(全文PDF・単語帳アプリ付)徹底攻略 ネットワークスペシャリスト教科書 令和2年度
はじめに
ネットワークスペシャリスト試験は,情報処理技術者試験の高度区分の中でも,業務との関連が最も深いといわれる試験です。
常に新しい内容が盛り込まれるよう変化しており,特に「現場で今現在使われている技術」について問われる試験になっています。そのため, IT業界での評価も高く, 出題内容をしっかり身に付けると実務にもつながるので,いろいろと役立つ試験です。
情報処理攻術者試験の中では、ネットワークスペシャリスト試験は、前身であるオンライン情報処理技術者試験が始まった1988年(昭和63年)から数えると、30年以上もの長い歴史があります。そのため、知名度は他の試験よりも高く,評価されやすい資格でもあります。
ただ、ネットワーク技術はその間にどんどん様変わりしていますので,昔と今とで問われている内容はまったく異なります。インターネットの爆発的な普及があり, ネットワークは専門家だけでなく一般の人も使うようになったため、社会的にますます重 要なインフラとなっています。その時々でネットワークの「今」を任される専門家を育てる資格,それがネットワークスペシャリストであるとも言えます。
本書は わく☆すたAI(人工知能)がネットワークスペシャリスト試験の出題傾向を徹底分析し,試験合格に必要な知識をまとめたものです。また、情報の新しさにもこだわり, 昔の技術よりも「現在使われている技術」を優先して掲載しています。特に,近年よく使 われるようになり、試験でもよく出題される情報セキュリティ技術については,重点を置いて説明しています。さらに深く理解できるように YouTube 動画による解説も用意していますので、あわせてご活用ください。
学習するときには、ポイントを暗記するだけより、周辺知識も合わせて勉強する方が 記憶に残りやすく実力も付いていきます。すべてを暗記しようと頑張らなくてもいいので、 気楽に読み進めていきましょう。辞書として使っていただくのも歓迎です。本書をお供 にしながら、ネットワークスペシャリスト試験の合格に向かって進んでいってください。
最後に,本書の発刊にあたり,企画・編集など本書の完成までに様々な分野で多大なるご尽力をいただきましたインプレスの皆様,ソキウス・ジャパンの皆様に感謝いたしま す。また、私のITの師匠である水岡祥二様,わくわくスタディワールドの齋藤健一様を はじめ、一緒に仕事をしていただいた皆様にも感謝いたします。
そして、いろいろとご指摘,ご教示いただいた昨年度の読者の皆様,「わく☆すたセミ ナー」や企業研修での受講生の皆様のおかげで、本書を改善・完成させることができまし た。皆様、本当にありがとうございました。
令和2年2月
わくわくスタディワールド 瀬戸美月
本書の構成
本書は, 解説を読みながら問題を解くことで, 知識が定着するように構成されています。また,側注には,理解を助けるヒントを豊富に盛り込んでいますので,ぜひ活用してください。
本書の使い方
本書は、これまでに出題された問題を分析し,試験によく出てくる分野を中心にまとめています。ですから,本書をすべて読んで頭に入れていただければ、試験に合格するための知識は十分に身につきます。ただし、知識だけを問う試験ではありませんので,理解を深め、実力をつけることが大切です。そのためにも、本書を有効に活用してください。
・随所に設けた問題で理解を深める。
理解を深めるために,ぜひ,随所に設けた演習問題を考えながら読み進めてください。特に,午後Iや午後Ⅱ の問題は,解き方を読みながら演習を行うと、効率良く勉強していただけると思います。
・辞書としての活用もOK
文章を読むのが苦手な人,特に参考書を読み続けるのがつらいという人は、無理に最初から全部読む必要はありません。過去問題などで問題演習を行いながら,辞書として 必要なことを調べるといった用途に使っていただいてもかまいません。
・過去問題で実力をチェック
巻末に令和元年秋試験の問題と解答解説を掲載しました。また,平成 23 ~30年の秋試験の解答解説は、本書の特典としてダウンロード可能です。学習してきたことの力試しに、そして問題演習に,ぜひお役立てください。
