臨床心理士等心理系大学院試&資格試験のための心理学標準テキスト ’19~’20年版




注意
(1)本書は著者が独自に調査した結果を出版したものです。
(2)本書は内容について万全を期して作成いたしましたが、万一ご不審な点や誤り、記載漏れなどお気付きの点がありましたら、出版元まで書面にてご連絡ください。
(3)本書の内容に関して運用した結果の影響については、上記(2)項にかかわらず責任を負いかねます。あらかじめご了承ください。
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(6)商標
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はじめに

臨床心理士の養成大学院の試験対策、両資格試験の試験対策を目指したテキストとして、2017年3月刊行の「臨床心理士試験対策心理学標準テキスト」の改訂・増補版です。

第1回の公認心理師試験が、2018年9月になされ、北海道での追加試験が同年12月に開催されました。今後、臨床心理士資格は公認心理師資格の上位資格となっていくことが期待されています。

公認心理師試験と臨床心理士試験、また心理系大学院の試験は各々異なるため、本テキストは臨床心理士試験と心理系大学院の試験を念頭に置いて作られたものです。(少し内容が難しいので、ある程度本書を読まれてから改めてお読みください)

フロイトが自由連想法による精神分析を始めたことは偉大な功績です。フロイトがいなければ他のほとんどの心理療法は存在しえませんでした。フロイトに大きな影響を受けたユングやアドラー、その他にも書けばキリがないほどの新フロイト派、対象関係論学派といった精神力動的な臨床家がいます。

そういった精神力動的心理療法の流れに対して、より科学的な立場で発展させる貢献を果たしたスキナー、アイゼンク、マイケンバウムらの行動療法家、認知療法を生み出したペックら、彼らによってさらに科学的、論理的、効率的な心理療法の礎が築かれていきました。

そのような科学的、論理的、効率的な心理療法だけであってはいけないという警鐘を鳴らしたのがロジャーズらの人間性心理学派でしょう。人間が人間らしく扱われる、そのためには単に科学的に実験を行ったり、効率性のみを考えたりすることだけでは不十分でした。もちろん、先に挙げた行動療法家が非人間的だという意味では決してありません。そういった考え方が現れること、論争が繰り広げられることが臨床心理学、心理臨床を成長させていく必然的な流れだったのかもしれません。

その後、個人療法では対象とできなかった複数人を対象とした家族療法や、問題点をクローズアップせず短期解決へ導くブリーフセラピー、クライエント個々人の持つ物語や、クライエントの持つ力を尊重し、クライエントとの協同作業を重視するナラティブアプローチ(ナラティブセラピー)やコラボレイティブアプローチといった様々な形に広がっていきます。

心理療法の最先端はやはりアメリカですが、アメリカでは保険制度の都合上、より短期間でより効果的なものが求められるようになり、そういった背景から認知行動療法や対人関係療法、プリーフセラピーが心理臨床家に多く用いられるようになってきました。一方で家族療法は、心理臨床家だけではなく、アメリカでは専門的地位を確立しているソーシャルワーカーの間で重宝されています。

「治す前に予防する」という観点から、マインドフルネス認知療法などの第3世代の認知行動療法に用いられるマインドフルネス”という概念やポジティブに焦点を当てるポジティブ心理学の考え方は、今やアメリカでは最先端のようです。

日本では、まだまだ上記のような心理療法は少数派ですし、心理臨床家やソーシャルワーカーの多くは家族療法とほとんど関わりはありません。日本がアメリカのようになることが最善とは決して言えませんが、ベックが「全ての心理療法は最終的に統合されるだろう」と考えているように、学派同士が対立するのではなくクライエントにとって最善のものを提供できるよう互いに切磋琢磨していければと思います。

著者らは、そういったクライエント第一の立場で、よりよいカウンセリングルームを運営していくことを常に考え、できる限り大学院予備校でも古いものから最新のものまで偏りなく教え伝え、研修会や研究会・ポータルサイトを運営していくことなどを通して発信し続けています。本書の執筆内容を含め、まだまだ至らぬところも多くありますが、一歩一歩前進していけたらと思います。

精神分析が始まった1886年から数えて、2016年でやっと130年というまだまだ若い領域です。ぜひ日本の若い世代がもっと世界の心理療法の潮流へと入っていきましょう!そのために、まずは大学院への入学や臨床心理士試験の合格という“始まり”があります。いつかみなさんと学会の場などでお会いできることを楽しみにしております。

2019年 浅井 伸彦

IPSA心理学大学院予備校 (著)
出版社: 秀和システム (2019/2/15)、出典:出版社HP

心理療法の系譜

心理療法は、精神分析を祖としているといわれますが、大きく見ると精神分析のほかに、宗教やメスメルの動物磁気から始まる催眠、宗教に対しての科学(的見方)も心理療法の元になっていることがわかります。

