新・証券投資論Ⅱ




はじめに

証券投資にはリスクがついて回る。リスクをとらなければ、リターンはリスクフリーの金利にしかならない。高いリターンを上げるにはリスクをとらなければならないが、無闇にとればよいというわけでもない。

リスクにはプレミアムをもたらすものもあれば、そうでないものもある。どんなリスクをとり、どんなリスクは避けるべきか。そしてどの程度のリスクでどれくらいのリターンを狙うのか。こうした見極めや決断が投資の成否を左右する。

ポートフォリオ理論や資本市場理論はこれらの礎である。合理的な個人の行動と完全な市場の機能を前提として、リスクとリターンの関係を明らかにする。それらはいわばリスクテイクの指針となる。

しかし、理論は複雑な現実を極度に抽象したものである。投資の本質を示すものの、すぐ単純に適用できるわけではない。現実には理論の前提が満たされていなかったり、いろいろな制約があったりする。

捨象された複雑な現実が、時として重大な帰結をもたらしたりもする。果たして現実は理論どおりに動いているのか、はたまたどの程度の乖離が生じているのか。実際の投資においては、投資理論に加えて、資本市場の実証や制度的な分析が不可欠である。

『新・証券投資論』の第II巻である本書は、第I巻の理論を前提に、制度や実証を踏まえて、実践的かつ具体的に証券投資を論じている。わが国では1980年代後半から、投資の実務において、このような理論的、実証的アプローチがとられるようになった。

日本証券アナリスト協会の教育プログラムや本書の前身の『証券投資論』などによって、投資理論の普及と実践が図られた結果であろうが、それはまた、学会、実務界の双方において、理論のさらなる精緻化や多くの示唆に富む実証を生み出すことになった。

投資の実務はこのような成果をいち早く取り込み、目覚しい発展を遂げている。本書が『証券投資論」から版を改めただけでなく、2巻本として実務篇を独立させたのは、まさにこうした発展を織り込まんがためである。

執筆者の3人は、実務家として投資理論の実践をリードしているだけでなく、資本市場の実証研究や投資戦略の開発に従事してきた。また、日本証券アナリスト協会のセミナーや出版物を通してその普及にも努めてきた。本書は3人のそうした経験が凝縮された証券投資の実践論である。

本書は浅野と神原が全体の構成や内容を企画・監修する一方、執筆は、伊藤が第1章「債券投資分析」と第4章「デリバティブ投資分析」を、諏訪部が第2章「株式投資分析」と第3章「国際証券投資」を、そして荻島が第5章「投資政策と投資プロセス」、第6章「アセット・アロケーション」、第7章「マネジャー・ストラクチャーとマネジャー評価」および第8章「オルタナティブ投資」を分担した。

第1章~第4章はそれぞれの資産ごとの分析であり、独立性が高いので、別々に読むことが可能である。これに対して第5章〜第8章は首尾一貫したポートフォリオ・マネジメントを論じているので、興味のある章だけ読むことも否定はしないが、なるべく順に読み進んでいただきたい。

本書が証券投資の実践に貢献するとともに、さらなる研究や戦略開発の刺激になることを願っている。

2009年5月
浅野幸弘
神原茂樹

伊藤 敬介 (著), 諏訪部 貴嗣 (著), 荻島 誠治 (著), 浅野 幸弘 (監修, 監修), 榊原 茂樹 (監修, 監修), 日本証券アナリスト協会 (編集)
日本経済新聞出版社、出典:出版社HP

目次

はじめに

I バリュエーションとポートフォリオ構築

第1章 債券投資分析
1 債券のキャッシュフローとその評価
1.1 債券の種類とそのキャッシュフロー
固定利付債/変動利付債/オプション内包型債券/インフレ連動債/証券
化商品・仕組み債
1.2 債券評価の基本
1.3 債券価格と最終利回り
最終利回りとは/1年m回複利の場合/債券価格と最終利回りの関係
1.4 様々な利回り尺度
直接利回り/単利最終利回り/実効利回り/保有期間利回り
1.5 利回り変化と債券価格
デュレーション/コンベキシティー
2 金利の期間構造
2.1 利回り曲線と金利の期間構造
利回り曲線とは/利回り曲線の推計方法
2.2 利回り曲線の変動要因
2.3 様々な利回り曲線
スポット・レート・カーブ/フォワード・レート・カーブ/パー・レート・カーブ/投資対象と利回り曲線
2.4 金利期間構造の理論
純粋期待仮説/流動性プレミアム仮説/特定期間選好仮説
2.5 金利期間構造モデル
均衡モデル/無裁定モデル
3 信用リスクと社債評価
3.1 信用リスクと格付け
3.2 信用リスクと利回り格差
3.3 信用リスクの推定
構造型モデル/誘導型モデル/統計モデル
3.4 社債評価と投資戦略
4 オプション内包型債券と証券化商品の評価
4.1 コーラブル債とプッタブル債
4.2 変動利付債
LIBOR連動型変動利付債/15年変動利付国債
4.3 インフレ連動債
4.4 モーゲージ・バックト証券(MBS)
MBSの概要/期限前償還とMBS評価
5 債券ポートフォリオの投資戦略
5.1 投資目的とベンチマーク
5.2 債券ポートフォリオのリスク
5.3 パッシブ戦略
インデックス運用/キャッシュフロー・マッチング/イミュニゼーション
5.4 アクティブ戦略
イールドカーブ戦略/セクター・ティルト戦略/個別銘柄戦略