・「試験直前対策 項目別要点チェック」を最終チェックなどに活用
P.7~12の「試験直前対策 項目別要点チェック」は、各項末尾の「覚えよう!」を一覧化してまとめたものです。重要な用語は色文字にしてあります。試験直前のチェックや弱点の特定・克服などにお役立てください。
目次
はじめに
試験直前対策 項目別要点チェック
ネットワークスペシャリスト試験 活用のポイント
ネットワークスペシャリスト試験の傾向と対策
第1章 ネットワーク基礎知識
1-1 ネットワークとは
1-1-1 通信の仕組み
1-1-2 OSI基本参照モデル
1-1-3 TCP/IPプロトコル群
1-1-4 通信方式の種類
1-2 ITインフラ
1-2-1 ITインフラとは
1-2-2 サーバ
1-2-3 ストレージ
1-2-4 ネットワークの構成要素
1-2-5 データセンタ
1-3 演習問題
1-3-1 午前問題
第2章 ネットワークインタフェース層
2-1 データリンク
2-1-1 イーサネット
2-1-2 無線LAN
2-1-3 PPP
2-1-4 その他のデータリンク
2-1-5 物理層
2-2 LAN間接続
2-2-1 スイッチングハブ
2-2-2 スパニングツリー
2-2-3 VLAN
2-3 通信サービス
2-3-1 通信サービスの種類
2-3-2 IP-VPN
2-3-3 広域イーサネット
2-3-4 無線通信技術
2-3-5 インターネット接続技術
2-4 演習問題
2-4-1 午前問題
第3章 インターネット層
3-1 IP
3-1-1 IPの役割
3-1-2 IPアドレス
3-1-3 ICMP
3-1-4 ARP
3-1-5 NAT
3-1-6 VRRP
3-1-7 IPv6
3-1-8 モバイルIP
3-2 ルーティング
3-2-1 ルータ
3-2-2 RIP
3-2-3 OSPF
3-2-4 BGP
3-3 演習問題
3-3-1 午前問題
3-3-2 午後問題
第4章 トランスポート層
4-1 トランスポート層の役割
4-1-1 トランスポート層のサービス
4-2 TCPとUDP
4-2-1 TCP
4-2-2 UDP
4-3 演習問題
4-3-1 午前問題
第5章 アプリケーション層
5-1 Web関連のプロトコル
5-1-1 HTTP
5-1-2 プロキシ
5-1-3 Webアクセス技術
5-2 メール関連のプロトコル
5-2-1 SMTP
5-2-2 POP, IMAP
5-2-3 その他のメール関連プロトコル
5-3 アドレス・名前解決
5-3-1 DNS
5-3-2 DHCP
5-4 その他のプロトコル
5-4-1 FTP
5-4-2 SNMP
5-4-3 IP電話
5-4-4 コンテンツ配信
5-4-5 その他のプロトコル
5-5 演習問題
5-5-1 午前問題
5-5-2 午後問題
第6章 セキュリティ
6-1 情報セキュリティマネジメント
6-1-1 情報セキュリティとは
6-1-2 情報セキュリティマネジメント
6-2 セキュリティ技術
6-2-1 暗号化技術
6-2-2 認証技術
6-2-3 アクセス制御技術
6-2-4 セキュリティ攻撃
6-3 セキュリティプロトコル
6-3-1 TLS
6-3-2 IPsec
6-3-3 IEEE 802.1X
6-3-4 無線LANのセキュリティ
6-3-5 その他のセキュリティプロトコル
6-4 演習問題
6-4-1 午前問題
6-4-2 午後問題
第7章 ネットワーク設計
7-1 ネットワーク設計
7-1-1 ネットワーク設計
7-1-2 電話,電源設備
7-1-3 信頼性設計技術
7-1-4 負荷分散
7-2 通信に関する技術や計算
7-2-1符号化・データ伝送技術
7-2-2 通信に関する計算
7-2-3 トラフィックに関する理論
7-3 演習問題
7-3-1 午前問題
7-3-2 午後問題
第8章 運用管理
8-1 ネットワーク運用管理
8-1-1 運用管理
8-1-2 システムの導入,現行システムからの移行
8-1-3 事業継続マネジメント
8-2 演習問題
8-2-1 午後問題
