全国通訳案内士試験「実務」合格! 対策
本著を刊行するにあたって
「ピンチ」を「チャンス」に変える!
2018年1月4日、通訳案内士法や旅行業法が改正され、新法が施行されました。その主な改革の柱の一つが旅行サービス手配業者に対する規制でした。これにより、ノンライセンスのガイドの手配に対する管理が可能になりました。
改革のもう一つの柱が通訳案内士の業務独占を廃止し、名称独占のみとすることです。これにより、訪日外国人に対し、全国通訳案内士や地域通訳案内士の資格を持っていない人でも、有償で旅行に関する案内を行うことができるようになりました。これは、通訳案内士にとって、大変重要な事件であり、既存の通訳案内士団体のほとんどがこの改正に反対してきたことは、ご存知の方もおられると思います。
私たち、会員数1,500名を超える日本最大の通訳案内士団体である、「新日本通訳案内士協会」も、業務独占廃止反対の立場を取ってきました。しかし、2016年国会の議決を経て、制度改革が実施された今日においては、改革のマイナス面を嘆くだけでなく、通訳案内士にとってのプラス面を見出すように努めることが大切だと思います。
新日本通訳案内士協会の開催する通訳案内士新人研修では、新日本通訳案内士協会の母体であります、特定非営利活動法人日本文化体験交流塾(IJCEE)の理事長である米原亮三氏から、「ピンチをチャンスに変える」ことこそ、通訳案内士が成功する秘訣だというお話をいただきました。逆境をプラスに変えましょう。新日本通訳案内士協会は、この諸制度改革のプラス面を活かし、全国通訳案内士が憧れの職業となるように、取り組んでまいります。
ところで、これまで通訳案内士の一次試験については、多くの受験生から、次のような批判が寄せられてきました。「ガイドラインに示された一般常識の合格点が60点なのに、実際の合格点が42点とは、試験が難しすぎる」、「現場で必要とされる知識ではないのではないか」、「範囲が広すぎて何を勉強すべきかわからない」、「難問、奇問が多すぎる」等です。
このような批判がある中で、観光庁主催の「通訳案内士制度のあり方に関する検討会」は、2017年3月、通訳案内士試験を含めた制度改革についても、種々の提言をとりまとめました。これをうけて、観光庁においては、通訳案内士試験制度の改革が行われ、英語の1次試験免除の基準が「TOEIC840点から900点」に見直されるとともに、新科目「通訳案内の実務」の追加などが行われました。
「通訳案内の実務」とは、どのような科目でしょうか
初めて実施される「通訳案内の実務」という科目は、どのような科目でしょうか。以下、三つの大きな特徴があります。
[1] 国土交通省観光庁の全国通訳案内士試験のガイドラインによると、試験時間は20分。試験問題は、20問。満点は、50点。合否判定は、原則30点を合格基準点として扱います。2017年度の通訳案内士試験で1次試験を合格した者で2次試験が不合格の者であっても、「通訳案内の実務」は、必ず受験しなくてはなりません。また、すでに全国通訳案内士の資格を有する者であっても、観光庁の行う研修により、「通訳案内の実務」を習得する必要があります。まさに、全国通訳案内士にとっては、必須の知識といえます。 [2] 「通訳案内の実務」の教材としては、2017年度中に実施した観光庁研修のテキストが公開されております。本著では、その全文(資料は11まで)を掲載しています。したがって、これまでの「日本地理」や「産業、経済、政治及び文化に関する一般常識」は、勉強すべき範囲が明確でなく、受験生の皆様を悩ませてきたようですが、「通訳案内の実務」の範囲は、極めて明確です。 [3] 「通訳案内の実務」の内容は、大きく四つの部分に分かれます。①通訳案内士法、旅行業法、著作権法等の法規的な側面
②旅程管理と呼ばれる通訳案内士の実務知識
③イスラム教、ユダヤ教などの宗教上の注意点、文化別・国別の特徴
④危機管理、災害発生時等における対応、救命救急等
これらは、全国通訳案内士が実際に必要とする知識です。実務知識を身につけることにより、訪日外国人のお客様の満足度を高めることができます。ひいては、全国通訳案内士と資格を有しない者との差別化と、全国通訳案内士の同行するツアーの高品質化をもたらします。旅行会社等が全国通訳案内士を採用する場合の重要なポイントともなります。
