LCA概論 (LCAシリーズ)
発刊にあたり
近年,地球環境問題に対する関心が高まり,持続可能な社会の構築が必要であるとの認識が広まってきました。こうした流れを定着させるためには,政府・産業・消費者がそれぞれの立場で持続可能な社会を目指した活動を展開することが大切です。
とりわけ産業・企業活動としては,環境配慮型経営(環境マネジメント)を推進し,環境配慮製品(エコプロダクツ)を開発・普及することが肝要であり,双方をともに進めていくことが,いま企業に求められています。
産業界のこの活動を支援することを目指して,1993年に国際標準化活動としてISO/TC207が設置されました。ISO/TC207のなかでは,事業所の環境マネジメントシステム(ISO14001)のような環境配慮型経営と,ライフサイクルアセスメント(LCA)(ISO14040シリーズ)やエコラベル(ISO14020シリーズ)のような製品の環境側面を改善し,普及する方法の国際標準規格が発行されてきました。
またLCAは,この10年間で目覚しい発展と普及が図られ,産業界においては多くの企業が環境側面の定量化のための基本ツールとして利用し実践しており,今後もLCAの実施者が増えていくことが想像されます。
本書ではとくに,製品やサービスの環境側面の評価手法であるLCAに焦点をあて,国際標準規格に規定されたLCA調査の実施の手順に沿って,それぞれ項目について、内容,実務的対処方法等,事例を参照しながら解説しています。
LCAの国際標準規格の本文を読んでもなかなか理解しにくい部分,理解できても実践的対応が不明確な部分等を重点的に解説し,LCA実務者がLCA調査の実施で困ったときに,実務的に対処できるような方法を示しました。読者が独学でLCAを理解し,実践できる知識と技能を身につけられるよう配慮したつもりです。
本書は1998年に発刊された『LCA実務入門』の改訂を目的として,LCAをやさしくかつ実践的に解説した実務入門書であり,先に発刊された『LCAの実務』(2005),『ライフサイクル環境影響評価手法』(2005)との3部作の一つです。
本書がLCAを初めて学ぶ高校生,大学生,社会人に向けた入門解説書として活用され役立てば望外の幸せです。
2007年10月
東京大学人工物工学研究センター/
産業技術総合研究所ライフサイクルアセスメント研究センター
稲葉敦
社団法人產業環境管理協会環境技術部門
青木良輔
LCAシリーズ[第1分冊]LCA概論/執筆者名簿
監修
稲葉敦 東京大学人工物工学研究センター教授独立行政法人産業技術総合研究所ライフサイクルアセスメント研究センター長
青木良輔 社団法人產業環境管理協会環境技術部門技術参与
執筆者
田原聖隆 独立行政法人産業技術総合研究所ライフサイクルアセスメント研究センター環境效率研究チーム長(第1章,第2章,3.1,3.5,8.1.82)
成田暢彦 名古屋産業大学環境情報ビジネス学部教授(3.2~3.4,3.6,第5章~第7章,8.5)
伊坪德宏 武藏工業大学環境情報学部環境情報学科准教授独立行政法人産業技術総合研究所ライフサイクルアセスメント研究センターLCA手法研究チーム長(第4章,8.3,8.4,付録)
略語・化合物一覧表
目次
発行にあたり
略語・化合物一覧表
第1章 LCAとは
1.1LCAの考え方
1.2LCAの歴史
1.3ISOとの関係
1.3.1規格の概要
1.4LCAの一般的手順
1.4.1目的と範囲の設定
1.4.2インベントリ分析
1.4.3影響評価
1.4.4解釈
1.4.5報告とクリティカルレビュー
1.5LCAの特徴
1.6LCAの企業での活用と今後の発展
1.6.1タイプⅢラベル
1.6.2エコデザイン
1.6.3環境効率
1.6.4ライフサイクルコスティング
1.6.5LCAの今後の発展
第2章 目的と調査範囲の設定
2.1調査の目的
2.2調査範囲
(1)製品システムとシステム境界
(2)機能と機能単位
(3)配分方法
(4)選択された影響領域,影響評価の方法,解釈の方法
(5)データに必要とされる要件と初期のデータ品質要件
(6)限界
(7)クリティカルレビューのタイプ
(8)報告書の様式
第3章 インベントリ分析
3.1インベントリ分析の概要
3.2フォアグラウンドデータ
3.2.1製造工程のフォアグラウンドデータ
(1)原材料・エネルギーフローの把握
(2)共通部門の取扱い
(3)排出量の把握
