【最新】FinTech フィンテックを学ぶおすすめ本 – 分かりやすい入門から応用まで

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FinTech フィンテックを学ぼう

「FinTech」と書いてフィンテックと読む言葉ですが。こちらはFinanceとTechnologyをかけ合わせた、ITテクノロジーを駆使して金融や決済の分野にて新たなサービスを生み出す技術です。現在まででどこまでの事ができ、これから未来で何が起こるのかが分かる書籍を紹介します。

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出典:出版社HP

60分でわかる! FinTech フィンテック 最前線 (60分でわかる! IT知識)

FinTechの全貌がわかる

本書は、タイトルの「60分でわかる」の通り、見開き半分に解説文が、もう半分が図解の構成をとっていてわかりやすく、理解の手助けをしてくれます。また、FinTechの基本から具体例まで載っていて、項目も細かく分かれているため、自分の知りたい範囲に合わせて学習できます。入門書としておすすめです。

FinTechビジネス研究会 (著)
出版社 : 技術評論社 (2017/4/12)、出典:出版社HP

ご利用の前に必ずお読みください

本書は紙書籍「60分でわかる! FinTech フィンテック最前線」(ISBN978-4-7741-8880-5)を元に製作した電子書籍です。紙書籍とはデザインやレイアウトが異なり、ご覧になる端末により表示が異なる場合があります。表示設定は端末の標準設定を推奨します。配信後に補足訂正等でデータの再配布を行う場合があります。更新方法は購入先の電子書店のヘルプ等をご確認ください。
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Contents

Chapter 1 今さら聞けない! FinTechの基本
001 FinTechla “Finance, Technology
002 フィンテックはなぜ誕生したのか?
003フィンテックが急速に発展した3つの理由
004 フィンテックを構成する7つのサービス
005 フィンテックを担うスタートアップ企業
006 フィンテックのキーとなる3つの業界
007 フィンテックは従来の金融機関の脅威なのか?
008 フィンテックが消費者に与える影響は?
009 日本におけるフィンテックの現状は?
010 日本でフィンテックが広がらない理由
Column フィンテックの起源は海底ケーブルだった!?

Chapter2 今すぐ知りたい! FinTechサービス
011 新しい決済サービスが爆発的に普及し始めた
012 小規模店舗でも低コストでカード決済を導入できる
013 P2P送金が低手数料での海外送金を実現する
014 P2Pレンディングが貸し手と借り手をピンポイントでつなぐ
015 無担保融資の審査が6分で完了
016 資金調達のあり方を変えるクラウドファンディング
017 クラウド会計で経理処理を効率化
018 AIがポートフォリオを作成するロボアドバイザー
019 お的りを自動で積み立て投資
020 PFMで家計の動きを一元管理
021 スマートフォン上に預金口座を集約する
022 仮想通貨の9割を占めるピットコイン
023 P2Pで維持されるピットコインのしくみ
024 ビットコインを生み出すデータマイニング
025 ビットコインを支えるブロックチェーンとは?
Column 保険業界のフィンテック「InsTech」インステックの胎動

Chapter3 そうだったのか! FinTechを支える技術
026 フィンテックを支える7つの技術
027 モバイル端末の普及がフィンテックを生んだ
028 モバイル端末に個人情報が集約される時代
029 クラウドが金融ビジネス参入のハードルを引き下げた
030 ビッグデータに集積される膨大な情報
031 ビッグデータの分析が新たな融資や投資を生む
032 急速に人間に近づくAIの進化
033 AIが融資の可否を判断する
034 ロボアドバイザーが担う2つの役割
035 AIによる超高速「株取引」の例威
036 フィンテック企業と金融機関をつなぐAPI
037 銀行APIの公開がフィンテックを加速させる
038 フィンテック普及に欠かせない生体認証技術
039 UXがフィンテックサービスの成否を決定する
Column AIが金融機関のオペレータを担う「みずほ銀行 ワトソン」

Chapter4 今すぐ始めよう! FinTech導入事例
040 会社や店舗でフィンテック決済を導入するには?
041 フィンテック決済のメリットを知る
042 フィンテック決済に必要なコストを知る
043 今すぐ導入できる決済サービス4選
044 会社でフィンテック融資を受けるには?
045 フィンテック融資のメリットを知る
046 今すぐ活用できる融資サービス4選
047 会社で会計サービスを導入するには?
048 クラウド会計のメリットを知る
049 今すぐ導入できる会計サービス5選
050 個人の資産運用にフィンテックを活用するには?
051 フィンテック資産運用のメリットを知る
052 今すぐ利用できる資産運用サービス5選
053 個人の家計をフィンテックで管理するには?
054 フィンテック家計簿のメリットを知る
055 今すぐ利用できる家計簿サービス5選
056 個人で仮想通貨を購入・取引するには?
057 今すぐ利用できるビットコイン事業者3選
Column ビットコイン決済を店舗に導入する

Chapter5 広がる可能性! FinTechの未来
058 フィンテックによって多様化する金融サービス
059 フィンテック企業に対する投資が急増している
060 金融機関とベンチャーの橋渡しを担うITベンダー
061 日本の金融機関もフィンテックへの取り組みを強化
062 大手金融機関とフィンテックペンチャーとの協業が始まる
063 銀行法改正で日本のフィンテックは変わるのか?
064 みずほとソフトバンクがレンディングサービスを開始
065 ソフトバンクが提供する個人向け投資管理サービス「One Tap BUY」
066 邦銀初!みずほ銀行が銀行APIを提供
067 フィンテックに特化した楽天の投資部門「Rakuten FinTech Fund」
068 3大メガバンクによるプロックチェーンの実証実験
069 FinTechの未来はどうなるのか?

FinTech関連企業リスト
索引

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001 FinTechは「”Finance」と「Technology」の融合

多様化する金融ITサービス
さまざまなメディアで「FinTech(以下フィンテック)」という言葉に触れる機会が増えました。「FinTech」は、金融を示す「Finance」とテクノロジー(IT技術)を示す「Technology」からなる造語で、「IT技術を駆使した金融サービス」ともいえます。
しかし、”TT×金融”は特筆するほど新しいものではありません。ATMでのお金の出し入れやクレジットカードの利用など、すでに私たちの生活にIT技術による金融サービスは定着しています。また、IT技術は、膨大なお金の動きの把握・管理の効率化に欠かせない技術ですから、金融業界はほかの分野よりも早く積極的に導入してきました。では、なぜ今フィンテックなのでしょうか?

FinTechビジネス研究会 (著)
出版社 : 技術評論社 (2017/4/12)、出典:出版社HP

フィンテック (日経文庫)

フィンテックの全体像がわかる

本書はFinTechの基礎的な解説書であり、FinTechを知らない上司の質問にうまく答えられるような構成になっています。知識のない人相手に説明できるようになることがコンセプトとなっているので、基本的な内容から解説されており、入門書としておすすめです。

柏木 亮二 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2016/8/6)、出典:出版社HP

はじめに

本書は「フィンテック (FinTech)」の基礎的な解説書です。フィンテックとは多様な要素が含まれた非常に幅広い概念を含んだ言葉です。そのため、書籍や新聞・雑誌の記事を読んでも、フィンテックとは何かがいまひとつわかりにくくなってしまっているように思います。新しいテクノロジーを指すのか、それとも斬新なビジネスモデルで新たな金融サービスを提供するベンチャー企業を指すのか、それとも既存の金融機関のビジネス変革を指すのか、などなど。

本書はこのような「フィンテック」の多様な要素を段階的に理解できるように、構成しています。もっとわかりやすくいえば、上司から「フィンテックって何?」と聞かれたときに、その質問の内容に応じてうまく答えられるような構成になっています(この手の質問はほんとに困りますよね)。
本書の構成を「上司の質問」に沿って簡単に説明します。最初は、「フィンテックって最近よく見るけど、なんで注目されてるの?」という素朴な質問に答えるためのものです。第1章「フィンテックが注目される理由」では、「フィンテック」が登場した背景や、フィンテックが注目される一因となった急成長したベンチャー企業、そして日本の金融業界の特徴などを説明しています。

次は「フィンテックってどういう意味?」という質問に答える内容が、第1章「進化するフィンテック」です。「フィンテック」という言葉そのものは、一説では40年以上前から存在しています。その時々で意味するものが徐々に変化しているのです。そのため、使う人によって「フィンテック」という言葉が意味するものも微妙に異なっています。この章では「フィンテック」という言葉がどのように進化してきたのか、そしてそれぞれの段階の「フィンテック」での主要なプレーヤーや技術、そして「その「フィンテック」はどういう意味の「フィンテック」なのか」を整理して解説しています。

さて、ここまでで上司の方もある程皮フィンテックのイメージはできたようです。その次にくるであろう「フィンテックの具体的なサービスってどんなものがあるの?」という質問に答えるのが、第皿章「いま何が起こっているのかを押さえておこう」です。この章ではフィンテックがもたらすものを「金融のデジタル化」という観点で整理しています。すでに始まっているフィンテックサービスを中心に、「金融のデジタル化」がどのように金融サービスを変容させているのかを解説しています。金融業界以外にお勤めの方なら、ここまでの章をお読みいただければフィンテックに関する最低限の知識は身につくはずです。
ですが、金融に関連するビジネスに従事している方たちにとっては、「フィンテックが自分たちのビジネスにどのような影響があるのか」という点が重要でしょう。そのような業界の上司の方から「で、うちのビジネスにどんな影響があるんだ?」という質問が飛んでくるのは想像に難くありません。その質問に答えるのが第2章 「金融ビジネス・実務への影響」です。ここでは新たな「フィンテック」が既存のビジネスモデルに与える脅威を解説しています。

脅威をだまって見過ごすわけにはいきませんね。フィンテックによってもたらされる新たな脅威に対抗するためには何をすべきでしょうか。上司から「で、うちの会社はどうすべきなんだ?」という質問が飛んできた場合を想像してください。第V章「フィンテックにどう向き合うか」は金融機関と、金融機関にITシステムを提供しているベンダー、そして規制や法制度を司る政府や行政機関などが現在どのような対応をとっているのか、また将来的にどのような対応を検討すべきかを整理しています。
フィンテックがもたらす新たな金融サービスは、既存の金融のルールでは対処が難しいものが数多く含まれています。しかも、新たな金融サービスがもたらすものは必ずしもいいことばかりではありません。これまでの安全かつ安定した金融インフラが、社会やビジネスの発展のための強固な土台として機能してきたのは明らかです。フィンテックによる革新がこれまでの安全や安定を台無しにしてしまう事態は避けなければいけません。フィンテックのもたらすリスクを認識し、その上でリスクとリターンのバランスをとるにはどうすべきかを、具体的な取り組みや世界中で活発に行われている議論などを踏まえて整理しています。

ここまでくれば、おそらく上司の方からの質問もそろそろ尽きてきたかと思いますが、最後にこんな質問がくるかもしれません。「もっとすごいフィンテックが出てくる可能性はないの?」。フィンテックに影響を与える技術として、人工知能(AI)やブロックチェーンといった、今後急速に技術進歩が進むと予想されているものはまだまだあります。そしてさらなる技術革新はそれまで金融とはあまり関係のなかったビジネスにも金融機能を組み込むことを可能にするでしょう。

第5章「さらに進化するフィンテック」では、現在活発に研究開発が行われている技術が将来的に金融にどのような影響を与えるのかを予想します。そしてそれらの新しい技術によって革新された新たな「金融」が、金融以外の領域のビジネスモデルや、われわれの生活を作り変える可能性についてもあわせて考えたいと思います。
できれば上司の方も部下に質問する前に本書を手にとっていただければ嬉しいです。
なお、本書の内容はあくまで筆者である私の個人的な見解であり、筆者の所属する組織の公式な見解ではないことをお断りしておきます。

2016年8月
柏木亮二

柏木 亮二 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2016/8/6)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 フィンテックが注目される理由
1 注目を集めるフィンテック
2 アメリカ発「FinTech プーム」
3 「フィンテック」という考え方はこれまでもあった
4 次々と現れる「ユニコーン」ベンチャーたち
5 日本にフィンテックは適合するか

第Ⅱ章 進化するフィンテック
1 金融業界のIT活用の歴史
2 FinTech 1.0: ITによる金融の効率化
3 FinTech 2.0:金融ビジネスの「ディスラプター(破壊者)」たちの台頭
4 FinTech 3.0:機能も情報も部品になる
5 FinTech 4.0:金融ビジネスが新たなかたちでつながる

第Ⅲ章 いま何が起こっているのかを押さえておこう
1 「金融のデジタル化」とは?
2 「入り口」のデジタル化―KYC
3 もっと取引を安全にトークナイゼーション、パスワード不要に
4 消える現金電子マネー、モバイルペイメント
5 集約される口座情報−アグリゲーション、PFM

第Ⅳ章 金融ビジネス・実務への影響
1 金融の本質的な機能を実現するフィンテックサービス
2 P2Pという「破壊的イノベーション」
3 価格破壊をもたらすロボアドバイザー
4 クラウドコンピューティングによる価格破壊
5 店舗が消える―スマートフォンバンキング、トレーディング
6 ライフログの活用―新たな与信モデル
7 企業の資金繰りに変化―トランザクションレンディング、ファクタリング、
クラウド会計
8 システム・装置という参入障壁が消える―決済、ATM
9 保険のフィンテック:インステック(InsTech)
10 イノベーションのジレンマに直面する既存金融機関

第V章 フィンテックにどう向き合うか
1 既存金融機関が準備しておくべきこと
2 ITベンダーの役割
3 金融をめぐる法規制とフィンテック
4 新たな法規制にかかわる5つの論点

第Ⅵ章 さらに進化するフィンテック
1 APIエコノミーの登場
2 人工知能(AI)が変える金融
3 プロックチェーンというイノベーション
4 フィンテックがもたらす「金融包摂」
5 そして新たなビジネスモデル、新たなエコノミーヘ

おわりに

l 注目を集めるフィンテック

「ファイナンス・テクノロジー」の組み合わせフィンテック(FinTech)とは、金融を意味する「ファイナンス (Finance)」と技術を意味する「テクノロジー (Technology)」を組み合わせた造語です。日本では2015年の春ごろから注目を集め始めました。最近では毎日のようにフィンテックに関するニュースが報道され、雑誌などでも特集が数多く組まれています。またフィンテックと名の付く本も立て続けに出版されています(この本もそのうちの一冊です)。
「フィンテック」の正式な定義は存在しませんが、ここでは金庁のもとに設置されている、金庫行政のさまざまな課題を検討する金席審議会の「決済業務等の高度 化に関するワーキング・グループ」が2015年2月に公表した報告書でのフィンテックの説明を引用してみましょう。同報告書ではフィンテックを「主に、ITを活用した革新的な金融サービス事業を指す。特に、近年は、海外を中心に、ITベンチャー企業が、IT技術を生かして、伝統的な銀行等が提供していない金融サービスを提供する動きが活発化している」と説明しています。
次々と生まれる新サービス フィンテックがこれほど注目を集める理由は大きく2つあると考えられます。1つは「新しくて便利なサービスが次々と誕生しているから」というもの。もう1つの理由は「フィンテックは既存の金融機関の存続を脅かす可能性を秘めているから」というものです。

1つ目の「新しくて便利なサービス」の代表的な例として、アメリカのいくつかの企業を挙げてみましょう。簡単な決済手段を提供し、さらに個人の間でお金を送るサービスを実現したペイパル(PayPal)、銀行口座や証券口座、クレジットカードの利用情報などを一元化し、個人の資金管理や資産運用をサポートするパーソナル・フィナンシャル・マネージメント(PFM)サービスのミント(Mint.com)、スマートフォンに「ドングル」と呼ばれる機器を取り付けることで、それまでクレジットカードが利用できなかったお店などでクレジットカード決済を可能にしたスクェア(Square)、個人の間でお金の貸し借りを仲介するブラットフォームを提供しているレンディングクラブ (LendingClub)、そして店舗を持たずにスマートフォン上で銀行と同じサービスを提供するシンプル(Simple)といった新しい企業が続々と登場しました。このうちペイパル、スクェア、レンディングクラブは株式市場への上場も果たし、フィンテックという言葉を世の中に広げる大きな役割を果たしました。
これらの新しい金融サービスの多くは、スマートフォンを活用し、シンプルでわかりやすい画面デザインを備え、初めての人でも理解しやすい独作方法を実現しています。この画面デザインや換作方法などをユーザーインタフェース(UI)、そしてその製品やサービスを使ったときに得られる経験や満足感をユーザーエクスペリエ ンス(UX)と呼びます。フィンテック企業は優れたUIとUXで利用者の心を捉えました。

一度UI/UXが優れたサービスを使ってしまうと、それ以前のいまひとつイケていないサービスを使う気にはなれないものです。それまで使っている間は使いにくいとは思っていなかったにもかかわらず、です。
いままでの金融機関が提供していたサービスは、機能としては十分なものではありましたが、画面が見づらかったり、入力がしにくかったり、操作手順がわかりにくかったり、頻繁にパスワードを入力しなければいけなかったり、また画面いっぱいに「免責事項(ディスクレーマーと呼ばれます)」やセキュリティの注意事項が表示されていて必要な情報がどこにあるかわかりにくかったりと、利用者にとっては必ずしも使いやすいものではありませんでした。
ただ、どの金融機関のサービスも似たりよったりでしたので、それまでは演然とした不満を感じていたとしても、利用者はそのサービスを使い続けていました。しかし、いったん優れたサービスが登場したら使いにくいサービスを利用し続ける理由はありません。そしてこれが2つ目の理由につながります。

便利な機能が既存の金継機関を脅かす

新しいフィンテックサービスは、登場した段階ではあまり機能が充実していないことが多々あります。先に挙げたアメリカの大手フィンテック企業のサービスも、登場した時点では限られた機能しか提供できていませんでした。例えばPFMサービスのミントでは、サービス開始当初は情報が登録できる金融機関の数は非常に限られたものでした。現在では数万社にのぼるありとあらゆる金融サービスの情報が登録・利用できますが、当初は主要な銀行や証券会社、有名なクレジットカード会社くらいしか登録できませんでした。
実際、多くのベンチャー企業が提供するサービスは、開始当初は非常に限られた機能しか持っていないことが大半です。すでにさまざまな機能を持ったサービスを提供している大企業の人から見ると「こんな貧弱な機能しか持たないサービスを使うのは新しもの好きの一部の人くらいだろう」としか思えない代物です。しかしベンチャー企業はその後、驚異的なスピードで機能を充実させていきます。そしてある時点で、既存の大企業が提供しているサービスと同等か、それ以上の機能を実現することがあります。そうなると既存の企業のビジネスを脅かす存在となります。

ベンチャー企業は、利用者のニーズに応える優れたサービスを提供しようと必死です。仮に機能が限られていたとしても、利用者が抱えている「不満」を的確に捉え、その「不満」をきれいに取り去ってくれるサービスが提供されれば、そのサービスは利用者に受け入れられるのです。「あれば便利な機能」は後から追加すればいいのです。一方、既存の金融機関のサービスはそう簡単には変更できません。長い年月をかけてさまざまな機能を追加してきた巨大で複雑なサービスを作り変えるには、大変な労力と時間、コストがかかります。例えば銀行のATMの画面を変更するには、その画面を表示するプログラムを変更するだけではなく、その変更が他のシステムに勝 響を与えないかどうかを確認する膨大な数のテストが必要になります(数千パターンのテストが必要な場合もあります)。比較的新しいサービスであるウェブサイト上の機能変更にも似たような手間がかかることがあります。
驚異的なスピードで進化を続ける新たなフィンテックサービスが、変われない既存の金融機関のサービスを駆逐してしまうのではないか。こういった期待と不安がフィンテックに注目が集まるもう1つの理由でしょう。
そして両方の理由に共通するもう1つのフィンテックの特徴があります。それは、フィンテックサービスは既存の金魚機関によるサービスと比べて、非常に低価格でサービスを提供しているという点です。中には無料で提供されているサービスも存在します。利用者にとっては安く利用できるのであればそれに越したことはありません。一方、金融機関にとっては、安いサービス、さらに無料のサービスは自分たちの収益源の危機を意味します。利用者にとって使いやすい、新しいサービスの登場 と、既存の金融機関の存続を脅かす可能性を持つビジネスモデルの登場という2つの理由から、フィンテックは大きな注目を集めているといえるでしょう。

すべての人が金融サービスを利用できる世界へ

最後にもう1つ、あまり日本では注目されていないのですが、「金融包摂(フィナンシャル・インクルージョン)」もフィンテックが注目される理由として挙げられます。これは「社会包摂(ソーシャル・インクルージョン)」という言葉から派生して出てきたキーワードです。もととなった「社会包摂」とは、社会から孤立している人たちをもう一度社会の構成員としてきちんと取り込もう、そのための制度や環境づくりを行おうという活動です。日本でも2015年に一億総活躍国民会議の席上 で民間議員の菊池桃子氏が「ソーシャル・インクルージョン」という呼び方を提唱して注目されました。

金融包摂とは、世界銀行の定義によれば「すべての人々が機会を活用し脆弱性を軽減するのに必要な金融サービスにアクセスでき利用できる状況」のことを指します。実は世界規模で見ると銀行口座を持ったり銀行からお金を借りたりできる人たちは非常に限られています。ある研究によれば、世界で生産年齢に当たる成人の約半分が正式な金融サービスから排除されていると推計しています。これらの人たちに正式な金融サービスへのアクセスを提供しようというのが金煎包摂です。
これまでの金融サービスは、そのサービスを津々浦々に届けるためには、多数の店舗や全国に限り巡らせた決済のネットワークなど、非常に多額の投資が必要でした。発展途上国にとってこれらの投資を短期間で行うことは不可能に近い状況でした。しかし神帯電話などのITを活用することによって、非常に低コストかつ素早く幅広く金融サービスを提供できるのではないかと期待が高まっています。先進国とは異なる意味で、発展途上国でもフィンテックは注目されているのです。
この章では、フィンテックがどのように誕生したのかという点について、主にフィンテック発祥の地であるアメリカを中心として説明します。

2 アメリカ発「FinTech ブーム」

フィンテックが最初に登場し、そしてブームになったのはアメリカからでした。先ほど挙げたペイパル、ミント、スクェア、レンディングクラブ、シンプルといったフィンテック企業の成功に触発され、数多くのフィンテックベンチャーが起業しています。公的な統計は存在しませんが、トムソン・ロイターによれば2015年末時 点でアメリカだけでも1300社以上のフィンテック企業が存在すると推計されています。
アメリカでフィンテックが勃興した理由として次の4点が挙げられます。
①リーマン・ショックの影響
②ミレニアル世代の台頭
③スマートフォンとソーシャルネットワークの普及
④企業のITシステムの変化
それぞれの理由についてくわしく見ていきましょう。

リーマン・ショックの影響

最初の「リーマン・ショックの影響」には、次の2つの側面があります。1つはリーマン・ショックによる株式市場の暴落とその後の金融機関の対応を見たアメリカ国民が既存の金融機関に対して不信感を持ったという側面です。
2000年代には、アメリカの金融機関も短期的な値上がりを狙う投機的な金融商品販売よりも、将来希望する生活水神を満たすためにはどのような資産形成をした らよいかをアドバイスするようなスタイルが一般的になっていました。このような資産管理スタイルは、「ライフプランニング(人生設計)」をもとにした、「ゴールベース資産管理」と呼ばれています。「ゴールベース」とは「老後の生活水準(ゴール)」を「出発点(ベース)」として、そのゴールを満たすために無理のない資産運用・積立を行う資産運用スタイルを表した言葉です。リスクの異なるさまざまな金融商品を組み合わせた「分散ポートフォリオ」を基本として、目標に到違するための調整を定期的に行うというのがゴールベース資産管理の一般的なスタイルです。

それまでの金融機関は株や投資信託を売買する際の手数料を主な収益源としていましたが、近年は顧客がその金融機関の口座に保有している金融資産(「預り資産」という言い方をします)の時価総額の数%を報酬として受け取るスタイルに切り替えています。このスタイルですと、顧客の資産が目減りすれば受け取る報酬額も減ってしまいます。金融機関としては顧客の知り資産が順調に増えるようなアドバイスを行うことが自らの収益にもつながるというわけです。こうして金融機関は投資家の「よき伴走者」であるというイメージが広がりつつありました。
ところがリーマン・ショックはこのイメージを打ち砕いてしまいました。リーマン・ショックによって引き起こされた株価の暴落によって投資家は多大な損失を受けたにもかかわらず、金融機関の営業担当者は相変わらず高い給料をもらっていたことに多くの投資家が反発しました。「投資家の味方のような顔をしていたが、やっぱり自分たちのことしか考えていなかったんじゃないか」という大手の金融機関に対する不信感が広がったのです。そのようななか、既存の金融機関とは違い、中立的なイメージを持つ新しいフィンテック企業への期待が高まりました。フィンテック企業個も積極的にいままでの金融機関との違いを訴える戦略をとりました。