日本では、深層心理学系や人間性心理学系が優勢で、最近になって認知行動学やマインドフルネス、EMDRなども注目がどんどん高まってきました。

本書の特長

本書は、臨床心理士資格試験や、臨床心理士指定大学院・心理系大学院受験のためのテキストとして、様々な工夫がなされています。

1 無料コンテンツサイトを活用することで、本書と連動した発展的学習を行うことができる。
→臨床心理士資格試験や大学院受験の模擬問題練習として使っていただけます。

2 歴史だけでない最新の心理学事情も含めた新しい知見を知ることができる。
→歴史の流れを追った上で、世界では、どのようなことが行われているかについても知ることができます。

3 重要な英語で覚えておくと便利なキーワードについては、英語を併記している。
→重要キーワードに英語を併記していることで、英語の試験にも使えます。

4 有用書籍や有用なツールを提示することで、本書以外での学習や研鑽、臨床心理士になって後の就職のきっかけも得ることができる。
→本書に収まらない情報を獲得していく手助けとして使えます。

臨床心理士資格と、臨床心理士資格試験について

2015年9月9日、ついに我が国初めての心理戦の国家資格「公認心理師」が国会で成立し、同年9月16日に公認心理師法の公布がなされました。公布から2年以内に制度・試験内容などが整備され、公認心理師法が2017年9月に施行されました。

心理学関係の国家資格はこれまで存在せず、現在は文部科学省の認定する臨床心理士(財団法人日本臨床心理士資格認定協会)や、産業カウンセラー(社団法人日本産業カウンセラー協会)、シニア産業カウンセラー(同協会)などが、事実上最も知名度も高く信頼される資格と考えられています。

臨床心理士は、国家資格「公認心理師」が創設されてから、恐らく国家資格の上位資格になるのではないかと考えられており、国家資格創設後も、一定の優位性を持って存続し続けるであろうことが考えられます。臨床心理士という資格がこれまで長年培ってきたものを享受するという意味では、国家資格のみ保持するよりもスキルアップはほぼ確実に望めるものだと考えられます。

心理職が活躍できる領域として、教育・医療・福祉・司法・産業の5領域がありますが、公認心理師資格と臨床心理士資格が、今後どのようにこれらの領域の中で活用していくのかは、まだ誰にもわかりません。公認心理師資格取得者第1号が出れば全て決まるのかというとそうでもなく、徐々に公認心理師という資格が浸透していくにつれて、その役目が明確になっていくことでしょう。

たとえば医療領域において、公認心理師の行為がどの程度診療報酬の対象となるかは大きな関心事です。これまでも「臨床心理士技術者」という形で、診療報酬の対象となる心理検査・集団精神療法・デイケア・ナイトケアがありました。診療報酬は2年ごとに改定されることから、2020年や2022年と改定を経る中で公認心理師の役割が明確化していくことと考えられます。

公認心理師の養成カリキュラムについては、大学の学部カリキュラムと大学院カリキュラムとがそれぞれ定められ、臨床心理士指定大学院のカリキュラムとは別のものとなります。公認心理師資格試験を受験するためには、公認心理師の学部カリキュラムと大学院カリキュラムの計6年間を経て、その上で国家試験を受けることが必要となります。

臨床心理士資格試験を受験するためには、4年制大学を卒業後、臨床心理士専門職大学院か第一種臨床心理士指定大学院を修了すること、もしくは第二種臨床心理士指定大学院を修了後、1年以上の実務経験を経ることではじめて受験資格が得られます。多くの指定大学院が、第一種指定になるための基準を整えて、第二種から第一種へとなってきていますので、大学院の数としては圧倒的に第一種の方が多い状態です。

臨床心理士資格試験の一次試験(マークシートと論述)は、毎年10月に東京で行われ、合格者のみ11月に東京での二次試験(口述)に進むことができます。筆記試験と面接試験の両方をクリアすることで、翌4月に臨床心理士資格が与えられることとされています。臨床心理士は、1988年に第1号の臨床心理士が認定されて以来、2018年4月1日現在で34,504名が認定されています。臨床心理士に求められる専門的能力は、

1心理検査等を用いた心理査定(アセスメント)や面接査定に精通していること、
2面接援助技法と対応能力を持っていること、
3地域でのコーディネーティングやコンサルテーションに関する能力を持っていること、
4様々な心理臨床実践に関する研究や調査、発表などを行う能力を持ち、それを実践すること

