口述試験については、状況により一部受験者について日時に変更がある。
3.受験手続き等
(1)提出を要する書類
①受験願書
②顔写真2枚(縦6~8cm×横4.5~6cm,願書提出前6か月以内に撮影した無背景・脱帽上半身のもので、画像の鮮明な写真,特に顔のよくわかるもの裏面に氏名及び撮影年月日を記入する)。
③筆記試験免除申請書(前年の筆記合格者に限る)
(2)受験手数料
受験願書に6,800円の収入印紙を貼って、消印をしないで提出する。
(3)受験願書用紙の請求先
北海道運輸局 〒060-0042札幌市中央区大通西10丁目
札幌第二合同庁舎 011-290-1011
東北運輸局 〒983-8537仙台市宮城野区鉄砲町1
仙台第四合同庁舎022-791-7512
関東運輸局 〒231-8433横浜市中区北仲通5-57
横浜第二合同庁舎045-211-7214
北陸信越運輸局 〒950-8537新潟市中央区美咲町1-2-1
新潟美咲合同庁舎二号館025-285-9156
中部運輸局 〒460-8528名古屋市中区三の丸2-2-1
名古屋合同庁舎第一号館052-952-8013
近畿運輸局 〒540-8558大阪市中央区大手前4-1-76
大阪合同庁舎第四号館06-6949-6416
神戸運輸監理部 〒650-0042神戸市中央区波止場町1-1
神戸第二地方合同庁舎078-321-3146
中国運輸局 〒730-8544広島市中区上八丁堀6-30
広島合同庁舎四号館082-228-3679
四国運輸局 〒760-0064高松市朝日新町1-30-(朝日町庁舎)
高松港湾合同庁舎087-825-1182
九州運輸局 〒812-0013福岡市博多区博多駅東2-11-1
福岡合同庁舎新館8092-472-3155
内閣府 〒900-0006那覇市おもろまち2-1-1 098-866-1836
沖縄総合事務局 那霸第二地方合同庁舎二号館
郵便で請求するときは,必ず返信用の郵便切手140円を同封してください。
(4)受験願書の提出先
受験希望地を管轄する地方運輸局長(運輸監理部長及び沖縄総合事務局を含む)に提出する。
受験願書を郵送する場合は書留郵便とし,必ず返信用の郵便切手82円を同封する。
②筆記試験
1.試験実施時期
毎年9月下旬若しくは10月上旬頃,1日で行われます(例:平成29年9月29日金09:00~17:00)。
2.試験科目
次に掲げる全科目から出題されます。
(1)一般法律常識(概括的問題)
憲法,民法及び商法(第3編海商)
(2)海事法令(專門的問題)
国土交通省設置法,船舶法,船舶安全法,船舶のトン数の測度に関する法律,船員法,船員職業安定法,船舶職員及び小型船舶操縱者法,海上運送法,港湾運送事業法,內航海運業法,港則法,海上交通安全法,造船法,海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律,国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(国際港湾施設に係る部分を除く)及びこれらの法律に基づく命令
3.試験実施場所
毎年次の11力所で行われます。
札幌市 北海道運輸局
仙台市 東北運輸局
横浜市 関東運輸局
新潟市 北陸信越運輸局
名古屋市 中部運輸局
大阪市 近畿運輸局
神戸市 神戸運輸監理部
広島市 中国運輸局
高松市 四国運輸局(朝日町庁舎)
福岡市 九州運輸局
那覇市 内閣府沖縄総合事務局
4.試験の方法
全国同一問題で,主として記述式,○×式等の短答方式により行われます。今後もこの傾向が続くものと推察されますので、設問の趣旨をとりちがえて,思わぬ間違いをしないよう注意しなければなりません。
5.筆記試験の合格者の発表(例:平成29年11月1日(水))
受験地を管轄する地方運輸局等の掲示板及び本ページにおいて,受験番号が掲出されるとともに,筆記試験合格者に対し,口述試験の案内が発送されます。
6.筆記試験の免除