そしてリーマン・ショックがフィンテックの勃興に与えたもう1つの影督は「金融機関をリストラされた人たち」を大量に生み出したことです。リーマン・ショックによって世界中の金融機関は大きなダメージを受けました。事業の縮小や売却を余儀なくされた金融機関も数多く存在しました。それらの部署に勤務していた人たちの多くが退職を余儀なくされたのです。そういった彼ら・彼女らの中には金融機関のシステムを支えていた技術者も多く含まれていました。こういった人たちの中から「既存の金融機関ではできなかったビジネス」を始める人たちが出てきました。金融機関でキャリアを積んだ多くの人たちがフィンテックベンチャーの世界に移っていき、さまざまなサービスを生み出しています。

ミレニアル世代の台頭

ミレニアル世代とは、アメリカ国内で1980年~1990年代に生まれた現在5歳~5歳くらいの世代を指す言葉です。彼らの特徴的な消費行動がフィンテックの追い風になっているといわれています。
ミレニアル世代はアメリカの全人口のおよそ3分の1を占めています。このミレニアル世代には前の世代と異なる特徴や消費傾向があります。その中でもよく挙げられる特徴として、「生まれた時からネットが存在したデジタル・ネイティブである」「就職種などを経験しているため堅実でコストに敏感である」「多様性を尊重し、 健康や環境保護に関心が高く既存の権威に距離をおく」といった者が挙げられます。フェイスブックの創業者であるマーク・ザッカーバーグ氏は1984年生まれで、ミレニアル世代の象徴ともいわれています。
彼らの特徴をそれぞれもう少しくわしく見てみましょう。
「デジタル・ネイティブ」という点では彼らのほとんどはスマートフォンを持っています。8割が寝る時もスマートフォンをベッドの横に置いているという調査結果もあります。またコミュニケーションにネットを抵抗なく使う世代でもあります。

この世代は2001年のネットバブル壊、2008年のサブプライム危機やリーマン・ショックといった金融危機を子供の頃や就職期に経験しています。そして最気後退のあおりを受けて就職が難しく、非正規雇用やパートタイムでしか載を得られない層も多いといわれています。このような経済事情から、ミレニアル世代は借金 を前提とした無謀な消費などとは無縁で、堅実かつコストに敏悪な傾向があります。一方でこのミレニアル世代の人組構成は他の世代と比較すると非常に多様性に富んでいます。15歳か34歳の世代の人種構成を1980年と2012年で比較すると、1980年では白人が78%、黒人が13%、ヒスパニック系が7%、アジア系が2%だったのに対し、2012年では白人は58%、黒人が14%、ヒスパニック系が大きく増えて21%、アジア系が6%となっています。また政治的な傾向も「無党派層」が最も大きな比率を占めている世代でもあります。健康や現境問題への関心も高く、既存の政治や大企業などに批判的な傾向が強いのも特徴です。

このミレニアル世代は金融に対してどのようなイメージを持っているのでしょうか。それを明らかにしたのがアメリカの調査会社スクラッチが2014年に発表した「ミレニアル・ディスラプション・インデックス(「ミレニアル世代破壊指標」くらいの意味でしょうか)」というアンケートです。この調査はアメリカのミレニアル世代1万人に対して行った調査です。この調査結果に衝撃的なフレーズが並びました。
・「銀行の話を聞くよりも歯医者に行くほうがマシ」71%

柏木 亮二 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2016/8/6)、出典:出版社HP

FinTechと金融の未来 10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?

FinTech解説書の決定版

未来金融とFinTechにおいて変わるものと変わらないものがあり、変わらないものをとらえた本が圧倒的に少ないという著者の問題意識から生まれた一冊です。本書では、具体的に変わらないものとは「人」であると述べられ、人の発想と考え方からなるFinTechを取り入れる上での「道しるべ」をコンセプトとしています。

大和総研 (著)
出版社 : 日経BP (2018/3/30)、出典:出版社HP

未来金融の「道しるべ」

「未来金融とFinTech」に対応する上で“変わるもの”、“変わらないもの”を見誤るととんでもないことになるのではないだろうか。変わるもの(代わるもの)をテーマとした FinTechの本は数あるが、変わらないものを的確にとらえた本は見当たらない。ベースは「人」にあり。これは、変化しないものであろう。
テクノロジーの変革”あるいは“ヒト(テクノロジーが人を主導する状態)の変革”による未来金融の本はあっても“人(人がテクノロジーを主導する状態)が重視される未来金融の道しるべ”となるような本が少ない。本書の問題意識はここから生まれている。

未来金融を、FinTechと称されるテクノロジーの変革だけに任せるのではなく、金融業の専門家の“人の発想”と金融規制・監督当局の“正しい考え方”を踏まえた総合的な「道しるべ」が必要ではないか。そんな大和総研の“思い”が本書のベースにあることをご理解いただきたい。
今後10年経っても変わらない「道しるべ」の軸は“顧客に対する付加価値(=ニーズ)”であろう。顧客のニーズは、本書のサブタイトルにもある「10年後に付加価値の残る金融サービス」の根幹をなすものである。
一方、金融商品・サービスの供給側である金融機関は顧客本位についてどのように捉えるべきか。金融業の付加価値をどのように磨くのか。これまで の金融・資本市場の「道しるべ」であるファイナンス理論は、ある意味“活用のし過ぎ”でリーマンショックを引き起こした。この結果、顧客本位の姿勢、顧客本位の“発想力”が剥げ落ちたとも言えよう。

さらに基礎的なビジネスモデルの稼ぐ力が落ちて、発想力が低下する状況になっていないであろうか。そのような状況において、付加価値の創出をテクノロジーに依存すれば、人が本来提供してきた顧客への付加価値が洗い流されてしまう。テクノロジーあるいはヒトの変革だけを示した本は人の金融業の「道しるべ」にはなり得なくなる。この意味において、人が付加価値創出の主体である“アナログ時代”へのバック・トゥー・ベーシックが必要ではとの声も聞こえてくる。あまりテクノロジーに依存しすぎると、人の能力が低下するからである。顧客との信頼の構築は、人の能力の高低が左右する。求められるのは、“人”を変革(レボリューション)させて“ヒト”にさせるようなテクノロジーではなく、人の能力を進化(エボリューション)させるテクノロジーであろう。データサイエンティストも同様である。テクノロジーによる人の進化を促す役割が求められていよう。10年後においても本質的な付加価値とは人から創出されているべきであろう。特に、顧客との関係において重要な一つの「道しるべ」として情報の多寡と情報生産機能がある。金融業において情報が多ければいいということではない。重要な要素は情報の質であり、付加価値のある情報である。それは人と人との信頼関係があって生まれることを再度認識する必要があろう。

顧客に対する付加価値がどこにあるか、常に人が考え続けることで、テクノロジーと掛け合わせて、将来の金融業の付加価値が高まろう。人が進化しなければ、ヒトを中心とした金融業となりかねず、金融業の一部がFinTech企業もしくはプラットフォーマーにリプレースされる可能性が高まることも懸念されよう。
本書では、金融イノベーションを“人の新たな発想”דキーテクノロジーד正しい規範・規則”と定義した。掛け算であるため、いずれかの項目かマイナスになれば、顧客に対してマイナスのイノベーションを生み出すこととなる。そのようにならないために、本書がFinTechによって革新的ビジネスに携わる人への“正しい”「道しるべ」になることを期待したい。

株式会社 大和総研ホールディングス 代表取締役社 草木頼幸

まえがき

FinTechによって10年後の金融ビジネスはどのようになるのか。誰もが抱く疑問であろう。本書は、最先端のFinTech企業の将来性の分析・検討を行い、10年後の未来金融を占うことを通じて、この不透明さを可能な限り払拭す ることを目的としている。

筆者らは執筆に際し、今後10年間にFinTechが新たな付加価値を生むために不可欠の根源的な要素、および付加価値が生まれるシーンについて検討を重ねた。その結論は、新たな付加価値が生まれるのは“AI×ビッグデータ×IoT”などというテクノロジーだけが融合したときではなく、これに人の発想と正しい規制が加わったときである、ということである。すなわち革新的な金融ビジネスモデル(=金融イノベーション)は、“人の新たな発想×キーテクノロジー×正しい規範・規制”により、はじめて実現するのである。先端的なFinTechの事例を見れば、技術と人のコラボレーションがいかに重要であるかということが理解できるはずである。
本書の構成もこの方程式に沿っている。第1章では、この方程式に当てはまる23の先端事例を紹介し、10年後の未来金融の“姿”を予想している。

第2章では、リーマンショックの影響が長引き、従来のビジネスモデルの持続が懸念されている既存の金融機関の状況を踏まえ、FinTech企業が台頭する可能性を考察する。
第3章では、既存の金融業のアンバンドルを引き起こす可能性のあるAI、ブロックチェーンといった“キーテクノロジー”について、その限界と潜在的な可能性、およびテクノロジーが付加価値を生み出すための人の役割について述べる。

第4章では、FinTech企業が新たな付加価値を提供し、発展するために必要な”正しい規範・規制”について、FinTech企業に対する規制環境の現状を踏まえて論じ、将来的な機能別の業法に移行する可能性について言及する。最後に、第5章では過去の規制および事業環境の変化による要因とは異なる、新たな“アンバンドル”の要因を金融業態別(銀行、保険、証券)に特念」今後10年間で発生すると見込まれる業態別のアンバンドルの形態とその可能性を検討する。その上で、最終的に価値の残る金融ビジネスとは何かについて、示唆を与える。

本書では、先端事例を通じて10年後の未来金融を見据えた。そしてそのベースには、キーテクノロジーだけではなく“発想”と“規制”をも含めた幅広いビジネスパーソンの英知こそ、金融業の発展に不可欠であるという筆者の信念がある。FinTechにより金融イノベーションを起こすに至るまでのプロセスと、それに関わる人の役割の含意を、ビジネスの参考にしていただければ幸いである。

大和総研 (著)
出版社 : 日経BP (2018/3/30)、出典:出版社HP

目次

序章 FinTechがもたらす金融イノベーション
1. 金融業界の破壊者としての FinTech企業に対する三つの疑問
2. 四つの確実な変化
3. 本質的な付加価値を生み出す金融イノベーションとは何か
4. 四つの金融イノベーションと“隙間”
5. プロセスイノベーション
6. プロダクト・イノベーション
7. インフラ・イノベーション
8. ソーシャル・イノベーション
Columno-1 データ特性(たかがビッグデータされどビッグデータ)

第1章 FinTech企業先端事例の10年後の可能性を探る

第1節 10年後を占う事例におけるFinTech適用の全体像
1. 金融業態別のFinTechの具体的な事例
2. 銀行業——従来の機能に縛られる銀行業
(1) P2Pレンディング (金融仲介機能)
(2) 外部データを活用したレーティング(情報生産機能)
(3) 電子マネー・モバイル決済(決済機能)
3. 保険業
(1) データ収集や分析の変化による保障(テレマティクス保険)
(2) 小規模型保険(P2P 保険)
4. アセットマネジメント業
(1) AI投資信託
(2) 投資顧問業におけるロボアドバイザーとコピートレード
5. 証券業
(1) 市場分析・執行)
(2) 公開引受
(3) 個人投資家向けサービス
6. 業態をまたぐFinTech企業
(1) アグリゲーション(共通フロント)
(2) シェアリングエコノミー(共通フロント)
(3) 音声UIをはじめとする進化型UIによる金融(共通フロント)
(4) SNS、販売サービスなどと融合した金融サービス
(5) 認証プラットフォーム
(6) ミドルバックオフィスサービス(RPA による効率化)
(7) インフラ

第2節 まとめ
1. 先進事例の評価
(1) 金融業態別でのまとめ(隙間がどこにあるのか)
(2) 地域別でのまとめ(隙間がどこにあるのか)
(3) IT 活用の発想別でのまとめ(どのような技術が活用されているのか)
(4) 四つのイノベーション別でのまとめ(どのようなイノベーションがるのか)
(5) 日本のFinTechの状況
2. FinTech領域の将来像

第2章 FinTechが金融ビジネスの稼ぐ力(“発想力”)を強化できるのか

第1節 稼ぐ力=“ビジネスの発想力”が大幅に低下した背景
1. リーマンショックで生まれた“ビジネスモデル上の隙間”の確認
2. “隙間”の原因となるリーマンショックが生まれた背景
3. リーマンショックのインパクトの捉え方(規模の大きさと対応期間の長期化)
4. 危機後の対応が長期化する中での潜在的な問題の顕在化
(1) 従来型金融機関の“稼ぐカ”への懸念の高まり
(2) グローバル金融規制改革の長期化の意味合い
(3) 先進国で試される現在および次世代のマス顧客層への対応力
(4) テクノロジーの発展がもたらす新たな金融商品の発想とその有効性
(5) シェアリングエコノミーの事業者が持つ発想力の脅威と顧客の変化

第2節 主要国の銀行業のビジネスモデルの劣化と二つのアンバンドル
1. 懸念されていたビジネスモデルの持続可能性
2. 欧州の銀行において縮小する資産および収益
3. 金融機関のこれまでの二つのアンバンドルとは
(1) 事業環境の変化と稼ぐ力の劣化によるアンバンドル
(2) 規制環境の変化によるアンバンドル

第3節 日本の金融業の持続可能性の懸念
1. 銀行業の状況
2. 保険業の状況
3. 証券業の状況

第4節 まとめ−規制と事業環境の変化によるアンバンドルの発生と長期的な展望
Column2-1 リーマンショックへ至る道①
Column2-2 リーマンショックへ至る道②
Column2-3 リーマンショックへ至る道③

第3章 サイエンスとテクノロジーによる金融サービスの再構築

第1節 テクノロジー発の金融アンバンドリングの現状
1. FinTech を象徴するキーワード“アンバンドリング”
2. アンバンドリングの種類とキーテクノロジー

第2節 人工知能技術による金融サービスのアンバンドリング
1. 金融サービスの特徴とアンバンドリングの可能性
(1) 金融機関のサイエンス活用分野から見る”隙間”の所在
(2) 金融サービスの無形性と不均質性
(3) 人工知能技術の活用による金融アンバンドリングの可能性
2. 人工知能技術のビジネス適用
(1) 人工知能の誤認識
(2) 問題設定は人が行う
3. 金融業における人工知能技術とビッグデータの活用
(1) 機械学習アルゴリズムと注目の応用手法
(2) 金融業におけるビッグデータ(資本市場情報とリテール顧客情報)
(3) 資本市場における機械学習の活用
(4) 顧客情報における機械学習の活用
4. デジタルトランスフォーメーションとアナログデータ
5. 人工知能技術/ビッグデータによる金融サービスの再構築

第3節 ブロックチェーン/分散型台帳技術による金融インフラのアンバンドリング
1. ブロックチェーン/分散型台帳技術の仕組みと分類
2. パブリック型ブロックチェーン
(1) 仮想通貨を支える技術としてのブロックチェーン
(2) 仮想通貨の抱える課題と今後の展望
3. コンソーシアム型・プライベート型ブロックチェーン
(1) 金融インフラへのブロックチェーン/分散型台帳技術の適用
(2) 金融機関における適用事例
4. ブロックチェーン/分散型台帳技術による金融インフラの再構築

第4節 まとめ
Column3-1 サービスサイエンス
Column3-2 人工知能研究の歴史と過剰期待
Column3-3 データサイエンティストの役割
Column3-4 深層学習
Column3-5 自然言語処理
Column3-6 [事例]大和地域AIインデックス
Column3-7 より詳細なブロックチェーンの仕組み
Column3-8 ビットコインの歴史
Column3-9 スマートコントラクト

第4章 本当に規制が制約なのか

第1節 FinTechと規制のあり方
1. 金融規制の「コア」は普遍的である
2. 規制目的を達する手段は、実効性を高めるために見直すべき
3. 新分野の開拓と規制むしろ「無法地帯」がFinTechの阻害要因となり得る

第2節 これまでの主な取り組み
1. 2016年銀行法等改正
2. 2017年銀行法等改正

第3節 今後の課題
1. 仮想通貨を巡る諸問題
2. ロボアドバイザーを巡る規制上の論点
3. イノベーションが問いかける各種の業規制の整合性
4. アンバンドリングの行き着く先一業者が存在しない世界(P2P)
5. レギュラトリー・サンドボックス
6. 監督とイノベーション-RegTechの試み

第4節 まとめ

第5章 FinTechから見通す我が国の金融ビジネスの未来

第1節 FinTech から将来を見据えて業界の当たり前を疑う
1. アンバンドリングは“業界の当たり前”の変化から始まる
2. これまでとは異なる今回のアンバンドリング
① 金融機能のアンバンドル
3. これまでとは異なる今回のアンバンドリング
② 金融商品・サービスの部品化
(1) 商品・サービスの部品化の意義
(2) 想定されるアンバンドリング
(3) 想定されるアンバンドリング
4. これまでとは異なる今回のアンバンドリング
③ 顧客接点のアンバンドル
5. これまでとは異なる今回のアンバンドリング④取引単位の変化
6. これまでとは異なる今回のアンバンドリング⑤業務単位の変化
7. これまでとは異なる今回のアンバンドリング
⑥ システムのブレークスルー
(1) 銀行
(2) 証券
(3) 保険
8. これまでとは異なる今回のアンバンドリング
⑦ 求められるヒトの変化
(1) 変わる金融専門職
(2) 金融業のエンジニアリング化とテクノロジー人材
9. これまでとは異なる今回のアンバンドリング
⑧ 求められる組織の変化
(1) スピードが重要なデジタル戦略
(2) オープン・イノベーションと組織
10. これまでとは異なる今回のアンバンドリング
⑨ 社会の受容性
11. まとめ

第2節 今後10年の“守る”“攻める”のFinTech活用の条件
1. 10年後の金融業態別バリューチェーンの三つの評価軸
2. 基礎的ビジネスモデルの劣化と業界の再編の進展
(1) 地域銀行の基礎的ビジネスモデルの劣化と再編の状況
(2) 生命保険
(20年後、既存の基礎的ビジネスモデルであれば規模の利益の追求が必要)
(3) 証券(手数料の自由化による規制撤廃、アンバンドルは経験済み)
(4) アセットマネジメント(あらゆる金融ビジネスモデルの鍵となる業態)
3. 人口動態から予想されるターゲット顧客層の変化
(1) 現在のコア顧客層の減少
(2) 所得格差の固定化の懸念(ターゲット層の購入行動の激変)
(3) ミレニアル層の台頭

第3節 FinTech から見通す我が国の金融ビジネスの未来
1. 全体像
2. 銀行(守りのFinTech)
(1) ミドル・バック業務
(2) フロント業務
(3) 外部との連携オープンAPIの推進
3. 保険(守りのFinTech)
(1) テレマティクス/テレメトリー→(a)(b)
(2) ビッグデータ/データ分析→ (c)
(3) その他
4. 証券(攻めのFinTech).
(1) 個人向けプラットフォーム上へのFinTechの取り込み
(2) 内部処理の効率化、高度化
(3) 市場を介さない資金調達への対応
(4) ブロックチェーンやオープンAPIといったインフラ革新への対応
5. アセットマネジメント(攻めのFinTech)
6. まとめ―― FinTechと未来金融のロードマップ

大和総研 (著)
出版社 : 日経BP (2018/3/30)、出典:出版社HP

序章 FinTechがもたらす金融イノベーション

1. 金融業界の破壊者としての FinTech企業に対する三つの疑問

FinTechという言葉は巷に氾濫している。専門の本も多数発行される。それらの中ではFinTech企業の創造的“ディスラプター(破壊者)としての有望性・先端性の高さが語られているが、何か腑に落ちない。イノベーション(革新性)の定義も曖昧である。そこには三つの疑問がある。
その一つは高度なテクノロジーを活用することだけで“革新的な金融サービス事業”に本当につながるかという疑問である。そこには、金融機関のビジネスモデルに高い専門的知識を有する“新たな発想”が必要ではないだろうか。

二つ目はFinTech企業のビジネスモデルが持続可能かという疑問である。新たなビジネスモデルが成り立つためには、マスの消費者のニーズあるいは社会の受容性の高まりが必要ではないだろうか。これまでは考えられなかったような新たな金融サービスに対するニーズが顕在化しているとされているが、果たしてマスの消費者からのニーズは高まっているのか。既存の金融機関の機能を代替することができて初めて持続可能な革新的な金融サービスと言えるのではないか。そのためには、FinTech企業に対して競争上優位に立てるようなある程度のビジネスの規模が、その持続性を保つためには不可欠なのではないだろうか。

三つ目は、FinTech企業のビジネスモデルの他国への応用可能性に関する疑問である。たとえば、新興国のFinTech企業のモデルは、金融システムの成熟度、規制等が異なる先進国で適用可能なのだろうか。金融システムが対的に未成熟な新興国において様々な革新的ビジネスモデルが生まれている。
しかし厳格な金融業態別の業法を持つ先進国では適用が難しいビジネスモデルが多くはないだろうか。先進国で業態の壁を崩すFinTech企業は生まれるだろうか。

*1 Financial(金融)とTechnology(技術)を組み合わせた造語。ITを活用した革新的な金融サービス事業
*2 FinTechを活用して革新的な金融サービスを提供するビジネスモデル(稼ぐ力とプラットフォーム)を有する企業を指す。ベンチャー企業が中心だが、既存金融機関やITベンダーも含まれる。
*3 従来の金融機関のサプライチェーン(あるいはパリューチェーン)で成り立つビジネスモデルを大きく変更する、もしくはまったく違うものにするにする主体。従来の金融機関のビジネスの基盤、さらには金融業態のインフラが対象となる場合もある。

2. 四つの確実な変化

疑問がある一方で確実な変化もある。その一つが、金融業とは別の業態に属する大手企業による“新たな発想”により、マスの消費者からのニーズへの革新的な対応手法が創出されていることである。金融業以外の大手企業がプラットフォーマーとなり、従来の金融機関の全部あるいは一部の機能を提供しながら、かつ格段に高い生産性と効率性を併せ持つビジネスモデルを生み出しているとすれば脅威であろう。プラットフォーマーの“発想”の源泉には、テクノロジーの発展とその急速な普及によるネットワーク化、ビッグデータがあることも認識しておく必要があろう。

プラットフォーマーにとって、金融サービスは、新興国・先進国を問わず、多様化している収益の源泉のあくまでも一部分、あるいは他のサービスの付加機能の一部という位置付けである。その背景にはプラットフォーマーが、サービス産業の付加価値の源泉を変化させてきた事実がある。たとえば「ウーバー化」という言葉に代表されるように、消費者が期待するサービスの価値を「安心・安全の高さ」から「オンデマンド」「シェアリングエコノミー」「利用ベース課金」を軸とした「利便性の高さ」にシフトさせたのである。金融業においても、このような社会変化の中で、提供している付加価値が従来の安心・安全の高さから利便性の高さへシフトし始めている。こうした付加価値の変化は、金融機関に、「IoT・ビッグデータ・人工知能(AI)といった技術革新」を活用した革新的な金融サービスの提供を促し、政府あるいは金融当局もその後押しを始めたと言えよう。

二つ目は、先進国の銀行など伝統的な金融機関の基礎的ビジネスが大幅に劣化し、持続可能性が懸念され始めたことである(第2章参照)。この懸念は、リーマンショック後の低金利政策、低経済成長の継続というマクロ経済環境の変化と、金融機関に対するグローバル金融規制の強化によって、生じてきたものである。さらに先進国では将来的に少子高齢化が進み人口が減少するなどの社会構造の変化が想定されることも、その懸念を高めている。図表0-1の示す通り、伝統的金融機関を取り巻くマクロ的変化、規制の変化により、金融機関が長年築き上げてきた稼ぐ力の源泉となるバリューチェーンあるいはブラットフォームでの綻びが顕在化し、FinTech企業からは“職場”として認識されるようになったと言えよう。さらに、新しい動きとして、この隙間を、革新的な技術(第3章参照)を用いて、FinTech企業が埋めるようになる可能性が高まり、金融機関の付加価値はさらに縮小・変質していくことも予想される。