第9章 仮想ネットワーク
9-1 仮想化
9-1-1 仮想化機構
9-1-2 仮想化の方式
9- 2ストレージ
9-2-1 SAN
9-2-2 NAS
9-3 仮想ネットワーク
9-3-1 クラウド
9-3-2 仮想ネットワークの方式
9-4 演習問題
9-4-1 午後問題
付録 令和元年度秋 ネットワークスペシャリスト試験
午前I 問題
午前I 解答と解説
午前Ⅱ問題
午前Ⅱ 解答と解説
午後I問題
午後I解答と解説
午後Ⅱ問題
午後Ⅱ 解答と解説
索引
コラム
人と人とを安全につなぐネットワーク
パケット解析のすすめ
スイッチングハブは壊れやすい
ネットワークスペシャリストと合わせて取るといい資格
PCに設定する四つのIPアドレス
VRRPとSTP
TCPは働き者
ネットワークエンジニアと英語力
信頼性を上げるために
計算問題の鉄則
仮想化は様々な場面で使われている
仮想化を体験してみよう
ネットワークスペシャリスト試験 活用のポイント
クラウドの普及やIoT, 情報セキュリティなど,ネットワークをとりまく状況は,時代の流れに乗って大きく変化しています。これからの時代に輝くエンジニアになるために, ネットワークスペシャリスト試験の学習をうまく活用していきましょう。
・ネットワークに関するスキルは、これからの時代に必須
ネットワークスペシャリストとは、ネットワークに関係する技術の専門家であり、ネットワークを構築し,様々な分野でネットワークに関する技術支援を行います。単にネットワークに関する知識があるというだけでなく,ネットワークに関する技術を活用し, 情報システム基盤の構築を行ったり、情報システムへの技術支援を行ったりする人がネットワークスペシャリストです。
また、最近のネットワーク構築は、単にネットワークケーブルを引き,機器を設定するというだけでは終わらなくなってきています。クラウドコンピューティングなどでネットワークが仮想化し、ソフトウェアを用いて設定することも増えてきました。そのため、インフラ(情報システム基盤)全体を管理するインフラエンジニアとしての活躍が求められることが多くなりました。
さらに、日々起こっているセキュリティ犯罪などに対応するため、ネットワークのセキュリティ対策も不可欠なものとなっています。ネットワークセキュリティの専門家としての役割も、求められることが多くなっています。
・ネットワークスペシャリスト試験の対象者
ネットワークスペシャリスト試験で対 象とする技術者には、次の2つのタイプがあります。
①ネットワーク設計を行う技術者
インフラ構築の中心となるネットワーク設計を主に行う技術者です。組織全体の状況を考慮して最適なネットワークを企画し,それを実現できるようにネットワーク設計を行います。
②ネットワーク管理を行う技術者
ネットワークの機器設定や運用管理,ネットワークに障害が起こったときのトラブルシューティングなどを行う技術者です。主な業務は日々の運用であり、実際にルータやスイッチなどの機器を設定し,構築および運用作業を行います。
ネットワークスペシャリストという言葉からは、②の機器を設定する技術者がイメージされやすいのですが,実際のネットワークスペシャリスト試験は、①の設計を行う技術者についての問題が中心です。会社全体のネットワークについて、その設計段階から関わる、上位レベルのエンジニアが想定されています。
・ネットワークスペシャリスト試験のメリット
ネットワークスペシャリスト試験は30年以上の歴史がある国家試験で,情報処理技術試験の中でも知名度が高い試験です。また、インターネットの進歩に伴い,どんどん内容が変わっており,時流に合わせた内容が出題されています。そのため、ネットワー クスペシャリスト試験に合格すると,次のようなメリットがあります。
①企業からの高い評価
ネットワークスペシャリスト試験の合格を社員に奨励する企業が数多くあります。実際に,合格者に一時金や資格手当などを支給する報奨金制度を設ける企業や,採用の際に試験合格を考慮する企業などは多くあります。会社によって金額や優遇の度合いは違いますが,優遇する企業は実際に多く,いろいろな企業で資格取得を奨励しています。