前掲の提出願書で述べたとおり,筆記試験の合格者が口述試験に不合格になっても,翌年度に限り申請によって筆記試験が免除されることになっています。該当者が受験する場合は受験願書に筆記試験免除申請書(12ページ参照)を添えて提出すれば,その年の筆記試験は免除され、直接口述試験を受けることになります(筆記試験の合格者で口述試験を受けなかった者も同様です)。
なお,筆記試験の免除を受けようとする場合,願書等の提出先は国土交通省海事局総務課へ直接提出してください。
住所:〒100-8918東京都千代田区霞ヶ関2-1-3TEL:03-5253-8946受験願書を郵送する場合は書留郵便とし,必ず受験票送付用郵便切手(82円)を同封してください。
③口述試験
1.試験実施時期
毎年11月下旬頃(例:平成29年12月4日(月)10:00~17:00)に,筆記試験の合格者(筆記試験免除者も含む)に対して行われます。
2.試験科目
海事法令のうち,船舶法,船舶安全法,船員法,船舶職員及び小型船舶操縦者法の4科目について行われます(例:平成30年については筆記,口述試験の解答に当たり適用すべき法令等は,平成30年4月1日現在において施行されているものとします)。
3.試験実施場所
国土交通省 〒100-8918東京都千代田区霞が関2-1-3 第三合同庁舎内
担当局課:海事局総務課 03-5253-8111(代表)
なお,日時と場所については,筆記試験合格者(筆記試験免除者も含む)に直接通知されます。
4.試験の方法
口述試験は,受験者が海事代理士となるにふさわしい実務知識を有しているかどうかを判断することを目的としています。
口述試験は、1科目について5~7分程度の時間内で,試験官の用意した質問に答えるものであり,迅速な解答を求められます。総所要時間は,30分程度で全科目を終了します。
5.合格発表
口述試験終了後20日以内(12月第2週の金曜頃)に発表され,官報に受験番号が公示され,本人に合格証書が送付されます。
問い合せ先:一般社団法人 日本海事代理士会 電話番号 03-3552-9688
海事代理士試験実施状況
筆記試験 | 口述試験 | 試験合格率 | |||||||
年 | 出願数 | 受験者 (A) |
合格者 (B) |
(B)/(A) (C)% |
筆記試験免除者 (D) |
受験者 (B)+(D)-欠席者 (E) |
合格者 (F) |
(F)/(E) (G) |
(F)/(A)+(D) (H)% |
平成10 | 199 | 130 | 96 | 73.85 | 14 | 108 | 99 | 91.67 | 68.75 |
11 | 283 | 198 | 117 | 59.09 | 9 | 124 | 62 | 50 | 29.95 |
12 | 286 | 170 | 93 | 54.71 | 49 | 137 | 103 | 75.18 | 47.03 |
13 | 295 | 207 | 121 | 58.45 | 20 | 137 | 112 | 81.75 | 49.34 |
14 | 312 | 222 | 121 | 54.5 | 19 | 137 | 86 | 62.77 | 35.68 |
15 | 389 | 263 | 153 | 58.17 | 41 | 181 | 154 | 85.08 | 50.66 |
16 | 369 | 246 | 133 | 54.07 | 23 | 146 | 112 | 76.71 | 41.64 |
17 | 370 | 274 | 151 | 55.11 | 24 | 173 | 164 | 94.8 | 55.03 |
18 | 365 | 244 | 122 | 50 | 10 | 131 | 110 | 83.97 | 43.31 |
19 | 397 | 303 | 166 | 54.79 | 16 | 179 | 145 | 81.01 | 45.45 |
20 | 376 | 291 | 170 | 58.42 | 27 | 194 | 172 | 88.66 | 54.09 |