三つ目は、規制強化の流れである(第4章参照)。グローバルな金融機関の健全性規制の強化、手数料の不明瞭さを改善し、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)を促す規制強化に対するコスト負担が増加していることである。一方で、業法の見直しや、サンドボックスの活用などFinTech企業による新たな金融サービスに対する規制緩和の流れもある。このように規制強化によるコスト負担が増す中、相対的に利便性が低く、科金等の透明性が乏しい既存の金融サービスに対する消費者の受容性が低くなっている。加えて、利便性を重視した金融サービスへの規制緩和が検討される中、既存の金融機関の高コスト体質の業務運営ではバリューチェーン全体あるいは一部に“期間”が顕在化し、FinTech企業から守る立場に追いやられる可能性が高くなろう。

図表 0-1 既存の金融業が埋められない(FinTech企業が認識可能な)“隙間”の概念図

四つ目はキーテクノロジーの進化によって、産業自体への革新(インダストリー4.0)や、社会に大きな変化(Society 5.0)がもたらされる可能性が高いことである(第3章)。日本政府は「第四次産業革命(インダストリー4.0)」による「IoTによるものづくり革命」は、全産業で生まれる可能性があるとしている。つまり「IoTによりすべてのものがインターネットでつながり、それを通じて収集・蓄積される、いわゆるビッグデータが人工知能により分析され、その結果とロボットや情報端末等を活用することで今まで想像だにできなかった商品やサービスが次々と世の中に登場する」との指摘の通り、まさしく「産業革命」につながる「ものづくり革命」である。この革命によって、既存の商品・サービスが革新され、新たなビジネスモデルが生み出され、社会の問題解決までもたらすとしている。政府がとなえるSociety5.0とは、「サイバー空間とフィジカル空間(現実世界)が高度に融合した「超スマート社会」を未来の姿として共有し、その実現に向けた一連の取組」としている。一方で、「IoT社会の到来によるデータ流通量の爆発的な増加と、データの付加価値の飛躍的な向上等に対応したサイバーセキュリティ確保が重要である」ともしており、ITの活用促進に伴う新たなリスクであるサイバーセキュリティに、適切に対応すべきであることにも触れている。

*4 高度で独自のテクノロジーや大量のリソースを活用し、サービスの根源的な価値がもたらされる機能を寡占的に提供して大きな収益をあげる「プラットフォーム」を担う企業体のこと。金融分野に限らず様々な分野で出現してきており、たとえば FANG(米Facebook、米Amazon、米Netflix、米Google)、GAFA(Google、Amazon、Facebook、米Apple)などと呼ばれる。
*5 ライドシェアサービス大手の米Uber。第1章の図表1-44参照。

3. 本質的な付加価値を生み出す金融イノベーションとは何か

これらの疑問”と“変化”を整理すると、既存の金融機関がこれまで提供してきた効率的な金融仲介機能の発揮など“本質的な付加価値”が今後も価値を持ち続けるかは不透明である。この意味で現在の立ち位置を冷静かつ客観的に確認しておく必要があろう。そして今後、本質的な付加価値を生み出す「金融イノベーション」とは何かを知らなくてはならない。 「まえがき」で述べたとおり、進化する“キーテクノロジー”、“人の新たな発想”と“正しい規範・規制”の掛け合わせを金融イノベーションと定義したが、どのような“現象”として顕在化するかは認識しておく必要があろう。あるいはイノベーションを生み出すための、人の役割とテクノロジーの役割の変化、あるいはその変化する中でのバランスを維持し、付加価値を生み出す人の発想(=”インテリジェンス”)をどう発揮するかも知らなければならない。テクノロジーを活用しながらもあくまでも主導権は人が持つ。これがなければ、FinTechを持続可能なビジネスモデルまで昇華させることはできない。

さらに「金融イノベーション」が与える既存の金融業能における課題は、主に以下の二つと考えられる。
一つは、IoT・ビッグデータ・人工知能といった技術革新を活用することで既存の金融サービスにおいて満足させることのできなかった潜在的なニーズを掘り起こし、そのニーズを埋めることである。これは、これまでない新たな金融サービス事業を意味し、既存の金融機関のバリューチェーンをリプレースする可能性を持つものである。
もう一つは、その過程において、金融機関さらには金融業態そのもののビジネスモデルの源泉であるバリューチェーンがアンバンドルされ、再構築(リバンドル)されうることであろう。既存の金融機関・業態のバリューチェーンの隙間を攻撃し、アンバンドル化させるFinTech企業、あるいは FinTech企業を取り込み、革新的な新たなバリューチェーンを既存の金融機関、金融業態が構築することである(=リバンドル)。

Column0-1 データ特性(たかがビッグデータされどビッグデータ)
本書においては、構造化・非構造化データなど“ビッグデータ”に関連する説明が出てくる。しかしながら、“ビッグデータ”については専門家のコンセンサスを得た定義はない。これは金融を含め業界ごとに、対象とするデータ量や特性が異なるからである。以下は、データの特性の観点からの分類方法の一例である(機械学習等、データ処理に関する詳細は第3章第1節を参照)。
○構造化・非構造化
データ内に含まれる項目の抽出や演算・統計処理を行いやすい形態になっているかという観点による分類。たとえば表計算シート内のデータや数値化されたデータは構造化データであり、画像や動画データはそのまま処理できないので非構造化データと捉えることが多い。

*9 一般的なバリューチェーンの概念を金融業に当てはまると、金融業のバリューチェーンとは「自身の信用)で調達した資金(あるいは情報)を原資とし、金融商品(サービス)を組成 して、顧客(投資家)に商品(サービス)を提供するまでに金融機関(=金融仲介機関)が行う活動(あるいは業務、手続き)の連鎖(チェーン)を、単なるデータ(情報)の連鎖(サプライチェーン)だけではなく、価値の連鎖(バリューチェーン)として捉えたもの」となる。個別の金融機関内と金融業態全体の両方においてバリューチェーンが存在すると考えられる。この価値連鎖が一部または全部が壊れることを価値連鎖のアンバンドル(以下アンバンドル)とする。アンバンドルされた価値連鎖を新たな価値連鎖に構築しなおすことをリバンドルとする。リバンドルする主体は従来の金融機関とは限らない。これを踏まえれば、従来はサプライチェーンの高い安全性を維持するだけで成り立っていたビジネスモデル(=稼ぐ力)、それを支えてきたプラットフォーム(ビジネス基盤=従来のモデルに適合した人、モノ、カネの経営資源によって構築・維持されてきた基盤)であった。しかし、今後は金融機関あるいは金融業態全体がサプライチェーンをバリューチェーンに進化させる必要性が高まり、同時にプラットフォームの進化が促されていると言えよう。

○複雑度
どの程度簡単に処理ができるかという観点。一般的に非構造化デ 方が難しいが、構造化データでも構造そのものが複雑な場合もある。
○デジタル化・未デジタル化
データがデジタル化されているかという観点。高度なセンサーの利用が増え、デジタル化されているデータは増えており、コンピュータ処理は行いやすくなっている。
○データ入手方法と頻度
すでに過去から蓄積されてきたデータの入手なのか、リアルタイムで発生するデータの入手なのかという入手方法の違いと、年に数回しか発生しないデータと、1秒に数千回発生するデータといったデータの発生頻度による違いなどがあり、利用できる処理方法が異なる。
○データ品質
データがどのように生成・取得されたのか、そのデータの信頼性や精度等が異なる。異なる品質のデータでは、平均などの統計処理は意味をなさないことが多く、処理方法に工夫が必要となる。
○その他
公開・非公開などの特性もある。

なお、これらの多くはデータ処理の観点による分類である。この他の観点から分類されていることもあるため、業界ごと、技術の発展状況等、文脈ごとに“ビッグデータ”の定義は異なる。たかがビッグデータされどビッグデータ、データの分類の仕方で意味は全然違うのである。

4. 四つの金融イノベーションと“隙間”

前述した「満足させることのできなかった潜在的ニーズ」とは具体的にどのようなものなのだろうか。そしてそれは「金融イノベーション」によって、具体的に潜在的ニーズをどのように埋めることができるのであろうか。
本稿では、上記の問いに答えるために、「金融イノベーション」が解決しうる課題の所在(=隙間)によって整理を行った。すなわち「金融イノベーション」を以下の四つのイノベーションに分類して、各イノベーションに“隙間”を当てはめた。
(1) プロセス・イノベーション:金融機関内部あるいは金融機関の間に存在する隙間
(2) プロダクト・イノベーション:顧客と金融機関の間に存在する隙間
(3) インフラ・イノベーション:各金融機関に横断的に関わる金融インフラ上の隙間
(4) ソーシャル・イノベーション:金融業を含む社会全体に存在する隙間

図表10-2 金融イノベーションの形態

一方、“隙間”は以下の三つを想定する。
(i) 機能・業法上の隙間
(ii) ビジネスモデル上の隙間
(iii)テクノロジー上の隙間

(i)では、本来金融機関が持つ“機能”が十分働いていないために発生する隙間であり、そこにFinTech企業が埋めることができる隙間=機会(FinTechを適用する機会)が発生しているのではないかという仮説が立てられる。ただし、機能は業態別の規制(業法)とセットになっていることから業法規制の隙間を含む。(ii)は金融機関の持つ機能が働いていれば、付加価値が生まれ、その基本的ビジネスモデルが稼ぐ力となるが、ビジネスモデル自体の効率性が構造的に低下すれば、稼ぐ力が低下し、隙間が生まれるのではないかという仮説が立てられる。(iii)は、FinTech企業のテクノロジーよりも従来の金融機関の採用しているテクノロジーが、利便性など顧客に提供する付加価値の面で劣後していることで発生する隙間である。
四つのイノベーションの定義に基づいて、「金融イノベーション」が既存の金融ビジネスに与える影響について概観すれば、図表0-2のような整理が可能である。

*10 一般的に、金融機関として「金融仲介機能」「信用創造機能」「決済機能」の三つの機能を持つ。
*11 この仮説を簡単に検証するためには、まず金融機関の役割、機能を見ていく必要がある。一般的に金融機関は資金の余剰部門と不足部門との間を仲介して、資金を効率的に配分する役割を担う機関である。どの業態の金融機関もそうであるが、特に銀行を中心に、リーマンショック後、“効率的な資金配分”の役割が、資金循環上、縮小局面にあるため、“機能上の時間”があると考えられる。

5.プロセスイノベーション

プロセス・イノベーションとは、金融機関の現状の業務にキーテクノロジーを導入し、業務手順は変化させずに省力化・自動化して効率化を図り、従来よりもコストを大幅に低下させる成果を生み出すことである。テクノロジーは必ずしも革新的(キーテクノロジー)であるわけではなく、金融機関内部や金融機関の間で今までテクノロジーが投入されていなかったところに新たに導入されるという傾向が強い。近年の実例としては、ロボアドバイザー を通じた投資アドバイザリー業務の自動化や、RPA(Robotic Process Automation)を用いた口座開設の効率化などがあげられる。

もともと、金融業におけるプロセス・イノベーションは新しい概念ではない。ITとの親和性が高い金融業へのテクノロジーの導入は、長年にわたり取り組まれてきた。その中で、ITベンチャー企業等は、金融機関および金融サービスの高度化を推し進める協業者としての役割を果たしてきたといえる。もちろん、イノベーションというからには、これまでの効率化(時間およびコスト削減)、省力化(手間の削減)だけではなく、まったく異なる業務プロセスを創造することも考えられる。これまでの業務プロセス体制では、採算が取れないと考えられていた大量かつ多種多様な顧客に対して、マスカスタマイゼーションした商品・サービスを提供することを可能とならしめるキーテクノロジーであるFinTech技術の導入も想定される。ただし、その他三つのイノベーションにおける FinTech企業等の役回りに比べて、「金融業のディスラプター」にはなりにくいことが想定される。

6. プロダクト・イノベーション

プロダクト・イノベーションとはキーテクノロジーを用いることによって、金融機関が顧客に提供していた現在の商品、サービス手法が新しいものに置き換えられることを意味する。その果たす役割は、これまで表に出ていなかった顧客の潜在的ニーズを掘り起こすことにある。近年の実例としては、動的データを活用したテレマティクス保険や、ウェブ上で貸し手と借り手を結びつけるP2Pレンディングといったものがあげられる。
掘り起こされたニーズの充足は、新たな収益源を生み出す場合も多い。そして、プロダクト・イノベーションをもたらしたFinTech企業等は、その商品・サービスが陳腐化しない限りにおいて、その新たな収益源を独占し、新たな金融サービス事業を展開していくことが可能である。ただし、プロダクト・イノベーションでは、本来の金融機関のビジネスモデルが根本から覆されるというよりは、業務フローは残存しつつも、ニーズに応じて金融商品・サービス自体が変化する傾向が強い。その結果、FinTech企業、既存のITベンダーがプロダクト・イノベーションを先導するが、徐々に既存の金融機関が自身の中に新たなニーズを取り込んでいく、というような状況も見られる。つまり、金融業にとって、プロダクト・イノベーションによってもたらされる影響がディスラプティブであるか否かは、その商品の模倣可能性が高い。

7. インフラ・イノベーション

インフラ・イノベーションとは、キーテクノロジーによって業界全体を支える「仕組み」(たとえば、銀行間の決済システム、取引所等)におけるコストや処理手順の削減が抜本的に進み、それに付随して商品やサービスを提供する手法も大きく変化することを意味する。インフラ・イノベーションの実例としては、仮想通貨の基幹技術であるブロックチェーン技術を用いた非 中央集権的な決済システムの構築などがあげられる。
業界全体を支えるシステムに変化が起きれば、金融機関がこれまで提供してきた付加価値は、付加価値たりえなくなる可能性もある。すなわち、金融機関はビジネスモデルの変更を余儀なくされうることから、インフラ・イノベーションは本質的には金融機関にとってディスラプティブなものにもなりうると言えよう。

8. ソーシャル・イノベーション

ソーシャル・イノベーションとはキーテクノロジーによって社会全体連続かつ大きな変化が発生することである。金融サービスにもその影響が波及し、金融業のビジネスモデルにも大きな変化を促す。たとえば、社会変化を伴うサービスに金融業のバリューチェーン、プラットフォーム、インフラがバンドル(統合)されてしまい、金融業単体でのサービス事業が消滅するというシナリオが考えられる。金融機関にとって、四つのイノベーションの
中で、最もディスラプティブであるといえる。実例としては、スマートフォンを利用したSNS(Social Networking Service)による銀行の預金口座を介さない決済サービスの提供などが挙げられよう。
ソーシャル・イノベーションの担い手は、既存の金融機関に比べて、ユーザーとの関係が格段に緊密である。SNSを例に挙げれば、ユーザーは友人とコミュニケーションをするついでに、特段意識することなく、金融サービスを享受することが可能である。このようなSNSでの勝者は、利用者を集客することに優位となる。SNSに比べて既存の金融機関は集客力で劣後することから、リテール金融を中心に顧客とのチャネルが奪われることとなる。すなわち金融機関が提供可能な付加価値は極端に縮小し、そのビジネスモデルは根本から覆されることになる。もちろんソーシャル・イノベーションは滅多に発生するものではないが、発生した際には既存金融機関の本質的な適応力が問われることになる。

金融イノベーションが創出されていく過程では、これら四つのイノベーションのいずれか、もしくは複数が発生すると考えられる。中でも、ディスラプティブとなる金融イノベーションの創出は頻繁に起きるわけではなく、また時間もかかる。また、イノベーションの創出は、業態や地域によってその 速度や変化幅などが大きく異なる。イノベーションの推進方法を例に挙げれば、英国に代表されるように政府主導型もあれば、米国のように民間企業主導型のものもある。また、地域を例に挙げれば、先進国の金融機関において段階的に導入されてきたITに関しても、新興国においては一足飛びに受容されるケースも見られる。さらに、金融イノベーションは金融業のみから生まれるとは限らず、他の産業からも生まれる可能性がある。その意味では、FinTechを通じて、産業の垣根を越えた、あるいは国境を超えた金融業の競 争が激化することも予想される。
いずれにしても“隙間”が多い業態、金融機関に対して、FinTech企業は継続的に攻撃をするだろう。革新的なキーテクノロジーの発展を用いて、“隙間”を攻撃し、既存金融機関の付加価値を劇的に縮小・変化させ、バリューチェーン、プラットフォームをアンバンドルする可能性がある。第1章では、これらを踏まえて、FinTech企業の先端事例のビジネス上の特性と、10年後に想定される姿を描いていくこととする。

大和総研 (著)
出版社 : 日経BP (2018/3/30)、出典:出版社HP

フィンテック 金融維新へ

FinTech中級者向け

本書は、FinTechについてをコンサルティングの視点から解説したものです。前半ではFinTechの概要と今後について、後半は今後の金融機関のFinTechへの対応の仕方がまとめられています。特に金融機関関連に所属している方向けの内容となっています。

アクセンチュア株式会社 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2016/6/23)、出典:出版社HP

はじめに

フィンテック|ブームからメインストリームへ 金融(Finance)とテクノロジー(Technology)を掛け合わせることで、金融に新たなイノベーションをもたらすフィンテック(FinTech)。米シリコンバレーを中心に金融テクノロジーを扱うスタートアップ企業が偶発的に発生し大きな流れを形成したことに端を発するフィンテックは、いまや「フィンテ ック・ブーム」ともいえる様相を呈している。

グローバルに見ると、2010年から2015年の6年間で約2500のフィンテック企業に、総計約500億ドルが投資された。2013年に億ドルだった投資は、2014年に127億ドルと約3倍に急増し一気にブレイクした。2015年は前年比%増の223億ドルと引き続き多くの投資がフィンテック企業に向かっている。
では、フィンテックはスタートアップ企業や一部の投資家たちのプームなのだろうか。フィンテックはブームからメインストリームへ、新興テクノロジー企業のみならず伝統的な金融機関や金融当局をも巻き込んだ金融イノベーションを追求する取り組みへと昇華しつつあるようだ。

フィンテックという言葉が見聞きされるようになった当初から、フィンテックは伝統的な金融機関にとっての「脅威」だと捉える向きが少なくなかった。それは、既存の金融機関のサービスや収益がフィンテック・スタートアップ企業に刈り取られてしまうという見方や、既存の金融機関の人員削減につながるという見方だ。
たとえば、米国市場を対象としたアクセンチュアの予測では、フィンテックにより伝統的な金融機関のリテール分野の収益の約。常が減少するリスクにさらされているとしている。これは、フリーミアム型(一定量未満の基本的なサービスは無料で提供し、一定量を超えた場合や特別な機能を提供する場合に料金を徴収するビジネスモデルのこと)のサービス提供者による代替、P2P(Peer to Peer) 型のサービスによる金魚仲介機能の中抜きなど、伝統的な金融機関が包括的に提供してきたサービスがアンバンドル(解体)され、より便利で安価なサービスを提供するプレイヤーにビジネスを奪われるというシナリオだ。

また、収益減のみならず、金融ビジネスのテクノロジーへの代替が進み、既存の金融機関の人員削減が避けられないというシナリオもある。2015年2月に公表されたパンク・オブ・アメリカ(Bank of America)のレポート(Robot Revolution : Global Robot & Al Primer)によると、金融および法務の分野で、テクノロジーへの代替により2500万人の雇用が奪われる、とされている。また、2016年3月にはシティバンク(Citi Bank)が、2015年から2025年にかけて欧米の銀行員の職の3割がスタートアップ企業に奪われうるとするレポート(Digital Disruption : How FinTech is Forcing Banking to a Tipping Point)を発表している。

一方で同時に、フィンテックは、テクノロジー企業のみならず既存の金魚機関にとっても等しく大きな「機会」であるという見方も広まりつつある。いくつかの事実を示そう。
まず、金融機関にサービスを提供する「共生型」フィンテック企業が、自ら市場参入し金融機関と競合する「破壊型」フィンテック企業よりも優勢になりつつあることを指摘したい。
2015年のフィンテック企業への投資動向を見ると、「破壊型」フィンテック企業への投資が前年比3%増にとどまっているのに対して、「共生型」フィンテック企業への投資は前年比138%増となっている。結果として、フィンテック企業への投資全体に占める「共生型」の割合は、この1年で8%(2014年)から(2015年)へと上昇している。いわゆる「破壊型」フィンテック企業も、当初は銀行と競合するものの、最終的には銀行からの出資や買収・提携を通じて、「共生型」に転じるケースも多く見られるようになってきた。スペインのBBVAが出資し、2016年4月にロンドンで開業したモバイル専業銀行であるアトム(Aton)などがその代表例だ。
このような「共生型」フィンテック企業の台頭は、革新的なテクノロジーと伝統的な金融機関の持つ強み(金融コア・ケイパビリティ、資本力・プランド、顧客基 盤、人材など)との融合に、新たなイノベーションの活路があることを示す一つの証左といえよう。

では、金融機関自身はフィンテックをどのように捉えているのか。アクセンチュアではグローバルな大手金融機関のエグゼクティブに対してフィンテックの影響に関するアンケートを行った。その結果によると、新規参入や代替サービスによる脅威としてフィンテックを捉える意見が常に上るものの、銘は金融機関のあり方そのものを見直す機会としてフィンテックを捉えている。
加えて、金融機関のIT投資体力についても言及したい。2015年のフィンテック企業への投資223億ドルのうち、銀行自身による投資は6億ドルと相対的に少ないものだ。しかしながら、同時期にグローバル全体で銀行は新たなテクノロジーにその倍に当たる500億ドルを注ぎ込んでいる。500億ドルのうちどの程度の金額が戦略的な投資に振り向けられたかを正確に分析することはできない。しかしながら、レガシー(古い構造のシステム)への投資からイノベーションへの投資へと、テクノロジー投資への力点が変化しつつあるのが実態であろう。十分なIT投資体力を持つ伝統的な金融機関がフィンテックの活用に本腰を入れた際のポテンシャルの高さについて、その一端が窺い知れよう。

さらに、金融当局においても、フィンテックの活用を後押しする制度的なフレームワークの整備に向けた動きが加速している。日本もその例外ではない。日本では、銀行が子会社を通じて行う業務範囲は銀行法上に限定列挙方式で定められている。よって、IT企業などの出資や経営参画についても大きな制約が課されているのが現状だ。このような規制体系は、邦銀の連全な経営を維持する上で相応の役割を果たしてきたものの、オープンイノベーションを進める上では柔軟性を欠くフレームワークとなっている点は否めない。
金融庁が主導する形でこの問題に対処すべく、2015年3月から2月にかけて金原審議会で集中的な検討がなされ、規制緩和とイノベーションの推進に向けた具体的なビジョンが提示された。今後、この方針に沿った規制緩和により、イノベーションを推進させる上で欧米をはじめとした主要国に比して遜色のない制度的なフレー ムワークが整うことが期待される。このように、革新的なスタートアップ企業が火をつけたフィンテック・ブームは、投資家・金融機関・金融当局をも巻き込んだより大きなうねりになってきているの
だ。

脱『金融』の発想転換

一方で冷静な見方もある。「これまでの金ビジネスへのテクノロジー活用と何が違うのか」、日本の金融機関やテクノロジー企業の関係者と意見交換をすると、このような「素朴な問い」を投げかけられるケースがよくある。
2016年の日本の金問機関向けのIT市場は約2兆円(IDCジャパン)に上るといわれている。つまり、本邦金凍機関はITに約2兆円のお金を注ぎ込んだということだ。このような数字を取り出すまでもなく、金融とテクノロジーは親和性の高いビジネスだ。
しかしながら、フィンテックの波を、これまでのテクノロジー活用の延長線で考えてはいけない。加速するデジタル技術革新が牽引する社会・経済活動の変化やビジネスのあり方の変化が、その背景にあるからだ。フィンテックに対応する上では「デジタル化」「顧客価値」「エコシステム」「オープンイノベーション」の四つのキーワードが重要となってくる。

《1 デジタル化 : デジタル化時代、金融のあり方を問い直す》
この3年あまりの技術革新には目を見張るものがある。インターネット革命、モバイル・ソーシャルメディアなどに代表される新たなデジタル技術の登場、人工知能 (AI)・ブロックチェーン技術・IoT(Internet of Things : モノのインターネット化)といった先進的なテクノロジーの進展など、枚挙にいとまがない。このような技術革新に牽引される形で、さまざまな社会・経済活動のデジタル化が進展している。
企業から見てデジタル化の対応には「デジタイゼーション (Digitization)」と「デジタリゼーション (Digitalization)」の二つの意味合いがある。「デジタイゼーション」とは、社内業務効率化や取引処理の自動化などを目的としたデジタル化だ。一方で「デジタリゼーション」とは、顧客と企業のインタラクション・業界全体のバリューチェーン全体の最適化をねらったデジタル化だ。
フィンテックの対応にあたっては、前者に加えて後者のデジタル化に向き合うことが重要だ。社会・経済活動のデジタル化が進展するなかで、金融機関のあり方を間い直す時機が来ている。