②国家試験による優遇
ネットワークスペシャリスト試験の合格者には、「国家試験」による科目免除などの優 遇があります。有名なところでは,弁理士の試験で,科目の一部免除 (理工V(情報))が 行われます。その他,サイバー犯罪捜査官や公務員試験,教員採用試験などで,受験の 条件や科目免除などとして設定されています。
情報処理技術者は公的な資格なので、国や自治体関連の仕事に就く場合には有利になることが多いです。公務員を目指す人は取得しておくと役立つ資格といえます。
③自己のスキルアップ,能力レベルの確認
ネットワークスペシャリスト試験の内容は,現実の会社の事例をもとに作成されています。そのため、単なる知識だけでなく、試験勉強を通じて実践的な内容を学習することが可能です。
特に、過去問題の演習を行うことで、実際のネットワーク技術の活用方法を知り、実務に役立てることが可能です。試験合格をゴールに学習することで、漠然とした学習よりも、モチベーションが上がりやすくなります。しっかり勉強して合格することで、IT人材としての基本的な知識や技能を身に付けることができますので、ぜひ一緒に学習していきましょう。
それでは、ネットワークスペシャリスト試験のデータを分析した結果から,どのような出題傾向があり、何を学習すればいいのかをみていきましょう。
ネットワークスペシャリスト試験の傾向と対策
ネットワークスペシャリスト試験の傾向は、ここ数年で大きく変化してきています。単に昔の定番内容をマスターするのではなく,これからの時代を見据えて、新しいことを学習していくことも大切です。
なお,本項では試験の出題傾向の分析に, わくわくスタディワールドで開発し、現在データの学習を進めているAI(人工知能),わく☆すたAIを活用しています。
・ネットワークスペシャリスト試験の傾向
ネットワークスペシャリスト試験は午前I試験,午前Ⅱ試験,午後I試験,午後Ⅱ試験の4区分に分かれていて,それぞれ異なる方法で異なる力が試されます。まとめると、以下のようになります。
ネットワークスペシャリスト試験の構成
試験時間 | 出題形式 | 出題数・解答数 | 合格ライン | |
午前Ⅰ | 9:30~10:20(50分) | 多肢選択式(四肢択一) | 30問・30問 | 60点/100点満点(18問正解) |
午前Ⅱ | 10:50~11:30(40分) | 多肢選択式(四肢択一) | 25問・25問 | 60点/100点満点(15問正解) |
午後Ⅰ | 12:30~14:00(90分) | 記述式 | 3問・2問 | 60点/100点満点 |
午後Ⅱ | 14:30~16:30(120分) | 記述式 | 2問・1問 | 60点/100点満点 |
過去5回の各試験時間での突破率と全体の合格率は,次のとおりです。
各試験時間の突破率と合格率
試験時間 | 平成27年秋 | 平成28年秋 | 平成29年秋 | 平成30年秋 | 令和元年秋 |
午前Ⅰ | 57.5% | 54.8% | 54.4% | 58.2% | 56.9% |
午前Ⅱ | 68.0% | 71.7% | 70.1% | 78.5% | 80.9% |
午後Ⅰ | 49.7% | 50.7% | 51.4% | 55.2% | 45.8% |
午後Ⅱ | 53.5% | 53.5% | 48.2% | 45.3% | 49.2% |
全体(合格率) | 14.6% | 15.4% | 13.6% | 15.4% | 14.4% |
※情報処理技術者試験センター公表の統計情報を基に算出
全体的に、午前Ⅱの突破率は7~8割程度と高めです。午後はそれぞれ5割前後の突破率となります。全体としての合格率は13~16%程度となっています。午前Ⅰを免除されている受験者は半数以上(令和元年秋では59.6%)ですが、午前Ⅰから受験する場合, 近年の突破率は5割台であり、決して低いとはいえないハードルとなっています。
それでは,わく☆すた AIを用いて分析した結果を基に,それぞれの区分での出題傾向を見ていきましょう。
■午前I試験