の4つが挙げられます。

臨床心理士は資質の保全のために、5年ごとの資格更新制度が定められているため、認定協会に定められた学会に参加や発表、研修会の参加、スーパーヴィジョンを受けることなどを通して、5年間で15ポイント以上を取得しなければいけません。臨床心理学は、他の学問と比べてかなり現場による差や個人差が大きく、曖昧な部分を含む学問です。

そのため、臨床心理士は日々の臨床の中で実践を行っていくことや、その都度振り返りを行うこと、研究やケースカンファレンスなどを通して成長していくことが必要です。資格を取ることは始まりにすぎず、そのあとどのようなプロセスを経て自らのスキルアップを行っていくかを常に考えていくことが重要です。

参考に、2017年度の臨床心理士資格試験の合格率は、65.5%で2,427名中1,590名が合格しています。合格率はここ10年間は60%台を推移しており、今後も恐らく60%前後がしばらく続くものと予想されます。

公認心理師養成大学院と臨床心理士指定大学院

前項でご紹介した臨床心理士の指定大学院(以下、指定大学院)について、2018年10月時点で、専門職大学院が6校、第一種指定大学院が159校、第二種指定大学院が9校あります。

公認心理師養成大学院については、各大学院が公認心理師カリキュラムを取り入れるかどうかを独自に決め、ホームページやパンフレットに掲載していっています。前述のように、公認心理師カリキュラムは大学学部カリキュラムと大学院カリキュラムの2つに分かれるため、大学学部カリキュラムのみ取り入れる大学、大学院カリキュラムのみ取り入れる大学(大学院)、大学学部と大学院の両方のカリキュラムを取り入れる大学に分かれ、煩雑になることが予想されます。また、公認心理師のカリキュラムだけではなく、臨床心理士指定大学院のカリキュラムとの兼ね合いもありますので、さらに煩雑になるでしょう。

受験の要件として、若干大学院によっても異なる部分はあるものの、一般的には4年制大学を卒業程度とされています。そのため、4年制大学を卒業していない場合は、短大や専門学校を卒業後に4年制大学に3年次編入するなど、大卒資格が必要となっています。

また、社会人入試という形で一般入試とは別に枠を設けている大学院もありますが、社会人が誰でも受けられる訳ではなく、やはり通常大卒資格は必要ですし、「何年以上の勤務を終えたもの」と基準が定められています。基準については各大学院によって異なるため、各大学院のホームページなどを参照してください。

指定大学院の試験科目や内容は、細かい部分については大学院によって異なりますが、主にほとんどの指定大学院では臨床心理学と英語(心理学や教育学、社会学などに関するもの)、研究計画書や進路に関する口述試験が課せられます。出願する際に研究計画書(専門職大学院の場合は活動計画書など)を書いて提出する必要があります。研究計画書とは、そもそも大学院とは研究を行うための研究機関ですので、研究を適切に行っていくことができるかどうかを見定めるためのものです。

実際、専門職大学院を除く指定大学院では研究を行っていく必要があり、その大学院(修士課程)2年間の集大成として修士論文を執筆します。修士論文が認められれば晴れて大学院を修了ということになります。実際、多くの大学院を目指される方や大学院生は、研究を行うことや研究計画書を書くこと、研究に必要な統計学や質的研究法などの研究法を習得すること、修士論文を書き上げることで悩んでいます。

著者らの運営するIPSA心理学大学院予備校でも、統計学や研究計画書の部分で不安を持っておられる方が多く、英語も同じように苦手な方が少なくありません。ただ、これらは完璧を求められるようなものではないですので、受験から大学院を修了までに必要な能力を効率よくつけていくことが求められます。

第一種指定大学院と第二種指定大学院、専門職大学院の違い

では、第一種指定大学院と第二種指定大学院とでは、どのような部分が異なるのでしょうか。また、専門職大学院とはどのようなものでしょうか。

第一種指定大学院は、大学の学内に附属の心理相談室等の設置が義務付けられており、臨床心理士の有資格者の教員の必要数が多く設定されています。簡単にいえば、臨床心理士になるための設備や人員が、客観的により整備されていると認められているのが第一種指定大学院であるといえるでしょう。

第二種指定大学院は、大学の学内に附属の心理相談室を義務付けられてはいませんが、外部機関や学内実習などでそのあたりの補完を行っています。また、第一種指定大学院よりも臨床心理士の有資格者の教員配置の人数が緩やかであることが特徴です。だからといって、客観的に比較できる要因以外にも良し悪しを決める要因が考えられますので、必ずしも第一種が優れているというわけではありませんが、ほとんどの大学院が要件をそろえて第一種へと変わってきています。

また、第一種指定大学院と第二種指定大学院の大きな違いとしては、「修了したその年に資格試験がすぐ受けられるか否か」ということがあります。臨床心理士は、医師免許や看護師免許とは異なり、卒業と同時に資格を得ることはできません。