《2 顧客価値 : 増大する個人の力、顧客価値の時代》
社会・経済活動のデジタル化の進展は個人の力を増大させる。企業と個人の情報格差がますます小さくなるからだ。デジタル化以前の社会では、国や企業がマスメディアを通じて一方通行に流す情報であらゆる判断を行う必要があった。しかし、デジタル社会における顧客は、モノやサービスの購買意思決定に必要な情報にいつでもどこからでもアクセス可能だ。また彼らは体統と評価を繰り返しながら自身もまた情報提供者になっている。個人はますますすく、ますますわがままになっていく。
このような時代においては顧客の「本質的な欲求」そのものを充足する企業のみが勝ち残る。顧客価値を追求し、パーソナライズされた顧客体験を提供することを貫き通して金融サービスのあり方を見直さなければならない。

《3 エコシステム : 業界の垣根がなくなる時代》
デジタル化や顧客価値の時代において、「金融」業界といった垣根は意味をなさなくなっていくだろう。たとえば、金融機関が提供する住宅ローン。顧客の「本質的な欲求」は「快適な住環境」を安心して手に入れることであり、住宅ローンはその欲求を充足する一部にすぎない。顧客の本質的な欲求に立ち返ると、旧来の金融サービスの枠を越えて間流(モノやコトの消費活動)と金融が結びついた新たなエコシステム(生態系)が形成されていくことが予見される。金融機関も従来の「金融」という枠組みを越えて自身のビジネスモデルを再考することが求められるのだ。
《4 オープンイノベーション : スピードこそ命、自前主義だけでは取り残される》
イノベーションの創出にはスピード重視・リスクテイクの姿勢が欠かせない。たとえば、デジタル企業の代表格である米グーグルがグーグルグラスの初成プロトタイプ作成にかかった時間はわずか5分だ(Business Insider , Nov. 19 2013)。また、スタートアップ企業の5%は失敗してしまうのが実態だ(Forbs , Jan. 16 2015)
誤解を恐れずにいえば、このようなスピード重視・リスクテイクの姿勢は、伝統的な金融機関の文化と相容れない部分があろう。
また、テクノロジーに造詣の深いイノベーション人材の確保も重要だ。アクセンチュアが2015年に実施した調査(Bridging the Technology Gap in Financial Services Boardrooms)によると、世界の大手銀行において、テクノロジー分野に造詣の深いエグゼクティブの比率は6%、CEOでは3%と、人材確保がうまくいっているとはいいがたい状況だ。
このような状況の下で、変化の速いフィンテックに取り組み、イノベーションを創出する上で重要となるのは、外部の知見を積極的に活用するオープンイノベーションという概念だ。買収・出資・共同研究・長期的アライアンスなどの形態を駆使して、異業種企業・フィンテック企業・ベンチャー企業・大学・外部コンサルタントとネットワークを構築し、変化の激しい技術や人材を確保し続ける必要がある。

アクセンチュア株式会社 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2016/6/23)、出典:出版社HP

本書の構成

本書は2部6章の構成となっている。各章の主たる問題意識やメッセージは次のようなものである。まず、「第1部フィンテックの衝撃」では、フィンテックの「現在」を俯瞰した上で、フィンテックが金融ビジネスに与える「未来」と「機会」について説明する。フィンテックへの対応を考えるにあたって、第1部でまずフィンテックの理解を深めたい。

〈第1章 現在 : フィンテックとは何か〉
フィンテック企業への投資は増加の一途を辿っている。フィンテック企業が生み出す革新的な金融サービスは、その存在感を増している。一部には「フィンテック・バブル」ではないかとの見方もあるが、この流れは一過性のブームに終わることはありえない。フィンテック・プームの背後にあるデジタル・テクノロジーの進展やデジタル化する世界での顧客の要求の高まりは、もはやとどまることを知らないからだ。
フィンテックとは、金融業が「装置産業」から「IT産業」へと変質していくことを意味するものだ。「資本」から「イノベーション」へ金融業の競争優位の源泉も 変化を迫られよう。

〈第2章 未来 : フィンテックは何をもたらすか〉
フィンテックは三つの世界をもたらす。 まず、「アンバンドル(解体)の世界」。もはや「金融」は「金魚機関」の専売特許ではない。特定のサービスに強みを持つテクノロジー企業が金融機関のサービスを代替していく。自ずと旧来の金融機関の業務は解体され、強みを持ったプレイヤーによる分業が進んでいく。
次に、「リバンドル(再構築)の世界」。「金融機関」という業態が意味をなさない、垣根のない世界がやってくる。旧来の金融サービスの枠を越えて向流(モノやコトの消費活動)と金融が結びついた新たな エコシステムが形成されていく。最後に、「エンハンス(強化)の世界」。金融ビジネスそのものが変わる新しい世界がやってくる。フィンテックの大本命と目されている技術がブロックチェーンだ。ブロックチェーンは「信用」の民主化をもたらす。自ずと中央集権的な管理者の存在価値がなくなっていく。高コストの中央管理システム(金融機関の基幹系システム・第三者的な仲介組織など)が不要になる可能性すらある。

〈第3章機会:いかにフィンテックを捉えるか〉
では、伝統的な金融機関にとって、フィンテックは「大きな脅威」か「魔法の杖」か。フィンテックは両刃の剣といえよう。フィンテックの登場により金融機関は未曾有の変革期に突入した。手をこまぬいて見ていると、テクノロジー企業や異業種に、これまで得ていた収益を切り取られていくことになる。しかし、フィンテックは金融機関にも等しく大きな機会をもたらす。フィンテックを機会と捉え成功を収める金融機関も出てくるはずだ。 顧客に革新的なサービスを提供し、個性溢れる存在になる(アンバンドル)。顧客の本質的な欲求に立ち返り、圧倒的な顧客基盤と信頼を活かした金融機関発のエコシステムを立ち上げる(リバンドル)。プロックチェーンにいち早く取り組み、複数業界を横断するビッグサブライチェーンを構築する(エンハンス)などだ。成功を勝ち得るためには、フィンテックの本質がビジネスモデルの追求にあることを忘れてはならない。テクノロジー企業発のフィンテック。次は金融機関がその異文化を吸収し立ち向かう番ではないか。
それでは伝統的な金融機関はいかにフィンテックに向き合うべきか。
「第1部 金融イノベーションへの挑戦」では、「戦略」・「技術」・「変革」の三つの視座から、伝統的な金融機関に求められる対応を説明する。

〈第4章 戦略 : いかにフィンテックに立ち向かうか〉
「フィンテック」とは、狭義には「技術」そのものを指す言葉にすぎない。しかし、その技術を用いて、「何を目指し、何を実現し、何を違成するのか」という企業経営にとって最も重要な議論がそれぞれの金融機関で十分になされているかといえば、依然として温度差があるというのが偽らざる実感だ。
フィンテックに関わる情報収集を強化しても、最新テクノロジーに着目してその道用余地を見つけにいっても、それだけでは必要十分とはいえない。改めて自社のポジショニングを明確にし「自社のビジネスを高度化するために、一連の技術革新がもたらす道具をどこで活用するのか」に目を向けることが、フィンテックに対応する出発点となろう。

〈第5章 技術 :いかにフィンテックを取り込むか〉
金融ビジネスにおいてテクノロジーがきわめて重要な役割を持つことは今も昔も変わらない。しかし、金融機関におけるITの位置付けが変化しつつある。それは、ビジネスを支えるための「基盤としてのIT」から、テクノロジー主導でビジネスを創り出す「創造のIT」への変化といえるものだ。
これまでの金融ITは、良くも悪くも信頼性・安定稼働至上主義であった点は否めない。結果として、実績のある成熟技術やソリューションが採用され、堅牢で統合された基幹系システムが構築され、品質担保とコスト最適化に重きを置いたITガバナンスが採用されてきた。いわば「守りのIT」といえるこれらの発想は、フィンテックを活用したイノベーションの足枷となるリスクがある。
金融機関は「守りのIT」に「攻めのIT」を加えたマルチスピードITを実現する必要がある。可能性のあるテクノロジーを視野に入れる、システムを組み合わせる、スピードを重視するなど、これまでの考え方と一線を画した技術戦略が求められるのだ。

〈第6章変革 : いかにイノベーションを創出するか〉
伝統的な金融機関がフィンテックに対応しイノベーションを生み出す上での最大の難所は、戦略や技術にではなく、実は企業体質・企業文化の転換にあるのかもしれない。誤解を恐れずにいえば、伝統的な金融機関の多くに「石橋を叩いて渡る」文化が根付いている。もちろん、これは、安全性・信頼性のもとに盤石な金融サービスを提供し続ける上で今後もきわめて重要な価値観である。一方で、世に出される新サービスの多くが失敗するともいわれるデジタルビジネスの世界では、「早くやってみる」「失敗から学ぶ」といった価値観が重要となる。
これは旧来の価値観と対極にあるものだ。
スタートアップ企業はイノベーション体質を新たに作ればよい。しかし、伝統的な金融機関はこれまでの価値観に加えて、新たな価値観を両立しなければならない。それがゆえに、その対応をさらに難しいものとしている。「トライ&エラー型」の新たな企業体質を組織に埋め込むためには、リーダーシップ・人材・組織・商品開発や経営管理のプロセスなど企業活動の全般に及ぶ変革プロ グラムを、整合性をもって推進する必要がある。

金融維新ヘ

本書の執筆は、アクセンチュアの金融サービス本部および戦略コンサルティング本部に所属するマネジング・ディレクター8名が中心となって進めた。全メンバーが本邦金融機関のさまざまな変革プログラムの成功に向けた仕事に日々従事しており、その経験も15~20年以上に及んでいる。我々の実感としては、まさに「金融維新へ」というものだ。

なぜ「金融維新」か。それは顧客から見た金融機関の価値が大きく変わる潮目にあるからだ。顧客から見た金融機関の従来の価値は、象徴的にいえば「お金を預ければお金が返ってくる」といえるものだ。もともと金融機関は、「お金」を「貯める」・「使う」・「婚やす」・「備える」・「借りる」といったシーンの中に存在している。その中で顧客は、資産の保全、安心で便利な決済、困った時の保障や支援といった価価を受してきた。
しかしながら、これからの時代、顧客から見た金融機関の価値は「情報を預ければ付加価値のある情報が返ってくる」というものに進化していくのではないか。「デジタル化時代の顧客はますます賢く、わがままになっていく。こだわりを持つモノ・コトに対しては徹底したパーソナライズを、こだわりを持たないモノ・コトに対しては徹底した利便性を求める。それは、生活・消費にまつわる「自分に合った選択肢」であり、「時間のかからない手段」だ。いいかえると、顧客は「自分のやりたいことをわかってくれる」「自分の状況をわかってくれる」「自分の立場になってくれる」といった存在を求めているのだ。このような時代においては、人生を豊かにするため、生活を豊かにするための「本質的な欲求」に応える企業が勝ち残る。

幸いにも金融機関にはアドバンテージがある。あらゆる経済・消費活動には金庫取引が伴う。また、顧客は、経済・消費活動の前に必ず「お金」のやりくりを考える。よって、金融機関は顧客の生活実態やライフイベントを事前にも事後的にも理解できる立場にある。そして何よりも、金融機関にはこれまで培ってきた顧客からの信頼があるのだ。

金融機関は、このようなアドバンテージとデジタル化時代の特性(あふれる情報、個人と社会が常につながっている状態、など)を活かし、顧客にとっての「⑴アドバイザー」として、「⑵アクセス支援者」として、「⑶価値のまとめ役」として、顧客の「本質的な欲求」に応えていかなければならない。
テクノロジー企業発のフィンテックは、閉ざされた金融業界にとっては「黒船来航」になぞらえられる衝撃だ。
1990年初頭のバブル崩壊以降、金融機関は業界内での事業最適化の取り組みを続けてきた。いわば「幕政改革」ともいえる取り組みは、金融再編であり、システム共同化であり、業務改革や調達改革の取り組みであった。
そしていま、「開国」と「文明開化」の時代だ。異業種との競争や協調に立ち向かわなければならない。自前主義から脱却して外部との連携を加速しなければならない。デジタル化時代にあった金融サービスを再構築しなければならない。そして、加速するデジタル・テクノロジーが文明開化の武器となろう。
本邦金融機関の変革に日々携わる者として、金融機関の創意工夫を活かした日本発の金融イノベーションの波が巻き起こることを大いに期待したい。また、本書がその一助となれば幸いである。

執筆者を代表して
宮良浩二一

アクセンチュア株式会社 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2016/6/23)、出典:出版社HP

目次

はじめに
フィンテック―ブームからメインストリームへ
脱 金融 の発想転換
本書の構成 金融維新ヘー

第1部 フィンテックの衝撃

第1章 現在:フィンテックとは何か
1 フィンテックのいま
急増するフィンテック企業への投資
多様化する決済サービスが付加価値をもたらす
融資はP2P化、ビッグデータが新たな融資機会を生む
テクノロジーが資産管理のアドバイザーに
金融機関の垣根を越える家計・資産管理
銀行のコア業務が変わる
2 テクノロジーから見たフィンテック:金融ビジネスは装置産業からIT産業になる
インターネット革命を超えて
装置産業化の歴史:第1次オンライン~ポスト第3次オンライン
IT産業への転換:インターネット革命からSMACSの時代へ
IT産業化の進展:人工知能・API・ブロックチェーンが生むパラダイムシフト
3 金融から見たフィンテック:金融イノベーションへの挑戦
これまでのフィンテック投資は非金融セクターが主導
金融維新の到来
金融ビッグバン以来の規制緩和か
官民あげて革新的な金融サービス創出への挑戦を

第2章 未来:フィンテックは何をもたらすか
1 フィンテックによりもたらされる三つの変化
グローバル金融機関のトップは危機感を抱いている
金融サービスは「解体され」「再構築され」「強化」される
2 アンバンドルの世界:「金融」は「金融機関」の専売特許ではない
新たな顧客体験の提供者が金融機関の選択に影響を及ぼす
魅力ある金融商品の提供者は金融機関を中抜きする
テクノロジーにより金融機関のコア・ゲイバビリティ(遂行能力)でさえ代替される
改めて問われる競争優位の源泉
3 リバンドルの世界:「金融機関」でなくなる――垣根のない世界
異業種が金融を含む経済圏モデルの優位性を証明した
「価値の購買」の時代・顧客ニーズは金融サービス単体では満たせない
価値を束ねるプレイヤーの不在
顧客の本来欲求に立ち返り、保険のコンセプトを180度転換
リバンドルは金通機関にこそ勝機がある
4 エンハンスの世界:「金融」サービスそのものが変わる新しい世界
ブロックチェーンは信頼を転送する
システムが自らシステムを維持する。いわば「自己完結する系」
ブロックチェーンは発展途上の技術
ブロックチェーンの可能性:「共通システム」への発展
ビジネスへの応用例
ブロックチェーンは金融機関の最大の差別化要素を棄却する可能性がある
5 金融機関はフィンテックの中心に

第3章 機会:いかにフィンテックを捉えるか
1 フィンテックは「大きな脅威」か「魔法の杖」か
伝統的な金融機関の収益が30%減る
ペイメントの世界で起こる金融機関の危機
マネーフローの分散:金融の中心が金融機関でなくなる
フィンテックは両刃の剣
2 本質はビジネスモデルの追求
フィンテックは常識を破ることで市場参入を果たす
フィンテックを武器に成功した金融機関
「まるで異業種?」のような銀行
新たな金融機関へと生まれ変わるための成功の処
フィンテックの本質はビジネスモデルの追求にほかならない
3 伝統的な金融機関が乗り越えるべき三つの壁

第Ⅱ部 金融イノベーションへの挑戦

第4章 戦略:いかにフィンテックに立ち向かうか
l フィンテックに立ち向かうための要諦
国内の金融機関のフィンテックへの取り組み
金融機関が改めて立ち戻るべき戦略論(ビジョン・アジェンダの設定)
金融機関の次世代戦略フレームワーク
顧客サービス企業か、社会インフラ企業か 金融特化型か、エコシステム志向型か
どこまでの顧客をターゲットとするか
2 金融機関としての戦略オプション
⑴ 製販一体型金融機関
⑵ 顧客体験型金融機関
⑶ 商品・サービスプロバイダー型金融機関
3 それぞれの金融機関の可能性
⑴ 地域金融機関における可能性
⑵ メガバンク(グループ)の可能性
⑶ 生命保険会社
4 金融機関の「その先」に向かう

第5章 技術:いかにフィンテックを取り込むか
1 「テクノロジー」が新たなビジネスモデルを創る時代へ
基盤としてのIT:金融ビジネスを支えるテクノロジー
金融×テクノロジーの再考
創造するIT:テクノロジーが牽引する新たなビジネスモデルの実現
テクノロジーが金融機関の存続を危うくする
2 テクノロジー争奪戦へどう備えるか
オープンイノベーション:外部の力をビジネスの種にせよ
イノベーションポートフォリオ:テクノロジーはポートフォリオで管理せよ
3 デジタル化時代の金融ITとは
大きな物定系システムは足枷
デジタル化時代に対応する四つの基本要件:
コネクティド・アナリティクス・カスタマイズド・スピーディー
目指すべきシステム構造とは
メリハリを付けたシステム構造が競争力を生む
4 マルチスピードITの実現
⑴ スピード最優先でデジタルビジネスを立ち上げる
⑵ ビジネスを軌道に乗せ、システムを安定させる(スピード+収益+品質)
⑶ ビジネス・システムを最適化する(スピード+収益+品質+ コスト)
守りのITと攻めのITを分離せよ:マルチスビードーTの実現

第6章 変革:いかにイノベーションを創出するか
1 脱金融への発想転換
企業体質・文化を変えられるか
イノベーションが起こしうる三つのビジネスインパクト
金融機関の中に「イノベーションの世界」を構築する
2 リーダーシップの転換:トップエグゼクティブしかカルチャーを変えられない
エグゼクティブ自身の変革の重要性
失敗を許容する行動様式・文化を作る
3 人材の転換:イノベーション人材を獲得し、活かす
「異質」であることが価値
イノベーションのインパクトと人材ポートフォリオ
人材のシフトはタレントマネジメントで実現する
イノベーティブな企業の人材戦略
4 体制の転換:自前主義から脱却する
体制転換の拠となる五つのファンクション
目指すイノベーションにより整備すべき体制も異なる
外部リソースを活用することで自社の限界を超える
オープンイノベーションで継続的なイノベーションの仕組みを構築
5 プロセスの転換:トライ&エラー型の商品・サービス開発プロセスを導入する
顧客体統を重視してサービス・ビジネスを描き直す
アジャイル型アブローチで継続的にサービスを高度化する
ビジネス・IT・風客体験デザインの三位一体で取り組む
6 経営管理の転換:イノベーションを加速する経営管理とは
不確実な環境下で柔軟にビジネスを変化させ続けるための経営管理
イノベーション戦略の立案:「ニーズ」と「シーズ」の二つの目線
シーズポートフォリオの管理:効率的に集め、有効に活かす
イノベーション案件の立ち上げ:“新しい”投資枠、“新しい”基準
投資・案件ポートフォリオの管理:「小さく始める」「敗者復活を許容する」
7 チェンジマネジメント(変革アプローチ)の導入:変革を確実に遂行するために
成功体験主群のチェンジマネジメントが変革の鍵
変革を伝播するエージェント

おわりに デジタル化時代に求められる変革
フィンテックはデジタル化時代の必然
デジタル化時代の勝者は誰か
金融機関に求められる変革とは

装幀 重原 隆
DTP マーリンクレイン

アクセンチュア株式会社 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2016/6/23)、出典:出版社HP

第1章 現在 : フィンテックとは何か

l フィンテックのいま

ここ数年、国内外で「フィンテック」という言葉が頻繁に見聞きされるようになった。そもそものフィンテックの言葉の成り立ちは、ファイナンス (Finance) +テクノロジー(Technology)を合体・合成した造語 (FinTech)である。最近では新聞や雑誌などメディアへの露出度も高く、一種の「はやり言葉」になっている。
ただし、言葉の使い方が曖昧であり、人によって解釈がずいぶんと異なるとの印象を受ける。金融機関の関係者などからも「人によってイメージする意味が異なるために議論のすれ違いや混乱がまま見られる」という不満を聞くことが多い。どうやらフィンテックという言葉の曖昧化(バズワード化)がかなり進んでいるようだ。
フィンテック・ブームはシリコンバレーを中心に金融テクノロジーを扱うスタートアップが群発的に発生し、大きな流れを形成したことに端を発している。フィンテック・スタートアップ企業が生み出す革新的な金融サービスへの注目が集まっている。実際にフィンテック企業への投資は急拡大の一途だ。この背後にあるのはテクノロジーの進展と顧客の変化だ。

こうした背景から「フィンテック」という言葉は金融テクノロジーを扱うスタートアップ(新興)企業を指す際に使われることが多かった。しかし、最近の「フィンテック」という言葉の使い方は文字通り「金限テクノロジー」そのものを指すものが多く、より広範で本質的な意味に用いられる傾向が強くなっている。いまや「フィンテック」というキーワードはデジタルをはじめ新しいテクノロジーを活用した金融の革新的な動き、ないしは、著しく利便性を高めた金融サービス全般を意味する言葉へと進化・発展しつつあるように見受けられる。
このような言葉の使い方の変化は「フィンテックのいま」を反映している。フィンテック企業が存在感を増すにつれ金融業界の危機意識も高まっているからだ。結果として、テクノロジーを梃子にした金融イノベーションこそがフィンテックの本質と強く認識されるようになってきている。
本章では、まずフィンテック企業への投資動向とフィンテック企業がもたらしている金融サービスの変化を概観しよう。その上でフィンテックがより本質的に捉えられ始めている背景について「テクノロジー」「金融」の画面から説明しよう。

急増するフィンテック企業への投資 フィンテック企業への投資規模は、件数・金額ともに近年急激に増加している(図表1-1:フィンテックの投資動向)。とくに2013年に億ドルだったものが 2015年には223億ドルと約5倍に急増するなど一気にブレイクした感がある。
2015年のフィンテック投資223億ドルの過半を占めるのは米国であり、やはりシリコンバレーが投資のホットスポットと位置付けられる。ただし、ここ数年の伸びで見ると欧州も健闘している。英国・アイルランド (6・1億ドル)のほか北欧(4・5億ドル)、ドイツ(7・7億ドル)における投資も拡大している。一方、日本における投資は(0.7億ドルと、他の諸国と比べていまだ1桁小さい状況が続くなど出遅れ感が目立っている。
ただし、このように日本における投資が少ないからといって、それがそのまま日本の金融機関や企業によるフィンテック投資が少であることを意味するとは限らない。残念ながら投資家サイドの国別計数調査が存在しないため詳しい実態は明らかではないものの、近年では日本の金魚機関や企業が相応のフィンテック投資をシリコンバレーのベンチャー企業に対して行っていることは想像に難くない。

図表1-1 フィンテックの投資動向

米国・欧州で急速に拡大しているフィンテック投資の主たる領域は融資・決済だ。最大の市場である米国のケース(2015年)を例にとると(図表1-2 :フィンテックの投資領域)、融資領域が感億ドルと最も多く、その割合も金額で56%(件数で16%)を占めている。ついで決済関連が19億ドルと金額で16%(件数で30%)を占めている。
この二つの領域が現在のフィンテック投資の二大分野といえる。少し水をあけて、バックオフィス業務、マーケット関連、資産管理が続いている。それではフィンテック企業はどのような革新的な金融サービスを生み出しつつあるのか。一言に「フィンテック」といっても、消費者や企業にもたらされる価値は非常に多岐にわたる(図表1-3 :フィンテック企業が生み出す金融サービス)。

まず、フィンテック投資規物が特に大きい決済では、スマートフォンなどのモバイル端末を活用して簡単・便利な決済体験を提供する「デジタル・ウォレット」と呼ばれる一般消費者向けのサービスが台頭している。また企業向けにも、低コスト・短期間で決済環境を整備することを支援するサービスなども生まれており、顧客・企業双方にとって新たな価値が生まれている。

