チョコレートの手引




はじめに

とあるギャラリー店主との会話の中で、「チョコレートって、『毒』ですよねぇ。」と、お言葉をいただいたことがありました。もちろんいい意味で頂戴したのですが、いわれてみれば確かにその通りかもしれません。人々を魅了し、惑わせ、時には活力を、またある時には安堵感を感じさせてくれる魅惑の嗜好品。一週間もチョコレートを口にしなければ、カカオの香りを欲してしまうのは私に限ったことではないでしょう。
人の世の愉しみを感じさせてくれる美味なチョコレート。その味が恋しくなれば食料品店で購入できますし、百貨店では煌びやかな大理石のショーケースに鎮座するチョコレートを見ることができます。ただ、そこまで人々の生活に身近な存在となっているチョコレートが、何から、そしてどのようにできているのかを知っている方は少ないのではないでしょうか。
チョコレートは知れば知るほど奥深くなる嗜好品です。チョコレートができるまでをたどると、熱帯の果実カカオがあり、農民の手仕事があり、そして職人たちの技術と多大な努力があります。また、カカオの品種や産地の違いから、発酵、焙煎、精錬などによる味づくりまで、一つ一つの作業にそれぞれの意味があり、その組み合わせにより、チョコレートの風味は多様に変化します。さらに、歴史を紐解いてみれば、カカオは紀元前から人との関わりを持ち、現在でこそ洋菓子としての印象が強いですが、もともとは我々と同じモンゴロイド系の種族が口にしていた神聖な飲み物でした。

私はこれまで、チョコレートメーカーでカカオとチョコレートの研究・開発に励みながら、生産国に足を運び、カカオ生産者とチョコレートのつくり手両方の苦労と努力を目のあたりにしてまいりました。そして、その深い魅力を持つカカオとチョコレートの啓蒙のため、セミナー講師として様々な場所でお話をさせていただきました。今回、多くの方々のご協力により、書籍という形で、より広くカカオとチョコレートについて、また、その魅力をお伝えする機会をいただき、とても嬉しく思います。
本書はカカオとチョコレートについての基礎知識から一歩踏み込んだ専門知識まで、幅広く網羅した内容となってす。深く知る機会の少ないチョコレートですが、製菓、飲食の道に進んでいらっしゃるプロの方から、一般のチョコレート愛好家の方まで、様々な方に参考にしていただけるよう、できるだけ簡単な言葉で綴らせていただきました。本書が皆さんにとってのよき南書となり、カカオとチョコレートへの興味を深めるきっかけとなれば幸いです。
チョコレートが皆さんの豊かな生活の小さな支えとなることを願って。

蕪木祐介 (著)
出版社: 雷鳥社 (2016/1/24)、出典:出版社HP

目次

はじめに

1章 カカオとは
植物としてのカカオ
神々の食べ物、カカオ/生態/栽培地/品種
栽培と収穫
発酵
乾燥
出荷

2章 チョコレートができるまで
精選(クリーニング)
焙煎(ロースト)
摩砕(グラインディング)
混合(ミキシング)
微粒化(リファイニング)
精錬(ュンチング)
調温(テンパリング)

3章 カカオの伝播とチョコレートの歴史
チョコラトル(~十六世紀)
ホットチョコレート(十六世紀~)
ココア(一八二八年)
固形チョコレート(一八四八年)
ミルクチョコレート(一八七六年)
コンチングチョコレート(一八八〇年)
日本のチョコレート史

4章 カカオの生産国
ベネズエラ
エクアドル
ドミニカ共和国
トリニダード・トバゴ
メキシコ
ガーナ
マダガスカル
インドネシア
ベトナム
ブラジル/サントメ・プリンシペ
カメルーン/パプアニューギニア

5章 チョコレートの愉しみ方
無垢チョコレートを愉しむ
ビターチョコレート/ミルクチョコレートホワイトチョコレート/食べる作法
飲み物と合わせて
組み合わせのコッ/ワイン/ウィスキー/珈琲
ホットチョコレートのレシピ
ホットチョコレート/ラズベリーチョコレート/ラムチョコレート/チリチョコレート

あとがき

コラム
ブレンドの妙
カカオの病気
生産国と消費国
シェイドツリー/カットテスト
豊かさとは
スプレードライとドラムドライ
植物油脂の利用
ガナッシュ
ココアパウダーとココアバター
カカオ栽培の起源
チョコレートのそれから
中米に根付く付くカカオ飲料

 

右上…古くから栽培されていカカオの木
左上…色とりどりのカカオポッドが取獲される
下…幹に直接たくさんのカカオポッドが実る
上…農民は皆逞しく、屈託のない笑顔を見せてくれる
下…チョコレートの精鍊

蕪木祐介 (著)
出版社: 雷鳥社 (2016/1/24)、出典:出版社HP