第2章 株式投資分析
1 市場の効率性と株式投資分析
1.1 市場の効率性に対する考え方
1.2 株式市場の効率性と市場アノマリー
小型株効果/割安株効果/リターン・リバーサルとモメンタム/それ以外の市場アノマリー
1.3 市場アノマリーの原因
市場の非合理性/リスクプレミアム説/偶然説1.4市場の効率性と株式投資
2 株式の評価モデル
2.1 企業・株式価値評価モデルの分類
絶対価値評価モデル/相対価値評価モデル
2.2 配当割引モデル
配当割引モデル/ゼロ成長モデル/定率成長モデル/多段階配当割引モデル/サステイナブル成長率/フランチャイズ価値モデル
2.3 残余利益モデル
株式の残余利益モデル/残余利益モデルと配当割引モデルの等価性
2.4 割引キャッシュフロー法(DCF)
割引キャッシュフロー法(DCF)/DCF法の適用例
2.5企業価値の残余利益モデル:EVA
EVA/EVAの適用例
2.6 リアル・オプション評価モデル
延期オプション/それ以外のリアル・オプション/リアル・オプション評価の意義
2.7 資本コスト
資本コストの定義:総資本コスト、株主資本コスト、負債コスト/総資本コストと最適資本構成の問題/株主資本コスト/WACC推定のためのその他の要素/株式リスクプレミアム/資本コスト:まとめ
2.8 株式評価尺度
PER(株価収益率)/配当利回り/PBR(株価純資産倍率)/EV/EBITDA/PSR(株価売上高倍率)/相対価値評価の注意点
3 株式の運用手法
3.1 インデックス運用
インデックス運用とは/インデックス運用の手法/インデックス運用の現状/インデックス運用の問題点
3.2 アクティブ運用
アクティブ運用とは/アクティブ運用の基本法則/アクティブ運用の種類
4 株式ポートフォリオの管理
4.1 投資スタイル
投資スタイルの定義/投資スタイルの歴史/スタイル・インデックス/投資スタイルによるファンド管理/投資スタイルの課題
4.2 ファクター・モデルによるリスク管理
株式のマルチファクター・モデル/ファクター・モデルによるリスク分
析/ファクター・モデルを利用したポートフォリオの最適化
4.3 執行コスト管理
執行コスト管理の重要性/執行コストの定義/執行コスト分析の例/執行コスト管理の実現

第3章 国際証券投資
1 国際証券投資の基礎
1.1 国際証券投資の意義
1.2 国際パリティ関係
購買力平価/国際フィッシャー関係/フォワード・パリティ/金利パリティ/カバーなし金利パリティ
1.3 国際パリティ関係の現実
フォワード・プレミアム・パズル/購買力平価の成立
1.4 国際資産評価モデル
1.5 ホームバイアス
1.6 国際証券投資の理想と現実
2 為替リスクとヘッジ
2.1 為替ヘッジの効果
2.2 エクスポージャー
エクスポージャーとは何か/エクスポージャーリターン/エクスポージ
ャー・リターンの特徴
2.3 最適ヘッジ比率
2.4 為替ヘッジ方針の決定要素
為替ヘッジの期待リターン/為替ヘッジのリスク/ユニバーサル・ヘッジ
2.5 為替ヘッジ戦略
3 国際証券投資の戦略
3.1 戦略的アセットアロケーション
アセット・アロケーションの算出例/2段階法による戦略的通貨配分の決定/1段階法による戦略的通貨配分の決定
3.2 戦術的アセット・アロケーション
3.3 国際株式投資
国際株式市場の概観/国際株式市場の統合と分断/国際株式市場の統合化の現状
3.4 国際債券投資
国際債券市場/国際債券投資戦略3.5エマージング投資
エマージング・カントリーの規模と成長性/エマージング株式市場/エマージング株式投資へのアプローチ