アクセンチュア株式会社 (著)
出版社 : 日本経済新聞出版 (2016/6/23)、出典:出版社HP

フィンテックの経済学:先端金融技術の理論と実践

FinTechを経済学的視点から解説

本書は、慶應義塾大学で実際に行われている「フィンテックの理論と実践」という講義の内容をまとめ、出版されたものです。そのため、より教科書的な内容・構成となっているため、自己学習にピッタリな一冊です。

嘉治 佐保子 (編集), 中妻 照雄 (編集), 福原 正大 (編集)
出版社 : 慶應義塾大学出版会 (2019/8/23)、出典:出版社HP

はしがき

ビッグデータの拡大とディープラーニングをはじめとする機械学習など、 人工知能の急速な発展は、経済と社会のみでなくわれわれの生活そのものを、 根本から、急速に変えようとしている。Society5.0 時代の到来だ。金融分野も例外ではなく、本書のテーマであるフィンテック革命が足元で進んでいる。 そして残念なことに、日本のフィンテックの現状は、欧米はもとより、中国、 そしてアジアの多くの国よりも劣後している。
学生たちにこのことを知らせることを急務と考え、本書とその背後にある慶應義塾大学フィンテックセンター(FinTEK, Centre for Finance, Technology and Economics at Keio) は 2017年6月に、経済学部付属の経済研究所内に設置されるかたちで誕生した。フィンテックの利用はリーマン危機後に年々急拡大してきたにもかかわらず、そして卒業生の3割から4割 が金融業界に就職するにもかかわらず、慶應義塾大学経済学部では2017年 まで、フィンテックそのものを扱う授業は存在しなかったのである。フィンテックについての知識を身につけないまま学生を世に送り出しては、大学教員としての職責を果たしていない、一刻も早くフィンテックに関する研究と 教育を充実させなくてはならない、とわれわれは考えた。

こうして2017年秋より、本格的に「フィンテックの理論と実践」という講座を開設した。この危機感をご理解くださった企業(後述)のご協力なし には、FinTEK 設立と「フィンテックの理論と実践」開講は実現しなかった。 この場を借りて厚く御礼申し上げたい。幸い、2016年秋から約100名で先 行開講したこの授業の履修者は、2018年春には300名を数え、2019年春に至っ ては500名を超えるところまできた。そこで2018年春に開講した「フィンテッ クの理論と実践a」の講義内容を一冊にまとめて残せるかたちで世に出したいというわれわれの希望に応え、編集の労をとってくださった慶應義塾大学出版会の増山修さんにも感謝を表したい。

このようにして誕生した本が一時のブームにあやかる話ではないことは明らかであろう。本書のもう一つの特徴は、なぜ金融の先端技術が今日かくる急速に変容を遂げてきているのかを、その背後に存在する経済学の原理を ベースに解説する点である。それと同時に実社会でフィンテックに関わる方々に筆を執っていただき、その政策的、法的側面についても第一人者の見解を含めることができた。
なお、本書にたびたび登場する「仮想通貨」は、公式には「暗号資産」と呼ぶことになったが、本書では各章著者に任せていることをお断りしたい。 また、各章を読む順番は、読者の関心と知識にてらして読者自身が決めてい ただきたい。

好むと好まざるとにかかわらず、フィンテックと何らかのかたちで接することなく今後の世界を生きることはできない。フィンテックを活用できるかどうかは、個人が仕事の面で成功し毎日の生活を便利で楽しいと感じることができるかどうかのみでなく、一国の経済的繁栄と安全保障も決めてしまう。 それほどに大きな変化なのである。読者には、本書を読むことでフィンテックの基礎を理解し、その影響がいかに幅広く深いものであり得るかに思いを馳せ、慣習にとらわれない自由な発想を持ってフィンテックを味方につけていただきたい。

2019年6月
編者

2018年度 FinTEK 協力企業(敬称略)
フィンテックの理論と実践 a
みずほ証券株式会社寄付講座) みずほ証券株式会社 日本アイ・ビー・エム株式会社
フィンテックの理論と実践 b
KPMG ジャパン 株式会社新生銀行 みずほ証券株式会社 三井住友信託銀行株式会社 株式会社三井住友フィナンシャルグループ 三菱 UFJ信託銀行株式会社
フィンテックとソーシャルインフラストラクチャa (KPMG ジャパン寄付講座) KPMG ジャパン
フィンテックとソーシャルインフラストラクチャb (KPMG ジャパン寄付講座) KPMG ジャパン

嘉治 佐保子 (編集), 中妻 照雄 (編集), 福原 正大 (編集)
出版社 : 慶應義塾大学出版会 (2019/8/23)、出典:出版社HP

目次

第1章 フィンテックの全体像
嘉治佐保子
1 フィンテック発展の経緯
2 本書の構成
3 フィンテックのミクロ的影響
4 フィンテックのマクロ的影響
5 エピローグ信なくば立たず
第2章 フィンテックのマクロ経済学的理解
吉野直行
1 フィンテックの発展とデータ分析の必要性
2 日本の財政赤字の拡大とその解決のための理論・実証分析
3 高齢化のもとでは金融政策・財政政策の有効性が低下する
4 諸外国と比べた日本の資産運用
第3章 暗号資産(仮想通貨)と中央銀行デジタル通貨
岩下直行
1 暗号資産の高騰と暴落
2 ビットコインの誕生とその前史
3 キプロス危機による覚醒
4 2017年の高騰と2018年の暴落
5 ICO という打出の小槌
6 交換業者へのサイバー攻撃
7 キャッシュレス化と中央銀行デジタル通貨
(1) 高まる中央銀行デジタル通貨の議論:ビットコインが与えた
ショック
(2) さまざまな中央銀行デジタル通貨構想:三つの系譜
(3) 先進主要国中央銀行によるデジタル通貨:実装にはまだ遠い「研究」
(4) 新興国、途上国における金融包摂と中央銀行デジタル通貨
(5) 南米における中央銀行デジタル通貨の実装
8 キャッシュレス化と通貨の未来
世界におけるキャッシュレス化の動き
日本におけるキャッシュレス化の動き
第4章 消費者行動と金融マーケティング
千田知洋・竹村未和
1 金融の役割と銀行
2 フィンテックと銀行
3 マーケティングとイノベーション
(1)マーケティングとは
(2)イノベーションとは
(3)マーケティング×イノベーションとその事例
4消費者行動とマーケティング
消費者行動の変化とターゲティング手法
5 データベース・マーケティング
(1) 顧客分析の手法の変化
(2) データベース・マーケティングメイノベーションとそのリノベーションとその事例
6 企業活動の起点
第5章 フィンテックの既存金融機関への影響
多治見和彦
1 フィンテックの概観
2 金融業界とテクノロジ
3 増大するデータ、進化するシステムとアルゴリズム
4 テクノロジーの見通し
5既存金融機関の状況
6 スタートアップ・フィンテック企業の金融サービスへの参入
7 既存金融機関は何をすべきか
8 異業種との連携手段としてのAPI
9 新規ビジネス創出のためのアプローチ
10 新規ビジネス創出のための組織
第6章 フィンテックにおける起業
福原正大
1 起業の経済的意義
資本主義の機能不全
イノベーションのジレンマ
(3) 起業のすヽめ
2 世界と日本におけるフィンテック分野の起業
(1) 起業後進国・日本
(2) 起業を阻害するマインド
3 フィンテック起業入門
(1) 起業に関する正しい知識を得る
(2) 起業におけるデザインシンキングの重要性 102 (3) 起業のステップ103
(4) 事業プランの書き方とエレベーター・ピッチ 109 4 起業に向けての心構え 110
第7章 フィンテックの国際資本市場への影響
スピリドン・メンザス
1 なぜフィンテック企業は急成長しているのか
フィンテック企業が獲得している旺盛な出資
フィンテック分野が台頭した背景
注目企業の地域別、セクター別分布
(4) 日本でのフィンテック業態を考える
2 毎年増加している米国に比べてなぜ日本ではユニコーン企業が育たないのか
国別、ステージ別ベンチャー投資の内訳
米国におけるベンチャー企業 IPO時のリターン
米国で成熟しているレイトステージ市場
日本でユニコーン企業が生まれにくい環境
第8章 暗号資産がもたらすアーキテクチャと法制
増島雅和
1 サイバー空間における規律
2 暗号資産とは何か
(1) 国際金融の文脈における理解
(2) 日本における理解
3 金融サービスにおける分散台帳技術のインパクト 一
分散台帳技術の意義
分散台帳技術のインパクト
4 伝統的なアセットの「トークン化」
5 暗号資産の外延
6 暗号資産に対する規律
問題の所在
業法による規律
(3) 私法による規律
7 統合的な制度設計の構築へ
第9章 フィンテック:金融の新時代
三輪純平・松井勇作
1 金融庁はフィンテックをどう捉えているのか「金融デジタライゼーション戦略」の策定
2 革新的な金融サービスが生まれる環境を機動的に整備していく動き
(1) フィンテックの台頭を新たな「機会」として捉える動き
(2) フィンテックの進展による「機会」がもたらす環境変化への機動的対応
(3) 決済インフラを活かし、さらなる決済高度化に向けた機動的対応
(4) 金融庁のサポートツールによる機動的な支援 FinTech サポートデスク・実証実験ハブ・海外協力・FinTech Innovation Hub
3 フィンテックの動きにも適合した規制体系構築に向けた機
動的な検討(機能別・横断的法制)
4 分散化された金融システムにおける課題―新たな国際連携の確立に向けて
第10章 ブロックチェーンの基礎
福原正大・嘉治佐保子
1 ブロックチェーンとは何か
ブロックチェーンの誕生
ブロックチェーンの実態
ブロックチェーンの問題点
(4) ブロックチェーンの利点
2ブロックチェーンを利用した送金の例
3 ブロックチェーンの可能性
ビジネスにおける可能性
金融サービス
ブロックチェーン上の仮想通貨の通貨としての役割
その他の応用例
第11章 機械学習の原理と応用
中妻照雄
1「考える機械」による問題解決
2 データに基づく学習
3 機械学習の原理
4 今後の学習に向けて
第12章 HFTの仕組みとその功罪
・情報効率性への挑戦
中妻照雄
1「投機」は悪か?
2 株式市場で取引が成立する仕組み
3 HFTの功罪
4 情報効率性の壁 –224
第13章 資産運用とロボアドバイザー
中妻照雄
1 人生100年時代の資産運用
2 分散投資と長期投資
3 ポートフォリオ選択問題の定式化
4 資産運用の UI/UX ツールとしてのロボアドバイザー
第14章 フィンテックがもたらす新たなリスク (1) サイバーセキュリティ
宮内雄太
1 フィンテック時代の資産保護体制
2 フィンテックにかかわるサイバーセキュリティリスク
不正アクセス
サービス提供の中断または停止
(3) 賠償の発生やレピュテーションの低下
3 サイバーセキュリティリスクへの対応
(1) リスクアセスメント(リスク特定・リスク分析・リスク評価)
(2) リスク対応
4 今後避けては通れないセキュリティの強化
第15章 フィンテックがもたらす新たなリスク (2)一金融システムの不安定化
池尾和人
1 次の金融危機?
2 金融危機のメカニズム
(1)トリガーと増幅メカニズム
(2)システミック・リスク
(3)増幅メカニズムの取付け
(4)増幅メカニズムの投売り
(5)危機対策
3 次の金融危機の可能性
4 将来の展開
執筆者略歴
編者略歴
装丁 渡辺 弘之

嘉治 佐保子 (編集), 中妻 照雄 (編集), 福原 正大 (編集)
出版社 : 慶應義塾大学出版会 (2019/8/23)、出典:出版社HP

フィンテック FinTech (やさしく知りたい先端科学シリーズ4)

豊富な図解でよくわかる

お金とそれを動かす仕組みである金融を、スマートフォンやインターネットなど、新しいデジタルテクノロジーを使って便利にする「フィンテック」は、決済や融資・資産運用・仮想通貨などの分野で様々なサービスが始まっています。本書は、キャッシュレス決済や仮想通貨、ロボアドマイザーなどについて実例や仕組みをわかりやすく図解します。

大平 公一郎 (著)
出版社 : 創元社 (2019/6/14)、出典:出版社HP

はじめに

皆さんは、外食や買い物をするときに、うっかりお金の持ち合わせがなく、近く にATM もないという困った状況に陥ったことはありませんか。また、それが最近であれば、「スマートフォンで支払いができて助かった」という経験もあるのではないでしょうか。
このように、日常生活になくてはならない「お金」とそれを動かすしくみである 「金融」を、スマートフォンやインターネットなど、新しい「デジタルテクノロ ジー」を使って便利にする「フィンテック」(FinTech)は、今、少しずつ私た ちの生活の中に溶け込みはじめています。
一方、「フィンテック」という言葉だけでは、それがどういうものなのかよくわからないのも当然です。本書では、決済や融資・資産運用・仮想通貨など、フィンテッ クの主要な領域について解説をすることで、全体像を把握していただけるように 心がけています。また、フィンテックでは、創業から数年程度しか経たないけれど もデジタルテクノロジーに精通したスタートアップ企業が大きな役割を担うなど、 フィンテックを取り巻くエコシステムのあり方を理解することも重要なポイントです。

フィンテックの普及は日本だけで進んでいるわけではありません。むしろ、金融インフラの整備が遅れていた新興国のほうが、スマートフォンを活用したフィン テックサービスが急速に進んでいます。また、ICTの分野で世界のリーダーとも言える米国や、キャッシュレス決済で先行する北欧諸国など、さまざまな国や地域のフィンテック利用の状況を知ることは、日本のフィンテックのあり方を考えることにつながるでしょう。
フィンテックによって、金融サービスは早く、便利になっていきます。一方で、 プライバシーの保護やセキュリティ対策などの大きな課題も抱えることになります。読者の皆さんが、これからのフィンテックサービスについて考え、また、課題の解決に取り組む際に、本書がその一助になれば幸いです。

2019年4月 大平公一郎

はじめに

Chapter1
新しいテクノロジーを活用した金融「フィンテック」
Section 01 すでに身近にある「フィンテック」
Section 02 フィンテックを構成する主要分野
Section 03 「スタートアップ企業」がメインプレイヤー
Section 04 フィンテックは「X-Tech」の代表格
Section 05 フィンテックに重要なテクノロジー
Section 06 フィンテック普及につながる社会背景
Section 07 フィンテック導入のメリット
用語解説
Chapter2
フィンテックによる金融サービス革新
Section 01 キャッシュレスに向かう決済
Section 02 キャッシュレス化のメリット
Section 03 ICカードを利用した決済
Section 04 スマートフォンやタブレット端末を利用した決済
Section 05 音声へ移るeコマース市場と決済
Section 06 無人化する店舗と決済
Section 07 シェアリングエコノミーと決済
Section 08 フィンテックによる資金調達方法の変化
Section 09オンラインレンディング
Section 10 信用スコア
Section 11 クラウドファンディング
Section 12 ロボアドバイザー
Section 13 海外送金サービス
Section 14 仮想通貨
Section 15 ブロックチェーン
Section 16 ICO(イニシャル・コイン・オファリング)
用語解説
chapter 3 フィンテックのエコシステム
Section 01 ビジネスにおけるエコシステム
Section 02 スタートアップ企業
Section 03 GAFAの取り組み
Section 04 新興国のSuper Apps
Section 05 既存金融機関の動き
Section 06 OR-T/API
Section 07 アクセラレーターとインキュベーター
Section 08政府・監督機関の対応
用語解説
Chapter4
世界で広がるフィンテックの利用
Section 01 米国のフィンテック事情
Section 02 中国のフィンテック事情
Section 03欧州のフィンテック事情
Section 04 日本のフィンテック事情
用語解説
Chapter 5 新しいテクロジーを活用した保険「インシュアテック」
Section 01 保険のしくみ
Section 02インシュアテックとは
Section 03 デジタル化による業務プロセスの改善.
Section 04 IoTと保険
Section 05 インシュアテックと新しい保険の形.
用語解説
Chapterフィンテックがもたらす新しい金融と社会
Section 01 決済に気づかない世界
Section 02信用スコア社会と高速融資
Section 03 いつでもどこでも何にでも保険
Section 04 金融データが生み出す新しいサービス
Section 05 仮想通貨とブロックチェーンの未来
Section 06 プライバシー確保とセキュリティは大きな課題
さくいん
参考書籍・写真提供

新しいテクノロジーを活用した金融
「フィンテック」
スマートフォンやクラウド、ビッグデータ、AIなどの
技術革新に支えられたフィンテックサービスは、 社会的背景という追い風の中、急速に広がっています。

すでに身近にある「フィンテック」

Section [01] 金融×技術=フィンテック

「ファイナンス」(Finance)と「テクノロジー」(Technology)を組み合わせた造語「フィンテック」(FinTech)という言葉は、一般の人にはまだ馴染みがなく、何か最新のテクノロジーで、一部の人たちだけが利用しているというイ メージを持つかもしれません。しかし実は、私たちはすでに普段の生活の中でフィンテックを利用しているのです。
皆さんは買い物をするとき、どのようにして支払いをするでしょうか。日本で は、多くの人は紙幣や硬貨を使って現金で支払うと思います。しかし最近では、 クレジットカードやSuica(スイカ)、ICOCA(イコカ)のようなICカードで 電子マネーを使う方も多くなっています。ポイントが貯まるお得さも、カードや 電子マネーの利用を後押ししているでしょう。さらには、「Apple Pay」(アッ プルペイ)や「Google Pay」(グーグルペイ)など、スマートフォンを使って支払いをする人も増えてきています。こうした現金を使わずIC カードやスマートフォンを使って支払うしくみは、代表的なフィンテックなのです。
フィンテックによる素早く、安全な決済では、現金を使って支払う場合とICカードやスマートフォンを使って支払う場 合の大きな違いはどこにあるでしょうか。
消費者が店舗で買い物をして現金で支払う場合、店舗はまず代金をレジの中にしまうでしょう。ある程度の金額が貯まったところで、自らが銀行に持っていく、 もしくは専門の業者に回収してもらい、銀行に預けるという流れになります。 よって、現金を受け取ってから銀行口座にお金が入るまでに長い時間がかかり、 現金を途中でなくしてしまうことや、盗まれてしまうといった危険もあります。
一方、消費者がICカードやスマートフォンを使って支払いをした場合はどうでしょうか。
店舗のレジに備わっている読取機を使って支払いをすると、支払った金額データ がネットワークを通じてクレジットカード会社や電子マネーを運営する企業に瞬時に送られます。支払いから銀行口座にお金が振り込まれるまでの時間も短縮することが可能になり、途中でなくすといったリスクもなくなります。
これまでも、銀行などの金融機関は社内の効率化のためにICT(Information and Communication Technology) 投資を積極的に行ってきました。しか しフィンテックでは、金融機関の内部にとどまらず、一般の消費者・店舗・企業 などがインターネットやスマートフォンを利用し、デジタル化されたネットワークでつながることで、素早く、安全に利用できるようになっていることが大きな特徴なのです。

フィンテックを構成する主要分野

Section [02] 身近な金融サービスがフィンテックの対象

前節では、フィンテックの例として、店舗での支払いのシーンを取り上げました。 モノやサービスの購入と支払いを「決済」と言いますが、特に決済のキャッシュレス化はフィンテックの中でも多くの人や企業が関心を寄せている分野です。そ してフィンテックの主な分野には、「決済」以外に「融資」「資産運用」「送金」「家 計管理」「仮想通貨」などがあります。
融資では、インターネットを駆使して情報収集をし、個人や企業と投資家を直接 に結びつけるオンラインレンディング(+2.052)が、銀行に代わって人々の資金需 要に応えています。
資産運用では、投資家それぞれに適した投資プランのアドバイスを提供したり、 自動で運用までしてくれるロボアドバイザー(→P058)が利用されています。
送金は、日本ではあまり馴染みがない海外送金(→P.06.2)について、手数料を安く、 早く行うことができるフィンテックサービスが欧米などで普及しています。また、友達同士などで、気軽にスマートフォンのアプリを通じて送金ができる、 P2P(Peer to Peer)送金サービス(P.040)も利用者が増えています。
家計管理は、PFM (Personal Financial Management)とも呼ばれ、複数 の銀行口座や証券口座、クレジットカードなどの利用履歴(収入・支出・残高な ど)を集約し、パソコンやスマートフォンのアプリから一覧できるようにする サービスです。日本では、マネーフォワードやマネーツリーが家計管理サービスを提供しており、すでに利用している方もいることでしょう。
「ビットコイン」に代表される仮想通貨(P.066)は、強制通用力(金銭債務の弁 済手段として用いることができる法的効力)を有する法定通貨ではありませんが、インターネット上で広く普及し、活発に取引されています。
このように、フィンテックの多くは、従来から存在していた金融サービスですが、 新しいデジタルテクノロジーを利用することで、もっと便利に、安く使えるよう にしたということが特徴なのです。

大平 公一郎 (著)
出版社 : 創元社 (2019/6/14)、出典:出版社HP

図解 FinTechが変えるカード決済ビジネス

FinTechの基本がわかる

最近、決済に関わるFinTechが次々と生まれています。しかし、最新のテクノロジーには、日本の法制度や市場に合っていないソリューションも多く含まれているため注意が必要です。本書では、決済の基本的なしくみとトレンド、主要なFinTechがわかるようコンパクトに解説しています。金融決済分野に関わる人におすすめの本です。

本田 元 (著)
出版社 : 中央経済社 (2017/2/8)、出典:出版社HP

本書に記載されている内容は執筆時点のものであり、永続的な状況を示すものではありません。各法規や施行規則、自主規制などは状況に応じて変化しますので都度確認をお願いします。また、本文中に記載されている会社名、製品名は、各社の登録商標または商標であり敬称は省略させていただきました。本書を基に何らかの意思決定をされるにあたっては、それぞれの顧問弁護士、会計士などエキスパートの助言をあおいでください。なお、本書は筆者が現在または過去に属する組織の見解ではなく個人の見解を述べたものです。筆者は本書記載の内容によって引き起こされるすべての事象について何ら責任を負うものではありません。

はじめに

金融は文明の誕生と同時に生まれた。もっとも古いビジネスモデルであり、契約に関する取り決めは、最古の成文法である「ハンムラビ法典」の4分の1を占めています。
一方、決済は常にテクノロジーの進化に伴って発展してきました。貝や巾(布)などの物品貨幣が鋳造・鍛造の技術により貨幣となり、印刷技術の誕生により紙幣やプラスティックカードに発展してきたのです。
次いで、情報通信テクノロジーの登場により電子決済や仮想通貨が生まれ、カードは決済の基盤テクノロジーとなっています。

決済機能を持つカードはFinTechそのものなのです。
しかし、決済は国家の歴史やその地域の文明に左右される特徴を持っています。つまり,国家特有の法律や規制によって使えるFinTechと使えないFinTechが存在するのです。
筆者は、クライアントを同行して毎年数回海外取材を続けており、本書の執筆にあたり、市場環境に合う実際のFinTech情報を現地で収集してきました。
本書は、最新の取材結果を踏まえ, FinTechの現状とわが国での有用性を探るものです。 金融決済分野にかかわる読者の皆様のお役に立つことができれば幸甚です。

2017年1月
著者

本田 元 (著)
出版社 : 中央経済社 (2017/2/8)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 なぜFinTechが誕生したのか?
1 リーマンショック関連規制の反動から生まれたFinTech
2 米国のクレジットカード規制
3 米国の規制緩和とJOBS法
4 FinTech関連カンファレンス
5 最先端テクノロジーがカードビジネスを加速する
6 世界のFinTech
7 米国のベンチャーFinTech支援
8 日本のFinTech取り組み(1)
金融機関とFinTech
9 日本のFinTech取り組み(2)
FinTechと規制緩和
10 日本のFinTech取り組み(3)
決済データ活用

第2章 日本のカードビジネスとFinTech
1 わが国のカードビジネスの特徴
2 金融政策がカードビジネスに与えた影響(1)
カード発行
3 金融政策がカードビジネスに与えた影響(2)
取扱高
4 金融政策がカードビジネスに与えた影響(3)
クレジットと法
5 金融政策がカードビジネスに与えた影響(4)
プリペイドと法
6 金融政策がカードビジネスに与えた影響(5)
インフラ
7 加盟店の課題と法対応
8 日本はカード決済が独自仕様で特異なカード決済文化をもつ
9 優れた日本の金融システム

第3章 FinTechとモバイルファースト
1 モバイルFinTechの進化(1)
非接触決済の基本技術の登場
2 モバイルFinTechの進化(2)
AndroidのNFC対応
3 モバイルFinTechの進化(3)
ApplePayの登場と日本ローカル仕様
4 モバイルFinTechの進化(4)
Visa payWaveやMasterCardコンタクトレスは
インターフェイス
5 ApplePayに見るテクノロジーと戦略(1)
標準化
6 ApplePayに見るテクノロジーと戦略(2)
アライアンス

第4章 FinTechのテクノロジー
1 国内FinTechトレンド
2 ペイメントシステムのFinTechトレンド(1)
通信
3 ペイメントシステムのFinTechトレンド(2)
データ処理
4 ペイメントシステムのFinTechトレンド(3)
個人認証
5 ペイメントシステムのFinTechトレンド(4)
近接決済
6 ペイメントシステムのFinTechトレンド(5)
近傍決済
7 ペイメントシステムのFinTechトレンド(6)
BIN保持はサーバー上に
8 ペイメントシステムのFinTechトレンド(7)
BINはトークン化
9 ペイメントシステムのFinTechトレンド(8)
クレジットから国際ペイメントへ
10 ペイメントシステムのFinTechトレンドのまとめ
11 FinTechのカード関連テクノロジー(1)
磁気ストライプ関連1
12 FinTechのカード関連テクノロジー(2)
磁気ストライプ関連2
13 FinTechのカード関連テクノロジー(3)
ICカードへの対応
14 FinTechのカード関連テクノロジー(4)
カードビジネスと暗号
15 FinTechのカード関連テクノロジー(5)
ICカードと暗号
16 FinTechのカード関連テクノロジー(6)
暗号化(施錠),複合化(解錠)とは

第5章 FinTechのテクノロジーキーワードとカードビジネス
1 Send Money(送金(為替))モデル
2 カード決済セキュリティ, トークナイゼーション(Token-ization)
3 トークナイゼーションの実際
4 カードビジネスとビッグデータ
5 カード決済リテールペイメント(mPOS)

第1章 なぜFinTechが誕生したのか?

