あたらしいこころの国家資格「公認心理師」になるには ’20~’21年版
メッセージ
2015年9月に公認心理師法が公布され、2017年9月に公認心理師法が施行されました。2018年9月9日に初の国家試験が行われ、その後2018年12月16日に北海道での追加試験、2019年8月4日に第2回目の試験が行われました。
日本の心理業界にとっては、国家資格「公認心理師」の創設は、良くも悪くも大きな歴史的変革であることには間違いありません。このような歴史的変革において、注目されている皆様のお役に立てるダイジェスト版として、もしくは公認心理師を本書で初めて知られる方もいらっしゃるでしょう。そういった方々にお役立ちできれば幸いです。
また、心理学を専門にしていきたい方の「進路」に関しても大変大きなことだと思います。本書を詳しくお読みいただければ書いてありますが、今後原則的には「心理学を大学と大学院の両方で学んでいない方は、公認心理師を取得できなくなる」ということになり、心理職をこれから希望される方には重大なニュースです。今ご自身が描いておられるプランで、果たして心理職として働いていけるのか、それを確認いただけると幸いです。
ぜひ、この「心理職の国家資格化」によって、日本の心理業界をよりよくしていくきっかけ作りをご一緒できればと思います。
2019年9月
一般社団法人国際心理支援協会
はじめに
ついに2015年9月9日、国内初の心理学の国家資格として、国会にて「公認心理師法案」が全会一致で可決、成立し、同年9月16日には公布、2017年9月に施行されました。第1回公認心理師試験は2018年9月9日に行われ、同年12月に北海道で追加試験、2019年8月には第2回公認心理師試験が行われています。
これまで「臨床心理士」という民間資格が、日本で最も信用度の高い心理学系の資格とされており、国家資格が存在しなかったことから、「臨床心理士」が事実上公的に運用される資格(公認資格)となっており、スクールカウンセラーの採用要件や、医療機関における保険診療での「臨床心理技術者」とほぼ同意義として用いられていました。
そもそも「臨床心理士」とは、1964年に心理学の国家資格の創設を目指すために創られた資格です。1964年に日本臨床心理学会が設立されたのですが、1969年には国家資格の推進・反対をめぐって、国家資格の推進者が脱退し、1982年に日本心理臨床学会が設立されました(初代会長:成瀬悟策)。
その後、国家資格創設までの資格として「臨床心理士」資格を創るため、1998年には、臨床心理士資格認定協会の設立がなされ(初代会頭:木田宏)、臨床心理士の職能団体として、日本臨床心理士会が設立されました(初代会長・河合準雄)。さらに2001年、臨床心理士を要請する大学院をまとめる組織として日本臨床心理士養成大学院協議会が設立されました(初代会長:樋口和彦)。
2005年、国家資格として「臨床心理士の国家資格化」の流れと、「医療心理師」という医療限定の学部4年卒の心理師資格創立の流れとがあったため、「臨床心理士及び医療心理師法案」二資格一法案の国会への上程が準備されました。国会への上程の直前に、精神科医系の団体から反対声明が出され、国王上程ができなくなり、両方の立場間の協議も難航してしまい、小泉純一郎内閣の郵政解散で流れてしまいました。
2006年にも再度、精神科七者懇談会からの反対声明がなされるなどし、2008年日本心理学諸学会連合の仲立ちによって、三団体会談が行われました。その三団体会談によって、二資格一法案から一資格一法案へと方針の変更がなされました。
2011年には、日本心理学諸学会連合が、推進協・推進連に呼びかけ、三団体要望書の作成がなされました。その三団体要望書を約700名の国会議員に届けるロビー活動が行われました。2014年4月には、「心理職の国家資格化を推進する議員連盟」の第四回総会で公認心理師法案要綱骨子の説明がなされ、同年6月にはじめて「公認心理師法案」が国会の衆議院に提出されました。ですが、同年11月の衆議院解散により同法案は廃案となってしまいました。
そのため、2015年7月に「公認心理師法案」が再度衆議院に提出されました。その結果、同年9月の衆議院文部科学委員会本会議、参議院文教科学委員会、参議院本会議において全会一致で可決され、16日に公布されて2017年9月15日に施行され、2018年9月9日には第1回の公認心理師試験が行われるに至りました。
以上のような流れで、日本臨床心理学会の設立から公認心理師の可決・成立・公布までが行われ、大学学部や大学院における公認心理師カリキュラムが制定されました。公認心理師の指定試験機関としては、一般財団法人日本心理研修センターが指定されました。