21 | 415 | 319 | 164 | 51.41 | 17 | 176 | 125 | 71.02 | 37.2 |
22 | 480 | 344 | 195 | 56.69 | 37 | 221 | 151 | 68.33 | 39.63 |
23 | 493 | 382 | 151 | 39.53 | 58 | 201 | 166 | 82.59 | 37.73 |
24 | 541 | 400 | 202 | 50.5 | 18 | 212 | 128 | 60.38 | 30.62 |
25 | 442 | 321 | 120 | 37.38 | 70 | 180 | 150 | 83.33 | 38.36 |
26 | 430 | 315 | 146 | 46.35 | 14 | 157 | 134 | 85.35 | 40.73 |
27 | 379 | 295 | 151 | 51.19 | 18 | 169 | 116 | 69.46 | 37.06 |
28 | 414 | 290 | 141 | 48.62 | 39 | 173 | 133 | 76.88 | 40.43 |
29 | 409 | 290 | 142 | 48.97 | 29 | 162 | 159 | 98.15 | 49.84 |
目次 – 海事一般がわかる本(改訂版)
まえがき
本書『海事一般がわかる本』は、船舶職員を目指す方々をはじめ、船舶の運航に関わるすべての方々が、最低限知っておくべき「海事」の知識を網羅して、簡潔にまとめたものである。幸いなことに、海事関係の学校の教科書を中心に、多くの方々に利用していていただいてきたが、初版発行以来、12年を経過した今般、操船、海事法規などを中心に改訂を行った。
地球上には広大な海がある。人類は、海に浮力があることを本能的に知っていた。今から約2千年前に古代ギリシアの数学者アルキメデスは、「流体中の物体は、その物体が押しのけた流体の重さ(重力)と同じ大きさの浮力を受ける」という、アルキメデスの原理を発見した。この浮力が地球上にあったことは、人類にとって大きな自然の恵みの一つであった。この力のおかげで、物の輸送は、荷馬車から海に浮く船が使われるようになった。以来、人類は船を進化させ、極めて省エネルギーに国際海上輸送を行ってきた。日本の貿易物資のほぼ100%(重量ベース)が船で運ばれていることをご存じだろうか。そうして私たちの生活は成り立っている。
海上運送に係る組織の一つに海洋会がある。海洋会は明治、大正、昭和、平成と東京・神戸両商船大の連合同窓会(正会員約1万名)であり、来年(2020年)に創立100年を迎えようとしている。海洋会員は、社会の先頭に立ち、海運及び関連産業を通じて島国である、我が国の発展に貢献してきた。会員は、このことにひそかな誇りを持っている。著者も一般社団法人海洋会の会員の一人である。どんなに科学技術が進んでも、大海原では人間の存在はいかにも小さい。大海原を駆け抜ける海の男達は、「スマートで、目先が利いて、几帳面、負けじ魂、これぞ船乗り」といわれ、いつの時代でも魅力的である。著者も多くの人生分岐点で、船乗りの世界を選択した一人であるが、悔いはない。
今、船を取り巻く環境はどうなっているだろうか。
・船体は、トン当たりの運航経費の低減を狙って大型化しタンカーにおいては50万重量トンを超えた。
・市場需要に応じて高速化し20ノット以上の高速貨物船が多くなった。
・経済的輸送のために原材料の輸送は専用船化した。
・自動制御技術の導入により機関室の一定時間当直の廃止が認められるようになった。
・コンピュータ技術の進展により、航海計器は今や単能機ではなく、総合航海援助システムとして人間に多くの情報を与えてくれるようになった。通信設備も衛星通信により簡便となった。海難救助もGMDSSとして機能している。
・省力化のために乗組員は少数精鋭化し、外国航路の日本籍船に日本人と外国二人が混じって乗り組む混乗が一般的になった。外航船に来船すると、船内は今や英語圏だと思ってよい。