第4章 デリバティブ投資分析
1 デリバティブとは
1.1 デリバティブとは
デリバティブの原資産/デリバティブの種類/デリバティブの取引形態1.2デリバティブ評価の基本
2 先渡・先物・スワップ取引
2.1 先渡取引
2.2 先物取引
株価指数先物取引/債券先物取引/金利先物取引
2.3 スワップ取引
「金利スワップ/通貨スワップ/クレジット・デフォルト・スワップ/トータル・リターン・スワップ
3 オプション取引
3.1 オプション取引とは
オプションの種類/オプションの価格/オプションの損益曲線
3.2 オプションの評価
二項モデル/ブラック・ショールズ・モデル/アメリカン・オプションの評価
3.3 オプション価格の特徴
プット・コール・パリティ/オプション価格変動の特性/インプライド・
ボラティリティ/ダイナミック・ヘッジ
3.4 金利オプションとエキゾチック・オプション
金利オプション/エキゾチック・オプション
4 転換社債・ワラント債・仕組み債
4.1 転換社債
転換社債とは/転換社債の価格特性/転換社債の評価
4.2 ワラント債
4.3 仕組み債
仕組み債の例/仕組み債を含むポートフォリオの運用
5 デリバティブを活用した投資戦略
5.1 ヘッジ
株価指数先物によるヘッジ/スワップによる負債リスクのヘッジ/下方リ
スクのヘッジ
5.2 スペキュレーション
先物・スワップを用いたスペキュレーション/オプションを用いたスペキュレーション
5.3 裁定取引

Ⅱ ポートフォリオ・マネジメント

第5章 投資政策と投資プロセス
1 ポートフォリオ・マネジメントの考え方
2 ポートフォリオ・マネジメントのプロセス
2.1 計画(プラン)の段階
投資家の目標と制約の特定化と定量化/運用基本方針の作成/資本市場の
予測/基本ポートフォリオの策定
2.2 実行(ドゥ)の段階
2.3 評価(シー)の段階
モニタリングとバランス/パフォーマンス評価
3 年金基金のポートフォリオ・マネジメント
3.1 年金基金の運用管理構造
3.2 受託者責任とベンチマーク
4 運用基本方針
4.1 投資目標
リスク目標/リターン目標
4.2 投資制約
流動性/投資期間/税金と法規制/主体別の投資慣習
5 パフォーマンス評価
5.1 パフォーマンス測定
キャッシュフローのないパフォーマンス測定/総合収益率/時間加重収益率/金額加重収益率/内部収益率リンク法
5.2 ベンチマーク
ベンチマークの特性/ベンチマークの種類
5.3 パフォーマンス要因分解
5.4 パフォーマンス評価尺度

第6章 アセット・アロケーション
1 アセット・アロケーションとは何か
1.1 アセット・アロケーションの枠組み
1.2 アセット・アロケーションの意義
2 資産クラスの選択
3 資本市場の予測
3.1 期待リターン
過去データ/ビルディング・ブロック法/シナリオ法/期待リターンの実務的対応
3.2 リスク
3.3 相関係数
4 最適化
4.1 平均分散法
4.2 リサンプリング法
4.3 Black=Littermanモデル
4.4 モンテカルロ・シミュレーション
4.5 ALM
4.6 人的資産とアセット・アロケーション
5 リバランスとモニタリング

第7章 マネジャー・ストラクチャーとマネジャー評価
1 マネジャー・ストラクチャーの意義
1.1 マネジャー・ストラクチャーの歴史
1.2 バランス型運用と特化型運用
1.3 効率的なマネジャー数
1.4 相殺取引コストとクローゼット・インデックス
1.5 自家運用と委託運用
2 市場の効率性
2.1 市場の効率性とアクティブ・ファンド
2.2 パッシブ運用とアクティブ運用
2.3 パッシブ・アクティブ比率
2.4 アクティブ・マネジャーへの資金配分
3 リスク・バジェッティング
3.1 リスク配分比率
3.2 オルタナティブ投資のリスク分解
4 スタイル・マネジメント
4.1 ミスフィット・リスク
4.2 スタイル・マネジメントの実際
日本株式のスタイル管理導入による効果/外国株式のスタイル管理導入による効果
5 マネジャー評価
5.1 定性評価の基準
5.2 マネジャー評価情報の実務への応用

第8章 オルタナティブ投資
1 オルタナティブ投資の意義
2 ヘッジファンド
2.1 ヘッジファンド市場
2.2 リターン・データのバイアス
2.3 ヘッジファンドの戦略
2.4 マーケット・リスクとスタイル・ファクター
2.5 ヘッジファンドのリスク管理
流動性リスク/損失限定ルール
3 プライベート・エクイティ
3.1 プライベート・エクイティ市場
3.2 ベンチマークと過去のパフォーマンス
3.3 投資の意義とその特徴
4 不動産
4.1 不動産市場
4.2 ベンチマークと過去のパフォーマンス
4.3 投資の意義とその特徴
5 コモディティ
5.1 コモディティ市場
5.2 ベンチマークと過去のパフォーマンス
5.3 投資の意義とその特徴

参考文献
索引
装頓
安彥勝博