午前I試験は,ネットワークスペシャリスト試験だけでなく,その他の試験(情報処理安全確保支援士,システムアーキテクトITストラテジスト, ITサービスマネージャ)と共通の,IT全般について選択式で問われる試験です。
応用情報技術者試験の80問から 抽出された30問で構成されており,全分野から出題されます。また,一度いずれかの試験の午前I試験で60点以上を獲得する,または応用情報技術者試験に合格すると,その後2年間は午前I試験が免除されます。
出題される各分野は,次のとおりです。
午前I試験の出題分野
分類 | 分野 |
class1 | 基礎理論(2進数、アルゴリズムなど) |
class2 | 技術要素(ハードウェア、ソフトウェアなど) |
class3_notsec | 技術要素のセキュリティ分野以外(ネットワーク、データベースなど) |
class3_sec | 技術要素のセキュリティ分野 |
class4 | 開発技術(システム開発など) |
class5 | プロジェクトマネジメント |
class6 | サービスマネジメント(運用管理、監査など) |
class7 | システム戦略(情報システム戦略、企画など) |
class8 | 経営戦略 |
class9 | 企業と法務(会計、法律など) |
分野ごとの出題数は,次のように推移しています。
午前I分野の出題傾向(平成21年春~令和元年秋)
図で示したとおり、どの年度でも分野ごとでは同じくらいの割合で出題されており、前半の3分野 (Class1 ~ class3) からの出題が多い傾向があります。詳細な出題数は次ページのとおりです。
午前I試験の分野別出題数(平成21年春~令和元年秋)
特筆すべきは“セキュリティ”分野です。この分析では、セキュリティだけ,同じ技術要素分野として分類されるネットワークやデータベースから独立して集計していますが, その理由は、セキュリティ分野だけ出題数が多いという傾向があるからです。セキュリティ重視の方針を試験センターが公表した平成25年度以降は、毎回3~4題は出題される分野ですので、しっかり対策をしておくことが望まれます。
■午前Ⅱ試験
午前Ⅱ試験は,ネットワークスペシャリスト試験に関連する河野の知識が問われネットワーク分野が中心ですが、セキュリティ,コンピュータシステム,及び開発技術の各分野からも出題されます。
出題される各分野は,次のようになります。
午前Ⅱ試験の出題分野
分類 | 分野 |
nw1 | ネットワーク方式 |
nw2 | データ通信と制御 |
nw3 | 通信プロトコル |
nw4 | ネットワーク管理 |
nw5 | ネットワーク応用 |
sec | セキュリティ |
sys | コンピュータシステム(構成要素など) |
dev | 開発技術(システム開発など) |
分野ごとの出題数は、次のように推移しています。
午前Ⅱ試験の分野別出題傾向(平成21年秋〜令和元年秋)
午前Ⅱは、年度によって出題数がかなり異なっています。全25問中,ネットワーク分野全体の出題数は14 ~ 17問,セキュリティが4~6問,残りの3~4問がコンピュータシステム及び開発技術です。ネットワーク分野の中で年度を通じて特に出題数が多いの は通信プロトコルで, IPやTCPなど,定番のプロトコルについての出題が中心です。その他の分野としては、セキュリティ分野の出題が増えており,現在はだいたい5問程度 が出題されています。詳細な出題数は以下のとおりです。
午前Ⅱ試験の分野別出題数(平成21年秋~令和元年秋)
年度によってばらつきがあり,基本的にネットワークやセキュリティに関する各分野 が出題され、「ここさえやっておけばいい」という内容は存在しません。過去問題の再出題も多いため、過去問をひととおり学習しておくことが最も安全な対策となります。
■午後I試験
午後Iでは、記述式の問題が3問出題され,そのうち2問を選択して解答します。午後で出題される内容は、大きく分けて次の五つ(4分野+その他) となります。
午後I試験の出題内容
分類 | 分野 | 頻出内容 |
low_layer | ネットワーク下位層 | 物理層〜トランスポート層、MACアドレス、IPアドレスなど |