今や、船乗りは、巨大ビルのオフィスの中のような船内で、巨大運送という人間社会になくてはならない貴重な任務をこなして、七つの海を駆けぬけている。この環境にいる船乗りに対して、新しいシステムを使いこなし、故障しても安全な航海ができる、運用能力と国際感覚が、求められている。次に示す写真を見て頂きたい。ハイテク機器の並んだ中に船員がいる。ハイテク機器集団の役割は、その殆どが人間に有用な情報を与えて支援することで、意志決定の一部始終は昔同然、人間が行っている。船橋の外観が飛行機のコックピットに近くなってきたといわれるが、飛行機とは業務内容の質が異なっている。船には永い歴史があり、その間に培われた船員らの知恵の集積がある。シーマンシップとは、精神的なものを主としたスポーツマンシップとは違い、本書に著述したような船舶を運用する基本的な知識・技術を利用して、多くの情報を瞬時に処理して意志決定し、それをやり遂げる能力だと著者は考えている。人間の機能の高信頼性とそれにもとづく態度、まさにグッドシーマンシップが求められている。
一方、船の事故は、その隻数の多さもあって地球の気候を決めている海を破壊する可能性を秘めている。船舶の安全には、人間自身の機能・品質が大きく関わっている、環境保全や省資源にリンクする現代の大きな課題である。技術革新の結果として生まれた超高度なシステムが複雑になるにつれて、それが新たな危険性をもたらすということもあるであろう。残念ながら、外航海運や内航海運において、大型海難事故の原因に占める人的要因の比率は上昇している。安全管理は、今や国際的になり、従来の船長から会社ぐるみの組織に移った。これからは、ますます安全が重要になるだろう。本書では、従来の、航海系の知識・技術の柱である、航海、運用、法規に並べて、船舶の安全に関わる国際条約などの基礎を簡潔にまとめた。
本書の目的は二つある。一つは、船舶職員を目指そうとする人々のための必要最小限の知識の要約である。二つは、船の運航に関して陸上支援や陸上における運航管理や安全管理が増大していることなどを勘案して、船舶職員だけではなく船舶運航に携わる全ての人々に知っておいてほしいと思う、船の運航を中心とした必要最小限の知識の海事(航海)概説である。
船舶職員を志す人々に対しては、本書をサラッと読んで飛ぶ鳥の目から見たように、海事一般を眺め、「何故?」「もっと詳しく」という気持ちを持ち、航海、機関、運用、法規、安全に関する専門書をじっくり読んで頂きたい。登山においても、今、自分がどの辺りまで登ったかということが分からないと、途中で止めてしまいたい気持ちになることがある。本書を一読しておけば、学習過程のどこにいるかが分かり、途中で挫折することは少ない。
要は、読者諸氏に今どきのグッドシーマンシップが効果的にかつ手短かに伝われば幸いである。
おわりに、成山堂書店の小川典子社長を初め、編集者のみなさん、そして、航海計器などの写真を提供して頂いた古野電気(株)に深甚の謝意を表します。
2019年6月
著者
目次
まえがき
第一編 航海
第1章 航海計器の原理と機能
1 磁気コンパス
原理/測定目盛指示方式/誤差
2 ジャイロコンパス
指北原理など/測定目盛り指示方式/誤差/誤差測定/特長
3 無線方位測定機
利用法など/作動原理
4 音響測深儀
原理/特長
5 測程儀
ノット/対地速力と対水速力/ドップラーログ、ドップラーソナーの原理/ドップラーソナーの特長
6 航海用レーダ、アルパ
レーダ、アルパの登場/レーダの原理/性能/映像の障害/表示方式/ARPAによって得られる情報と利点欠点
7 オートパイロット
原理/調整/オートパイロットの取扱い
8 衛星航法装置・
測位原理/DGPS
9 AIS
AISとは/送受信される主な情報
10 ECDIS
ECDISOUECDISOWEWE
11 総合航海援助システム
総合航海援助システムの登場/総合航海援助システムの機能
第2章 航路標識
