トコトン図解 気象学入門 (KS自然科学書ピース)




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まえがき

本書を手にとったあなたは、大学で気象学を勉強しようと思っている学生、気象予報士の資格試験を受けようと考えている社会人、あるいは純粋に気象学って何だろうと好奇心を持っている人かもしれない。本書が、そのような読者の興味や期待に少しでも応えられる内容になっていることを、著者として切に望んでいる。

本書は気象学分野のいわゆる入門書である。これまで多くの入門書が出版されているが、本書は著名な専門書である「一般気象学」(小倉義光著、東京大学出版会)への橋渡しを意識した入門レベルの内容となっている。気象学に関連する概念や現象に対して、より具体的なイメージと興味を持ってもらうために、カラーの図版を多く用いて、できるだけ平易な文章で解説することを目指した。

本書は3部構成で編集されている。第1部は「気象学を支える科学原理」と題して、大気の形成の歴史から始まり、地球の放射収支と大気の温度分布、雲と降水過程、大気の運動学・熱力学の基本を学ぶ。第2部は「大気の現象論」で、中小規模の気象現象、大規模な大気の流れ、エルニーニョ現象などの大気海洋相互作用、成層圏の循環とオゾン層など、様々な観点から重要な気象現象を紹介している。

最後の第3部「最先端の気象学」では、気象学にとって必要不可欠な、大気と海洋の観測の歴史と最先端技術から始まって、大気の数値予報と予測可能性、異常気象とテレコネクション(遠隔結合)、過去・現在・未来の気候変動のしくみ、について最新の研究成果も交えながら解説している。

本書で扱っている内容のうち他の入門書であまり見られないのは、第8章「大気海洋相互作用」、第10章「大気と海洋の観測」、第11章「大気の予測可能性」、第12章「テレコネクション」などである。今や異常気象や気候変動のメカニズムを理解するためには、大気だけでなく海洋の循環や大気と海洋の相互作用の知識が必要であり、その基礎となっているデータを得るためには大気と海洋双方の観測技術の向上が欠かせない。

そして、取得した膨大な観測データを基にスーパーコンピュータで数値計算をして天気予報が発表されている。これらの具体的な取りみや仕組みが臨場感をもって読者に伝われば幸いである。

入門書とは言え、章によっては少なからず難解な箇所があるかもしれない。数式を最小限に留めたことで逆に文章が難解になってしまった箇所もあると想像される。その場合は読み飛ばしても良い構成になっている。「一般気象学」への橋渡しという位置づけではあるが、一部についてはかなり内容が濃い箇所もある。全体を俯瞰してすべて平易な内容に揃えてしまうと逆に気象学の醍醐味・面白さが失われてしまうという考えから、各章の内容の濃淡は敢えてそのままにしている。

また、大学での教養教育や学部教育での講義の教科書・参考書としても、十分耐えられるような内容になっているものと自負している。一方で総花的になり過ぎないように、また紙面の都合もあり、残念ながら割愛した内容も多い。特に大気境界層内の乱流現象、雷雨・降水セルの現象、都市気候、大気汚染、極域の気象、熱帯の季節内変動などは十分に言及できなかった。これらについては他の教科書・参考書などを参照して頂きたい。

本書を出版するにあたり、講談社サイエンティフィク出版部の渡邉拓氏、大塚記央氏には編集作業で多大なサポートを頂いた。初期の原稿に対する多くの有意義なコメントは改訂する上で大変参考になった。厚く御礼を申し上げたい。

2018年3月
釜堀弘隆
川村隆一

釜堀 弘隆 (著), 川村 隆一 (著)
出版社: 講談社 (2018/3/29)、出典:出版社HP

Contents

まえがき

第Ⅰ部 気象学を支える科学原理

第1章 地球大気の成り立ち
1.1 地球大気の起源
1.2 地球の二次大気の進化
1.3 太陽スペクトルとハビタブルゾーン

第2章 大気の鉛直構造と放射平衡
2.1 放射平衡と温室効果
2.2 地球の放射収支
2.3 暴走温室効果
2.4 気温の鉛直分布と水平分布

第3章 雲と降水
3.1 10種雲形
3.2 空気中の水蒸気と雲
3.3 降水の形成過程
3.4 世界の降水量分布

第4章 大気の運動学
4.1 流体に働く力
4.2 回転流体とコリオリカ
4.3 上空の大気の流れ
4.4 地衡風の高度変化
4.5 地表に近い大気の流れ

第5章 大気の熱力学
5.1 状態方程式
5.2 静水圧平衡
5.3 温位の概念
5.4 乾燥断熱減率と湿潤断熱減率
5.5 大気の静的安定・不安定

第Ⅱ部 大気の現象論

第6章 中小規模の気象現象
6.1 梅雨前線
6.2 温帯低気圧
6.3 台風
6.4 竜巻
6.5 局地循環

第7章 大規模な大気の流れ
7.1 低緯度(熱帯)の大気循環
7.2 中高緯度の大気循環
7.3 モンスーン循環

第8章 大気海洋相互作用
8.1 風成循環
8.2 赤道湧昇と沿岸湧昇
8.3 熱帯太平洋の大気海洋相互作用
8.4 熱帯インド洋の大気海洋相互作用
8.5 中緯度の大気海洋相互作用

第9章 成層圏の大気現象
9.1 成層圏の大循環
9.2 成層圏突然昇温
9.3 成層圏準2年振動
9.4 オゾン層とオゾンホール

第Ⅲ部 最先端の気象学

第10章 大気と海洋の観測
10.1 気象観測のための機器
10.2 地上での気象観測
10.3 高層観測
10.4 海洋の観測
10.5 地上からのリモートセンシング
10.6 宇宙からのリモートセンシング

第11章 大気の予測可能性
11.1 リチャードソンの夢
11.2 数値予報
11.3 カオス
11.4 数値予報の実際
11.5 季節予報

第12章 テレコネクション―遠方の大気現象がおよぼす影響
12.1 テレコネクションとは何か
12.2 テレコネクションの力学
12.3 冬季のテレコネクション・パターン
12.4 夏季のテレコネクション・パターン

第13章 気候変動のメカニズム
13.1 ミランコビッチ・サイクルと氷期
13.2 熱塩循環と気候
13.3 温室効果気体と地球温暖化
13.4 火山噴火
13.5 数十年規模変動

索引

本文イラスト:(株)アート工房

釜堀 弘隆 (著), 川村 隆一 (著)
出版社: 講談社 (2018/3/29)、出典:出版社HP