1 リーマンショック関連規制の 反動から生まれたFinTech
米国ではリーマンショック(2008年9月15日)に端を発し,2010年に採択されたドッド・フランク金融改革法(The Dodd-Frank Wall et Reform and Consumer Protection Act)や上場企業会計改革および投資家保護法(Public Company Accounting Reform and Investor Protection Act of 2002:サーベンス・オクスリー法,企業改革法,通称 SOX法)による規制強化の影響が徐々に大きくなり、その反動としての規制緩和がFinTechの発端となっています。

ドッド・フランク金融改革法の影響
ドッド・フランク金融改革法は,2008年以降のリーマンショック金融危機の原因と考えられた多くの事項に対応するために、2010年7月に成立した米国の金融規制改革法です。
法の目的は、金融機関の説明責任と透明性の向上を通じて、米国金融システムの安定性を向上させることです。同法の対象は広く、金融機関にとどまらず、金融システムに影響を及ぼす可能性のある業務をビジネス対象とする企業も規制の対象としており、一定の条件を満たす銀行持株会社やノンバンクも規制の対象に含まれています。
その内容は、
・システム上重要な金融機関の規制監督の強化
・システム上重要な金融機関の破綻処理法制の整備
・店頭デリバティブ規制の強化
・ヘッジファンドなど私募ファンド助言業者への規制強化
・上場会社の規律強化
・流動性要件や資本健全性要件等のリスク管理基準設定(健全性要件)
・銀行本体からのスワップ業務の分離(スワップ・プッシュアウト・ルール: Swaps Push-out Rule)
・銀行による自己投資の原則禁止(ボルカー・ルール:Volcker Rule)
です。

リーマンショックから規制強化へ

用語解説
1 リーマンショック
米国の投資銀行,リーマン・ブラザーズの破綻が発端となり、続発的に発生した世界的金融危機。
2スワップ業務
等価のキャッシュ・フローを交換する取引。
3 ノンバンク
消費者金融、クレジット会社、信販会社など、預金業務を行わず、銀行からの融資などによって調達した資金でクレジットやリース,ファクタリング、資金決済業などの金融業務を行う企業。わが国では銀行は免許制,ノンバンクは貸金業法や資金決済業に基づく登録制。
4 ボルカー・ルール
銀行が自らの資金(自己勘定)で自社の運用資産の効率を図るためにリスクを取って、金融商品を購入・売却または取得・処分をすることを禁止するルール。

本田 元 (著)
出版社 : 中央経済社 (2017/2/8)、出典:出版社HP

図解入門ビジネス 最新FinTechの基本と仕組みがよ~くわかる本

最新テクノロジーによる金融サービスがわかる

「やさしく知りたい先端科学シリーズ」の1冊であり、そのタイトル通り、知識がゼロの状態からでもわかるように丁寧に解説されています。本文中にはイラストも多用されており、仕組みについて視覚的にもわかりやすくなっています。初学者におすすめです。

長橋賢吾 (著)
出版社 : 秀和システム (2016/12/2)、出典:出版社HP

●注意

(1) 本書は著者が独自に調査した結果を出版したものです。
(2) 本書は内容について万全を期して作成いたしましたが、万一、ご不審な点や誤り、記載漏れなどお気付きの点がありましたら、出版元まで書面にてご連絡ください。
(3) 本書の内容に関して運用した結果の影響については、上記(2)項にかかわらず責任を負いかねます。あらかじめご了承ください。
(4) 本書の全部または一部について、出版元から文書による承諾を得ずに複製すること
は禁じられています。
(5) 本書に記載されているホームページのアドレスなどは、予告なく変更されることが
あります。
(6) 商標
本書に記載されている会社名、商品名などは一般に各社の商標または登録商標です。 なお、本文中には、™️、®︎を明記しておりません。

はじめに

筆者は、先日、ある金融機関の方とこんな話をする機会がありました。「上司から、FinTechをウチもやるからサービス考えておいて、と言われたけど、そもそもFinTechって何のためにあるの?」。この方に限らず、こうした疑問を お持ちの方は意外と多いのではないでしょうか。
FinTechは、金融(Financial)+技術(Technology) の略であり、一般的には、金融に新しいテクノロジーを持ち込むこと、と定義されています。では、新しい技術とは何か?それが本書の中心となるテーマです。

本書において、この新しい技術は、それぞれの技術ではなく、むしろ、社歴の浅いスタートしたばかりのスタートアップ企業が生き残りをかけて製品開発+マーケティングをすることで生み出されたモノ・サービスと定義し、そうしたスタートアップ企業が既存の金融ビジネスを変革(ディスラプション)することがFinTechの流れと考えます。
こうしたFinTechは、既存の金融機関にとって自社のビジネスを奪う脅威となるのか、それとも、お互いを補完しあう共存関係となるのか。本書では、後者の立場、すなわち、既存の金融機関がスタートアップ企業による新しいモノ・サービスを積極的に取り入れることが、今後のFinTechの発展に不可欠と考えます。そして、そうした共存を実現するためには、既存の金融機関は、スタートアップ企業を理解する必要があり、その概観を提供する、というのが本書の狙いです。

具体的には、第1章でFinTechの概要について概観し、第2章では銀行の機能のうち融資ならびにクラウドファンディングを取り上げ、第3章では決済を取り上げます。第4章ではFinTechと保険について触れ、第5章ではロボアドバイザーを中心とした資産運用について取り上げます。第6章では、新しい技術として注目されているビットコイン・ブロックチェーンについて触れます。そして、第7章では、こうしたスタートアップ企業がどういう技術基盤に強みを持つかを触れます。本書は、海外の事例を主に取り上げますが、日本の事例についても第8章で取り上げます。

2016年11月
長橋賢吾

長橋賢吾 (著)
出版社 : 秀和システム (2016/12/2)、出典:出版社HP

CONTENTS

はじめに

第1章 FinTechとは何か?
1-1 FinTechとは何か?
1-2 破壊的イノベーションをもたらすFinTech
1-3 FinTechとエコシステム
1-4 FinTechとAPIエコノミー
1-5 FinTech先進国中国の第3者決済
1-6 ビットコインとブロックチェーン
1-7 第1章のまとめ
コラム シリコンバレーとオールブラックスに見る裾野の広さ

第2章 FinTechで変わる融資
2-1 クラウドファンディングとは?
2-2 P2Pレンダリング大手一岐路に立つレンディングクラブ
2-3 融資をマッチングするレンディングツリー
2-4 卒業生と学生とに融資を絞るSoFi
2-5 世界最大のFinTech企業Lufax
2-6 第2章のまとめ

第3章 FinTechで変わる決済
3-1 FinTechと決済機能
3-2 ウーバームーブメントとは?
3-3 海外送金でイノベーションを起こすトランスファーワイズ
3-4 携帯電話を銀行口座にするM-PESA
3-5 インドのモバイルワレットペイティーエム
3-6 モバイルPOSを提供するスクエア
3-7 第3章のまとめ
コラム アナログの効用

第4章 FinTechで変わる保険
4-1 FinTechと保険業務
4-2 天候データに強みを持つクライメートコーポレーション
4-3 P2P保険のフロンティアを開拓するフレンドシュランス
4-4 ディスカバリー社の三方よしのビジネスモデル
4-5 第4章のまとめ

第5章 FinTechで変わる資産運用
5-1 FinTechと資産運用
5-2 ロボアドバイザーとは?
5-3 ウェルスフロントによるロボアドバイザー運用
5-4 お金のデザインによるロボアドバイザー THEO
5-5 PFMサービスを提供するミントドットコム
5-6 第5章のまとめ
コラム アクティブ運用での勝ち方

第6章 ビットコインとブロックチェーン
6-1 ビットコイン・ブロックチェーンとは?
6-2 ビットコイン取引所一コインベース
6-3 ビットコインを活用したP2P送金一Abra
6-4 金融機関でのブロックチェーン利用をリードするR3 CEV
6-5 価値のインターネットを提供するリップル
6-6 第6章のまとめ
コラム 広く併せ呑むブロックチェーン

第7章 FinTechを支える技術
7-1 ウェブサービスとしてのFinTech
7-2 モバイルUX
7-3 大規模サービスインフラを支える技術
7-4 サービスを連携するウェブAPI
7-5 データから価値を産む人工知能
7-6 第7章のまとめ
コラム 正規分布とブラックスワン

第8章 日本のFinTech
8-1 日本のFinTech―融資編
8-2 日本のFinTech―決済編
8-3 日本のFinTech―保険編
8-4 日本のFinTech―資産運用編
8-5 日本のFinTech―ビットコイン・ブロックチェーン編
コラム 世界の中の日本

おわりに
索引

第1章 FinTechとは何か?

最近、新間・雑誌などの紙メディアあるいはウェブのニュースといったウェブメディア、様々なメディアにおいて、「フィンテック」が取り上げられています。では、このフィンテックとは一体何を指すのでしょうか?本書では、このフィンテックをスタートアップ企業による銀行、保険、証券、クレジット決済といった金融サービスの展開と定義します。
従来までは、銀行・証券・保険といった金融サービスを展開するためには、規制、複雑なシステム開発など、様々なハードルがありました。しかしながら、スタートアップ企業がこうしたハードルを越え、そして、何よりも利用者にとって利便性を提供することで、既存の金融機関と差別化をします。
スタートアップ企業による金融サービスの展開――このフィンテックは金融機関にとって既存のビジネスを奪う脅威ともなれば、そのサービスを一緒に活用することで連携する、いずれも考えられます。では、このフィンテックがどう影響を及ぼすのか、見ていきます。

1-1 FinTechとは何か?

最近、フィンテックというキーワードをしばしば目にします。このフィンテック、スタートアップ企業による金融サービスの展開であり、こうしたスタートアップ企業は、製品開発+マーケティングを同時に行うことでユーザのニーズを取り込みます。

フィンテックはバズワード?

最近、フィンテックというキーワードを見かける機会が増えました。でも、このフィンテック、クラウド、ビッグデータのように、定義が曖昧のまま、人や立場によって都合良く解釈する、いわゆる、バズワード、と言ってよいかもしれません。
とはいうものの、クラウド、ビッグデータがかつてバズワードと呼ばれながらも、様々な場面で利用が促進されたことで、徐々に市民権を得て、一般的に利用されつつあるようになったように、フィンテックもいずれは、当たり前に利用されるようになるのではと筆者は考えます。

フィンテックの定義

このフィンテックとは何者でしょうか?そもそも、フィンテックは、Financial Technology、直訳すれば、金融技術です。銀行、保険、証券、クレジット決済といったサービスを提供する金融機関は、情報技術(IT: Information Technology)を活用します。すなわち、あえて「フィンテックと呼ばずとも、すでにITを積極的に活用しています。たとえば、銀行であれば、ある利用者が、現在、どれだけ普通預金に残高があり、次の引落しでどれだけ残高が減るか、これを紙のようなアナログで処理していては、とても手間がかかります。こうしたこともあり、金融機関は、他の業種に先駆けて60年以上前からコンピュータを導入してきました。
このようにITを積極的に活用している金融サービスについて、あえて、”フィンテック”をつけなくてはいけない理由、それは、やはり、情報技術が進化している点にあります。具体的には、スマホ経由での金融サービスの利用、仮想通貨の利用などです。そして、スタートアップ企業(本書では、ベンチャー企業、テクノロジー企業、これをあわせてスタートアップ企業と呼びます)によって、こうした新しい金融サービスが展開されつつあり、本書では、このフィンテックをスタートアップ企業による金融サービスの展開と定義します。

シリコンバレーがやってくる

スタートアップ企業による金融サービスであるフィンテックが既存の金融機関に対してどのような影響を与えるのでしょうか?米国大手銀行グループJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは、2015年同社の投資家向け年次報告書において「Silicon Valley is coming (シリコンバレーがやってくる)」と指摘しています。「シリコンバレーがやってくる」に続いてダイモンCEOは、こう指摘します。

「there are hundreds of statups with a lot of brains and money working on various alternatives to traditional banking(優秀な頭 脳、潤沢の資金を持つ何百ものスタートアップ企業が既存の銀行を置き換 えようとしている)」

シリコンバレーは、米国サンフランシスコ近辺にあるベンチャー企業が集積しており、こうしたシリコンバレーに代表されるスタートアップ企業が既存の銀行ビジネスに影響を与えることを指摘しています。
生まれたばかりで従業員も数えるほどしかいないスタートアップ企業が、なぜ、何万人、何十万人と従業員を抱える金融機関にとって脅威となるのでしょうか?もちろん、数名のスタートアップ企業が、すぐに巨大金融機関の収益を奪うという話ではありません。むしろ、革命は辺境から始まる、というように、スタートアップ企業が金融の世界において革命を起こしつつある、これがフィンテックの流れと筆者は考えます。

長橋賢吾 (著)
出版社 : 秀和システム (2016/12/2)、出典:出版社HP

FinTech大全 今、世界で起きている金融革命

世界のFinTechがよくわかる

金融テクノロジーは多種多様な要素から構成されているため、FinTechのあらゆる側面や細部を自分だけで、あるいは自分たちだけで網羅できるなどという個人や集団は存在していません。本書は、FinTechとは何なのか、お金の課題を解決することができるのかという疑問を、85人に及ぶ最前線の実務家や専門家が丁寧に解説していきます。

スザンヌ・キシュティ (著), ヤノシュ・バーベリス (著), 瀧 俊雄 (監修), 小林 啓倫 (翻訳), 映像翻訳アカデミー (翻訳)
出版社 : 日経BP (2017/6/7)、出典:出版社HP

FinTech大全
今、世界で起きている金融革命

編著者 スザンヌ・キシュティ ヤノシュ・バーベリス
日本語版壁訳 瀧俊雄
訳者 小林啓倫 映像翻訳アカデミー

The FinTech Book
The Financial Technology Handbook for
Investors, Entrepreneurs and Visinaries

First published in 2016
Copyright 2016 Susanne Chishti and Janos Barberis
Japanese translation rights arranged
with John Wiley & Sons Limited
through Japan UNI Agency, Inc., Tokyo

はじめに

本書の編者である我々2人は、ほぼ同じタイミングでFinTech分野の研究を始めた。そしてすぐ、この分野に関して、信頼の置ける幅広い情報源がないことに気づいた。ある晴れた日、我々は英国ロンドンのカフェに集まり、互いがFinTechに対する情熱を抱いていること、そしてより研究を深めたいと願っていることを確認し合った。そして起業家にありがちな話だが、FinTechに関する知識のギャップを埋めるために、自分たちでFinTechの本を書こうと考えたのである――FinTechの入門者はもちろん、専門家にも役立つような内容の1冊を。それが本書の生まれたきっかけだ。
本書を読めば、これがFinTech分野で初となる「世界的クラウドソーシング」によって生まれた1冊であることに気づくだろう。グローバルな FinTechコミュニティーを頼り、数多くの寄稿者を集めた理由は、「金継テクノロジー」という世界が多種多様な要素から構成されるためである。FinTechのあらゆる側面や細部を自分だけで、あるいは自分たちだけで網羅できるなどという個人や集団は存在しない。さらに世界中から寄稿者を募ることで、我々はFinTechの精神にのっとって、コミュニケーションのテクノロジーを駆使して協力者たちと接触し、コンテンツを集め、精査することができただけでなく、世界中のあらゆる地域が、FinTechに対して発言権を持っているということを確認できたのである。そこで我々は、まだこの分野で注目されずにいる人々や、FinTechコミュニティーに参加していない人々に発言の機会を提供し、その声を世界中の読者に届けることを、本書の最も重要な目標の1つとすることにした。我々は本書の編さんを、心から楽しむことができた。読者の皆さんにも、我々と同じくらい本書を楽しんでもらえれば幸いである。

本書をまとめる課程で、27カ国から集まった160人以上の著者が、189の記事概要を提供してくれた。そして我々は、グローバルなFinTechコミュニティーにそれを渡し、本書に掲載する記事として議論を深めるのはどれがよいか、レビューしてもらえるよう尋ねたのである。さらに寄稿してくれた著者たちにアンケートを行い、彼らのバックグラウンドや専門領域について質問した。
要約すると、最終的に選ばれた記事の著者の出身国は、20ヵ国に達した。過半数(60%)が修士以上の学位を有しており、多様な分野で専門知識を持っている(図1)。また著者の93%が、これまでに著作が出版された経験を持っている。


図1 著者の専門領域(複数回答可)

図2では、著者の約半数がFinTech系スタートアップで働く起業家(その多くが創業チームの一員)であることが示されている。また彼らの4分の1が既存の金融機関、もしくはテクノロジー企業出身で、残りの4分の1はコンサルティング企業や法律事務所など、FinTech分野で各種サービスを提供する企業の出身である。


図2 著者の勤務先

著者の約5分の1が、従業員5人以内のスタートアップで働いており、55%が従業員100人以内のスタートアップまたは中小企業に勤務している。一方、著者の17%は従業員1000人以上の大企業で働いている。
起業家もしくは大企業における「社内起業家」としての活動を通じて、FinTech分野における高いスキルと多くの経験、そして情熱を持つ人々が著者として集まってくれたことを、我々は非常にうれしく感じている。彼らは皆、FinTech革命において重要な役割を演じている人物だ。こうした非凡な人々が、本書を通じて自らの知見を共有してくれている。
何よりもこのプロジェクトは、本書に多くの貢献と寄稿をしてくれた人々(最終的な記事を執筆してくれた著者たちだけでなく、最初に検討用の概要を書き、全世界のFinTechコミュニティーに提供してくれた方々)なしには成立しなかった。さらに、編集作業の最終段階で多くの助力をしてくれた、インナ・アメシェバ、スキ・ジュトラ、マヤ・ビーターソンの3人にもお礼を申し上げる。最後に、ワイリーの編集者の方々にも感謝したい。彼らのアドバイスと支援は、ロンドンのカフェで単なるアイデアとして生まれたこのプロジェクトを、皆さんが今、手に取っている本として実現することに大きく貢献してくれた。

2016年
スザンヌ・キシュティ、ヤノシュ・バーベリス
「FinTech大全今、世界で起きている金融革命」編著者

スザンヌ・キシュティ (著), ヤノシュ・バーベリス (著), 瀧 俊雄 (監修), 小林 啓倫 (翻訳), 映像翻訳アカデミー (翻訳)
出版社 : 日経BP (2017/6/7)、出典:出版社HP

目次

はじめに

第1章 イントロダクション
書籍に起きたこと、銀行に起きること
なぜ人々はFinTechに惹かれるのか
銀行業界を揺るがすFinTechの革命

第2章 FinTechの主要テーマ
銀行とFinTech競争より協調を
グローバルなコンプライアンスがカギを握る
21世紀の融資
個人情報
FinTechが起こす次のイノベーション
ノンバンクへと変貌する大手IT企業
FinTechのユーザー体験デザイン

第3章 FinTechハブ
英国 新たなFinTechコミュニティーを育てる
フランスでFinTechスタートアップは成功するか?
オランダ 統合されたFinTechエコシステムを目指す
ルクセンブルクはFinTechハブになり得るか
ウィーン モバイル決済の勝者となるか
インドのFinTechエコシステム
シンガポール 東南アジアのFinTechハプ

第4章 新興市場とFinTechの社会的影響
FinTechの社会的重要性 米国の事例から
メキシコ 金融サービスにおける差別を克服
途上国におけるFinTechの興隆
スマートフォン、FinTech、教育アンパンクト層にも金融サービスを
ナイジェリア FinTechの社会的インパクト
インド 社会参加の機会を増やすFinTech

第5章 FinTechソリューション
契約を書き換えるB2Bサプライチェーンへの道
決済システムとPOS
予測アルゴリズム
ピッグデータはコンプライアンスシステムの基礎
契約最適化を支援するFinTechソリューション
行動パイオメトリクス セキュリティーの新時代
トレーディング戦略としての超高速テキスト分析
規制クラウドファンディングのエコシステム
低コストの海外送金
中小企業向けFinTechソリューション
Apple Payをはじめとした決済ソリューション
金融以外の領域にも進出する FinTechソリューション
ウェアラブルのためのFinTech革命

第6章 資本と投資
投資と資本 基本の理解
最高のFinTech企業を生み出すエンジェル投資家
クラウドファンディングとP2Pレンディング
デジタル投資領域は破壊的変化をもたらすか?
投資家主導型アプローチによるクラウドファンディング
ロボアドバイザーはiPod 他業界の教訓から
アルファのクラウドソーシング
ヘッジファンドをクラウドソースする
資金調達の進化

第7章 既存の金融機関は変われるか?
銀行はイノベーションを起こせるか?
イノベーションラボは答えなのか?
FinTechと銀行カギを握るのはコラボレーション
金融とデジタルをすべての人へ
パートナーシップがカギを握る
コーポレートベンチャーキャピタル FinTechエコシステムの新たな有力プレーヤー
保険におけるFinTech

第8章 その他の成功事例
イートロ 世界最大級のソーシャル投資ネットワーク
アヴォカ 13年間の努力の末、突然得た成功
パンカプルサービスとしてのパンキング
シティグループのイノベーション物語 第2幕
FinTechスタートアップ 市場インフラ、ホールセールバンクと提携

第9章 暗号通貨とブロックチェーン
FinTechとデジタル通貨集約か、衝突か
プロックチェーンと暗号通貨

第10章 FinTechの未来
新技術が変える金融サービス
金融サービスの未来
データを活用した銀行サービスの刷新
FinTech銀行が世界を制覇する理由
FinTechスーパーマーケット 銀行は死んだ、銀行万歳!
FinTechベンチャーと銀行の提携で 生まれる統合型UX
銀行Techの台頭 銀行にとってのハイブリッドモデルの意義
リテールパンキングにおけるFinTechの衝撃 銀行は垂直統合へ
コネクテッドAPIエコノミー 「つながること」から価値が生まれる経済
金融は経済の血液
顧客の経済生活から摩擦を取り除く
未来はFinTechにあり
現金のない世界へ
FinTechにおける倫理

謝辞
日本語版監訳者あとがき
編者について
寄稿者一覧

FinTech (Financial Technology)は2016年に大きく注目された産業の1つだ。革新的なビジネスモデルや製品、サービスを持つスタートアッ プが数多く登場し、FinTech革命は世界中で金融業界を変えようとしている。FinTech企業が提供する数々の金融サービスは、これまで銀行が独占的に行ってきたものだ。銀行はFinTechブームを警戒すべきなのだろうか? 2015年末の記事で、米フォーブス誌は次のように解説している。
FinTechスタートアップの流行とブロックチェーン技術への関心の高まり、そしてミレニアル世代(訳注:1980年以降に生まれ、21世紀への変わり目の頃に社会に出た世代)の台頭により、銀行業界は変革の時代に入った。銀行は進化しつつあり、新たな情威や潜在的な不正リスクを検討する中で、サイバーセキュリティーへの対応が最優先課題となっている[1]。
本章ではFinTechを概観し、その背景や「FinTech」が何を意味するのかを整理する。本章の各稿は、第2章以降での詳細な議論を理解する上で、よい導入となるだろう。