つまり第一種指定大学院の場合は、2019年3月に大学院を修了すると、2019年10月~11月に試験を受けることとなり、2019年12月に合格発表、2019年12月~2020年3月までの間に資格取得見込みというポジションを手に就職活動を行い、大学院を修了した1年後の2020年4月から就職という運びになることが多いのです。

大学院を修了してから試験までの半年間は、自分でもしくは大学院等の同級生らと試験勉強を続けながら、心理戦などのアルバイトで生計を立てていくことになります。第二種指定大学院では、修了したその年の試験を受けることができず、実務経験を1年間積むことが必要になりますので、翌年の臨床心理士資格試験を目指すこととなり、実際の就職は大学院を修了してから2年後ということになります。

また専門職大学院は、第一種とも第二種とも異なり、「修士論文を書くために研究を行う」ということをせず、臨床心理士として活躍するための実践的な学びを中心に行っていく大学院で、通常の大学院というよりは(良い意味で)専門学校のような大学院といえるでしょう。

修士論文を書く必要がないため研究計画書を書く必要がなく、その代わりに活動計画書など、大学院で有意義な活動ができるかを出願時に提出したりします。また、臨床心理士資格試験の際の論述問題が免除されるのも魅力の一つです。

このようなことから、研究や統計、論述が苦手な方が「研究者になるつもりはないし、実践的な学びがたくさん得られるのでは」と思い、専門職大学院を好まれる傾向が強いように思えますが、必ずしも専門職大学院が圧倒的に魅力があるかというとそうではありませんので注意が必要です。

専門職大学院は上記のような理由からか、比較的受験者数が多く、倍率自体はかなり高くなる傾向があります。また、学生の受け入れ人数が比較的多いことで、第一種指定大学院の大学院生と異なりカウンセリングのケースがほとんど持てないということも少なくないようです。

学外実習など実践的な学びが多いとはいえ、果たして大学院生レベルで実習として従事させてもらえる内容がどれほどあるのか、そういったことを考えると専門書を読む限がないくらいに忙しくなることもある専門職大学院よりも、第一種や第二種の指定大学院の方が良い可能性もあり、一概にどちらがいいかを語ることは難しいと言えるでしょう。

以上のように、指定大学院の選び方は、単に大学の名前で選ぶのではなく、修士時代にしたい研究内容や興味のある分野(教育関係の心理臨床。O○療法etc.)の専門の教員が、指導教官として担当していただけるかというところが基準になってきます。大学院の特徴や指導教官などが、自分の研究・学習したいこととよく合っているかを精査した上で、受験校を選ぶ方がいいでしょう。

IPSA心理学大学院予備校においても、心理系大学院受験のための、通学講座や通信講座を行っていますが、社会人の方で一度も心理学に接点がなかった方も多数おられ、ますます臨床心理士など心理学領域への興味・関心が高まっているように感じられます。

臨床心理士資格試験の試験内容

臨床心理士資格試験の一次試験は、筆記試験として、マークシート形式の全100問からなる試験が実施されます。試験時問は150分とされており、100問に答えなければいけません。試験内容は、臨床心理面接や臨床心理査定、臨床心理学的地域援助、研究法や調査法、倫理・法律に関する領域の6領域から成ります。知識のみではなく、心理臨床にかかわる事例問題や、関連する法律などに関する事例問題、ロールシャッハ・テストのスコアリングを見て解釈をする問題など多岐にわたります。

一次試験では、難問奇問が出てくることもあるため、なかなか満点を取ることは難しいと思われます。見たことのない語句が出てくる問題も出題されることが少なくありませんが、問題数も多いですので、慌てず解ける問題から冷静にどんどん解いていくことが求められます。臨床心理士資格試験の問題は、全てが開示されていませんが、認定協会が誠信書房から刊行している過去問で大体の傾向をつかむことが大切です。過去問と同じ問題や同じような問題が出ることもあるため、過去問は何度も目を通し、ほぼ完全に解けるようになっておきましょう。

また一次試験には、マークシート形式の筆記試験のあと、90分間で1001~1200字で答えることを要求する論述問題が含まれています。この論述問題は、一次試験では評価の対象とされず、一次試験を通過して二次試験に行った際の参考として一緒に用いられるようです。それでも、一次試験のときに書いたものを、あとで修正を加えることはできませんので、マークシート形式の筆記試験とともにこちらも万全で臨まなければなりません。

二次試験は面接試験(口述試験)です。二次試験では、面接官や受験生によって問われることが異なるため、全てを予測することは難しいですが、面接では常識的な服装、礼儀、態度で臨みましょう。