本著の特徴
以上を踏まえ、全国通訳案内士を目指す受験生にお勧めできる本著の特徴は、以下の三点です。
1 目標は15問正解
合格するには、常に15問以上解ける実力が必要だと思います。なぜなら、2点問題が10問中9問、3点問題が10問中4問正解でき、計13問正解できたとしても、合計点は合格基準点の30点ちょうどです。この場合、残り7問について、確率2分の1や3分の1程度まで、正解を推定できたとしても、運悪く全問不正解になると、30点ギリギリとなります。
これに対して、40問で満点が100点、合格基準点が60点の場合と比較しましょう。40問中26問正解した場合、残りの問題は、14題もあります。これが全問不正解となることは、確率的に考えられません。つまり、問題数が少なければ少ないほど、確実に答える必要があります。
このような中で、「通訳案内の実務」の設問は、これまでの一般常識と比較して、設問は、かなり細かい内容が問われる可能性があります。出題者は、テキストに記載されていれば、細かい内容でも出題できます。例えば、SITのような用語、各国ごとの食習慣などについて、完全な知識を求める出題もありえます。このような細かい質問についても、15問程度は、確実に解ける実力が必要だと思います。
2 練習問題
そのためには、テキストを単に読むだけでなく、問題を実際に解く訓練が必要です。問題を解いて初めてわからないところがどこであるかが、わかります。繰り返し問題に挑戦することにより、知識を自分のものとすることができます。しかしながら、「通訳案内の実務」については、過去問題が存在しません。そこで、本著では、豊富な練習問題を出題することによって、過去問題に代わる演習を行うことができるようにしました。
3 現場を踏まえた執筆陣
本著の執筆陣は、現役の全国通訳案内士のほか、法令の専門家、医療通訳士、インバウンド旅行会社の社員等であります。その豊富な経験を踏まえて、通訳案内の実務の各項目ごとに、重要度を検討して三つ星、二つ星、一つ星の区別をつけました。さらに、予想問題の出題に当たっては、それぞれの専門性を活かして原案を作成し、相互に検証しました。
本著の利用方法
本著の大半は、観光庁の公表したテキストです。300ページに満たない分量ですが、何度も繰り返し、理解できるまで読んでいただきたいと思います。
なお、新日本通訳案内士会は、True Japan Schoolに講師を派遣して、全国通訳案内士試験対策の研修会を開催しております。本著は、本研修会の教科書としても、活用していただけます。また、より深い理解をするために、本研修会の受講をぜひお勧めします。なお、本研修会は、Eラーニングでも受講できるので、地方在住の方にも、お勧めです。合格まで、一緒に頑張りましょう。
新日本通訳案内士協会 会長
特定非営利活動法人日本文化体験交流塾副理事長
山口和加子
本著の使い方
A
全国通訳案内士試験の新科目「通訳案内の実務」の試験範囲に関しては平成30年3月に改訂されたガイドラインによって「本科目については、原則として、観光庁研修のテキストを試験範囲とする」と明記されています。本書は「観光庁研修のテキスト」(「観光庁研修テキスト第1版(統合版平成30年4月18日掲載)」)の資料11までに独自に「重要度」をつけました。
☆☆☆:出題の可能性が低い項目。
★☆☆:押さえるべき項目。
★★☆:重要項目。出題の可能性が高い。
★★★:最重要項目。頻出又は理解の基本になる箇所。
B
項目ごとにチェックテストを設けています。項目によって取り扱う問題数は異なります。インプットだけでなく、アウトプットすることで、より知識を定着させるため、特に重要な情報には、チェックテストをつけました。基本的にはAのテキストをもとにつくっているテストのため、解説はシンプルにしています。詳しく知りたい場合や間違えた場合は、Aを繰り返し読み、適切な知識を確実なものにしましょう。
C
コラムを掲載しています。現役の全国通訳案内士による現場での声や、実際の通訳ガイドの現場で役に立つ情報が満載です。知識を身につけるときの息抜きとして、ぜひ読んでみてください。試験対策だけでなく、全国通訳案内士になったあとも使える情報ばかりですので、活用していきましょう。