[1] Frank Sorrentino, “Millennials and FinTech are Top of Mind for Traditional Banks, Forbes, 20 November 2015, http://www.forbes.com/sites/franksorrentino/2015/11/20/ heard-at-the-2015-aba-national-convention/

スザンヌ・キシュティ (著), ヤノシュ・バーベリス (著), 瀧 俊雄 (監修), 小林 啓倫 (翻訳), 映像翻訳アカデミー (翻訳)
出版社 : 日経BP (2017/6/7)、出典:出版社HP

知識ゼロからのフィンテック入門

FinTechの全容が理解できる

「フィンテック」とは、お金に関する悩みや不便をITで解決し、より良い金融サービスや、お金のあり方を追求するものです。本書では、フィンテックの全体像を掴むために、その成り立ちやサービス事例を掲載し、解説しています。フィンテックについて興味がある人におすすめの一冊です。

桜井 駿 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2020/5/27)、出典:出版社HP

はじめに

インターネットやスマートフォンの登場で、便利なサービスが次々と誕生し、私たちの暮らしに浸透し始めています。「お金」を扱う企業といえばこれまでは「銀行」や「証券会社」だけでしたが、巨大なIT企業がスマホのキャッシュレス決済サービスを提供したり、ベンチャー企業が資産運用サービスを提供したりと、その顔触れも豊かなものになっています。「お金」は私たちの暮らしに密接に関わるもので、無関係な人はまずいません。「フィンテック」は、そんなお金に関する悩みや不便をITで解決し、より良い金融サービスや、お金の在り方を追求するものです。「皆さんの財産であるお金を守るために、金融業者には厳しい規制がかけられていますが、技術やサービス出現の変化が早い現代においては、私たち利用者自身の金融リテラシー、ITリテラシーが求められています。
本書では、フィンテックの全体像をつかむために、その成り立ちやサービス事例を掲載し、解説しています。皆さんがフィンテックに興味を持ってくださり、生活や仕事で活用するきっかけになればと思います。
株式会社デジタルベースキャピタル 代表パートナー 桜井 駿

フィンテックって何? 理解するための7つのキーワード
フィンテックが誕生した背景、サービスの種類、現在の状況まで。
押さえておきたい7つのポイントを紹介します。

●:フィン子
お金の整理が苦手な社会人2年目子マネーやポイントを使いこなせない現金派。
◆:桜井先生
ベンチャーキャピタリストとして、フィンテック企業への投資や講演も数多くこなす。

IT技術で便利になった新しい金融サービス
●:数年前から、経済新聞などでよく目にするようになった「フィンテック」。お金にまつわるものということはイメージできますが、その正体は?
◆:フィンテックは、「金融 =Finance (ファイナンス)」と、「IT技術 =Technology(テクノロジー)」を掛け合わせた造語。つまり、IT技術を駆使した金融サービスのことだ。
メディアでは、そんなサービスを提供するベンチャー企業なども、まとめてフィンテックと呼ぶことがある。この本では混乱を避けるために、そういった企業は「フィンテック企業」と呼ぶよ。
●:でも、「IT技術×金融」なら昔からあったのでは? ATMでの入出金や、クレジットカードでの支払いも、IT技術を利用していますよね。
◆:そう、「IT技術×金融」は決して新しくない。資金の移動や与信審査には、膨大な情報を処理する必要があり、それを可能にするのがIT技術。だから金融業界は、他の分野に先駆けてIT技術を取り入れてきたんだ。
最近注目されるようになったのは、金融機関以外のベンチャー企業やスタートアップ(社会問題を解決するために作られた企業)が、金融サービスを提供し始めたから。金融機関だけが金融サービスを提供するという構図が崩れたことで、注目を集めたんだ。

キーワード その1 世界的な金融危機

金融危機で発展し、技術の進歩で加速
●:アメリカの金融危機をきっかけに発展したとか。
◆:その通り。リーマン・ショック(P14)によって、優秀なIT技術者が金融業界を離れ、ベンチャー企業やスタートアップに移って、新しい金融サービスを作り始めたんだ。もともと既存の金融サービスに 不満を持っていた消費者も、さらに金融機関に不信感を募らせ、便利で新しい金融サービスを求めるようになった。
さらに、IT技術の進歩で、より多くの人がサービスを利用しやすい環境を手に入れたことで、加速的に発展していったんだ。

キーワード その2 IT技術の進歩

決済から送金、投資まで。様々な種類がある
●:金融サービスというと、具体的にどういうものがあてはまるのでしょう?私も利用しているもの?
◆:もちろん利用しているよ。金融とは、広い意味では「お金の融通」のこと。経済社会で、お金が滞ることなく通じている現象のことを指すんだ。例えば、ものを購入した際にお金を払ったり(決済)、誰かにお金を送ったり(送金)するね。また、事業などでお金を借りたり(融資)、手持ちのお金を殖やしたり(投資)する人もいる。これらは全て金融サービスで、銀行や証券会社などの金融機関が提供してきた。でも今では、銀行以外の企業もこうしたサービスを 提供している。
ところで、フィン子さんはLINEを使っているかい?
●:使っていますよ。家族や友達のIDを登録して、メッセージをやり取りしています。
◆:そのLINEに付随した機能として、「LINE Pay」がある。遠くに住んでいる家族や友達にお金を送りたいと思ったとき、このLINE Payを使えば、LINEのIDを使って直接送金することができる。これまでのように、いちいち銀行口座を開いて、振り込む必要はないんだ。時と場所にかかわらず手軽に送金できるし、振込手数料もかからない。わかりやすいフィンテックの一例だ。

キーワード その3 金融×テクノロジー

既存の金融にはなかった 新しいサービスも登場
●:「自動貯金アプリ」や「仮想通貨」などは?いわゆる“金融”とはちょっと違いますが、これもフィンテック?
◆:IT技術によって実現した、これまでにない新しいサービスといえるね。「もっと簡単に貯金できればいいのに」「新しい通貨があったらいいのに」といった、お金にまつわる希望を実現させたり悩みを解決したりするのも、フィンテックなんだ。IT化の波は、金融業界に限らず他業界にまで広がっている。保険業界や不動産業界などでも、お金に関わるサービスはフィンテックの1つととらえられるね。

キーワード その4 進化するサービス

「脅威」から「協業」へ銀行の立ち位置も変化
●:フィンテックが話題になり始めた当初は、「銀行の脅威」といわれていましたよね。
◆:金融業界以外の企業が金融サービスを行うようになり、それまで金融業界が独占していた顧客のシェアを奪ってしまうと考えられたからね。銀行は、近年来客が減ったこともあり、顧客のニーズをつかんだり、それに応えるようなサービスを提供することが難しくなっていた。新規参入しづらい業界ゆえに競争が起こりにくいことも、サービスの質が向上しなかった理由といわれている。一方、フィンテックは基本的に「消費者目線」に立って作られたサービスだ。ベンチャー企業やスタートアップが目指すものはそうだし、最近では大きなIT企業が金融サービスを始めたりしているけれど、それも「顧客が自社の本 業のサービスをより使いやすいようにしよう」という狙いから展開しているもの。消費者がフィンテックサービスに惹かれるのは当然といえる。
●:じゃあ海外でいわれているように、近い将来、銀行は不要になってしまうの?
◆:今のところ、それはないだろう。フィンテック企業の台頭を受けて、金融機関も、IT技術の活用を学んだり、企業的な顧客志向を取り入れたりと工夫しているからね。最近ではフィンテック企業と連携し、互いの強みを 持ち寄ってより良い金融サービス 作りを展開している。企業と金融 機関の協業路線が現状だ。

キーワード その5 顧客志向のサービス

現金社会が充実しているため日本でのニーズは少ない
●:でも、日本ではフィンテックが海外ほど普及していないですよね。それはなぜ?
◆:海外でフィンテックが急速に広まったのは、それまでの金融サービスが使いにくく、不満があったからだ。日本では、偽札も少ないし、故障の少ないATMから問題なくお金を引き出せる。クレジットカードの審査は甘く、銀行口座を持つことも簡単だ。現在の現金を中心とした社会で困っていることが少ないから、新しいサービスのニーズもないというわけ。とはいえ、銀行もフィンテックに対して積極的になっている今、IT化の流れは避けられない。例えば、電車に乗る際に一昔前は切符を使っていたのが、今ではICカードを使うのが当たり前になっているように、いずれ皆がごく自然にフィンテックを利用するようになるだろう。
そのうち、高額な商品を購入しようと思ったとき、融資可能な金額や返済条件がスマホに提示され、ローンの申し込みや審査のステッブを飛ばして購入できるなど、フィンテックの存在はどんどん黒子的になり、気づかないうちにフィンテックを利用する機会が増える だろうと予想されているよ。

キーワード その6 知らぬ間に利用

金融&情報リテラシーの高い人が得をする世の中に
●:これからますますフィンテックが普及したら、どんな社会になるんでしょう?
◆:金融サービスがもっと身近なものになるだろう。これまで、融資や資産運用などの金融サービスは、金融機関が一部の富裕層向けに提供しているものだった。でも、フィンテックの登場で、クラウドファンディング(PS)など、所得レベルに関係なく受けられる金融サービスが生まれた。つまり、金融サービスの選択肢が増えているんだ。
金融についての情報の集め方や、金融サービスの選び方も変化している。今ではオンラインで金融の専門家に相談したり、ネットのコミュニティから、お得な情報を得たりできるよ。
●:そうなんですね。知らなかった……。私のように、お金のことに疎い人間は損をしてしまいそうですね。
◆:その通り。高額な買い物をするときにお得な返済プランを組んだり、賢く資産を運用したり。より意識的に行動した人が得をする世の中になる。そのためにはまず、お金に関する情報収集が大切だ。それに、フィンテックが発展すると、個人情報の流出や詐欺のリスクが高まる。個人情報の管理につとめ、怪しい事業者には近づかないなど、被害を最小限にする工夫がそれぞれ必要になるね。

キーワード その7 金融・情報リテラシー

桜井 駿 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2020/5/27)、出典:出版社HP

もくじ

ITでお金はもっと身近なものになる
フィンテックって何?理解するための7つのキーワード

第1章 フィンテックはなぜ生まれたの?
海外で生まれ、人気のフィンテックサービス。
日本は遅れているって本当?

・フィンテックはどこで生まれた?①
インターネットサービスの普及に伴い、新しい金融サービスが次々に誕生
・フィンテックはどこで生まれた?②
大手金融機関が破綻したことで、人々の金融機関離れ、がさらに進んだ
・フィンテックはどこで生まれた?③
スマートフォンの使用者が増え、サービスの提供・利用がしやすくなった
・フィンテックは今どこにいる?①
ステージ1 すでにあった金融サービスがIT技術でより便利になった
・フィンテックは今どこにいる?②
ステージ2 これまで存在しなかった新しい金融サービスが登場した
・フィンテックは今どこにいる?③
ステージ3 大きなIT企業やテクノロジー企業が、独自の金融サービスを始めた
・フィンテックは今どこにいる?④
ステージ4 建設業や不動産業など、規制の厳しい他業界まで波及
・日本のフィンテックはどうなっている?①
日本では、現状の金融サービスが充実。新しいサービスはゆっくり広まる
・日本のフィンテックはどうなっている?②
金融機関とIT企業が手を取り合って、より便利なサービスを作り出している
・日本のフィンテックはどうなっている?③
フィンテックの普及に向け、法改正も。これからの発展が期待されている

1分でわかる! 第1章のおさらい

第2章 どんなサービスがあるの?
お金を使ったり、借りたり、管理したり。
様々な分野でサービスが展開されている

・お金を使う(決済)①
ネットショップでのやり取りに欠かせない。
売り手と買い手をつなぐ「オンライン決済」
・お金を使う(決済)②
作るのも、使うのも、お金の管理も簡単。若者に人気の「プリペイドカード決済」
・お金を使う(決済)③
売り手と買い手の利便性がともにアップ。
スマホ1つで支払いができる「モバイル決済」
・お金を送る(送金)①
スカイプの技術を送金サービスに応用。為替手数料いらずで低コストの「海外送金」
・お金を送る(送金)②
登録した「友人」に即入金できる。細かいお金のやり取りに使える「個人間送金」
・お金を借りる(融資)①
会ったこともない人が支援者になる。
夢のスタートを支える「クラウドファンディング」
・お金を借りる(融資)②
今まで融資を受けられなかった層にもチャンスを。
貸し手と借り手をつなぐ「ソーシャルレンディング」
・お金を殖やす(投資)
自分に最適のプランを提案してくれる資産運用の強い味方「ロボアドバイザー」
・お金を管理する①
レシートを撮影するだけでOK。家計を自動で管理することができる「PFM」
・お金を管理する②
知らない間にお金を貯められる?ユニークな発想で楽しめる「自動貯金アプリ」
・お金を管理する③
中小企業の会計情報を、見える化。経理業務の効率をアップする「クラウド会計」
・お金を管理する④
従業員も会社も、業務の効率アップ。「クラウド型経費精算サービス」
・金融機関向けのサービス
本人確認から利用者とのやり取りまで。膨大な業務をテクノロジーで支援する
・新しいサービス①
パソコン、インターネットに続くイノベーション。
発行者も管理者もいない新しい通貨「仮想通貨」
・新しいサービス②
給料や代金支払いをよりフレキシブルに。若者に人気の「前払い・後払い」サービス
・金融を超えるフィンテック①
健康促進からマーケティングまで。
IT技術で革新を起こす「保険テック(インステック)」
・金融を超えるフィンテック②
これからITが必要になる業界。
不動産に関わる課題を解決する「不動産テック(プロップテック)」

1分でわかる! 第2章のおさらい

第3章 これから何が起こるの?
知らぬ間にサービスを利用していることも。
知識や判断力が、損得を決める時代に

・社会はどう変わる?①
銀行は、金融業からサービス業へ。顧客視点に立った改革はますます進む
・社会はどう変わる?②
証券会社からカード会社、ITベンダーまで。金融業界の仕事は大きく変化する
・社会はどう変わる?③
ケータリングから民泊まで。「実体を扱う事業会社」が金融を展開
・生活はどう変わる①
未来では、「データのお金」が現金と同じくらい大切なものになる
・生活はどう変わる?②
気づかないうちに始まっていた?金融サービスはより「黒子的」な存在に
・生活はどう変わる?③
学べば学ぶほど、得をする世界。「お金の教育」が義務化されるのも近い
・生活はどう変わる?④
増える詐欺や、情報流出。情報リテラシーを身につけよう

1分でわかる! 第3章のおさらい

第4章 フィンテックを支えるキーテクノロジー
テクノロジーの大幅な進化が
フィンテックの誕生と発展を支えてきた

・モバイル
フィンテックサービスの利用にも発展にも欠かせない存在
・クラウド①
“雲の向こう”で作られたサービスをいつでも好きなだけ利用できる
・クラウド②
新しいフィンテック企業が新サービスを開発・運用しやすくなった
・ビッグデータ①
膨大な情報を集めて解析することで新たなサービスが生まれる
・ビッグデータ②
個人情報の収集や活用は、金融サービスの発展に不可欠なもの
・AI(人工知能)①
限りなく人間に近い存在になった。状況判断や意思決定ができる人工知能
・AI(人工知能)②
人より精度の高い分析ができる。融資や投資の分野で人工知能が活躍
・API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)①
1つの入り口から複数のサービスを使うには企業と企業の「連携」が欠かせない
・API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)②
API公開にはメリット、デメリットがある。どこまで連携を許すかはこれからの課題
・ブロックチェーン①
全ての取引記録が1本の鎖に。改ざんも不正もできない分散型台帳
・ブロックチェーン②
世界中にいるたくさんのマイナーたちが、ブロックをつなぎ、報酬をもらっている
・IoT
あらゆるモノがネットにつながりより多くの情報が集められるようになる
・デザイン(UIとUX)
サイトの見やすさ、わかりやすさは、フィンテックサービスの大きな強み

1分でわかる! 第4章のおさらい

キャッシュレス決済が普及。今、フィンテックの「入り口」に。
さくいん・参考資料

桜井 駿 (著)
出版社 : 幻冬舎 (2020/5/27)、出典:出版社HP

金融の未来―ポスト・フィンテックと「金融5.0」 (KINZAIバリュー叢書)

金融トピックを網羅

これまで、マネーの誕生(1.0)、金融業・銀行業の成立(2.0)、中央銀行の設立を含む現代金融システムの形成(3.0)、フィンテック(4.0)というように金融は進化していきました。本書では、「ポスト・フィンテック」の金融、すなわち「金融5.0」の姿を展望していきます。キャッシュレス、ブロックチェーンといったこれからの金融を読み解く鍵となるあらゆるトピックを網羅しています。

山岡 浩巳 (著)
出版社 : きんざい (2020/5/15)、出典:出版社HP

■はしがき

フィンテック10年の現在地と「金融5.0」の展望

「フィンテック」が本格的に登場して、約10年(a decade)が経過した。
2008年のリーマンショックを発端とするグローバル金融危機の前後、現在の金融革新の基盤となる技術が、「カンブリア大 爆発」のように一斉に登場した。
2007年にiPhoneが誕生し、その後スマートフォンは世界中で爆発的に普及した。2008年にはブロックチェーン・分散型台 帳技術が「サトシ・ナカモト論文」により紹介され、2009年にはこれらの技術に基づいた初めての暗号資産(仮想通貨)「ビットコイン」が発行された。さらにこの頃から、AIの一分野である「ディープラーニング(深層学習)」も急速に発達した。

これらの技術は、その後の金融イノベーションやフィンテックを押し進める、大きな原動力となった。
中国のAlipayやWeChat Payに代表される、スマートフォンを経由した支払決済サービスを通じて、世界中で数十億人規模 の人々が、新たに金融サービスにアクセスできるようになった。世界の長年の課題であった、新興国・途上国の人々や貧しい人々に金融機能を提供していく「金融包摂(financial inclusion)がわずか10年間で一気に進んだことは、フィンテックの大きな成果である。さらに、キャッシュレス決済や異業種の金融サービス分野への参入も大きく進んだ。このように、フィンテックは、過去10年間の金融のと10年間の金融の世界的潮流を描写する重要なキーワードであった。また、金融イノベーションに向けた関係者の力を結集する有益なスローガンにもなった。

一方で、この言葉は、「情報革命」や「データ革命」といった、現在生じている世界的な変化のなか、関係者の視野を金融分野に狭く限定させてしまうおそれもある。
過去10年間に進んだ地殻変動は、決して金融分野に限られるものではない。たとえば、「シェアリングエコノミー」というビジネスを登場させたAirbnbやUberも、グローバル金融危機の最中の、それぞれ2008年、2009年に誕生している。

さらに、現在では日々の生活の一部となっている「インスタ映え」や「いいね!」なども、この10年間に生まれたものである。

これらの背景にあるのは、世界に向けて生み出されるデータ量の圧倒的な増加と、その処理コストの大幅な低下である。フィンテックは、このような世界的な情報革命やデータ革命の、金融態での発現形態にすぎないといえる。
本書ではまず、マネーの誕生(1.0)、金融業・銀行業の成立(2.0)、中央銀行の設立を含む現代金融システムの形成(3.0)、フィンテック(4.0)など、これまでの金融の進化を整理する。そのうえで、「ポスト・フィンテック」の金融、すなわち「金融5.0」の姿を展望する。 このなかで、「金融業」と「非金融業」、さらには「金融取引」と「非金融取引」との線引きがますますむずかしくなっていくこと、「マネー」と「データ」が一段と接近していくことなど、金融を取り巻く環境の大きな変化を描写したい。これらの環境変化は、既存の金融業にとっては競争を激化させる要因となるが、同時に金融の可能性を大きく広げるものでもある。

2020年5月
山岡 浩巳

目次

第1章 マネー・金融と情報処理——金融1.0から3.0
1 マネーの登場——金融1.0
(1) マネーの機能
(2) マネーの礎は信認・信頼
2 金融業・銀行業の成立と発展——金融2.0
(1) 情報・データとパワー
(2) 銀行業の成立
3 中央銀行と近代金融システムの成立——金融3.0
(1) 中央銀行の登場
(2) 近代国家とマネー

第2章 フィンテックの登場——金融4.0
1 フィンテックの背景
(1) フィンテック技術の「カンブリア大爆発」
(2) グローバル金融危機と規制強化
2 フィンテックが変えた金融
(1) 金融のグローバル化
(2) 金融のパーソナル化
(3) 金融のバーチャル化
3 情報革命・データ革命の進行——フィンテックはその一側面
(1) グローバルな「データ革命」
(2) データ集積・活用における金融業の優位性低下
(3) 金融サービスの分解と再構築
(4) 金融サービスの担い手の多様化

第3章 キャッシュレス化とマネーの将来
1 世界的なキャッシュレスの潮流
(1) キャッシュレスと金融包摂
(2) キャッシュレス化の背景
(3) 支払決済サービスの供給構造の変化
2 日本のキャッシュレスの現状
(1) 現金大国日本
(2) なぜキャッシュレス化のスピードに違いがあるのか
(3) 手段別にみたキャッシュレス決済
(4) キャッシュレスの展望
3 マネーの変貌
(1) マネーとデータの接近
(2) マネーローンダリングへの国際的監視の強まり
(3) 「リブラ」の衝撃
(4) 中央銀行デジタル通貨(CBDC、Central Bank Digi-tal Currency)

第4章 経済のデジタル化と金融
1 デジタル・分散型技術と新たな経済活動
(1)多数の投票による信頼の構築
(2) 分散型技術によるデータ管理
(3) スマートコントラクト
2 “As a service”の拡大
(1) クラウドの拡大
(2) さまざまな“as a Service”の登場
(3) 金融のas a Service化
3 経済のデジタル化と構造変化
(1) 経済・企業活動の構造変化とバーチャル化
(2) デジタル化時代の規制監督
(3) 経済のデジタル化と金融の課題

第5章 経済の成熟化と金融
1 成熟化・高齢化社会と金融
(1) デジタル・ディバイド・新たな金融阻害への対応
(2) 犯罪抑止と金融
(3) 保険・医療と金融
2 地方創生・再生と金融
(1) 第一次産業の維持発展と金融
(2) 事業承継と金融
3 持続可能な経済社会と金融
(1) 金融のさらなる民主化
(2) 持続可能性と金融——ESG、SDGS
(3) 競争・独占の問題と金融

第6章 ポスト・フィンテックと金融5.0
1 マネーの未来
(1) マネーの多機能化
(2) マネーの供給構造の変化
(3) 国家を超えるマネー
(4) マネーは消滅するのか
2 金融の未来
(1) 金融のシームレス化
(2) 金融のポータブル化
(3) データをつくりだすインフラとしての金融
(4) 信頼の礎としての金融

山岡 浩巳 (著)
出版社 : きんざい (2020/5/15)、出典:出版社HP

1 マネーの登場―金融1.0

(1) マネーの機能

マネーは人類の大発明

金融の基本的なインフラは、何といっても「マネー」である。人間はマネーを通じて協力や協業を行い、経済成長を実現した。一方で、マネーは時にそれ自体が人間の欲望の対象となり、経済変動やバブル、恐慌などの要因にもなった。ピンク・フロイドの名曲『マネー』でも、マネーは何でも実現してくれるが、諸悪の根源でもあると歌われている。

図表1 金融1.0から5.0へ

図表2 人類の偉大な発明

金融の将来を展望するうえでも、マネーについての考察は必要不可欠となる。そこでまず、マネーの誕生、すなわち「金融1.0」について振り返ってみよう(図表1)。
マネーは、言語や火、車輪などとともに、人類の生んだ偉大な発明である(図表2)。
人間は、マネーを発明したことで、見ず知らずの他者との間で時間や空間を超えた交換を行い、経済社会を形成するようになった。このように、マネーを通じて不特定多数の人々と協力し、経済活動を行えるようになったことは、他の動物とは異なる、人間の大きな特徴といえる。