面接では、どんな状況にも冷静沈着に対処できる能力、2名の面接官に対する礼儀と応答力、臨床心理士になるしっかりした自分なりの目的と心構えが要求されているのかもしれません。大学の学部生からストレートで大学院に入り、臨床心理士試験を受験した人と比べて、他の経歴から転向して大学院に入り、臨床心理士試験を受験した人の方が、「なぜ元の職業を辞めてまで臨床心理士を取ろうと思うのか」「職業はそのままで臨床心理士の資格を取ることに一体どういうメリットがあるのか。必要ないのではないか」といったことを聞かれることがあるなど、厳しくなる可能性があります。自分なりの答えを冷静に答えられるよう、あらかじめよく考えておいて面接に臨みましょう。

本書を利用した学習スケジュール例(大学からのストレート受験)

本書を利用した学習スケジュール例(社会人からの受験[大卒資格あり])

臨床心理士資格試験をクリアするための本書の使い方

以上のようなことから、臨床心理士資格試験(以下、資格試験)では、まず大学院入試や大学院時代に培った知識をもとに、本書を使って全体を見直してみましょう。その中で自分が弱い部分が見えてくるかもしれません。

また前述のように、資格試験の過去問を何度も解くことはとても大切です。公開されている過去問を使い、どのような形で出題がなされるかをご自身で確認してみてください。本書では、重要箇所は色文字にしてあります。まずは、その色文字部分を基準にして、資格試験の○×判断で惑わされないように学習しましょう。色文字の箇所をほとんど覚えてしまったら、次に太字の箇所を重点的に覚えましょう。

本書を資格試験の勉強のために、中心的な本として使っていただけると幸いですが、当たり前のこととして1冊では、臨床心理士資格試験の全てを網羅することは到底不可能です。前述のようにほぼ100点満点は取れないようにできている試験ですが、できるだけ高得点を目指していただきたいと思います。

著者のオススメは、本書を中心に据えていただき、その他さまざまな本に触れるために書店や図書館で、たくさんの書籍をとにかく興味を持って読んでいただきたいと思います。本書の巻末には、お薦め書籍をいくつかご紹介していますが、それらのお薦め書籍だけでなく、ご自身で興味を持たれたところや苦手な分野の書籍を探して読まれるとよいでしょう。

本書を木の幹とすると、枝葉の部分をそういった各専門書で補っていくことで、全体としてのバランスも保ちつつ、それぞれの方の興味によって彩られた木となって育ち、みなさんの成長につながることを期待しています。

心理系大学院の試験内容

試験科目としては、専門科目・外国語科目・面接試験という形で、多くの大学院の試験が行われています。専門科目には、臨床心理学(心理臨床心理査定、地域援助など)、心理学一般(臨床以外の心理学)、統計学、精神医学などが含まれ、知識や対応力が問われます(大学院によっては、その他の専門的な内容が問われることも)。

外国語科目では、英語・フランス語・ドイツ語・中国語などの中から選べることもありますが、もちろん多くの受験生が選ぶのは英語です。外国語科目では、全訳、部分訳、要約などの和訳問題が多く、文法問題や英作文が課される大学院はまれです。

心理系大学院入試の口述試験対策(面接対策)

面接試験は、筆記試験のあとに同一日で続けて行う場合、続けて翌日に行う場合、筆記試験に合格した人だけが面接試験を受ける場合などがあります。面接試験では、大学院の志望動機のほか、臨床心理士を目指そうとした理由、これまでのキャリアなどの一般的な質問内容のほか、大学院で研究したい内容について、研究計画書に基づいての質疑応答が行われることが多くあります。

心理系大学院入試をクリアするための本書の使い方

心理系大学院の入試(以下、大学院入試)において、臨床心理士資格試験と比較すると異なる部分として、「ロールシャッハ・テスト」や「法律関連」がほとんど出題されないこと、「論述問題」が配点として高い割合を示しやすいこと、「英語試験」があること、「専門用語の語句説明問題」が出やすいことなどがあります。

そのため、本書の「ロールシャッハ・テスト」の部分や「法律関連」の部分は、(過去問で多数出題されている場合を除き)、読み飛ばすようにし、本文の流れ(文脈)をより重視して色文字の部分を重点的に勉強していきましょう。

また、「専門用語の語句説明問題」では、本書の表部分の語句説明を用いて、その大学院で出題されがちな分野の専門用語に関して、どれでも答えられるようにきっちり覚えておきましょう。

「英語試験」に関しては苦手な方も多いですので、文法事項にこだわりすぎることなく、長文読解と和訳をうまくできるように長文読解の練習や和訳の練習を定期的に行っていくことをお薦めします。