1 光波標識
灯台、灯柱/灯浮標、浮標
2 灯台の光達距離灯質(図解)
第3章 水路図誌
1 海図
海図の種類/漸長図/大圏図/海図図式
2 水路書誌の種類など
第4章 推測位置の計算と天体観測による測位原理
1 測位航法の種類
2 地球は球
3 基本用語
地極、地軸、大圏、小圏、赤道、距等圏、子午線、緯度、経度、海里/航程の線、航程、変緯、変経、東西距/船位/時
4 位置の線
位置の線の種類/位置の線の利用
5 ラムライン航法の原理
平均中分緯度航法/漸長緯度航法
6 天文航法
天文航法で使用される天文学の基本用語/天文航法の原理
第5章 航海計画
1 航海計画とは
2 航路選定の留意事項
3 離岸距離
4 危険物の離隔距離
5 狭水道における航海計画
6 浅い水域における航海計画
7 狭視界時における航海計画
8 潮汐の影響の強い水域における航海計画
第二編 運用
第1章 船の種類
1 用途による分類
2 動力機関による分類
3 船舶安全法における分類
第2章 船舶の基本用語
1 船名など
船名/船舶番号/信号符字/船籍港
2 船の主要部位の名称
3 船体主要寸法
長さ/幅/深さ/シヤー、キャンバー/トン数/吃水/乾舷/トリム
第3章 船舶の構造
1 船に加わる力
曲げモーメント/剪断力、局部荷重
2 船体の構造方式
横式構造/縦式構造/縦横混合方式
3 主要な強力部材
縦強力材/横強力材
第4章 船の設備
1 錨
錨の機能/錨の各部名称/錨鎖
2 舵、操舵装置
舵/新しい方式の舵/操舵装置
3 係船装置
揚錨機/ムアリング・ウィンチ/ボラード、ビット/フェアリーダおよびムアリングホール
4 救命設備
救命艇/ボートダビット/ライフラフト
5 消火装置
船内消火が困難な理由/防火構造、消火装置
第5章 船舶の主機、補機および推進装置
1 主機としてのディーゼル機関の原理
2 補機
3 推進装置
4 サイドスラスタ
5 ジョイスティック操船装置
第6章 当直、航海日誌
1 航海当直
2 錨泊当直
3 岸壁係留中の当直
4 航海日誌
5 標準海事通信用語
第7章 気象・海象
1 風浪とうねり
波の基本的表現/風浪/うねり
2 潮汐
潮汐現象の原理/潮汐に関する主な用語
3 潮流
潮流とは/主な基本用語
4 海流
5 航海と霧
日本近海の霧/世界の海域の霧
6 前線
7 温帯低気圧
8 熱帯性低気圧
種類/可航半円と危険半円/熱帯低気圧を避航する原則
9 航海に利用されるFAX図
第8章 操船
1 舵による操縦性能
操舵号令/変針号令/旋回運動
2 船の運動性能
舶体抵抗/プロペラ流の作用/船の馬力/速力/船の惰力
3 操船に及ぼす外力の影響
風の影響/波浪の影響/潮流の影響/水深の影響/制限水路の影響/2船間の相互作用
4 岸壁離着岸操船
係船索のとり方/着岸操船/離岸
第9章 錨泊法
1 主な錨泊方法
2 錨鎖の伸出量
3 守錨法
第10章 載貨
1 重心
船内重量物の移動に基づく重心の移動/重量物の揚げ積みによる重心の移動
2浮心
3横メタセンタ
4つり合い
5 GMと復原力
6 毎センチ排水トン数
第11章 船員災害
1 海上労働の特殊性
2 船員災害の定義など
3 船員災害の特徴
船員災害の実態/船員災害の原因/船員の災害保険制度
第三編 海事法規
第1章 海上交通法規
1 海上衝突予防法
沿革/海上衝突予防法の性格と構成/予防法における航法の原則/航法
2 海上交通安全法
沿革と目的/適用海域/航路/巨大船、漁ろう船など/航路における一般的航法/航路ごとの航法
3 港則法
沿革と目的/雑種船、特定港/入出港と停泊/航路、航法
第2章 船舶に関する法規
1 船舶法
意義/船舶の定義/船舶の国籍/日本船舶/日本船舶の権利と義務/船舶国籍証書/仮船舶国籍証書
2 船員法
沿革と目的/船員法の基本原則/船長の職務権限/船長の義務/船内紀律/争議行為の制限
3 船舶職員及び小型船舶操縦者法
沿革と目的/適用船舶/船舶職員と海技士/海技免許/海技免状の有効期間/海技免許の取消など/乗組み基準と乗船基準/海技士国家試驗