全国通訳案内士試験とは
「全国通訳案内士として必要な知識及び能力を有するかどうかを判定すること」(通訳案内士法第五条)を目的とした国家試験。
■受験資格
不問。
■試験科目
第1次(筆記)と第2次(口述)に分かれて構成される。
第1次(筆記試験) ★該当資格者は免除あり。
・外国語(英語、フランス語、スペイン語、ドイツ語、中国語、イタリア語、ポルトガル語、ロシア語、韓国語、タイ語)
・日本地理
・日本歴史
・産業・経済・政治及び文化に関する一般常識並びに通訳案内の実務
第2次(口述試験)
通訳案内の実務(筆記試験で選択した外国語による、通訳案内の現場で必要とされるコミュニケーションを図るための実践的な能力を判定するための面接形式の試験)
・2018年の法改正により、筆記(第1次)試験に「通訳案内の実務」が追加。
■試験日
第1次(筆記):8月中旬ごろ
第1次(筆記)合格発表:11月上旬ごろ
第2次(口述):12月上旬ごろ
最終合格発表:翌年2月上旬ごろ
*例年のおおまかなスケジュールですが、毎年変動しますので、詳しくは観光庁HPをご確認ください(https://www.jnto.go.jp/jpn/projects/visitor_support/interpreter_guide_exams/index.html)
■受験手数料
11,700円(税込)
新科目「通訳案内の実務」とは
■試験方法
・試験は、通訳案内の現場において求められる基礎的な知識(例えば、旅行業法や通訳案内士法等の業務と密接に関係する法令に関する基本的な内容や実際に通訳案内業務に就くにあたっての訪日外国人旅行者の旅程の管理に関する基礎的な内容等)を問うものとする。
・本科目については、原則として、観光庁研修のテキストを試験範囲とする。
・試験の方式は、多肢選択式(マークシート方式)とする。
・試験時間は20分とする。
・試験の満点は、50点とする。
・問題の数は、20問程度とする。
■合否判定
・合否判定は、原則として30点を合格基準点として行う。
・実際の平均点が、合格基準点から著しく乖離した科目については、合格基準の事後的な調整を行うこともある点に留意すること。
*日本政府観光局(JNTO)のHP
(https://www.jnto.go.jp/jpn/projects/visitor_support/interpreter_guide_exams/index.html)をもとに作成しています(2018年5月現在)。
最新情報はHPをご確認ください。
目次
本著を刊行するにあたって
本書の使い方
全国通訳案内士試験とは
はじめに
第1編 旅程の管理に関する基礎的な項目・関係法令に関する基本的な知識
第1章 通訳案内士法・旅行業法等に関する知識
第1 通訳案内士制度について
1 通訳案内士法の改正
2 全国通訳案内士と地域通訳案内士について
3 憧れの職業となるよう位置づける
4 全国通訳案内士試験の見直し
5 通訳案内士法の一部改正に伴う経過措置の研修(観光庁研修)
6 登録研修機関が行う通訳案内研修の受講義務
7 登録研修機関
チェックテスト
第2 旅行業法
1 旅行業法とは
2 旅行の種類
3 登録制度と旅行業者の業務範囲
4 旅行サービス手配業
5 旅行業者等の書面交付義務
6 禁止行為
チェックテスト
第3 旅行業法に基づく旅程管理
1 旅程管理業務とは
2 旅程管理主任者とは
3 旅程管理主任者資格の取得方法
4 旅程管理主任者の法定業務
5 通訳案内業務と添乗員業務の兼務
第2章 旅程管理の実務
第1 旅程管理の必要性
1 旅程管理に関する多様な実務
2 二つの旅程管理について
3 広義の旅程管理について
4 お客様の把握・理解
チェックテスト
第2 訪日外国人旅行者に対する特別な配慮
1 日本の生活様式やルールの説明
2 集合時間/場所の周知
3 食事の際の配慮
4 日本旅館での配慮
5 多様な質問に対する準備と心構え
チェックテスト
第3 添乗の準備
1 書類などの受け取りと確認
チェックテスト
第4 添乗
1 貸切バスでの添乗
2 列車での添乗
3 航空機での添乗
4 船舶での添乗
5 クルーズ船上船の場合
6 立ち寄り先観光
7 食事について
8 宿泊施設について
9 自由行動について
10 最終日/帰着・解散