IPSA心理学大学院予備校 (著)
出版社: 秀和システム (2019/2/15)、出典:出版社HP

資格試験の口述試験対策(面接対策)

資格試験の面接では、面接官によって聞かれる内容が異なるため、どういった質問が出されるかはわかりませんが、よくある質問としては以下のようなものが挙げられます。

・臨床心理士や公認心理師を目指す理由
・臨床心理士や公認心理師を取得することで何が変わるか
・臨床心理士や公認心理師になれば、どういう領域で働きたいか
・大学院で学んだこと・修士論文について
・ケースで学んだこと、難しかったこと、印象に残ったこと
・スーパーヴィジョンを受けているかどうか
・一次試験はできたか
・現在、臨床を実践する場はあるか。そこではどんなことをしているか。
・オリエンテーション(自分の専門領域)について

これらは大体一般的な質問内容かと思いますが、現職教員などで臨床心理士の受験をする方の場合、臨床心理士や公認心理師の資格を取ることによるメリットや必要性などを聞かれ、「メリットが特になければ必要ないのでは?」という文脈に持っていかれることもあるので、注意が必要です。

また、スーパーヴィジョンを受けているかどうかや、大学院を修了後に臨床の場で動いているかどうか、またその内容について尋ねられることもあるので、臨床の場で働いていなくても今後働く意欲があること、常に臨床の場で学ぶ姿勢を見せることが大切です。

面接は、面接官によっては圧迫面接が行われることもあると聞きますが、基本的には堂々と冷静に、社会人らしい常識をわきまえた態度で面接に臨みましょう。あえて困るシチュエーションを作り、困った時にどう対処するのかを見られているのかもしれませんね。

大学院入試の面接試験は、臨床心理士の資格試験と比べるとまだ楽な方かもしれませんが、合否が関わってくることは資格試験と変わらないためしっかりと対策をしたいものです。多くは研究計画書に書いた内容について聞かれたり、臨床心理士を目指す理由や本学を志望する理由、(社会人であれば)今の仕事を辞めてまで大学院に来ようと思う理由などが聞かれます。

大学院によっては集団討論(グループディスカッション)などが行われることがあります。集団討論では、「全く発言しない」という立場はメリットを享受しにくいですので、基本的には発言することは必要かと思われます。やみくもに発言すればいいというものではなく、発言する回数(程度)や内容、他の受験生に対する態度など、様々なことに同時に気を配ることができるかも大切な要因です。集団討論では、以下のようなことに気をつけておきましょう。

・発言を1度はする。
・発言しすぎない。
・他の受験生の発言に対して受容的な態度でいる。
・他の受験生の発言を批判してもいいが、根拠を持って批判する。
・他の受験生の発言に共感できる部分では、共感することも大切にする。
・出された題に対して決め付けずに、「~かもしれない」という態度で考える。

以上のような集団討論ではあまり話題になりませんが、よく聞かれる大切な内容としては、やはり断トツで「研究計画書」だと考えられます。研究計画書を万全なものにするため、研究計画書を作成する際には、先行研究をきっちり調べておく、わからないことについては冷静にこれから学ぶ姿勢を伝えるなど、真摯な態度で臨むことが重要でしょう。

最新の心理療法

古くは動物磁気のメスメルから始まる催眠療法(古典催眠)から、フロイトの精神分析、ユングの分析心理学(ユング心理学)、ロジャーズの来談者中心療法(後のパーソンセンタードアプローチ)が心理療法として有名なものでした。現在でもこれらは非常に有名かつ世界中で行われている心理療法ですし、この後出てきた心理療法もこれらを元にして発展しているものが数多くあります。

2010年には、行動療法と認知療法から生まれた認知行動療法が、日本の健康保険で保険点数として認められるようになりましたが、この認知行動療法が生まれたのも1970年代ごろと言われ、かなり昔のことです。

アメリカを中心として、その後もたくさんの心理療法が生まれてきましたが、日本に入ってきているものもまだまだ十分ではなく、実際にそういった心理療法を教えることのできる臨床心理士、カウンセリングで扱っている臨床心理士もほんの数%に過ぎません。たとえば、精神分析から発展した心理療法として、クラーマンの対人関係療法(IPT)があります。

精神分析での治療が何年もかかることから、対人関係療法では期間をセッション回数12回などに限定して定め、短期間で結果を出すことができるとしてアメリカで隆盛しました。対人関係療法は、アメリカでは認知行動療法と並んでよく用いられていますが、日本ではまだそれほど有名になっていないのが特徴です。分析心理学の流れから発展したものとしてミンデルのプロセス指向心理学があります。