3.2.2使用工程のフォアグラウンドデータ
3.2.3廃棄・リサイクル段階のフォアグラウンドデータ
3.2.4具体的なフォアグラウンドデータの事例
(1)素材製品の場合
(2)組立製品の場合
(3)フォアグラウンドデータの問題点
3.3バックグラウンドデータ
3.3.1バックグラウンドデータの種類
(1)積上げ法
(2)産業連関表に基づく環境負荷データ
3.3.2利用可能なバックグラウンドデータ
(1)LCA日本フォーラム
(2)ECOINVENT2000
(3)その他のデータベース
(4)バックグラウンドデータの選び方
3.3.3バックグラウンドデータの作成事例
(1)文献データの利用
(2)統計データの応用
3.4配分(アロケーション)とその問題点
3.4.1主製品と副製品の取扱い
(1)配分を回避する
(2)物理的な基準に基づいて配分する
(3)物理的な基準が適用できない場合には、価格などの基準を用いて配分してもよい
3.4.2物理的な基準に基づく配分
(1)基本的な手法
3.4.3経済価値に基づく配分
3.4.4塩の電気分解の配分事例
(1)質量基準の配分
(2)モル基準の配分
3.4.5生産システム全体としての評価
3.4.6配分の課題
3.5リサイクル工程を含むインベントリ分析
3.5.1リサイクル評価の一般的考え方
3.5.2リサイクル効果の算出例
(1)クローズドループ型リサイクルの事例
(2)オープンループ型リサイクルの事例
(3)サーマルリサイクルの事例
3.5.3マルチインプットの問題
3.6インベントリ分析の今後の課題
3.6.1データベースの構造
3.6.2データベースの拡充
(1)世界の物流フローの反映
(2)目的に応じた排出物の把握
3.6.3LCA手法:第三国貿易の取扱い
第4章 ライフサイクル影響評価
4.1LCIAの歴史と特徴
4.1.1LCIAの意義
4.1.2LCIAの歴史
4.1.3企業でのLCIA実施例
4.2LCIAの一般的手順
4.3LCIAの必須要素
4.3.1影響領域の種類とインベントリ項目の分類化
4.3.2特性化
(1)入力にかかわる影響領域
(2)出力にかかわる影響領域
4.4LCIAの任意要素
4.4.1被害評価
(1)人間健康の被害指標と被害係数
(2)生物多様性
(3)1次生産
(4)資源・社会資産
4.4.2正規化
4.4.3統合化
(1)物質比較型
(2)問題比較型
(3)被害算定型
第5章 ライフサイクル解釈
5.1ライフサイクル解釈の概要
5.2重要な環境問題の特定
5.2.1情報の特定および体系化
(1)重要な環境問題の特定
5.3評価
5.3.1完全性点検
(1)カットオフの影響
5.3.2感度点検
(1)ISOでの規定
5.3.3整合性点検
5.4結論,限界および提言
第6章 報告書
6.1第三者向け報告書の要求事項および指針
6.2比較主張のための詳細な報告要求事項
第7章 クリティカルレビュー
7.1クリティカルレビューの必要性
7.2クリティカルレビューの方法
(1)内部または外部専門家によるクリティカルレビュー
(2)利害関係者の委員会によるクリティカルレビュー
7.3クリティカルレビューの事例
第8章 冷蔵庫のケーススタディ
8.1冷蔵庫の評価における目的と調査範囲の設定
8.1.1冷蔵庫の評価における目的の設定
8.1.2冷蔵庫の評価における調査範囲の設定
(1)製品システムとシステム境界
(2)機能と機能単位
(3)配分
(4)選択された影響領域,影響評価の方法
(5)解釈の方法
8.2インベントリ分析
8.2.1冷蔵庫の製造段階
(1)素材データ
(2)組立データ
8.2.2製品輸送段階
8.2.3製品使用段階
8.2.4廃棄・リサイクル段階
8.2.5バックグラウンドデータの収集とインベントリ分析結果
8.3影響評価
8.3.1インベントリ→特性化→正規化→重み付けの手順で実施した場合
(1)特性化
(2)正規化
(3)重み付け
8.3.2インベントリ→特性化→被害評価→正規化→重み付けの手順で実施した場合
(1)特性化
(2)被害評価
(3)正規化
(4)統合化
8.4解釈
8.4.1インベントリ分析結果の感度分析
8.4.2影響評価結果の感度分析
(1)異なる特性化係数を利用したときの計算結果の変化
(2)異なる統合化手法を利用したときの評価結果の変化
8.5報告書
付録LCIAの係数リスト
付録1特性化係数リスト
付録2被害係数リスト
索引