4 船舶安全法
沿革/目的/用語の意義/安全基準/航行上の条件/船舶の検査/船舶検査手帳/乗組員からの不服申立制度
第3章 その他の海事法規
1 海難審判法
経緯と目的/法の体系/海難/海難審判庁の審判/重大な海難/懲戒
2 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律
沿革と目的/法の体系/船舶からの油の排出規制/船舶からのビルジその他の油の排出基準/水バラストなどの排出基準/クリーンバラストの排出基準/船舶からの廃棄物の排出規制/特定油が排出された場合の措置/海上火災が発生した場合の措置
3 水先法
沿革と目的/法の体系/水先人の免許制度/船長の責任
4 検疫法
経緯と目的/法の体系/検疫感染病/検疫港/検疫の義務/入港の禁止/交通等の制限/検疫済証及び仮検疫済証
5関税法
経緯と目的/法の体系/定義/貨物の積卸し/輸出してはならない貨物/輸入してはならない貨物
6 海商法
沿革、意義/法の体系/総則/海上物品運送契約/船舶の衝突/海難救助/海上危険への対応
第四編 安全
第1章 米史上最大級の原油流出事故、エクソン・バルディズ号の海難
1 概要
事故当時の船橋当直状況/米国家運輸安全委員会の報告書
第2章 海難
1 海難とは
2 主要な海難種類
3 船舶間衝突の原因
見張り不十分の内容/航法不遵守の内容
4 乗揚げの原因
第3章 海難調査に関する最近の国際海事機関(IMO)の動向
1 海難調査の充実強化
海難及びインシデントの定義/附属書「海難及び海上インシデントにおけるヒューマンファクターの調査のための指針」の骨子
第4章 洋上生存
1 船位通報制度など
SAR条約/船位通報制度
2 GMDSS
GMDSSの構成/遭難した場合のGMDSSの運用
3 最近のデータ通信
第5章 ISMコードの概要
1 ISMコード制定の経緯
2 ISMコードの特徴
3 ISMコードとISO9000シリーズ
4 ISMコードの内容
目的、適用船舶/ISMコードの条文
5 ISMコード及び関連条約略語
第6章 海上安全に関わる主な国際条約
1 海上における人命の安全のための国際条約
タイタニック号の遭難とその教訓/SOLASへの発展/SOLAS附属書の主な内容
2 船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約
制定経緯など/条約と附属書の主な内容
3 船舶による汚染の防止のための国際条約
制定経緯など/附属書の主な内容
巻末資料
索引
目次 – 海の法律家 海事代理士になる 筆記試験練習問題集
はじめに
本書は、海事代理士の筆記試験対策問題集です。
国土交通省ホームページ「海事代理士になるには」に掲載されている過去問題と合わせてのご使用をお勧めします。
内容は平成29年1月時点のものです。法改正があった科目については必ず最新の海事六法等の専門書や法令データ提供システムでご確認くださいませ。
本書を手にとったすべての受験生が合格できることを心からお祈り申し上げます。
平成29年1月 國本和挙
筆記試驗練習問題 もくじ
本書の見方
1憲法
2民法
3商法
4国土交通省設置法
5船員法
6船員職業安定法
7船舶職員及び小型船舶操縦者法
8海上運送法
9港湾運送事業法
10内航海運業法
11港則法
12海上交通安全法
13海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律
14船舶法
15船舶安全法
16船舶のトン数の測度に関する法律
17造船法
18国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律
本書の見方
・問題と解答について
囲み枠内に問題文、枠の外側下部に解答があります。 (一部、別形式のものもあります。)
・問題の文頭にある☆印について
憲法
概要
考察
目標点
練習問題
適切な語句を記入せよ
前文