元々の認知行動療法は、(行動療法や認知療法を第1世代とすると)第2世代とも呼ばれており、2000年代からは第3世代の認知行動療法として、マインドフルネスの概念を取り入れたマインドフルネス認知療法(MBCT)、弁証法的行動療法(DBT)、アクセプタンス・コミットメントセラピー(ACT)などがアメリカで流行し、Google社が社員研修SEARCHIとしてマインドフルネスの要素を取り入れたことなどから、日本にも数年前から徐々に知られるようになってきました。マインドフルネスを基としない新しい認知・行動療法として、メタ認知療法(MCT)や行動活性化療法(BA)、機能分析心理療法(FAP)などもあります。

コミュニケーションを扱う心理療法としては、家族療法、解決志向アプローチ、ナラティブアプローチなどがあります。家族療法などはアメリカではソーシャルワーカーが専門的に用いていることが多いですが、日本ではあまり知られていないのは残念なことです。解決志向アプローチは、コーチングの基礎になったとも言われていますが、日本では扱うセラピストがまだまだ少ない状況にあります。

ナラティブアプローチでも、特に狭義のオセアニア由来のナラティブセラピーのほか、アメリカ由来のナラティブセラピーであるコラボレイティブアプローチ、フィンランドで開発されたオープンダイアローグなど、枚挙に暇がありません。ナラティブは、世界的に看護の世界からビジネスの世界にまで進出してきている有望な領域です。特にオープンダイアローグについては、急性期の統合失調症の改善に対してかなり大きなエビデンスを持つものとして注目を浴びています。

また、これまで別の疾患だと思われていた病態が、実はトラウマによるものだとわかったものも少なくなく、トラウマ治療の心理療法として、EMDR、TFT、ソマティック・エクスペリエンス(SE)などが非常に効果的なものとして用いられ、トラウマに伴う解離に対応できる心理療法としては自我状態療法(EST)などが用いられています。

これらの発展により、これまで(今でも)原因不明の不治の病と思われていた精神症状、または身体症状ですら、心理療法によって症状除去や緩和ができる可能性が大きく広がっています。中でもEMDRは、WHO(世界保健機関)が、「最も安全なトラウマ治療」としてEMDRを定めたほか、2014年にNHKで何度も取り上げられたことから、一般的にも急速に知られるようになりました。もちろん、NHKなどで取り上げられた番組を見ていた人に限られていますので、広まっていくのはこれからと考えられます。

実際、キーワードとしては、社会構成主義やマインドフルネス、身体感覚、トラウマ理論、ポジティブ心理学などが主流になっているように思われます。国内外の知見をいち早く取り入れ、日本でも臨床に活かしていくためには英語の論文や書籍を読むこと、また国際学会や国際会議への参加なども大切ではないでしょうか。

関連書籍のラインナップ

 

臨床心理学・心理臨床領域のさらなる発展に向けて

公認心理師・臨床心理士の職域は非常に広く、臨床心理士は横断的な資格といわれているにもかかわらず、まだまだ職業として成熟しているとは決して言えません。非常勤の戦が多く、常勤の職の平均的な給与も高くはないため、安定した生活を送るための資格としては不十分だといえます。心理戦の国家資格ができることで、多少は状況が変わるかもしれませんが、それでも個々の臨床心理士がそれぞれの領域でいかに役立っていくか、役立つことを証明していくか、といったことが求められるでしょう。

本書では、紙の枠にとらわれることなく、今後の学びや心理臨床活動に活かしていけるように、以下のような様々なものをご提案しています。自分に合った学び方や教えてくれる師、一緒に学ぶ友人を得て、合格”を自分のものにしましょう!

また、指定大学院でも一部しかまだ取り入れられていない新しい心理療法に関しては、臨床心理士大学院入試にも資格試験にもほぼ出題されないということから、本書の目的を逸脱しますので、以下のような様々な媒体を通して学べるように便宜を図っています。

1 MEDI心理臨床ポータルサイト
2 IPSA心理学大学院予備校
3 一般社団法人国際心理支援協会
4 スーパーバイザーサーチ

1MEDI心理臨床ポータルサイト
臨床心理士や大学院生、予備校生、その他心理学に興味のある方向けの心理学系ポータルサイトです(https://cp-information.com)。最新の心理関連ニュース、心理学系の研修会や研究会情報、心理関連トピックス、臨床心理師の求人情報、各種心理学系学会の大会情報などを掲載しており、大学院に行く前の方や大学院生はもちろん、臨床心理士になってからも有用な情報がいっぱいのポータルサイトで、無料で活用していただけます。

2IPSA心理学大学院予備校
本書を執筆している著者らが講師を務める心理系大学院対策、資格試験対策の予備校です(https://ipsa-yobiko.com)。通学と通信講座を行っています。