公認心理師試験に関しては、試験の作成に携わる「試験委員」を官報にて公表されており、公認心理師試験の試験概要や出題基準を示すブループリント(公認心理師試験設計書)が公開されています。また、気になるところとしては、「公認心理師法」に掲載された「医師の指示」条項(公認心理師法42条の2)があります。国家資格創設の流れの中で、日本臨床心理士会から「医師の指導」への変更の要請がなされましたが、最終的に「心理に関する支援を要する者に当該支援に係る主治の医師があるときは、その指示を受けなければならない」と「指示」という言葉が使われることになりました。「医師の指示」と「医師の指導」では大きな意味の違いがあります。
●精神保健福祉士の規定に記載されている「医師の指導」という言葉では、それほど医師の指導の力は強いものではなく、精神保健福祉士は専門家として判断して動くことができます。
●看護師やその他医療系国家資格で規定されている「医師の指示」という言葉では、医療現場において医師が行う医療の補助として、医師に従う強制力が示されています。そのため、「医師の指示」では、医療機関以外の領域(福祉・教育・産業・司法矯正・私設相談など)において、医師の指示がなければ動けなくなってしまう可能性があります。
ただ、2014年に開かれた日本心理臨床学会第33回秋季大会の資格関連委員会企画シンポジウムや、2015年に開かれた日本心理臨床学会第34回秋季大会の資格関連委員会企画シンポジウムなどでは、これまでの(臨床心理士ら心理職の)業務に支障がないように整備がなされることが衆議院議員の先生方からのお話でありますので、直ちに「主治医がいることの確認ができていない=条項違反」とはならないと考えられています。
また、2018年1月31日に文部科学省・厚生労働省から出された「公認心理師法第42条第2項に係る主治の医師の指示に関する運用基準について」では、「これまでも、心理に関する支援が行われる際には、当該支援を行う者が要支援者の主事の医師の指示を受ける等、広く関係者が連携を保ちながら、要支援者に必要な支援が行われており、本運用基準は、従前より行われている心理に関する支援の在り方を大きく変えることを想定したものではない」とされています。
今後、どのように国家資格が運用されていくかは、常に動向を追っていかなければわかりません。本書に掲載の情報以後に出された情報については、以下のサイトでお知らせしていきたいと考えております。ぜひご参照のほど、よろしくお願い致します。
一般社団法人国際心理支援協会
目次
メッセージ
はじめに
第1章 こころの国家資格「公認心理師」とは~受験資格など概要~
1.公認心理師の概要
2.受験資格の経過措置について
3.受験資格
4.社会人が公認心理師を取得することについて
5.公認心理師を取らずに、臨床心理士のみでも仕事をしていけるか
第2章 臨床心理士と公認心理師
1.臨床心理士の認定について
2.臨床心理士と公認心理師の違い
第3章 公認心理師になるまでの道のり〜私の場合、これからどうすればいいの?現在の属性別「公認心理師」の取得の仕方~
1、現在、小中高校生の方
2.現在、大学生(心理学部や心理学科、心理学専攻)の方
3.現在、大学生(心理学以外の専門の学部・学科・専攻)の方
4.現在、心理系の大学院生の方
5.大学学部や大学院をすでに卒業/修了している方(ただし心理支援業務経験が5年未満)
6.心理支援に関する業務を5年以上行っている方
7.これから公認心理師を目指す人のための、公認心理師になるまでの道のり
第4章 心理職のしごと~心理査定、心理療法とその他の職務~
1.公認心理師と臨床心理士の職務領域
2.心理査定
3.心理面接・心理療法
4.関係者への面接、5.心の健康に関する教育・情報提供活動
第5章 心理職の働く領域
1.医療領域
2.教育領域
3.産業領域
4.福祉領域
5.司法領域
6.私設相談領域
第6章 日本の心理学・カウンセリングに関する資格
1.産業カウンセラー
2.認定心理士
3.学校心理士
4.臨床発達心理士5
その他の心理関係の資格
第7章 海外の心理学・カウンセリングに関する資格や状況
1.アメリカ
2イギリス
3.ドイツ
4.フランス
5.中国
6.韓国
7.台湾
第8章 現役心理士インタビュー
1.心理士になった動機編
2.現在のカウンセラー業務編
第9章 公認心理師試驗出題傾向分析
1.公認心理師試験出題傾向分析
2.実際の試験を体験してみよう
参考資料
1.公認心理師法
2.臨床心理士関連学会一覧
3.第1種臨床心理士指定大学院
4.第2種臨床心理士指定大学院
5.臨床心理士養成のための専門職大学院
6.公認心理師養成大学院一覧
7.公認心理師試験の手引き~抜粋~
8.公認心理師試験出題基準ブループリント
公認心理師の受験資格、公認心理師現任者講習会に関するQ&A
公認心理師現任者講習会について
合和元年開催公認心理師現任者講習会実施主体一覽
コラム:治癒/治療と寛解
コラム:薬物療法と心理療法
コラム公認心理師/臨床心理士の研鑽
コラム:診断と査定
コラム:精神科と心療内科
コラム:セラピストとカウンセラー
コラム:心理療法と精神療法
コラム:カウンセリングと心理療法
著者紹介