マネーと情報・データ

マネーは本源的に、情報やデータ処理と深く結びついている。
マネーの起源をめぐっては諸説あるが、古典的な学説は、アリストテレスやアダム・スミスなどが主張したように、物々交換の過程から、価値尺度や価値の保蔵手段として適したモノがマネーに発展していったという説である。
もっとも、物々交換を成立させるためには、「自分がほしいモノをもっている人が目の前にいて、その人も自分がもっているモノをほしがっている」という「欲求の二重の一致」が必要であり、そうした偶然は現実にはなかなか起こりそうにない。このため、人類史において、マネーの誕生前に物々交換が広範に行われた時代は実際にはなかったのではないかとの見方が、最近では有力になっている[1]。
また、有名なヤップ島の石貨(フェイ、ヤップ語でライ)(図表3)は、大きなものは運搬も不可能であり、なかには海底に沈んだものもあった。これがマネーとして使われたことは、マネーが必ずしも物々交換に由来しないことを示唆している。
これらの知見をふまえ、20世紀には新たな有力説が登場した。すなわち、人間は他者に恩恵を施し、恩恵を受けた人はお返しをしようとする性向をもっており、マネーは、そうした

図表3 ヤップ島の石貨

恩恵の貸し借りを定量化して記録する「データの記録簿」として登場したという説である。「もっとも、いずれの説においても、マネーは、さまざまな財やサービス、恩恵などの価値を「測り」「定量化・データ化する」という機能と不可分である。
古代メソポタミアの通貨単位「シェケル」は、大麦の重さと結びついていた[2]。
また、古代ローマの通貨単位「リブラ」はまさに秤(天秤)を意味しており、これも1日分のパンの重さを「測る」ことに由来する(英ポンドの通貨記号に「L」が用いられているのは、その名残である)[3]。
このように、価値の定量化・データ化は、ヤップ島の石化など古代の通貨から現代の通貨に至るまで、あらゆるマネーに共通する機能である。
マネーの機能として教科書に書かれている「価値尺度」「価値保蔵」「交換」という3つの機能も、この価値の定量化データ化を通じた抽象化に基づいている。
人類史上、このような役割を果たすマネーとして、巨大石や麦、貴金属など、「つくったり、見つけたり、掘り出すのに人間が労苦を要するモノ」が使われてきた。すなわち、マネーは、財やサービスなどを生み出すのに要した「人間の労苦」を互いにデータ化し、抽象的な概念に変換することで、時空を超えた交換を可能にした。

[1]最も有名なものは、英国の人類学者Caroline Humphreyの主張であろう。たとえば、C. Humphrey et al. “Barter, Exchange and Value” (1992) など参照。
[2]シェケルはその後、イスラエルの通貨単位となった(現在のイスラエルの通貨単位は「新シェケル」である)。
[3]なお、フェイスブックが2019年6月に計画を公表したデジタル通貨の名称も「リブラ(Libra)」である。

マネーと抽象化

このような「抽象化」という精神活動は、ほかの動物にはみられない、人間の大きな特徴である。
マネーは、この抽象化というプロセスと一体となった偉大な発明であり、これにより情報処理・データ処理の効率性は飛躍的に高まった。一方で、マネーや、さらには金融が「抽象化」という思念上の変換機能を前提としていることは、時に人間が実態を離れた「虚構」をつくりだしてしまう可能性と裏腹である。人間がマネー自体を欲望の対象とし、その蓄積を目的とする行動に走ることや、人間がつくりだした経済社会が、しばしば実体とマネーによる価値との乖離から大きく変動することなども、このような、人間の「抽象化」という精神活動に起因している。

(2) マネーの礎は信認・信頼

マネーが「目にみえる」ことは必要条件ではない

このように、マネーは本質的に情報やデータと深くかかわっている。
金融とは、マネーというデータインフラを活用した情報処理の体系といえる。同時に、マネーは価値の定量化のための共通 の物差しとして、なんらかの人間の労苦を象徴している。そして、情報・データ処理のインフラであるマネーを取り扱うことは「情報やデータの取扱いを託す」ということでもある。このため、マネーや、マネーを取り扱う主体には、常に高い信頼と信認が求められてきた。マネーに関してもう1つ重要なことは、時には海底に沈んだ、誰も目にすることのないヤップ島の石貨すらマネーとして使われたように、マネーがマネーとして機能するためには、必ずしもそれが目にみえるモノである必要はないことである。
このことは、現在、情報技術革新のもとでデジタルマネーが大きく成長していることとも整合的である。
デジタルマネーの出現は、マネーの成立ちをふまえれば、まったく不思議ではない。 マネーにとって決定的に重要なことは、それが目にみえるかどうかではなく、人々がそれを、情報やデータの保全や処理を 託すインフラとして、十分信頼できるかどうかである。

山岡 浩巳 (著)
出版社 : きんざい (2020/5/15)、出典:出版社HP

決定版 FinTech

FinTechの今とこれから

フィンテックとは、金融とテクノロジーを組み合わせた造語のことです。そのフィンテックが今、従来の金融の世界を変えつつあります。本書はそのフィンテックについて解説する入門書で、フィンテックの基礎知識、具体的な金融サービス、それを展開するフィンテックスタートアップの動向、メリットやリスク、そしてフィンテックの未来像にまで踏み込んでいます。

加藤 洋輝 (著), 桜井 駿 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2016/5/13)、出典:出版社HP

この作品は、2016年5月に東洋経済新報社より刊行された書籍に基づいて制作しています。電子書籍化に際しては、仕様上の都合により適宜編集を加えています。また、本書のコビー、スキャン、デジタル化等の無断複製は、著作権法上での例外である私的利用を除き禁じられています。本書を代行業者等の第三者に依頼してコピー、スキャンやデジタル化することは、たとえ個人や家庭内での利用であっても一切認められておりません。

決定版FinTech|金融革命の全貌

Personal computers in 1975,
the Internet in 1993, and – I believe – Bitcoin in 2014.
Marc Andreessen

1975年のパーソナルコンピューター、
1993年のインターネット、
それに続くイノベーションが2014年のビットコインだ
マーク・アンドリーセン

はじめに

読者のみなさんのなかには、2013年の夏にTBSで放送された日曜劇場「半沢直樹」をご覧になった方も多いと思う。主人公の半沢直樹(堺雅人)の恨みは、追い込まれて自殺した父親の経営するネジ工場への融資を打ち切った銀行に向けられた。とくに、当時の担当者だった大和田常務(香川照之)への復讐心はすさまじかった。
もし、この時代にフィンテックがあったらどうなっていただろうか。

「銀行が貸してくれない?じゃあ、いいよ。アマゾンで借りるから」

資金繰りに窮することなく父親は工場の生産を続け、倒産に追い込まれることも自殺に追い込まれることもない。半沢直樹の怒りは生まれず、あのドラマが生まれることもなかっただろう。
「金融は経済の血液」と言われている。金融は社会や生活の隅々に血管を張り巡らせ、「お金」という血液を循環させることで、それを支えている。
モノを買えば支払いが発生する。家や車などを購入するときにはお金を借りる。家賃や水道光熱費などの支払いには振込手数料がかかる。資産を持っていれば、資産管理や資産運用も必要になる。資産がなくても、家計簿くらいはつけるだろう。このように我々の日々の生活や営みの多くは、何らかのかたちで金融と結びついている。
ビジネスにおいてもそうだ。モノやサービスを提供する事業は対価として代金を回収しなくてはならない。製造業も自分がつくった製品がお金に換わるという意味では金融と無縁ではない。経営者は、財務、会計など日常的にお金の管理の問題がついて回る。

現代社会において、人も企業も、「お金」と無縁で生きていくことは難しい。仮に、お金とは無縁の生活を送る人がいたとしても、それは世界中でもごく一部の人にすぎない。少なくとも、現代の日本人にはほとんどいない。その金融を大きく変えつつあるのがフィンテックだ。フィンテック(FinTech)とは金融(ファイナンス=Finance)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語だ。詳しくは本書で述べるが、ザックリと言うと、IT技術を駆使した新しい金融サービスやシステム、およびそれらを提供するスタートアップ企業のことだ。
そのフィンテックが今、従来の金融の世界を変えようとしている。

今まで受けることができなかった融資が受けられるようになる。資産家や機関投資家と同じレベルの投資アドバイスや情報が入手できるようになる。決済や送金の手数料が格段に下がり、スピードが格段に上がる。
こんな変化が、すでに毎日のように起こっているのだ。金融業界には当然、激震が走っている。アメリカの大手金融グループであるJPモルガン・チェースの共同代表を務めるジェイミイ・ダイモン CEOは、フィンテックの登場や、それに影響を受ける金融業界を念頭に置き、こう述べている。
We’re going to have competition from Google and Facebook and somebody else.
(金融機関の競合先がグーグルやフェイスブックのような企業になるだろう)

フィンテックは今、金融の世界を変えつつある。いや、「世界」を変えつつあるのだ。
本書は、そのフィンテックについて解説する入門書だ。フィンテックに関する金融サービスについて、サービスの受け手と提供者の両面からアプローチし、フィンテックの基聴知識、具体的な金融サービス、それを展開するフィンテックスタートアップの動向、フィンテックのメリットとリスク、そしてフィンテックの未来像にまで踏み込んだ。
第1章では、フィンテックの概要を解説する。いつどのようにして誕生し、発展したのか。誰がメインプレーヤーとなり、既存のプレーヤーはどう対応しているのか。最低限の基姫知識はここで得られるようになっている。
第2章では、フィンテックがもたらす新しい金融サービスを7つの領域に整理して俯瞰する。さらに第3章では「ビットコイン」について解説する。「ビットコイン」は「インターネットの登場以来のイノベーション」と呼ばれる、フィンテックの象徴的な存在だ。

第4章では、こうした新しいサービスやシステムなどのフィンテックを可能にする5つのテクノロジーについて解説する。その5つとは「モバイル端末」「ビッグデータ」「人工知能」「API」「デザイン」だ。
第5章では、フィンテックが銀行や証券会社、クレジットカード会社などの金融業界に与える影響について解説する。これまで金融業界は「参入障壁の高い特殊な業界」と見なされていたが、その常識は急速に連れつつある。最後の第6章では、我々一人ひとりの生活者の視点から、フィンテックについて考えてみたい。私たちの生活の利便性や可能性が高まる反面、注意すべきリスクも増える。金融とのつきあい方によってこれまで以上に差が出ることになるだろう。
近年、フィンテック企業が連日のように新しいサービスをローンチし、利用者を順調に獲得しつつある。銀行をはじめ金融業界は、フィンテックに対応するための体制や戦略の構築を急ピッチで進めている。政府も3月4日に仮想通貨に関する規制法案を閣議決定するなど、フィンテックと正面から向き合い、どう受け入れるべきか、あるいはどう規制するべきか、真剣に考え始めている。フィンテック革命の幕は、もう開いている。

これから、ますます新しい金融サービスが生まれてくるはずだ。その流れや機会を逃さないためにも、ここでフィンテックの基礎を押さえていただきたい。これが、私たちが本書を執筆しようと考えた最大の動機である。
読者のみなさんに、本書をきっかけに新たな金融サービスのメリットを享受していただければ、望外の喜びである。

2016年4月
NTTデータ経営研究所 金雄政策コンサルティングユニット
加藤洋輝・桜井殿

加藤 洋輝 (著), 桜井 駿 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2016/5/13)、出典:出版社HP

目次

はじめに
第1章 5分でわかるフィンテック
■そもそもフィンテックとは何か?
■フィンテックの起源と発展の経緯
■日本におけるフィンテック発展の流れ
■フィンテックのメインプレーヤーは誰か
■フィンテックが急速に注目された理由
■フィンテックは社会にどのような影響を与えるのか?

第2章 フィンテックが切り拓く新しい金融サービス
■代表的な7つのフィンテックサービス
■「融資」―より多くの人に、より好条件で貸し出しが可能に
■「決済」―加盟店の審査方法や支払いサイトが大幅に改善される
■「送金」―手数料が引き下げられ、お金の流れが「見える化」される
■「投資」―資産管理サービスを一般投資家が京受できる時代
■「情報管理」―|PFM(自動家計簿)の登場
■「業務支援」―「法人向け金融サービスの新たな地平
■その他のフィンテックサービス

第3章 ビットコインとブロックチェーン
■フィンテックが切り拓いた全く新しい金融領域
■ビットコイン誕生の経緯
■ビットコインで何ができる?
■ビットコインの仕組み
■ビットコインネットワークが抱える2つのリスク
■「決済手段」としては課題の残るビットコイン
■「投資商品」としてのビットコインの魅力
■日本のビットコイン事情
■金融以外の用途が検索されるブロックチェーン技術

第4章 フィンテックを可能にするテクノロジー
■フィンテックを支える5つの要素技術
■フィンテックを支えるテクノロジー①「モバイル端末」
■フィンテックを支えるテクノロジー②「ビッグデータ」
■フィンテックを支えるテクノロジー③「人工知能」
■フィンテックを支えるテクノロジー④「API」
■フィンテックを支えるテクノロジー⑤「デザイン」

第5章 業態別、金融機関に与えるフィンテックのインパクト
■「銀行」
■「証券会社」
■「生命保険・担害保険」
■「クレジットカード業界」
■「ITベンダー」
■事業会社はフィンテックとどのように関わっていくのか
■地銀と地域経済に与えるフィンテックの影響
■フィンテック推進連合の衝撃
■フィンテック時代における日本の金融業界の進路

第6章 フィンテックが消費者に与えるインパクト
■消費者にもたらされる5つの影響
■フィンテック時代に求められる2つのリテラシー

おわりに

加藤 洋輝 (著), 桜井 駿 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2016/5/13)、出典:出版社HP

第1章 5分でわかるフィンテック

■そもそもフィンテックとは何か?

□昔から存在する「古くて新しい」言葉

フィンテック(FinTech)という言葉は、金融(Finance=ファイナンス)と技術(Technology =テクノロジー)という言葉を掛け合わせた造語だ。しかし、この言葉が何を意味するのかは、実は使われ方や文脈によって多少異なってくる。そこで、まず本書における「フィンテック」という言葉の使い方を定義しておきたい。
そもそも論になるが、フィンテックは、最近になって突如として生まれた言葉でも概念でもない。金融機関におけるITテクノロジーの活用は早く、1950年代から物足処理のIT化が進み、以降、様々な分野がITシステムによって効率化されたことで、金融機関は幅広いサービスを展開することができるようになった。

アメリカの金融業界紙「アメリカン・バンカー」が「ベストフィンテック100」と銘打ったランキングを以前から発表しており、日本の企業からも野村総合研究所(NRI)が何度かランクインしている。このことからもわかるように、当時は金融分野の大手ITベンダー等の金融システムを構築する企業全般を指す言葉として「フィンテック」という言葉が使われていた。一般ユーザーにとっては、まったくといって良いほど馴染みのない言葉であった。

□「フィンテック」の主役はスタートアップ

最近、日本で急速に注目されている「フィンテック」は、以前の「フィンテック」と、意味合いが異なる。その最たるポイントは、主役がスタートアップ(人々や社会の問題を解決するために組織された企業)であることだ。
「フィンテック企業」という言葉もよく使われるが、今、アメリカだけでなく日本でも、スタートアップ企業が、次々と、ITを駆使し、これまでにない新しい金融サービスを提供し始めている。たとえばユーザーの利便性を格段に高めたり、あるいは、従来は裕福な層しか受できなかった金融サービスを広く提供し始めている。そして、このことが金融業界のみならず、我々の生活や社会全体を、大きく変えようとしているのだ。昨今、メディアを賑わせている「フィンテック」という言葉は、このような金融サービス、あるいは、それを提供するスタートアップ企業を指している。なお、フィンテックは、金融と技術の融合による新しい金融サービスを指す場合もあれば、そのサービスを提供しているフィンテック企業を指す場合もある。本書ではこうした混乱を避けるために、「フィンテック」という言葉を
「金融とITの融合によって生まれた、新しい金融サービス」
と定義することにする。また、サービスを提供する企業は
「フィンテック企業」
と呼ぶことにする。

図表1-1 フィンテックの言葉の定義

■フィンテックの起源と発展の経緯

□先駆けとなったPayPal

フィンテックには明確な起源はなく、諸説存在する。しかし、特筆すべきエポックメイキングな出来事を挙げることは可能だ。それは、1998年のPayPalの創業である。
クレジットカード決済サービスを提供するPayPalが生まれた背景には、当時のシリコンバレーを中心としたIT系スタートアップの勃興がある。インターネットオークションのeBayが生まれるなど、様々なインターネットサービスが生まれ流行し始めたのがその頃だ。

PayPalの創業も、その流れに乗ったものだ。インターネットサービスが登場し、それに伴うオンライン上での決済(金融サービス)の必要性が生まれたことで、新たな決済サービスが始められたのだ。こうした時代の要請と、それに応える形で生まれたPayPalをフィンテックの起源とすることに、それほど不自然なところはないだろう。
ちなみに、2002年にPayPalはeBayに買収される。買収で得られた資金をもとにしてPayPal出身者たちはテスラモーターズ、YouTube、LinkedIn等を創業し、PayPal創業者のビーター・ティールはそれらの企業への出資に加え、フェイスブックやAirbnbに投資を行ったことでも知られる。PayPalの成功はフィンテックだけでなく、シリコンバレーにおけるスタートアップシーンにとっても重要な出来事となった。
このような、創業までのいきさつやイグジット(投資回収)に至る流れから見ても、PayPalをフィンテック企業の先駆けと考えることが妥当だと考えられる。

DPFMやソーシャルレンディングなど、新たなフィンテックサービスの誕生決済領域にフィンテック企業が登場すると、やや遅れて次に、家計簿アプリやお金の貸し手と借り手をマッチングするソーシャルレンディングサービス等を提供するスタートアップ企業が登場した。
その代表格が2006年に創業したMintだ。Mintが提供したサービスは、それまで手作業でつけていた家計簿をITで自動入力するもので、PFM (Personal Finance Management)と呼ばれている。Mintoサービス開始後約2年が経過した2009年にIntuitに買収されている。PFMは、今では日本でも定着しつつあるサービスだ。
また、PFMの登場と同じ頃、ソーシャルレンディングと呼ばれるサービスが登場した。既存の大規模金融機関が融資できない層、つまりクレジットスコア(個人の 信用情報)が低く既存の融資商品では対応しきれない人々に、新しい金融プラットフォームを提供するサービスだ。

アメリカはクレジットカード社会だが、クレジットカードをつくるにはクレジットヒストリーが必要になる。だが、学校を卒業したばかりでクレジットヒストリーの少ない若者や移民はカードを作れない。そのジレンマを解消するブレイクスルーとなったのが、SNSやECサイトなどの購買履歴等のオンライン上にある様々なデータを用いた融資サービスだ。
SNSやECが普及したことで、それまでと比較できないくらい、あらゆる情報がウェブ上に蓄積されるようになった。そして、フィンテック企業がこれらの蓄積された情報など、既存の金融機関とは違った切り口の情報を有効利用することで、今までは融資を受けられなかった層が恩恵を受けられるようになったのだ。また、これまで融資を受けられていた層にとっても、より良い条件で借りられるサービスが生まれた。 このようにして 2000年前後から2010年ごろまでの間に、ITを中心とした新しい技術革新に伴い、数多くのフィンテック企業が勃興・発展してきたのだ(図表1-2)。

図表1-2フィンテック企業誕生の歴史(海外)

□フィンテックが急速に発展した3つの理由

図表1-3は、フィンテック業界に対する投資金額の推移である。これを見ると、2008年以降、右肩上がりで投資金額が伸びているのがわかる。とくに、2013年から2014年に至る伸びが急加速している。2014年にはLending Club (図表2-8参照)が上場するなど特殊要因もいくつかあるものの、フィンテック企業による資金調達は右肩上がりで推移している。その要因を、いくつか挙げることができる。

図表1-3 投資が拡大するフィンテックベンチャー業界

一つは、2008年のリーマンショックである。世界的な金魚不安が発生したことにより、ダメージを受けた金魚機関は大規模な職員の解雇を実施している。この際、金融機関出身の高度金融人材がフィンテック企業に流れたことは、フィンテックの発展を大いに加速させることになったと考えることができる。また、ユーザーの心理的な変化も要因の一つである。この頃から、「デジタルネイティブ」「ミレニアル世代」と呼ばれる若者たちが台頭してきた。物心つくとすぐにパソコンを使い始めたこの世代は、オンライン上においては企業ブランドと同様、あるいはそれ以上にサービスの使い心地やより良い条件といった基準でサービス提供を行う企業を選択していく。

こうしたユーザーの心理的な変化に伴う消費行動の変化に拍車をかけたのが、やはり、リーマンショックだ。当時のアメリカ政府は苦境に陥った金融機関を救済すべく資金援助をしたが、消費者は「高額な報酬をもらっていた銀行マンをなぜ税金で助けなければならないのか」という疑問を抱くことになった。既存の金融機関が提供する金融サービスに対しての不満も加わり、「税金で守られるような金融機関に頼るのはごめんだ」「スタートアップ企業に同じサービスがあるなら、銀行に行かなくてもいいではないか」という心理が生まれたのだ。

「Today, Apple is going to reinvent the phone.」
(今日、アップルは電話を再発明する)

2007年に米アップルのスティーブ・ジョブズCEOによって発表された「iPhone」の発売以降、急速にスマートフォン(スマホ)が普及したことも、フィンテックが急速に発展する契機となった。2010年ごろはまだ折りたたみの携帯電話を使っている人のほうが圧倒的だったが、残念ながらあの携帯電話では、家計簿アプリなどのサービスをシームレスに提供できていたとは考えられない。
付け加えると、スマホのOSがiOS(iPhoneのOS)とアンドロイドという二つの陣営に絞り込まれていったことも大きな要因となった。というのも、サービスを提供するフィンテック企業からしてみれば、二つの陣営に提供するアプリさえ開発すれば、ほとんどのユーザーにリーチできることになったからだ。
事業の成功には「ヒト・モノ・カネ」が必要だという。このことは、シリコンバレーにおけるフィンテックの発展についても当てはまるだろう。ITの発展により、新たなテクノロジー(「モノ」)も使えるようになった。そしてITベンチャーの成功に触発されて投資が活発化したことで「カネ」も入ってきた。最後に、リーマンショックによってフィンテック企業への人材流入が進み、「ヒト」が確保された。
このようにしてヒト・モノ・カネという土壌が整備され、ユーザーに心理的変化が起こったことによってフィンテックの新しい金融サービスが受容される環境が整ったのである。

□2世紀の金融の中心地はウォール・ストリートではなくシリコンバレー?

オンライン決済の代表格である米PayPalは、1998年にシリコンバレーで創業し、eBayに買収されるという成功を収めて以降、フィンテックのみならずシリコンバレーを拠点とする数々のスタートアップの成功に寄与することとなった。PayPal出身者の資金的・人的影響力の大きさから「PayPalマフィア」との呼称もあるくらいだ。

2005年にはロンドンで世界初の資金の貸し借りの仲介を担うソーシャルレンディングサービスを提供したZopaが創業している。その後はアメリカのシリコンバレーを中心に、革新的なビジネスモデルやテクノロジーが金融領域に持ち込まれ、今日のフィンテックの盛り上がりに至っている。
ロンドンや、ルクセンブルク、シンガポール、香港などは、「金融センター構想」における取り組みの一つとしてフィンテックスタートアップの誘致や、そのエコシステムの整備等、国家単位で積極的な取り組みを行っている例も少なくない。

そうした金融壁業への支援が積極的な国が存在感を増す一方で、シリコンバレーはイノベーションの聖地として今もなお数多くのフィンテックがしのぎを削っている。金融サービスは概論として言えば形のない「お金」を扱うサービスであるため、製造業等と比較して、創業の際の立地上の制約を受けることは少ない。よって、優秀な人材、投資資金等のお金、優れたテクノロジー等が多く集まるところに、スタートアップが集い、それを支援する投資家や事業会社も集まってくる。シリコンバレーを中心として、積極的なスタートアップ支援を行う都市に、引き続き魅力的な企業が集まってくることは変わらないだろう。
また、各地でフィンテックや次世代の金融サービスに関するカンファレンスが開催されている。世界最大規模のフィンテック系イベント「Finovate」は、ニューヨーク、ロンドン、サンフランシスコの3ヵ所において毎年開催されており、2016年2月の「Finovate Europe 2016」も1000名を超える参加者で大盛況となった。

Finovate Europe 2016 (ロンドン)

加藤 洋輝 (著), 桜井 駿 (著)
出版社 : 東洋経済新報社 (2016/5/13)、出典:出版社HP