チェックテスト
第5 報告・精算
1 報告
2 報告についての注意点
3 報告書とともに提出するもの
4 精算書
5 精算書とともに提出するもの
チェックテスト
第2編 危機管理・災害発生時等における適切な対応
第3章 危機管理と事前調査
第1 全国通訳案内士にとっての危機管理の基本的考え方
1 「第2章 旅程管理の実務」との関係
2 なぜ、全国通訳案内士が危機管理の対応に努めなければならないか
3 全国通訳案内士にとっての危機管理
第2 事前調査
1 依頼者からの情報の収集・整理
2 事前調査のポイント
3 下見による調査
チェックテスト
第3 危機の事前防止及びトラブルの最小化
1 広義の意味での危機としてのトラブルを防止する方法
2 トラブル事前防止の方法
3 迷子を出さないための工夫
4 万が一、迷子が出てしまった場合の対応方法
チェックテスト
第4 危機発生後の適切な対応
1 危機における基本姿勢
2 クレームへの適切な対処
3 危機対応の事例
チェックテスト
第4章 災害発生時等における適切な対応
第1 災害発生時等の対応の基本
1 災害発生時における行動の基本
2 初動対応−災害が起きたら−
3 避難行動
4 けが人・病人等が出た場合の対応
チェックテスト
第2 救急救命措置
1 救急救命措置における全国通訳案内士の役割
2 応急手当
チェックテスト
第3 外国人旅行者に対応可能な医療施設等に関する知識
1 主な医療施設の種類
2 どの医療施設を受診するか
3 診療の流れ
4遠隔医療通訳サービス
チェックテスト
第4 危機管理/災害時対応で有用な情報
1 自然災害時に役立つアプリケーション等
2インバウンド向け旅行保険
チェックテスト
第5章 コンプライアンス
第1 著作権法
1 著作権制度の概要
2 著作物の使用方法と罰則について
3 全国通訳案内士による著作物の使用について
チェックテスト
第2 道路運送法
1 旅客自動車運送事業について
2 全国通訳案内士の業務における自家用車の使用について
3 旅客自動車運送事業者の利用について
チェックテスト
第3 商品・サービスの説明に関係する法令
1 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
2 不当景品類及び不当表示防止法
3 全国通訳案内士による商品・サービスの口頭説明時の留意事項について
チェックテスト
第3編 外国人ごとの生活文化への対応
第6章 宗教上の注意点・食事制限の知識
第1 なぜ、外国人ごとの生活文化への対応が必要か
1 背景
2 食は、訪日旅行の最大の楽しみ
3 食の多様性と多文化共生
4 「お客様が要望する」食材と料理に関する理解
チェックテスト
第2 宗教ごとの特徴
1 宗教ごと対応の基本
2 イスラム教
3 ユダヤ教
4 キリスト教
5 仏教
6 ヒンドゥー教
7 ジャイナ教
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第3 食事制限に関する知識
1 ベジタリアン
2 食物アレルギー
チェックテスト
第4 飲食店等での受入れ対応方法
1 飲食店等での受入れにおける全国通訳案内士の役割
2 飲食店等との連携による接遇の基本
3 飲食店等における対応の方法
第7章 文化別・国別の特徴
第1 訪日客全体の状況
第2 東アジア
1 韓国
2 中国
3 台湾
4 香港
第3 東南アジア
1 タイ
2 シンガポール
3 マレーシア
4 インドネシア
5 フィリピン
第4 北米
1 アメリカ合衆国
2 カナダ
第5 ヨーロッパ
1 英国
2 ドイツ
3 フランス
4 イタリア
5 スペイン
6 ロシア
第6 オセアニア
1 オーストラリア
チェックテスト
資料編
資料1 覚えておきたい専門用語
資料2 著作者人格権と著作権(財産権)
資料3 著作物の種類
資料4 著作権の保護期間
資料5 著作物が自由に使える場合
資料6 通訳案内士による自家用車を用いた通訳案内行為について
資料7 その他の応急手当(ファーストエイド)のケースごとの対応について
資料8 救急救命の手順
資料9 医療施設に関する情報源
資料10 和食の4つの特徴
資料11 ハラル認証
さらに合格を確実なものにするために
著者紹介及び関連組織紹介