high_layer | ネットワーク上位層 | セション層〜アプリケーション層、HTTP、SMTPなど |
security | セキュリティ | 暗号化、認証、アクセス制御、FWなど |
virtual | 仮想化 | 仮装ネットワーク、OpenFlow、SDN、VDIなど |
other | その他 | 負荷分散、設計など |
それぞれの分野が単独で出題されることもありますし、同じ問題でまとめて出題されることもあります。過去10年の問題を設問ごとに集計して,それぞれのテーマでの出覇 割合をまとめると、次のようになります。
午後I試験の分野別出題割合(平成20年~令和元年)
午後I試験の分野別出題数(平成20年~令和元年)
全体的な傾向としては、10年前には、ネットワークの各レイヤ (階層)のプロトコルに関する出題がほとんどでしたが、近年になって、セキュリティや仮想化など,ネットワークの応用技術に関する出題が増えてきています。
しかし、「仮想化」「セキュリティ」などと単独で出題されるわけではなく,それぞれの階層のプロトコルと組み合わせた応用問題となっています。
具体例として、Webのセキュリティ問題があります。ネットワークスペシャリスト試験の問題では、HTTPに関する詳細が定番で出題されます。それを前提として問われ, さらにセキュリティ問題として, SSL/TLSを組み合わせたHTTPSについて問われる,といったかたちで出題されます。仮想化の例でも,まず,イーサネットやスイッチに関する内容が問われ、それを仮想化したネットワークについて問われるというかたちになっています。
つまり、ネットワークスペシャリスト試験の問題を解くためには,基本技術としてそれぞれの階層 (OSI基本参照モデルの物理層~アプリケーション層, TCP/IPプロトコル群ではネットワークインタフェース層~アプリケーション層)についての知識が必須です。その上でセキュリティや仮想化などの応用技術を知ることで、合格するだけの実力を身につけることができます。
なお、分析の基となった問題内容は、次のとおりです。
午後I試験の出題テーマと設問数(平成20年~令和元年)
■午後Ⅱ試験
午後Ⅱでは、記述式の問題が2問出題され,そのうち1問を選択して解答します。
午後Ⅱのテーマは事例解析といわれ,組織の中でのネットワーク設計や運用について出題されます。午後Iよりは問題の量が多く、内容が複雑ですが,出題される分野は同じです。
午後Iと同様,設問ごとに集計して,それぞれのテーマでの出題割合をまとめると, 次のようになります。
午後Ⅱ試験の分野別出題割合(平成20年~令和元年)
午後Ⅱ試験の分野別出題数(平成20年~令和元年)
全体的な傾向としては、テーマがセキュリティや仮想化などの応用技術であっても, 具体的なプロトコルやパケットの動きなど,ネットワーク下位層や上位層の内容を問われる設問が多くあります。例えば,無線LANのセキュリティについて問われるときには, まず無線LANの規格 IEEE 802.11に関する内容が問われ,その上で暗号化などのセキュリティについて問われます。
仮想化も同様に,仮想化のプロトコルの知識は問題文に書かれていることが多く、問われるのは主にネットワーク下位層(データリンク層やネットワーク層など)のパケットの動きです。そのため、午後Ⅰと同様,基本をしっかり固めておく必要があります。
また、問題文が長く,設問が多いため、時間内に解くにはかなりの読解力が必要です。応用的な知識は問題文に書いてあることが多いのですが,それを読みこなして時間内に解くためには、ある程度の知識を身に付けておくことが大切です。
なお,分析の基となった問題内容は、次のとおりです。
午後Ⅱ試験の出題テーマと設問数(平成20年~令和元年)
ネットワークスペシャリスト試験に向けての学習ステップ
以上の傾向を踏まえ,また,過去の合格者の学習方法なども合わせて考えると、ネットワークスペシャリスト試験合格に向けた学習ステップは次の四つになります。
ステップ1. IT全般についてひととおりの知識を身に付ける
ステップ2. ネットワークの基本的な知識を身に付ける