3一般社団法人国際心理支援協会
現任者講習会、心理・精神医学など専門家向けの研修会の開催などをしている社団法人のホームページです(関連法人)。

4スーパーバイザーサーチ
臨床心理士は、主観的な世界を扱うといった特性上、主観に埋没してしまうことを防ぎ、客観的な視点で熟達した先輩方や先生方から学び続けるため、スーパービジョンを受けることが強く推奨されています。日々の臨床の中で悪循環に陥ってしまわないよう、自分に合ったスーパーバイザーをぜひ見つけてください。

スーパーバイザーを見つけるための方法は、1大学院の教員にお願いする、2自分で学会や研修会などで探してお願いする、3著書などで見つけた先生に連絡を取ってお願いする、4友人・知人に紹介してもらう、5各都道府県の臨床心理士会のスーパーバイザー紹介サービス(実施しているところと、していないところがあります)を利用する、などがあります。

ただ、上記の方法のみではスーパーバイザーを探しきれないことは多々ありますので、以下にスーパーバイザーを見つけるためのウェブサイトをご紹介しておきます。大学院生や臨床心理士になる前、臨床心理士になりたてのころなど、スーパービジョン料金は多少かかってしまいますが、初心のうちこそ自分にあったスーパーバイザーを見つけて自己研鑽に励むことで、きっとかけがえのない経験と成長をすることができると信じています。

スーパーバイザーサーチ
http://www.sv-search.com

IPSA心理学大学院予備校 (著)
出版社: 秀和システム (2019/2/15)、出典:出版社HP

目次

・はじめに
・心理療法の系譜
・本書の特長
・臨床心理士資格と、臨床心理士資格試験について
・公認心理師養成大学院と臨床心理士指定大学院
・第一種指定大学院と第二種指定大学院、専門職大学院の違い
・臨床心理士資格試験の試験内容
・本書を利用した学習スケジュール例(大学からのストレート受験)
・本書を利用した学習スケジュール例(社会人からの受験[大卒資格あり])
・臨床心理士資格試験をクリアするための本書の使い方
・心理系大学院の試験内容
・心理系大学院入試の口述試験対策(面接対策)
・心理系大学院入試をクリアするための本書の使い方
・資格試験の口述試験対策(面接対策)
・最新の心理療法
・臨床心理学・心理臨床領域のさらなる発展に向けて

第1章 基礎心理学

1 心理学の歴史
2 認知心理学
3 社会心理学
4 発達心理学
5 教育・学習心理学
6 感覚・知覚
7 リーダーシップ理論
8 ストレスと心的葛藤とは
9 パーソナリティ論
10 記憶と脳

第2章 心理面接・心理療法

1 心理臨床面接
2 精神分析的心理療法
3 ユング心理学
4 認知行動療法
5 人間性心理学
6 家族療法
7 遊戯療法・箱庭療法
8 心理教育と集団に対するアプローチ
9 その他の心理療法

第3章 心理査定

1 心理査定
2 質問紙法の心理検査
3 投映法の心理検査
4 ロールシャッハ・テスト
5 発達検査・知能検査
6 その他の心理検査
7 心理検査の使い分けとテストバッテリー

第4章 心理学的研究法と心理統計

1 推測統計学とは
2 尺度水準と分布
3 信頼性と妥当性
4 心理学的研究法
5 相関係数とノンパラメトリック検定
6t 検定と分散分析
7 因子分析と主成分分析
8 回帰分析
9 共分散構造分析とその他の量的分析
10 質的研究法による分析法

第5章 精神疾患とその治療

1 精神医学
2 抑うつ障害、双極性障害、不安症、強迫症
3 トラウマ関連障害
4 心身症、摂食障害と心気症
5 パーソナリティ障害
6 統合失調症とそのスペクトラム
7 発達障害
8 こどもにみられるその他の障害
9 高齢者に関する障害と問題
10 その他の障害

第6章 地域援助と応用心理学

1 地域援助とは
2 スクールカウンセリング
3 応用心理学

第7章 心理職に関する法律と倫理

1 精神保健・心理臨床に関する法律
2 臨床心理士としての倫理
3 スーパーヴィジョンと研修

巻末資料

・論述試験対策
・臨床心理士試験の論述:過去の出題例
・臨床心理士試験の論述・予想テーマ
・論述に対するひとつの対処法
・曖昧さの重要性
・臨床心理士指定大学院模試
・模試解答
・臨床心理士資格試験模擬試験,
・模擬試験解答
・索引
・総合索引
・人名索引

お薦め書籍
引用・参考文献
あとがき

IPSA心理学大学院予備校 (著)
出版社: 秀和システム (2019/2/15)、出典:出版社HP