ステップ3. ネットワーク, セキュリティ,仮想化などがイメージできるようになる
ステップ4. 試験問題の事例に合わせて、問題が“解ける”ようになる
現在のネットワーク技術は、インターネットの中核技術であるTCP/IPプロトコル群が基本となり、セキュリティや仮想化などの応用技術が積み重なっています。そのため、現在に通用するネットワークについてのスキルを身に付けるためには,特に次の四つのことが大切です。
・パケットの動きをイメージできるようになること
・OSI基本参照モデルを使いこなせるようになること
・暗号化,認証, アクセス制御などのセキュリティ技術を身に付けること
・仮想化されたパケットをイメージできるようになること
これらのスキルは,“知ってる”ことと“使いこなせる”ことに大きな差があります。単に知っているだけ、理論が分かっているだけでは役に立たないのです。そのため、ひととおり知識を身に付けた後に実践してみることが大切になります。では、それぞれのステップでの学習方法を見ていきましょう。
ステップ1. IT全般についてひととおりの知識を身に付ける
試験では午前Ⅰに対応しますが、ネットワークの学習をするためには、ネットワークを構築するためのハードウェアやソフトウェア, コンピュータサイエンス,データベースなど,IT全般の幅広い基礎知識が必要です。すでに応用情報技術者試験に合格しているレベルであれば問題ありませんが,そうでない場合には,一度,応用情報技術者試験の学習を行ってみることをおすすめします。
姉妹書『徹底攻略 応用情報技術者教科書』で学習されると万全です。一見まわり道に見えますが、基礎が分かっていると応用的な学習が進みます。試験に合格する必要は特 にありませんし、午前1問題がひととおり解けるようになれば十分です。
ステップ2. ネットワークの基本的な知識を身に付ける
試験では午前Ⅱに対応しますが、ネットワーク全般についてひととおりのことは知っておく必要があります。このとき、「パケットの構造」や「プロトコルの仕組み」についてしっかり学習しておくと応用が効くようになり,試験だけでなく業務やスキルアップに も役立ちます。本書では1章から5章で定番の基本的な内容を取り扱っていますので, 読み進めてみてください。ひととおり読んで本文中や巻末の午前演習問題を解けば,全体的に学習することができます。
テキストだけの学習ではあまり身に付いたという実感がない場合は,いろいろ実践してみるのがおすすめです。具体的には、ネットワークを実際に流れているパケットを観 察するパケット解析がおすすめです。コラム「パケット解析のすすめ」(P.45) にその方法を記載していますので参考にしてみてください。
ステップ3. ネットワーク、セキュリティ,仮想化などがイメージできるようになる
試験では主に午後Ⅰに対応しますが、ネットワークの基本技術や応用技術は,単に覚えただけでは意味がありません。過去問演習を兼ねて、実際に問題を解きながらネットワークの動きや、セキュリティ,仮想化などをイメージしてみることが大切です。本書では、6~9章で応用的な内容を取り扱っていますが、午後問題の演習も合わせて行う ことで、効果的に学習することができます。
演習量の目安としては,午後」の過去問を3~5回分 (9~15問)解けば十分です。本 書には、ダウンロード特典の付録も含め、過去8回分の解説が付属していますので,で 活用ください。
ステップ4. 試験問題の事例に合わせて、問題が”解ける”ようになる
試験では主に午後Ⅱに対応しますが、試験問題の長文を読みこなしてそれぞれの企業のネットワークの特徴をつかみ、それをもとにネットワーク設計や運用を行うには、かなりの練習が必要です。実務経験を積むのがベストなのですが、試験問題の演習をしっかり行うことでも対応できます。午後Ⅱ問題は分量が多く,1問解くだけでも大変ですが,一つ一つ丁寧に解いていくことによって、必要な実力を身に付けることができます。
演習量の目安としては、午後Ⅱの過去問を3~5回分(6~10問) 解けば十分です。本書には、ダウンロード特典の付録も含め、過去8回分の解説が付属していますので,ご活用ください。